仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜   作:ダイタイ丸(改)

19 / 22
こんにちはダイタイ丸(改)です。
絆…ネクサス!(2回目)


第16話 それぞれの絆

前回までのあらすじ

 

 

芽吹高校で行われる音楽祭でのステージに備え、準備をする十馬たち。

そんな中、竜希はアーマードライダーに必要なモノを探し、答えを見つけ出した。

そして学校に現れたゴクマゴクインベスを倒すため竜希はアーマードライダーバハムートに変身。

生徒たちにその姿をさらしながらも十馬が変身したデュークと共に撃破することができたのだが・・・

 

 

 

ーーーーー

 

 

インベスを撃破し、新たな脅威の存在がより危機感を伴って周知された翌日。

 

 

 

十馬たちアーマードライダーの面々はヨルムンガルドの司令室に集合していた。

 

先ほどからディスプレイには沢芽市復興局局長と幹部による記者会見の様子が映し出されている。

 

 

 

「見ての通り、沢芽市全体に非常事態宣言が発令された。これにより避難する人もかなり出てきている」

ディスプレイの映像を見ながら貴虎が皆に話す。

 

「ま、いつかはこうなると分かってたけどね。今回は学校で未成年者を多く巻き込んでしまったから流石にこうするしかないかな」

あまり見せない苦い顔をしながら葵も言い、十馬と竜希の方を向く。

 

「これで学校も封鎖だ。しんどいようならしばらくは休んでもいいんだよ?」

 

気を使ってくれているのだろう。

そんな言葉をかけてくれる葵に感謝しながら、しかし十馬はかぶりを振る。

 

「ありがとな。でも俺は大丈夫だ。むしろこれで二ヴルヘイムに専念できるしな!竜希はどうだ?」

「もちろんですよ!・・・そういえば授業は提携組んでる予備校と協力して通信でやるみたいですよ?」

「ちっくしょぉぉぉ!!」

てっきり授業がなくなると思っていた十馬の絶叫が張り詰めていた空気を幾分かやわらげた。

 

 

「・・・十馬って頭悪いのか?」

「赤点常連だって聞いてますけど・・・」

「対策が必要か・・・」

紘太の質問に即答する光実と貴虎の様子で他の面々も大体察したようだ。

 

 

「さて、話を戻すよ?今回インベスが現れたことでいつオーバーロードが出現してもおかしくない状況であることが明確になったわけ。しかもこっちは変に恨みを買っちゃってるんでしょ?」

そう言って葵が説明を促すように十馬の方を見る。

 

「ああ・・・何故かは知らないがダハーカが死んで、それをシュバリヤは俺の仕業だと思ってるらしい」

話しながら十馬は改めてダハーカの事を思い出していた。

 

 

 

自分にとって初めての壁だったオーバーロード。

 

彼の存在がなければ、十馬は真奈を救い出すことはできなかっただろう。

 

ダハーカに敗れることで十馬は自身の弱さを見つめなおし、さらに前へ進むことができた。

 

そして、何よりイリスを助けるとき共闘してくれたのも彼だ。

 

そんなダハーカが死んだと聞いて、十馬の心には様々な感情が渦巻いていた。

 

 

だが、今はそれを気にしている場合ではない。

 

何にせよ、十馬は戦わなければならないのだ。

 

幼馴染の少女を、守るために。

 

 

 

そんなことを思っている間に話は進んでいっているようだ。

 

 

「で、これからどうするかだけど・・・十馬くん!」

「・・・お、おう!」

「集中してよ~?・・・君はこれからも僕たちと共に戦う、それで構わないね?」

「ああ、シュバリヤはまだきっと諦めてない。真奈を守るためには戦わなきゃならないからな」

「おっけ。じゃあ一応これを渡しとくね」

 

そう言って葵が脇にあった銀のケースを差し出してくる。

 

 

