僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
旅館はネットで見ていた以上に綺麗で、仲居さんたちも女子高生ばかりの私たちに丁寧に話してくれて、本当にいい旅館だと思う。お風呂は屋内と露天があって、取り敢えず屋内の大浴場でのんびりして出て部屋で荷物を整理しながら一心地ついた。今回ここに来るきっかけとなった割引券をくれた女将はふたみ屋の大ファンで、特別に大きな部屋に全員そろって寝泊まりできるように手配してくれた。本当に感謝だ。
「ここって卓球出来る?」
一人テレビの前に陣取っていた姉が振り向いて尋ねてくる。
「ありますね。卓球とマンガコーナーとミニシアターが二階にあるみたいです」
希名子ちゃんが答えると姉が卓球をやりたいと言い出した。
「いいねいいね、綾ちゃん強いでしょう? どう?」
「え、アタシ? 麻琴でよくね?」
「無茶ぶり? しゃーないな。光希ねーさん、お手柔らかにね」
姉と麻琴の卓球対決とはいえ、なんやかんやで全員で卓球場に赴く……と思いきや途中で明音さんがマンガコーナーに行くと言って離れてしまった。自由人だなぁと思いつつボクも卓球にそれほど興味があるわけでもないし、そっちへ行こうとしたのだが、
「「悠希はこっち」」
二人に揃って手を引かれてしまった。なんだかなぁ。無理矢理連れてこられた感が否めない中、お姉ちゃんと麻琴の卓球対決を眺めることに。卓球をやりたいと言い出したのは姉なのだが、別に中高の頃に部活でやっていたというわけでもなく、こういう温泉に来たときくらいしかやらない人なのだ。そこそこ上手だけど決して人間離れした動きはしない。その程度だと、こと運動に関しては凄まじいセンスの持ち主である麻琴は付いていけるのだ。そしてあっさり追い越す。小一時間ほどの戦いは麻琴の勝利で決着した。
「く……麻琴ちゃん。私は君に負けたのではない。若さに負けたのだ……!」
そう叫んで崩れ落ちる愚姉……。若さに負けたと言っても女子大生なのだが諸々どういうことなのだろうか。
「もう一回温泉行ってくる? 汗かいたし」
麻琴はそう言うが、ボク達は見てただけだし……ま、いいか。付き合ってあげよう。
「いいわよ。露天にする?」
「そだね、そうしよっか。皆もそれでいい?」
「ええ、いいわ。支倉さんも連れてそうしましょう」
千歳ちゃんに言われマンガコーナーにいた明音さんにも声をかけて露天風呂へ行く。
「うーん……」
「何を悩んでいるの?」
昔から温泉にくると悩むことがある。脱いだばかりの下着をもう一度身に付けるか否か、だ。しかも今はパンツだけでなくブラジャーまである。一度身につけたものを再びつけるのはマナー違反なのかなんてお母さんにもお姉ちゃんにも聞いていない。ちなみに一回目に内風呂へ入った時は動き回って汗もかいたから全員着替えたのだ。汗、かぁ……。取り敢えず今のところほぼ汗はかいていない。なにせ卓球観戦しかしていないのだから。とはいえ、夏だから汗は滲んでいるはず。一応、女の子になってからの方が汗をかかなくなったし基礎体温も下がった。それは関係ないか。替えは持っているが、家と違って限りがある。頻繁に温泉に入って、その度に下着を替えていたら途中で尽きてしまうかも……。
「下着姿でボサッとしてると―――」
ひゃん!!
「ラッキー! フロントホックじゃん!」
「こらっ麻琴! 勝手に外さないでよ!」
考えていたら麻琴にブラを剥がれた……。そしてその手はいやらしく蠢き、さっきまで包まれていたその脹らみに届………く前に肘打ちから数発の当て身をいれる。……やりすぎたかな?
「かー! 痺れるね! 美少女の反撃って。すげぇ背徳感!」
……この変態淑女は……もう手がつけられないよ……。
「いやー、ごめんごめん。さすがにさっきのはないわ。にしても、サイズのわりに可愛いデザインだな。して、サイズはいくつだこりゃ。って、いったぁい!」
「サイズまで確認しようとするなー!」
まったく……けしからん。ま、いっか。もう一回だけ着てあげよう。いや、麻琴が可愛いって言ったからとか一切関係ないから!
なにげに一部始終をばっちり見ていた明音さんに言われて、ようやく浴場に入るのだった。