僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。   作:楠富 つかさ

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#62 三年生のために(4)

「それでは、三年生の追い出し会を始めます!! かんぱーい!!」

 

 芙蓉先輩の音頭で始まった追い出し会。グラス同士がぶつかる音とみんなの喚声が重なる。シャンパングラスに入っているのはブドウ系の炭酸飲料。一瞬スパークリングワインとかシャンパンに見えそうな感じだ。

 

「姫宮さーん!!」

「あまほ先輩!!」

 

 乾杯して少し料理を取り、落ち着いた頃あまほ先輩が私の名前を呼ぶ声が聞えたので、とっさに持っている食器とグラスを置く。次の瞬間には先輩が私の胸にとびついていた。何がきっかけでこんなにも懐いてもらったのか思い出せないけれど、先輩の持つ柔らかな雰囲気が部の雰囲気を作っていて、それがすごく居心地がよかった。

 

「うぅ、姫宮さん……」

 

 この一年、いろいろとお世話になった先輩をぎゅっと抱きしめる。

 

「大錠祭までお別れだねぇ。寂しいよぉ……」

 

 やや涙声でそう呟き、腰に回す腕に力を込める先輩。部長であり、部員のお姉ちゃんであり、みんなの妹分だった先輩の頭を優しく撫でる。

 

「ありがとう。私、姫宮さんと会えてよかった」

「私も、一年生の時の部長が先輩で良かった。楽しい部活で、本当に良かったです」

 

 ハグを解いた先輩は朗らかな笑みを浮かべて、もう寂しそうな顔はしていなかった。すたすたと教壇の方へ向かうと、

 

「これは、一二年生みんなに言っておかないとね。来年、中等部にいる私の妹が進学してくるから、よろしくね」

 

 少しジュースを飲んでから、先輩は甘く優しい声を響かせる。あまほ先輩はやっぱりお姉ちゃんだったんだ。

 

「美星ちゃんのことですね」

 

 中学校から星鍵に通っている九重先輩が懐かしげに呟く。春になったら先輩の妹や澄乃ちゃんやメグちゃんも入学してくるんだよね。あと、一ヶ月ちょっとか……。

 

「来年の調理部をお願いね」

「もちろんです。先輩こそ、大学で小学生と間違えられないといいですね」

 

 いつもは少し堅いとも言える雰囲気を持っている芙蓉先輩が、あまほ先輩に対しては軽口をたたく時があって、それが、お互いの信頼の証左であるような感じが、とっても眩しく見えて……。

 

「ユウちゃん。笑顔で見送らなきゃ、ね?」

「そうだね。希名子ちゃんの言うとおりだよ。女の子は笑顔でいる方が可愛いもんね」

 

 

 

 お昼ごはんの時間に始まった追い出し会は、石川先生作のホールケーキの登場でお馴染みのティーパーティとなり、全員でごちそうさまを唱和してから、手作りクッキーだとか、いろんな贈り物が贈られた。そして最後に、代表で大きな花束を受け取ったあまほ先輩は、はにかみながら、

 

「今日はありがとう。それとご馳走様。みんなの料理、すっごく美味しかったよ。お花もありがとうね。でもね、みんなの笑顔が一番の贈り物だよ! ありがとうね!!」

 

 そう言って追い出し会の最後を締めくくった。


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