「こいつは?」

「君が使っていた戦極凌馬のドライバーとロックシードは二ヴルヘイムに置いてきてしまったんだろう?それを受けて開発したんだ。開けてみて」

 

言われ、開けると中にはゲネシスドライバーと赤い半透明なパーツの目立つロックシードが入っていた。

 

ロックシードには『E,L,S-07』と刻印がされている。

 

 

「それはドラゴンフルーツエナジーロックシード。メガへクスが戦極凌馬の研究をもとに作り出したものを人の身で扱えるよう調整したんだ。そっちのドライバーも君の適正能力に耐えられるよう調整した特製さ!」

へへんと胸をそらし、得意げに言う葵に十馬はある疑問をぶつける。

 

「・・・ちゃんと実験とかしてるんだよな?失敗しないよな?」

 

 

それに葵は妙に穏やかな顔で悟ったように言う。

 

「・・・可能性ってのはね。いつでもリスクが付きまとうものなんだ・・・」

「やっぱりぶっつけ本番でやる気満々じゃねーか!!」

 

流石にもう許容できない。

思わず叫ぶと葵も珍しく反撃してくる。

 

「何言ってるんだい?なんやかんやで今までも成功してるじゃないか!」

「フルーツトマトは最初ダメだったじゃん!?」

「どうせやるなら面白い方がいいでしょ?」

「面白がってるのはお前だけじゃー!!」

 

話しても無駄と分かり、仕方なく十馬は頭を抱える。

 

 

「これから実際にテストを重ねていくことにしようと思っている。心配するな」

すかさず貴虎が見事にフォロー。さすがは主任である。

 

「頼むぜ?それまではこないだのジンバーで戦うからさ」

「任せろ。さて葵、仕事だ」

「だからやだったのにぃぃぃ!!」

引きずられていく葵を無視して紘太が総括する。

 

「とにかく、これからは今まで以上に警戒しろってことだ。ビートライダーズや他のダンスチームにも協力を仰いで一人でも犠牲者を減らそう」

 

それに皆が頷き、会議は終了した。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

数時間後・・・

 

 

沢芽市を出てすぐのビジネス街にあるビル内の書斎で星崎慧は貴虎からの報告書に目を通していた。

 

 

「・・・我々以外にドライバーを製造できる組織か。ユグドラシル残党は既に押さえているし、他といえば・・・」

 

おもむろにデスクの中から書類を取り出し、それを広げる。

 

 

書類に書かれているのは3年前の日付とある事件の報告書である。

 

「狗道供界・・・この男が万一生きていれば可能性はあるが・・・」

 

 

狗道供界・・・それはかつてユグドラシルでヘルヘイムの研究に従事していた科学者であり、同時にロックシードの暴走事故で死んだはずの人間だ。

 

だが、彼はその後唐突に姿を現し、カルト集団『黒の菩提樹』を率いてユグドラシルにテロを仕掛ける。

 

これはその際、供界と戦闘した戦極凌馬が書いた報告書である。

 

 

「対象の殲滅を確認か・・・ならば問題はないはずだが・・・」

 

死してなお、暗い影を落とす供界の存在に慧は悪寒を感じていた。

 

 

 

 

 

すると突然部屋のドアがノックされる。

 

 

今日は来客の予定はなかったはずだったのでいぶかしみながら扉の外にいるであろう秘書に問う。

 

「どうした?客か?」

 

すると秘書・・・鷹村宗光が扉を開け、こちらを見て話す。

 

「博士・・・ご子息が、昴さんがお見えになっています」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

数分後、書斎で昴は父と机をはさんで向き合っていた。

 

 

昴がここを訪れた理由。それは以前十馬に言われた腹を割っての話をするためだ。

 

無論、まだ父の事は許していないし許せるとも思えない。

 

だが、これからさらに戦いが続く中で機会がなくなると思いどうしても聞いておきたかったのだ。

 

 

 

「・・・父さん。僕が来た理由はあんたと話すためだ」

 

