僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。   作:楠富 つかさ

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#50 大錠祭(3)

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

大錠祭も二日目、運動部も食品の販売を行い、さらに外部への公開も行われ、最も人の出入りが大きく、最も盛り上がる一日だ。ボクたち家庭科部が開く模擬店、カフェ・ド・フルールも大盛況だ。本来なら調理班にいるはずのボクや希名子ちゃんを目当てに来店する人も多く、フロア担当にシフトした。

 

「メイドさん、これを!」

 

みたいな感じでお客さんからメアドを手渡されることがしばしばあったが、

 

「いけません、ボクはメイドですから」

 

とロールプレイングを交えながらお断りしている。ちなみに、男性だけでなく女性にも同じ対応をしている。たまに熱の篭った視線を送り続ける女性がいるから怖いものだ。あ、お客さんだ。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様方」

「やっほー、悠希。澄乃ちゃん見つけたからナンパしてきた」

「って、麻琴! あんた来るの、何回目!?」

「昨日の午後から数えて六回目かな」

「えっと、お久しぶりです。姫宮先輩」

「お久しぶり、澄乃ちゃん。麻琴になにかされなかった?」

 

店に訪れたのは夏祭りの日に助けた紺屋澄乃ちゃん。あの日のことを思い出すと、その後のことまで思い出して紅くなってしまうので、これ以上は思い出さない。

 

「いえいえ、雛田先輩にはエスコートしてもらって。ね、メグちゃん」

 

メグちゃんと呼びかけられた女の子は、澄乃ちゃんと同じくらい小柄で、どこかふんわりした感じの女の子。誰かに似てる?

 

「あれ、その制服ってどこのだっけ?」

「え? 田島東中ですけど、どうかしました?」

 

ボクの質問に澄乃ちゃんが答えていると、さきほどメグちゃんと呼ばれた女の子がおずおずと口を開いた。

 

「あの、前に澄乃を助けてくださったのですよね? わたしからもお礼を言わせてください。ありがとうございました」

「あ、メグちゃん。そんな、もぅ、お母さんみたいだよ」

 

親友なのかな、いい娘だね、メグちゃん。

 

「あ、申し遅れました。わたし、支倉メグルと申します。恵が留まると書いて恵留と読みます。わたしも、星鍵(ここ)を受験するつもりです」

 

……支倉? 支倉!?

 

「え、麻琴、ひょっとして?」

「あたしも今知った。ほぼ確実に……」

 

ボクと麻琴が驚いた顔をしていると、

 

「やぁやぁユウちゃん、ひなっち。遊びにきたよぉ。って、おや? メグちゃんだぁ。メグちゃんも遊びに来たの?」

 

ボクと麻琴の頭に浮かんでいた人物が登場。

 

「アタシもいるんですけどね。なにこの反応のなさ」

 

初美さんも明音さんの後ろにいた。千歳ちゃんやもなかちゃんはそれぞれ部活のお仕事があるみたいで今日は来られないらしい。なお実村先輩は昨日来た。

 

「あ、とりあえず、お帰りなさいませ、お嬢様」

 

お客さんへの対応を忘れることなかれ、です。幸い店先で話しこんでいたのは短い時間で、他のお客様に迷惑をかけることも、先輩に怒られることもなかった。六人掛けのテーブルに案内し、ボクも休憩をもらって席に着く。

 

「取り敢えず、飲み物の注文だけ受け付けるけど?」

「あたしアップルティー」

「「わたしココアがいいかなぁ」」

「あ、あたしもココアでお願いします」

「アタシはコーヒーでいいや。ミルクとガムシロ必須だからね」

 

明音さんとメグちゃんがハモった時点で姉妹かどうか聞く必要性を失った気がする。でも、まだ従姉妹とかもありえるからね。でも、二人とも田島東中か。まぁ、いいか。

 

「注文取ってきました」

「あれ、さっきユウちゃん休憩って」

「飲み物だけ取ってきました。自分で動いた方が早いかなと思って」

 

家庭科室に移動すると、希名子ちゃんが調理の最中だった。少しだけ会話をしながら飲み物の仕度をする。トレイに置いて教室へと向かう時に、

 

「追加注文の時は呼んでね」

 

希名子ちゃんからウインクをもらった。気のせいかもしれないけど、商魂が垣間見えた気がする。

 

「はい、おまたせ」

 

それぞれの目の前に飲み物を置き、自分の前にもココアを置く。ホットかアイスはメニュー表の上に置かれた指が主張していたので、その通りにもってきた。支倉姉妹(仮)がホット。澄乃ちゃんはアイス。ボクも働いていてちょっと熱いのでアイスココアだ。

 

「えっと、明音さんとメグちゃんって」

「従姉妹だね。母親が一卵性の双子だから、母親似のわたしたちが似るのも当然だけどね」

 

はぁ、なるほど。

 

「でも、メグちゃんの方がしっかり者なんだよぉ」

「でも、お姉ちゃんの方が勉強も運動もできるんです」

 

二人が同時に言うから、何を言っていたのかよく分からなかった。ただ、仲のいいことだけは分かったと思う。

 

「じゃあ、澄乃ちゃんとの再会と、新しい友達に、乾杯!!」

「「「乾杯!」」」

 

こんな感じで楽しいひと時を過ごすことができた。ちなみに、きちんと追加注文もしてもらった。サービス気味にカットされたケーキを満足そうに食べる皆の笑顔で、ボクも元気をもらった。

 

「じゃあ、ボクは仕事に戻るね。楽しんでいってね、澄乃ちゃん、メグちゃん」

 

四月になればまた会える。あの二人なら鍵宮の制服も似合うだろうな、なんて思いながら仕事へと戻るのだった。


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