僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
翌朝、腕に纏わりつく柔らかい温もりを覚えながら目を開けると……。
「ふみゅぅ……」
「てい!」
麻琴がボクの腕を抱き枕に寝ぼけていた。……なんていうか、実はあるんだよね。麻琴も。
「んぁ……何? 何が起きたの?」
「おはよう、麻琴」
ボクがチョップしたおでこを触りながら、首をかしげる麻琴。
「そろそろ起床時間だから、みんなを起こして。ボク、先にトイレ行ってくる」
「むぅ……分かった。おーい、みんな、朝だぞー」
千歳ちゃんを筆頭に、みんな早起きそうな感じだが、七時半を過ぎてようやくの起床だ。昨日が思っていた以上に疲れる一日だったのかもしれない。
「起きてよー。もうじき八時だよー」
ちなみに八時が研修のしおりに書かれている起床時間だ。
「やる気のない起こし方だなぁ」
そう言いつつトイレへ。この研修施設は四階建てで、二階からが寝る部屋になっている。ボクらは四組なので三組ともども三階の部屋を宛がわれている。1フロアにトイレが3箇所あり、どの部屋からもそれなりに近い位置にある。
「あ、もなかちゃん!」
「おはよう、ユウちゃん」
起床時間前ではあるが、明るい色の髪をきちんとサイドテールに結った後姿は、
もなかちゃんのそれだった。
「寝起きって感じじゃないね?」
「うん。普段の時間から起きてるかな」
山の空気は冷たいねぇと言うもなかちゃんに、昨日の様子を尋ねてみる。
「けっこう打ち解けたんじゃないかな? やっぱ全員が文化部ってのもあるよね」
そこまで言うと、もなかちゃんの表情がちょっと曇る。
「今日のオリエンテーリング、最低限のポイントだけ回って早々にゴールしようって考えてるんだけど……ユウちゃんの班は?」
「夕食が懸かってるってなかなかねぇ。でもまぁ、ボクから頼めば麻琴は賛成してくれるし……初美さんも明音さんが説得してくれるだろうから、うちも最低限コースかなぁ」
中学生の林間学校でもオリエンテーリングはやったことあるのだが、高得点のチェックポイントって道からちょっと離れているケースがあって、歩き回るハメになるからなぁ。
「そうだねぇ」
と、ここまで話していると、いくらゆっくり歩いていてもトイレに着く。話は中断して、個室へ。手早く済ませて個室を出る。……最初はどうすればいいかよく分からなかったトイレではあるけれど、なんというか座っているだけって感じだからなぁ。一ヶ月もすると平然と済ませられるようになった。水道で手を洗っていると、もなかちゃんも出てきた。
「ユウちゃん、今度……ユウちゃんをモデルに絵を描いてもいいかな?」
「え? モデルをするの? ボクが?」
「そうなの。今度のコンクールのテーマが人物画でね、ユウちゃんなら絶対にいい絵になるって思うの」
「ま、まぁ……いいけど。いつ?」
「そうだねぇ。ゴールデンウィークに部活があるから、その時にお願いしたいなぁ」
「うん。分かった。また連絡して」
「そうだね。連絡先も後で交換しよう」
そんな感じの会話を経て、朝食や健康カードへの記入を済ませ、ジャージに着替えて施設前の広場―開始式をやった場所―に集まる。オリエンテーリングは一組側からスタートする。時間差でスタートしないと、一つの集団になってしまう。
「四組から六組、スタート地点を変更する。着いてきてくれ」
……まぁ、あのまま待ち続けるよりはいいかな。
「どっからスタートするんだ?」
麻琴がボクの持つ地図を覗き込む。そうしている間にも、スタート地点の変更を伝えた先生は歩き進む。
「けっこう動くみたいね」
千歳ちゃんも先生の行く先を見ながら呟く。
「ここだ。地図で言うならC1の地点だ。四組一班から出発してくれ」
今回、オリエンテーリングの舞台となるのは山の東半分だ。A~E、1~5の25マスに地図は区分けされていて、それを頼りに歩く。チェックポイントの番号は1~40まで振られていて、手元のシートにも1~40までの表がある。その表の欄にチェックポイントに書かれている数字と記号を埋めるのが、今回のオリエンテーリングのルールだ。
「さてと、ボクたちも出発だね」