話を切り出す昴に、慧は何も言わない。

ただ黙って、まっすぐ瞳を見つめ返しているだけだ。

 

「あんたは母さんを捨てた・・・少なくとも僕はそう思ってる。なんでだ?妻をほっておいてする仕事?どんな仕事さ?・・・あんたは母さんを見捨ててまでして何がしたかったんだ?」

 

それが、昴が知りたかったことだ。

 

別に自分を長年放っておいたことは気にしていない。

むしろダンスという自分の可能性を広げられたのだから。

 

だが、愛する人を犠牲にしてまでしなければならないこととは何だったのか。

それを知りたかったのだ。

 

 

だが慧は何も言わずに黙っている。

 

その態度に、怒りがこみあげてくる。

 

 

だが、ここで怒ってはいつもと変わらない。

自分は変わらなければいけないのだ。

父から逃げるしかない自分を変えなければならないのだ。

 

 

「・・・覚えてるか?まだ俺が小学生だったころ、あんたと母さんと俺の三人で一回だけ温泉旅行に行ったよな。あんたはそこでもパソコンいじって全然相手してくれなかったけど。でも、夕飯の後は卓球したよな。母さんに言われて・・・結局俺が全勝したんだっけ。ホント、仕事以外はダメな父親だって思ったよ」

 

「・・・」

慧は黙ったままだ。

 

それに突っかからず、昴は自分の中での家族の思い出を語っていく。

 

 

本を買ってきてくれた時の事。

 

カメラの構造を興味本位で聞いて、二時間近く説明をされたこと。

 

いちゃもんをつける父と、それをなだめる母と三人でSF映画を見たこと。

 

 

旅行に行ったのも一度だけ。

誕生日を毎年皆で祝ったことも、家族みんなで遊園地に行ったこともない。

 

けれども昴にとっては母と、父と過ごした時間は大切な思い出だった。

 

 

一通り語り終え、昴は慧に言う。

 

「俺はただ、あんたに言い訳してほしくないだけだ。母さんはあんたにとって何だったのか。大切なら何故死に目に会ってやらなかったのか・・・それだけ聞ければ十分だ・・・」

 

 

逃げずに、じっと瞳を見つめ返す昴。

そんな彼に慧は息をついてから語り掛ける。

 

「よく聞いてくれ・・・私は母さんを、優子を愛していた。私は彼女を見捨てたのかもしれない。だが、それは彼女の望みだった・・・彼女は、自分の命よりも大切なものを選んだ。私に託したのだ。己のすべてをかけても守りたいものを・・・だから私はこうしている。戦い続けているんだ」

 

それは、一点の曇りもない慧の本音だった。

 

嘘など見られない、純粋な言の葉だ。

 

 

 

だが、それを受け入れられるかどうかは違う。

 

 

 

「・・・何だよ。結局それじゃないか・・・あんたは自分の間違いを認めるのが怖いだけなんだよ!母さんはな!最期まで言ってたよ!『また皆で楽しく暮らしたい』ってさぁ!母さんには俺だけじゃない、あんたも必要だったんだよ!」

 

そして机を乱暴にたたき、部屋を飛び出していく。

 

 

その瞳に、涙をにじませながら。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「・・・ふう」

 

昴が去った書斎で慧はため息をついた。

 

 

 

「入ってもいいでしょうか?」

 

外で待機していたのか宗光が扉越しに聞いてくる。

 

 

「構わんよ」というと宗光が律義にお辞儀をしながら部屋に入ってくる。

 

 

 

「・・・博士、なぜ昴さんに真実を告げないのです?」

「君には話していたな・・・今のアイツには残酷すぎる・・・いや、違うな」

 

自嘲気味に笑う慧をいぶかしむように宗光が「どういうことですか?」と聞く。

 

 

「私はただ、アイツが全てを知ったうえで私を拒絶することが怖いんだ・・・」

 

そう言って、深くため息をつく。

 

