僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
流石にややのぼせ気味で、脱衣所に戻ると扇風機の風が涼しい。脱衣篭にかけてあるバスタオルで体を拭いていると、麻琴も浴場から出てきた。
「なんか、光希姉が大学の愚痴を吐いてんだけど……」
高校生が聞いていい話なのだろうか。家じゃ一切愚痴なんて言わないけど……ボクが聞いたらまずい話題なのだろうか。ちょっと心配になる。確かに帰りも遅くて食生活もわりと崩れつつあるけど……一応、作り置きは健康に気遣ったメニューを用意しているんだし大丈夫だと思うけど。
「それじゃ、先に部屋戻ろっか」
てきぱきと浴衣を着てふりむくと、麻琴の手が止まっていた。
「いやぁ、悠希……やっぱり浴衣めっちゃ似合うな」
「な、なによ別に。普通よ普通」
さっきも着てたのに何で二人きりの時に言うかな。妙にドキドキしちゃうじゃん。いや、何でドキドキしてるんだボクは。
「ていうか、麻琴だって似合ってるじゃない。普段はだらしないから、浴衣着てればすっきりして見えるし、きちんとしてそうだし」
……一言余計だったなぁ。麻琴はだらしなく見えるけど、根はきちんとしてるし、わざわざ言わなくたってよかったのに。ボクがそんな心配をしていても、麻琴は全く気にした様子はなかった。
「ふふ、悠希に誉められちゃった」
ボクがあれこれ考えすぎなのかな。脱衣所を出て廊下を移動し、エレベーターホールに向かう。部屋に戻ったら何をしようか考え、ふと思った。
「麻琴、あんた夏休みの宿題は持ってきた?」
「へ? いや、何にも」
「……言わなかったっけ? 二泊三日で皆もいるし、お姉ちゃんもいるし、勉強しようねって」
ボクもそこそこ出来るし、明音さんもいる、希名子ちゃんだって頼れるし、千歳ちゃんは文系科目なら強い。良い環境だし、麻琴にはもっと勉強も頑張ってもらいたいからね。
「え、本気で? いや、ほんとにあたし何も持ってないよ?」
エレベーターの中で慌てふためく麻琴。三階でエレベーターを降りて部屋に戻る。
「ルーズリーフ持ってるからあげる。勉強はするの、いい?」
「……分かったよぉ。でも、終わったらUNOやろうね!」
UNOかぁ、トランプよりやる機会ないし大人数でも楽しいからなぁ。いいけどさ。
「じゃあ、お夕飯まで勉強しようね。お腹いっぱいだと集中出来ないだろうから、お夕飯の後に、UNOやろっか」
お夕飯は17時からそれぞれの客室で食べられるようになっているらしい。川魚もお肉もある豪華なものらしく、かなり楽しみにしている。それはさておき、取り敢えずに時間は勉強出来る。皆もそろそろ戻ってくるだろうけど、先に始めちゃおうかな。
「どの科目からがいい? 現代文、古典、数学IA、化学基礎、英語もあるね……さぁ選んで」
「ま、待ってって。あたしあれだよ、テキストに直接書き込めないんだよ? 二度手間じゃない?」
「じゃあボクもテキストには書かない。ルーズリーフにやるよ。それに、数学はもとからノートにやるよう言われてたしさ」
「え、そうだっけ?」
……まいったなぁ。麻琴ってば先生からの指示ほとんど聞いてないじゃん。
「取り敢えず……数学は後がいいかな。大変だし」
「楽なものなんてないわよ」
なにせ夏休み、課題は重くのしかかる。現代文、古典、数学は普段から使っているテキストの該当ページ。化学基礎はプリント集、英語は薄いけど新しいテキストを一冊。
「教科書もあるから安心して」
「……悠希の荷物、重かった理由がよく分かったよ」
「数学のテキストは希名子ちゃん、古典の資料集は千歳ちゃんに持ってきてもらったけどね」
あまりにも勉強用の荷物が多いと重いし。まぁ、お土産とかお泊まりセットはお姉ちゃんのカバンにも入れてきたからこそ、持ってこれたわけだけど。
「もう……温泉旅行がこれじゃ勉強合宿だよ」
とほほという声が言わずとも聞こえる麻琴に、ボクやお風呂から上がった皆で勉強を教え、ついでというか巻き添えというか、初美さんの勉強も進めながら、お夕飯までの時間を過ごした。