僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
選挙の投票結果は即日公開され、概ね順当な結果になった。生徒会長は佐原さんだし副会長は川藤さん。書記や会計は信任投票の結果信任された。そんな生徒会選挙が終わると――――
「終わったぁ~!!!!」
「麻琴、終礼があるから騒がないの」
怒濤のような期末テストが始まり、麻琴と勉強会……ボクが一方的に教える会をしつつ迎えた一学期末テストの最終日。テストから開放された麻琴はすっかりご機嫌だ。テスト期間中は席を出席番号順に戻すため麻琴がボクの目の前にいる。部活もないから二人で一緒に帰れたのに……。い、今のナシ!! それより、今は終礼だ。夏休みまでのカウントダウンは、あと僅かだ。一週間だけ、あと一週間さえ通えば夏休みだ。夏の陽射しも相まってダラダラと終礼を終えて麻琴と並んで靴箱へ向かう。
「もうすぐ夏休みか〜。ね、どこ行こうか?」
気は早いが夏休みの計画をしてもいい気もする。とはいえ、ボクはどちらかというとインドアな人間なので出掛ける気はないが……。
「観光とかしたいな〜」
敢えて出掛けてみたくなった。心境の変化というものだろうか? そんなボクに麻琴が提案してくる。
「温泉とかいいよね?」
ん……いいかも。肩こりに効く温泉とかいいよね。あーいいかも、女子会だよ!!
「いいね! そうしようか!」
「珍しくテンション高いな。これが夏休みパワーか」
夏休みパワーの真偽はさておき、綿密に計画しないと。
「せっかくだし、人数は多い方が楽しいよね?」
麻琴に尋ねると二人きりという台詞が出そうだったので、却下と言ってやった。
さてボクも夏休みが楽しみになってきちゃった!
週明け、つまり一学期の最終週の月曜日のお弁当タイムに私は温泉旅行の話を切り出した。
「夏休みに、みんなで温泉に行けたらなって思ってるの。だから予定を聞いておこうと思って。その辺よろしくね」
そして部活では、夏バテ回避をテーマに創作素麺料理を作っている。調理のかたわら、ボクは希名子ちゃんに温泉旅行の話をしてみた。
「あ、それならお得意様から貰った招待券があるのよ。ほら、うちは自営業だから出掛けられないのにね。せっかくだから行こうよ」
話が意外な方向に向かってきたぞ? さすが和菓子屋さん……。
部活が終わってからボクは希名子ちゃんと一緒に和菓子屋、ふたみ屋へ向かっていた。部活の時間以外で希名子ちゃんと話すことは珍しくて何を話したらいいか分からなかった。取り敢えず希名子ちゃんをじっくり眺めてみる。背筋が正しくて、清楚な雰囲気だ。和服に馴れている姿勢、お店では和服姿なのだろうと思った。髪を今は垂らしているが、お団子にしたら似合うだろうなぁ。目もくりっとしてて、あらためて可愛さが伝わってくるなぁ。
「そんなに見られると恥ずかしいよ……」
あと、めっちゃ謙虚なのよ!! 大和撫子の鑑だよ。そうこうしている内にふたみ屋さんに着いた。
「お、おっきい……」
立派な店構えで、ちょっぴり甘い匂いも香ってきた。和菓子もいいよねぇ。家だとなかなか作る機会がないけど。
「さ、入って」
希名子ちゃんに続いてのれんをくぐる。カウンターには優しそうなお婆さんが立っていた。
「ただいま、お祖母ちゃん。こちらは友達の姫宮悠希さんよ」
希名子ちゃんに紹介されお辞儀をする。そのまま座敷に通されたボクは状況が掴めなくて、ただただ座っているだけだった。さっきのお婆さんが、ボクにお茶と羊羮を振る舞ってくれた。一口食べてようやく落ち着くことができた。食べ終わる頃に希名子ちゃんが襖を開けた。まるで旅館の中居さんがするように正座で開けて、入ったらまた正座で閉める。そしてその服装は、やはり和服だった。似合ってるのなんの。
「これがさっき話した招待券。七枚もあるのよ。全部持っていく?」
七枚か……どうしよう。ん?
「希名子ちゃんは来てくれる?」
「大丈夫だと思うよ。もうじき大学生のお兄様が帰省してくるはずだから。お姉様も今年は帰るそうですし」
へぇ……お兄さんもお姉さんもいるんだ……。ずっと長女だと思っていたや。だって、すごく礼儀正しいし、性格もきっちりしているし。
「じゃあ七枚頂いちゃうね。あ、これ期限があるや。この期間で行こうね。じゃ、ありがとう。ご馳走さまでした」
二泊三日で半額だなんて、さっそくこの旅館をネットで調べなきゃ。