 

そんな慧の姿は弱弱しく、疲れ切っているように見えた。

 

 

「君も気を付けたまえ。一度失ったものは二度と戻らない。落とし物をしないよう、ゆっくり人生を歩め」

「・・・はい。参考程度にはさせていただきます」

「ハハハ・・・君らしいな」

 

 

失礼しますと言い残し、宗光は部屋を出て行った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

ビルの廊下を歩きながら、宗光は慧に言われた言葉を自分の中で反芻してみる。

 

 

「落とし物ですか・・・でも、抱えてばかりじゃ押しつぶされてしまいますよ?」

 

 

誰となく呟き、宗光はその場を去っていった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その頃、十馬は自宅のちゃぶ台の前で正座待機していた。

 

 

足がしびれ始めた頃、台所の方からお盆を持った真奈が歩いてくる。

 

「できた~」

「どれどれ・・・おお!」

 

真奈がお盆を置き、乗せられていた皿に乗っているものを一瞥して十馬は感嘆の声を上げる。

 

 

タラコスパゲッティにシーザーサラダ、コーンポタージュと洋食のメニューが並んでいる。

 

 

「すごいな!初めてなのによくできたじゃんか!」

「えへへ・・・チームの皆がレシピ教えてくれて・・・」

「そっか・・・大分馴染んできたな。あ、あとイリスの言う事だけは聞くなよ。お前の料理を鑑識に回したくないから」

 

そう言いながらポタージュを一口すする。

 

スーパーで買ってきた粉末タイプのものに少しアレンジを加えたのか粉っぽさが消えている。

 

他の料理も食べてみるがなかなかの出来栄えだ。

 

「うまいうまい!サラダもシャキシャキだしスパゲッティも美味しくできてるぞ」

「あ、ありがと・・・今度は別の作ってみるね」

「ああ、そしたら俺も教えてやるよ。2年間自炊してきた俺の技を伝授してやるぜ」

 

 

 

そうして遅めのお昼を取った後、十馬は真奈にある提案をする。

 

 

「なぁ真奈。これからちょっと一緒に出掛けないか?」

「え?いいけど・・・どこに?」

「秘密。でも、悪いとこじゃないぜ?」

「・・・じゃあ、行く!」

 

 

そうして二人は出かける支度を始めた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

一方、西のステージでは沢芽市にいるダンスチームのメンバーが一堂に会していた。

 

 

「皆!沢芽市は今、再び謎の植物の侵攻にさらされてる!」

 

そうステージの上でメガホンで演説するのはビートライダーズのナンバーツー、ペコだ。

 

今彼は集まったダンサー達に二ヴルヘイムに対抗するために協力を呼び掛けているのだ。

 

 

「市が管理してる芽吹高校での一件は皆も知ってるだろ?今こそ皆で力を合わせる時だと思うんだ!」

 

ペコは必死に訴えかける。

 

 

だが

 

 

「そんなこと言ったって・・・」

「俺らが力合わせたってどうにもならないし・・・」

「化け物と戦えってか?無茶言うなよな・・・」

 

そう言って一人、また一人と若者たちが去っていく。

 

 

そして10分も経たないうちにあれほどいたダンサー達は一人もいなくなってしまった。

 

 

「そんな・・・」

「まぁ考えれば当たり前だよな・・・俺だって怖いし・・・」

リーダーの代わりに頑張ろうと張り切っていたため気を落とすペコにラットが声をかける。

 

「とはいえ・・・流石に俺たちだけで沢芽市全部を見て回るのは厳しいな」

「そうだよなぁ・・・なんせ人手が足りないし」

 

ハァ・・・と二人してため息をついていると「ちょっと待った!」と声が響いた。

 

なんだなんだと声のする方を見ると、コスチュームに身を包んだ5人組がバックライトに照らされて立っている。

 

そして一人ずつ、口上を述べていく。

 

 

