仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜   作:ダイタイ丸(改)

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絆…ネクサス!
というわけでどうもお久しぶりですダイタイ丸(改)です。いきなりどうした。
ネクサスいいですね。こないだ一気に見る機会がありましてハマってしまいました。
ついに高2になり、日々増える課題とストレスと戦いながらなんとか生き延びている次第です。



第15話 誕生! その名はバハムート!

前回までのあらすじ

 

戦いから離れ、安らいだ日々を送る十馬。

そんな中ドラゴンロンドのメンバー、竜希は十馬を助けるためにアーマードライダーへの変身を希望する。

だが、戦うことの覚悟を光実に問いただされ意気消沈してしまう。

が、謎の少年シャオロンとの問答の果てに答えを見つけかけていた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

音楽祭前日、十馬はバンドメンバーと共にドラゴンロンドとの最終調整に励んでいた。

 

 

十馬を含めたスタッグズのメンバーは元より、ドラゴンロンドのメンバー達も仕上がりに磨きがかかっていた。

 

また、真奈の上達ぶりにも目を見張るものがあった。

 

十馬の贔屓目から見ても、ついこの間まで素人だったとは思えないいい動きをしている。

 

もちろんまだ改善点はあるだろうが仕上がりとしては上々だろう。

 

 

 

で、一方のスタッグズといえば・・・

 

「おいドラム!演奏中に頭振るな!別にそういう曲じゃねぇ!」

「うっせぇ!俺はKISSの大ファンなんだよ!」

「あんたこそギター縦にして弾くんじゃねえよ!TMネットワークか!?」

 

盛大に喧嘩しているのだつた。

 

 

「なんかもう、ダメな気がする・・・」

「ここまで足並みそろってないともう見ていて清々しいねぇ」

「大丈夫なんでしょうか。明日本番なんですよね?」

 

 

ハァ・・・とため息をつく十馬にそれを半目で見守る淳吾とイリス、こちらもいつも通りのドラゴンロンドといった感じだ。

 

 

ただその中に一つだけ足りないものがあった。

 

 

竜希の姿がなかったのだ。

 

 

 

ーーーーー

 

 

丁度それと同じころ、凰蓮と城乃内はシャルモンの近場にある公園でトレーニングをしていた。

 

 

「ほらほら何をへばってるのよ!まだまだいくわよ~!」

「ひぃぃ!?勘弁してくださいよ凰蓮さ~ん!」

軍服を着、顔にはペインティングを施した凰蓮(迷彩ver)に引きずられるようにして城乃内が走っている。

 

何故か活き活きとした表情を浮かべる凰蓮に対し、城乃内はすっかりへとへとのようだ。

 

 

 

そんな二人を、木の陰から見ている者がいた。

 

 

 

「・・・気づいてるわよね坊や?」

「は、はい。向こうの木の陰です・・・」

戦士としての勘が、二人に監視者の存在を知らせていた。

 

そして、その木の方を振り返りその陰に隠れる存在を睨みつける。

 

 

「さっきから何をコソコソしているの!?出てきなさい!」

 

 

すると「わわっ!」という声ととも

にその何者かがバランスを崩してズテン!と転ぶ。

 

 

「ちょっ!転ぶなんて想定外よ!?」

「お、おい!大丈夫か!?」

 

さすがに転ぶとは思わなかったので慌てて駆け寄る。

 

 

するとその人物が見知った顔だということがわかる。

 

うぅ~と唸りながら目を回すあどけなさを残した少年・・・チームドラゴンロンドの弟分こと緑川竜希である。

 

 

「なんだ竜希かよ。どうした?俺か凰蓮さんになんか用か?」

「脅かす気はなかったのよ。ごめんね」

「い、いえ!のぞき見してたのは僕の方ですから!」

 

慌てて立ち上がり、ペコペコ頭を下げる竜希に二人は苦笑する。

 

 

 

 

「それで?私達に何か用かしら?」

「あ、はい・・・あの、お二人はどうしてアーマードライダーになられたんですか?」

 

そう、竜希はそれを聞きに来たのだ。

 

 

呉島光実に突き付けられた、力を持つことの責任。

 

自分の中ではもう答えは出ている。

 

だが、聞いておきたかったのだ。

 

同じように力を手にいれた彼らが何を思い、何のために戦っているのか。

 

