僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。   作:楠富 つかさ

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#16 新入生研修 1日目 そのよん

 夕食も終えて部屋に戻ると一時間強の自由時間となる。自由時間と言っても、今日の所感をしおりに書き込んだり、明日の連絡をしたりする時間でもあるのだが。

 

「トランプしよーよー」

 

麻琴がややウザい。

 

「しおりの今日の感想書いたの? ちゃんと書かなきゃダメだよ!」

 

六行くらいの罫線が引かれているから、全部書く必要があるはず。

 

「じゃあ、王様ドッジで唯一の敗北が悠希の一投だったって書くね」

「いいわよ、別に」

 

事実だし。

 

「じゃあ、ウチは怪談を怖がる姫さんのこと書くね」

「それはだめ!」

 

事実だけど。

 

「ふふ、冗談やよ」

「おばけ、怖くないよ?」

 

……明音さん。怖いものは怖いよ。

 

「あのね、昔のことなんだけど。ボク、お姉ちゃんがいてさ……お姉ちゃんは怪談とか怖い映画好きでね、付き合わされて夜中に見て以来……ダメなんだ」

「そっかぁ。てか、ユウちゃん長女じゃないんだ」

「たしかにぃ、お姉さんっぽいのに」

 

……実は長男でした、なんて言えないね。

 

「あんまり似てないお姉ちゃんなの。どっちかっと言うと麻琴っぽい」

「まぁ……背格好は近いよね」

 

ボクがお姉ちゃんの話を少ししていると、明音さんが欠伸をし始めた。

 

「ふぁあ、はぅ。眠くなってきちゃったね」

「ちょっと早くないかな?」

 

まだ八時半なんだけどなぁ。

 

「明音さん、普段は何時に寝るの?」

「十時には寝てるかなぁ」

「そうなんだよ、コイツ寝るの早くてさ。アタシが夜に明日持って行くもの何? とかメールしても返信がなくてさぁ」

 

寝る子は育つ……のかな?

 

「悠希も早い部類だよね?」

「まぁ、肌とか考えたら……確かに十時くらいがいいかもね」

「そうね、このもちもちの肌だものね」

「ふぁ、ふぃーふぁん、くふぐっふぁいふぉ」

 

明音さんのほっぺをくにくにする千歳ちゃん。明音さん、何言ってるか全然分からないよ。

 

「まぁ、今日は早く寝た方がいいかもな。明日の予定しんどいし。そうだろ、班長?」

「え! あ、そうそう」

 

初美さんに話を振られて、夕食の後にあった班長会議の内容を伝える。

 

「明日は、昼間はオリエンテーリングとして、ポイントを集めながら山の向こう側にあるキャンプ場を目指すの。お昼は途中のチェックポイントで配布されるみたいだよ。で、オリエンテーリングのポイントで夕飯の食材が決まって、夕食後にナイトハイクとして、来た道の逆側を歩いて戻ってくる。それからお風呂っていうスケジュール」

「山を歩き回るわけね。楽しみじゃん」

「まぁ、小さい山だし一周してもどうということもないよ」

 

麻琴と初美さんの超運動部二人は楽勝そうだけど……。

 

「わたしたちには辛いよねぇ?」

「せやね。弓道部も運動部だけど走ることはないし」

「ボクは完全に文化部なんだけど……」

 

まぁ、もなかちゃんの班よりは大丈夫なんだろうけど。

 

「班長会議の時、もなかちゃんが凄く不安そうでね。何か聞いたら、五班は全員文化部なんだって」

「そりゃ辛いわ」

 

頷く麻琴がちょっとしてから首を傾げる。

 

「ん? もなかちゃんって誰?」

 

……あ、そうか。

 

「委員長の森末さん。森末真奈歌ちゃんのニックネームだよ」

「ふむふむ。いつの間に仲良くなったの?」

 

もなかちゃんとのやり取りなんかを話しているうちに、九時も過ぎていよいよ寝ることになったのだが。

 

「そもそも布団敷くの忘れてたね」

「あちゃぁ……。わたし、もう眠いよぉ」

「あぁあ、アタシが敷いてやるから寝るな。ほら、明音!」

 

……明音さん、今朝も眠そうだったな。寝ようとする明音さんと起こそうとする初美さんのやり取りは日常的なものっぽい。

 

「ねえ悠希、同じ布団で寝る?」

「却下」

 

これぞ名案! みたいにドヤ顔した麻琴を一刀両断して、ボクも自分の布団を敷く。

 

「取り敢えず、隣確保」

「せやったらウチも」

 

ボクの布団の両サイドに麻琴と千歳ちゃんが布団を敷き、反対側に明音さんと初美さんの布団が敷かれた。

 

「それじゃ、おやすみ!」

「うん、おやすみ!」

「おやすみや」

「ふい、おやすみ!」

「おやすみぃ……」

 

真っ暗になった部屋でふと思う。女子二人に挟まれて寝ているのか自分は、と。

……なんか、眠れるのか不安になってきたな。まぁ、隣の片方は麻琴なのだが。

 

「姫さんや、やっぱ怖い話しようや」

「いや!!」

 

眠れそうにない不安の種はいくつかあるようだ。


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