「チームファイブバードリーダー!大和士健!」

「ファイブバードサブリーダー!城交!」

「ファイブバードメンバー!白取純!」

「同じくメンバー!諏訪路仁平!」

「同じく!黄流隆!」

 

「5人そろってぇ・・・」

 

「「「「チーム!ファイブバード!」」」」

 

 

名乗りと共に背後でカラフルな爆発が起きた。気がした。

 

 

「・・・恥ずかしくないのかあいつら」

「通報するか」

「容赦ねぇな・・・」

 

唖然として碌な会話もできない二人に健がゆっくりと歩み寄る。

 

 

「話は聞かせてもらったよ。ペコ君!そしてビートライダーズ諸君!我々も微力ながらお手伝いさせてもらおう!」

「大和士・・・ありがとう・・・本当にありがとう!」

 

目を潤ませながら何度も礼を言うペコにいいってことよと健が返す。

 

 

すると俺たちもいるぜ!と別の方から声が聞こえてくる。

 

 

そちらを見やるとチームライズGの聖司とチームセブンオーシャンの波人が仲間を引き連れてこちらに歩いてきた。

 

 

「この街のピンチなんだろ?なら、俺らにも手伝わせてくれ」

「騒動が収まらないと受験もできないしな!」

 

そう次々に声をかけてくれる彼らを前にペコは大号泣していた。

 

 

「ゔゔ・・・ありがどうなぁ・・・!」

「うわっ!鼻水きたねぇ!」

「泣きすぎだって・・・ほれ、ティッシュ」

 

聖司が渡したティッシュでチーン!と鼻をかんでからペコは表情を引き締める。

 

 

「・・・じゃあ皆。力を合わせて俺たちにできる方法でこの街を守ろう!」

 

「おう!」

「ガッチャ!」

「サー・イェッサー!」

「やったろうぜ!」

 

 

それぞれが思い思いの雄たけびを上げて、若者たちは一つにまとまりつつあった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

午後になり、日も少し傾いてきた頃。

 

 

十馬は真奈を連れてある場所に来ていた。

 

 

二人乗りしていたフェンリルのシートから降り、真奈を降ろしてやる。

 

「さ、着いたぞ」

「ここって・・・」

 

辺りを見渡すと2階建てくらいの建物にそこそこの大きさの園庭が目に入る。

 

 

「そう。俺たちの”実家”だ」

 

 

ここはあさつゆ児童院。

 

十馬と真奈が育った孤児院である。

 

 

 

園庭の門は鍵が開けられており、中に入ることができるようになっていた。

 

 

門をくぐり、園庭を見渡すと在りし日の思い出がよみがえってくる。

 

 

たちこぎをして院長に叱られたこと。

 

皆で滑り台で遊んだこと。

 

砂のお城を作ったこと。

 

 

そのどれもに真奈の笑顔があって、それを思い出すのがつらくて。

 

 

だから一人暮らしを始めてから十馬はろくに帰っていなかった。

 

 

帰るときは真奈と一緒に。

 

 

そう決めていたから。

 

 

 

「何か俺も来るの久々だから懐かしいよ・・・」

「・・・うん。そうだね」

 

感慨深く、園庭を歩いていると後ろから声をかけられる。

 

 

「・・・真奈ちゃん?」

 

 

振り返るとそこには60代くらいの女性が立っていた。

 

髪は白髪で後ろでまとめている。

 

そして眼鏡越しに見えるその目は今、涙で潤んでいた。

 

 

「真奈ちゃん・・・真奈ちゃんよね?」

「先生・・・先生!」

 

真奈が彼女の胸に飛び込み、泣き始める。

 

それに女性の方も涙を流しながら真奈の頭をゆっくりと撫でている。

 

 

 

この女性は高山有希。

 

あさつゆ児童院の院長で二人にとっては母親のような存在だ。

 

 