 

するとまずは俺からと城乃内が話し始める。

 

「俺は単純にインベスゲームの延長というか、勢力争いというか、そんな感じでベルトに手を出したんだ。でも紘太もミッチも、ビートライダーズの中で持ってるのはみんなそんな感じだぜ?・・・でも、初瀬ちゃんって奴と少しあってさ・・・で、凰蓮さんのおかげで今に至るってとこかな?」

遠い昔を思い出すように少し目を細める彼に凰蓮も優しい視線を投げかける。

 

「そ、そんな感じなんですか?」

「ああ、皆最初はそんなもんだった・・・でも、色んなことを乗り越えてこうなったのさ。初めからこうだったわけじゃないぜ?」

「初めからこうじゃない・・・」

 

 

一人呟く竜希にでは次は私ねと凰蓮が話し始める。

 

「私は・・・今となっては恥ずかしいけれど、この子たちを生意気だと思ったの。で、こらしめようと何度も戦ったわ。でも、彼らが成長していくにつれて私も変わっていったの。今では戦士として、人間として皆を信頼しているわ」

 

「凰蓮さんも変わりましたよね~。俺ほどじゃないですけど!」

「威張って言うことかしら?」

 

ハハハと笑いあう二人を見ながら、竜希は少し肩の荷が下りた気がしていた。

 

(いいな・・・こういうの・・・)

 

そして心には城乃内が言った言葉が残っていた。

 

(初めから皆こうじゃなかったんだ・・・乗り越えて、それで今のこの人たちがあるんだ)

 

二人に礼を言い、竜希は次なる人物の下へと向かった・・・

 

 

ーーーーー

 

 

竜希が去った公園で凰蓮は呟いていた。

 

 

「あの子・・・何か悩んでるのかしら」

「でも、答えは自分で出さなきゃですよ。じゃなきゃ大人になれませんから」

 

 

随分立派なことを言うようになった弟子の襟首をつかみ、厳之輔式戦闘訓練が再び始まった。

 

 

ーーーーー

 

 

 

次に竜希が向かったのは街に複数存在するステージの一つ、西の川沿いのステージである。

 

 

そこに目当ての人物を見つけるとその名を呼ぶ。

 

 

「ザックさん!ちょっとお話しいいですか?」

 

 

すると視線の先にいた黒と赤のツートンカラーの服を着た青年、ザックがこちらを振り向き駆け寄る。

 

「竜希だったか?どうした?」

「あ、はい!・・・あの、ザックさんはどうしてアーマードライダーになったんですか?」

 

その質問に、少し驚いたようにしながらもザックが言う。

 

「そうだな・・・俺は皆と違って大分後にアーマードライダーになったんだけど、最初は憧れかな?」

「憧れ・・・ですか?」

 

聞き返す竜希におうと答え、話を続ける。

 

「昔からビートライダーズを知ってるならわかると思うけど、駆文戒斗って奴がいたろ?チームBARONのリーダーだった」

「はい!知ってます!」

「俺もBARONの一員だったんだが、アイツは誰より強くて不器用な奴で。で、そいつが俺に戦極ドライバーを託してくれたんだ。リーダーの座と一緒にな。俺もアイツに近づきたい・・・その一心だった。今も多少は形を変えてはいるけど、一番根っこにあるのはそれだな」

 

そんなザックに竜希は自分とのシンパシーを感じていた。

 

(ザックさんも・・・憧れてる人がいるんだ・・・)

 

「あ、あの!ありがとうございました!失礼します!」

 

そう言って、駆け出す竜希の背中をザックは優しく見守っていた。

 

 

「がんばれよ、竜希」

 

 

その呟きは風と共に空に消えていった・・・

 

 

ーーーーー

 

 

 

ヨルムンガルドの本部では、光実が書類の整理を手伝っていた。

 

「えーっと・・・被害報告書にロックシードの試験データと・・・」

 

段ボール一杯の書類を所定の位置に置き、司令室に入るとこたつでぬくぬくする葵の姿が。

 

 

「葵さん。入ってもいいですか?」

「だいじょーぶだー。問題ないよー」

 

そしてみかん食べる?とオレンジ色の物体を差し出してくる。

 

苦笑しつつみかんを受け取り皮をむいて食べ始める。

 

