僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
連休中盤、夜になり寝る前にふとスマホを確認したらもなかちゃんからメッセージが来ていた。
『明日か明後日、予定がなければ学校へ来て下さい。前に話した絵のモデルをお願いしたいです』
研修中に約束していた話だ。明日なら予定もないし大丈夫かな。そういう旨の返信をして、その日はもう寝た。そして翌日。制服を着て学校へ向かうと、正門前にもなかちゃんが待っていた。
「おはよう、ユウちゃん。美術部が使ってる旧校舎の美術室の場所を知らないだろうなぁって思ってさ、迎えに来ちゃった」
「ありがとう! 授業で行く美術室しか知らないからそっち行くとこだったよ」
もなかちゃんに連れられたのは旧校舎と呼ばれる棟で、部室棟とも言われている。案内された部屋は授業で使う美術室とほぼ同じサイズで、カンバスは既にイーゼルにセットされていた。
「取り敢えず……脱いで欲しいんだけど、ダメかな?」
「……え? えぇ!?」
最初、もなかちゃんが何を言っているか理解できなかった。
「裸婦画を描くの?」
「あー違う、違うの。イメージボードがこれ。こんな感じの絵が描きたいの」
スケッチブックに描かれていたのは、走っている女の子の姿だった。ただ、着ている服が複雑で、様々な職業の衣装がパッチワークのように配置されている。
「この絵には、私たちが未来へ走っていて、そこには無限の可能性があるっていうのをイメージしているの。裸を描いてから上に服を重ね塗りする感じで。あと、背景に制服を描いて高校生から大人になるイメージを添えたい」
「下着は……してていいよね?」
「あ、ごめん。そう、いいよ。流石に全裸になってもらうわけにもいかないよね、女の子しかいないっていっても。えへへ……私、絵を描くとなるとちょっと視界が狭くなるっていうか、興奮しちゃって。あでも、別にエッチな意味じゃなくて……でもなんていうか、研修のお風呂の時、ユウちゃんの裸見たらその……イメージが鮮明になった感じがして」
「分かった……協力するね。その脱ぐね」
制服を脱いで、もなかちゃんが用意してくれていたハンガーにかける。下着姿でカンバスの前に立ち、走っているようなポーズをするのだが。
「もうちょっと胸を張って、そう。しっかり前を、未来を見据えている感じ」
「これ、写真で撮っちゃダメなの?」
「ダメ、ユウちゃんの持ってるオーラは写真に写らないもん」
お、オーラかぁ……。描く人にしか分からないものなんだろうなぁ。イメージボードに描かれていた服、スーツや警察官、ツナギとかナース服、シェフとかパティシエみたいなのもあったなぁ。ボクは……何になるんだろう。
「表情曇ってるよ? どうしたの?」
「え、えっと……その、イメージボードにあった服のことを考えてて。ボクは将来どんな職業になるのかなぁって」
「うぅん……難しいよね。私も正直言って将来何がしたいかって具体的には考えてないし。絵は好きだけど、画家っていうのはちょっとね……」
「ボクも料理は好きだけど、お店を開きたいっていうのは無いんだよね」
「好きなこととやりたいことって少しずつ違うんだよね。あ、せっかくユウちゃんをモデルにしたしエプロン姿の部分も欲しいかも。あと、ユウちゃん凄く可愛いし、アイドルとかいいんじゃないかな?」
「あ、あはは……アイドルはちょっと興味ないかなぁ」
お父さんがプロデューサーなんて言ったらますますアイドルをオススメされちゃうかな?
「アスリートって感じはないよね。イメージボードの時はモデルを誰にするか決めてなかったから、色んな衣装があるけど、ユウちゃんに決めたからには似合うものを優先しないとね」
「ありがとう、完成が楽しみ」
「私こそありがとうね。ユウちゃんみたいに勉強も出来て凄く可愛い女の子でも、進路に悩むことがあるって聞けて良かったよ。絵に描いたこの子が進む先は全部が全部光じゃなくて、暗い中でひときわ輝く小さな光なのかもってイメージが湧いてきた」
「未来は何が起こるか分からない方が面白い。誰かがそんなことを言ってたよね」
テレビドラマかはたまたマンガか、どんなシチュエーションで使われた台詞かも分からないけれど、確かにボクともなかちゃんにとって意味がある台詞に思えた。
「本当にありがとう。いい絵が描けそうだよ。だからもうちょっとだけ、時間をちょうだい」
そう言ってもなかちゃんは筆を動かすペースを速めた。ボクはそんな彼女の横顔が写った窓ガラスをぼんやりと眺めていた。