「真奈ちゃん・・・よかった・・・本当によかった・・・」

「先生・・・ごめんなさい・・・心配かけてごめんなさい・・・」

「いいのよ・・・帰ってきてくれただけで十分よ」

 

そんな二人を見ながら、思わず涙腺が緩んでしまう十馬だった。

 

 

 

 

 

二人が落ち着いたのを見計らって皆で院の中に入り、大部屋で待機する。

 

 

当時のまま、変わらない部屋で座りながら十馬は真奈に話しかける。

 

 

「先生がまだ避難してないって聞いてさ。多分真奈を待ってるんだろうなって思ったんだ。だから説得も含めて来たんだ」

「そっか・・・そうだよね。危ない目にあってほしくないもんね・・・」

 

 

10年前、真奈が行方不明になってから院長はずっと彼女を探していた。

 

警察が諦めてもなお、写真付きのチラシを作り配り歩いていたらしい。

 

 

 

しばらく話していると院長がお盆にカップを載せてやってくる。

 

 

「はい。真奈ちゃんの好きだったホットミルクに十馬くんは緑茶ね」

「わぁ・・・久しぶりだ」

「うんうん。この渋み、まさにおふくろの味ってやつかな」

 

飲み物を飲みながら院長に真奈がどうやって戻ってきたのかのいきさつをごまかしつつ伝える。

 

 

「そっか・・・記憶喪失だったのね。それを十馬くんが見つけて思い出したと」

「は、はい・・・」

「そそ、見つけるの苦労したんだ。会えたから別にいいけど」

 

 

貴虎達と相談して、真奈は記憶喪失で地方の病院にいたのを十馬が探し出したということにしてある。

 

さすがに二ヴルヘイムの事を細かに話すのは無理だからだ。

 

 

 

「それで先生。俺たちは先生にも避難してもらいたいんだ。今沢芽市が危ないのは知ってるだろ?」

「ええ、そうね。でもあなたたちはどうするの?」

 

予想通り聞いてくる院長に十馬は真剣な面持ちで自分の中の気持ちを伝える。

 

「俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。絶対に譲れないことなんだ」

 

真っすぐに、自分の気持ちを院長に伝える。

 

 

しばらく十馬の目を見ていた院長だったがやがてふうと息をついて真奈に視線を向ける。

 

「真奈ちゃんは、十馬くんと一緒にいるの?」

「はい・・・十馬は一緒にいてくれるって言ったので、私も一緒にいようと思います」

 

 

そして二人を見て、柔和な笑みを浮かべた院長は言う。

 

「わかったわ。真奈ちゃんとこうしてまた会えたし、私も避難することにします。さ、表までなら送っていくわ。もうすぐ日も暮れるしね」

 

 

 

そうして二人を表まで見届けた後、院長は夕焼けに染まった赤い空を見上げる。

 

 

「十馬くん。真奈ちゃんをよろしくね」

 

そう誰ともなく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

そして二ヴルヘイムの遺跡ではシュバリヤが王座の前に立ち、これからの戦いに向けた演説をしていた。

 

 

「今回の戦いは以前のようなものではない。俺たちの家族、ダハーカの弔い合戦だ。奴らを全て倒しダハーカの無念を晴らしてやろう!それが俺たち残された者にできる唯一のはなむけだ!」

 

 

その言葉に、そこに集まったオーバーロードたちが表情を一様に引き締める。

 

 

軽装の戦闘衣を身にまとうワイバーン。

 

神官のような出で立ちのファフニール。

 

鎧に身を包み、狂った笑みを浮かべるテーバイ。

 

戦士のような衣装に身を包んだゲオルとギウス。

 

 

そして、いつもの黒いローブの下に皆と同じような紋様の入った戦闘衣をまとったシュバリヤだ。

 

 

「俺たちの力、とくと奴らに思い知らせてやろう・・・」

 

 

 

 

戦の火蓋はまさに切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 




以上、16話になります。
次回で…やっとお披露目できる…ウレシイ…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。