「あ、美味しいですねこのみかん」

「でしょ?愛媛産だからねー」

 

 

しばらく秘密組織の本部とは思えない和やかすぎる光景が繰り広げられる。

 

 

そしてみかんを食べ終えると光実はこたつから出て司令室を出ようとする。

 

そんな彼を「ちょい待ち!」と葵が引き止める。

 

 

「何ですか?」

「これ、十馬くんのドライバーが仕上がるまでの応急処置として作ったんだ。持ってってよ」

 

そう言って、横に置いてあった黒い二つのアタッシュケースを差し出してくる。

 

片方を開けると中には新しい黄緑のロックシードとブランク状態のドライバーが入っていた。

 

「新しいA+の錠前、ドラゴンフルーツロックシードだよ。エナジー版を戦極ドライバーで扱えるようダウンサイジングしたんだ。これは”彼”に渡しておいてよ。もう片方は十馬くんにね」

 

最後の一言を、やたら意味深な視線と共に光実に投げかける。

 

 

「・・・もしかして葵さん、全部?」

「さて?どうかなぁ」

とぼけるように仰向けになり、瞳を閉じる。

 

 

「・・・ありがとうございます。行ってきますね」

礼を言い、司令室を後にする光実。

 

もちろん後ろから聞こえる寝息には気づいていたが知らぬふりをしたのは言うまでもない。

 

 

そして上に上がると同時、携帯にメールが届く。

 

送り主は『緑川竜希』

 

困ったような、だが少しうれしそうな笑みを浮かべ、光実は歩き出した・・・

 

 

ーーーーー

 

 

 

十分後、光実は久々にドルーパーズを訪れていた。

 

 

久しぶりだなと挨拶をしてくれる坂東さんに笑顔で返し、一番奥のソファに腰掛ける。

 

そう、かつて自分がドライバーを求め、接触した男の座っていた場所に。

 

 

 

 

しばらくすると店に一人の少年が入ってくる。

 

 

幼い顔つきに紫のパーカー、自分を呼び出した相手の緑川竜希だ。

 

 

光実の姿を確認すると向かい側のソファに腰掛け、まっすぐにこちらを見つめてくる。

 

そんな彼の瞳を見つめ返し、光実は最後の問いかけをするべく口を開く。

 

「緑川竜希君・・・答えは出ましたか?」

 

その言葉に、竜希は答える。

 

 

「・・・いろいろ考えました。まだ覚悟とかそういうことはわかりません・・・でも誰かを傷つけることは自分も傷つくことだって思ったんです。それと、最初から皆今みたいだったわけじゃない。迷って悩んで、その上で道を見つけた人たち・・・自分の通るべき道を作り出せた人たちが『アーマードライダー』だと思います。だから、僕も戦います。自分の道を、見つけるために」

 

 

その答えに、光実は笑みを浮かべる。

 

 

それでいい

 

 

誰かのためじゃない、自分が何をしたいのか

 

 

それが分かっていれば間違えることはない

 

 

 

 

そして葵から預かったアタッシュをテーブルに置き、開けて中を見せる。

 

 

「これは葵さんが作ったドライバーとロックシードです。自分の信じるもののために使ってください」

 

 

それを受け取り一礼して、竜希は店を出て行った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

一方、二ヴルヘイムの樹海でも事態は動いていた。

 

 

「さて、もうそろそろクラックは開けます。今後はどうされますかシュバリヤ?」

 

石の玉座に腰掛ける青年に長い裾の服を着た青年、ファフニールが問いかける。

 

「・・・まずは龍崎十馬の様子が知りたい。何か方法はあるか?」

「それなら私と感覚を共有したインベスを送り込めばすぐです。で、その後は?」

 

その問いに、おもむろに玉座から立ち上がり周りを見渡す。

 

 

今、この玉座のある間には4人のオーバーロードが集っていた。

 

 

シュバリヤとファフニールの他に二人の会話を不安そうな顔で見守る女性、ワイバーン。

 

そして先ほどから一言も話さず、壁に背を預ける男だ。

 

 

精悍な容貌に引き締まった体躯、長い後ろ髪を纏めた武士のような雰囲気の男である。

その左目には刀傷のような線が縦に走り、瞳を固く閉じさせていた。

 

 

「・・・俺が自ら向こうへ出向く。そして向こうの戦士どもを叩き潰す・・・!」

 

そう宣言し、男の方にシュバリヤが視線を向ける。

 

 

「オロチ・・・お前はどうする?」

 

オロチと呼ばれた男はそれに自由な右目だけを開けて答える。

 

 

「お前にはわかっているだろう・・・俺はそんな戦いはしない」

 

 

それにシュバリヤは少し寂し気に目を伏せた後、そうかと答えワイバーンを見る。

 

 

「お前はどうする?無理にくる必要はないぞ・・・?」

「私は貴方のそばにいるとかつて決めました。愚門では?」

 

 

そして裾を翻し、シュバリヤは横に立てかけてあった鎌に手をかける。

 

 

 

まさしくその姿は、威厳に満ちた王のそれであった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

そして迎えた音楽祭当日。

 

 

 

ドラゴンロンドのメンバーは皆、本番直前のプレッシャーにあてられていた。

 

「・・・うぅ」

「そんな唸んなくたって大丈夫だって。お前ならできるさ」

 

ベンチで頭を抱えて唸り続ける真奈を励ましながら十馬は時計を見やる。

 

(竜希は少し遅れるってメール来たけどスタッグズはどうしたんだ?もうそろそろ来てもいいんじゃないのか?)

 

 

するとポケットの携帯が震え、画面を見るとメンバーからのメールが入っていることが分かる。

 

 

『ごめん。昨日の刺身に当たったっぽい。今日いけないわ。 ドラムより』

『すまん。なぜかインフルエンザに罹ったみたい。今日誰か代役立てて。 ベースより』

『わり!昨日の夜から金縛りが解けない!助けて! ギターより』

 

 

「あいつらここにきてドタキャンかよぉぉぉぉ!!」

 

しかもギター金縛りって・・・助け求められても・・・

 

 

「どうしたの十馬?」

突然叫んだ十馬を心配したのか真奈が聞いてくる。

 

 

「・・・皆呼んできてくんない?」

「う、うん・・・皆さーん!十馬が呼んでまーす」

 

 

真奈が呼びかけると周りにいたメンバーが集まってくる。

 

 

恐らく、何かしらの号令だと思っているのだろう。

 

期待するような視線が痛い。

 

 

そして覚悟を決めた俺は事実を告げた。

 

 

「・・・何か、バンドの人ら来れなくなったらしいです・・・」

 

「「「・・・は?」」」

 

「だから、演奏ができないですはい・・・」

 

「「「・・・えぇ!?」」」

 

 

状況をようやく把握した面々が驚愕の叫びを上げる。

 

 

「嘘!?ステージまであと5分しかないんだよ!?」

「終わった・・・俺らの晴れ舞台終わった・・・」

「と、十馬ぁ・・・」

「ごめんな真奈。俺も泣きたい気分だよ・・・」

 

 

一瞬にして緊張とやる気に満ちていたチームがしぼんでいくのが分かる。

 

 

(・・・せっかく、真奈と同じ舞台に立てると思ったんだけど・・・)

 

申し訳ない気持ちでガクッとうなだれる。

 

 

仕方なく今回は舞台をやめようと実行委員に言いに行こうとしたその時。

 

 

諦めるな!という声と共に楽屋がわりのテントに誰かが入ってくる。

 

 

キュピーンと効果音をつけたくなるポーズで現れたのはチームファイブバードのリーダー、大和士健だ。

 

その後ろには何故か聖司に波人、昴もいる。

 

 

「聖司に波人に昴!何でここに?」

「いやぁ暇つぶしにね。そしたら浪人と昴さんに偶然会ってさ」

「浪人じゃねぇ!な・み・と!」

「僕もそんな感じ。で?話がいまいち見えないけど大和士くん」

 

そんな昴の問いに説明しよう!と健が大仰な仕草で答える。

 

「話は聞かせてもらった!バンドのメンバーが足りないのだろう?なら俺が協力しよう!」

「いやいや、役に立つのかお前が」

 

淳吾がそう言うとフッと笑いながら健が部屋の壁に立てかけられたベースを手に取る。

 

そして、手慣れた様子で弾き始める。

 

 

一同は驚きを隠せずにいた。

 

なにしろ元々のメンバーを上回るほど、健の演奏がうまかったからである。

 

 

「す、すげぇ!これならいけるぞ!」

「いやいや、まだギターとドラムが・・・」

 

希望が見えたものの流石にいかに健が器用でも3つの楽器を同時に演奏するのは無理だろう。

 

またもやため息をついていると隣に置かれたギターを昴と聖司が、ドラムを波人が演奏し始める。

 

 

今度こそ、腰を抜かすほど驚いた。

 

 

昴はまるで弦を自分の体の一部のように扱い、プロ顔負けの演奏をしている。

 

聖司はそれを支え、さらに高次元の音へと昇華させている。

 

波人は時にパワフルに、時に二人をリードするようにスティックを振るう。

 

 

正直言って、どこかのプロバンドのライブを見せられている気分だった。

 

 

演奏が終わり、ベースを肩に担いで健が言う。

 

「これでも・・・役に立たないと?」

 

 

「「「かっけぇ!!」」」

 

 

「すごいな三人とも!」

「前にツアー先で世界的ギタリストと共演してね。教えてもらったの」

「俺は高校時代に趣味としてやってたかんな!」

「そのせいで浪人したんじゃ・・・」

「さぁ!頑張ろうではないか!」

 

 

結果、バンドは十馬、健、聖司、波人、昴の5人組『ファイターズ』(健命名)が担当することになった。

 

 

ーーーーー

 

 

 

その頃、竜希は校舎の中を走っていた。

 

 

理由は簡単、ダンサーの命ともいえるダンスシューズを教室に置きっぱなしにしていたからだ。

 

まぁそれ以前に寝坊してステージに遅れそうなのだがそれは言うまい。

 

 

 

 

教室のドアを開け、机の横にかかっていたシューズを手に取る。

 

「危ない危ない・・・ってあぁ!もう時間ない!」

 

 

慌てて走り出そうとしたその時

 

 

 

不意に廊下に足音が響いた。

 

 

 

生徒や教師のものではないだろう。

 

今は皆、外のステージにいるはずだ。

 

 

ならこの足音は一体・・・

 

 

 

恐る恐る教室の扉のガラス窓から廊下をのぞいてみる。

 

 

 

そこには、二体の怪物がいた。

 

 

それぞれ体の片側に角のような突起がいくつもついた人型の怪物だ。

 

まるで意識が繋がっているかのようにまったく同じ歩幅、タイミングで一糸乱れぬ行進をしている。

 

 

(もしかして・・・インベス!?)

 

だが、彼らがこの学校を狙う理由など・・・

 

(まさか、十馬さんを?)

 

 

ふとよぎった可能性、それがますます現実味を帯びて竜希の脳裏に浮かぶ。

 

 

体の震えが止まらない。

 

怖い、恐ろしい、逃げ出したい

 

 

けれど、数日前にガレージで練習していた時の十馬の、真奈の、皆の笑顔を思い出す。

 

 

守りたい

 

 

その思いが、力に変わる。

 

 

「・・・ごめんなさい。十馬さん」

 

 

携帯を操作し、十馬にステージに行けない旨のメールを送る。

 

 

そしてカバンの中から戦極ドライバーとロックシードを取り出す。

 

 

 

 

もう、震えるだけの雛でいるのは終わりだ

 

 

自分は、飛び立たなければならない

 

 

大切な『今』を、守るために!

 

 

 

 

ドアを開け、勢いよく廊下に飛び出てドライバーを装着する。

 

 

相手がいぶかしんでいる隙を狙い、ロックシードを構える。

 

 

 

(これが、緑川竜希の変身だ!)

 

 

「変身!」

 

 

『ドラゴンフルーツ!』

 

 

『ROCK ON!』

 

 

『ドラゴンフルーツアームズ!激流!自己流!昇り龍!』

 

 

 

頭上から落下してくる果実が展開し、竜希の体を覆っていく。

 

 

 

青のアンダースーツに熟していないかのような黄緑の鎧、龍のヒゲや角があしらわれた頭部。

 

若々しい感情を秘めるその姿はまさしく昇り龍のそれだ。

 

 

竹のような節が特徴的な柄を持つ青龍刀型のアームズウエポン『昇龍刃』の切っ先を相手に向け、若き龍は言い放つ。

 

 

「これが僕、緑川竜希の戦いだ!かかってこい化け物!」

 

 

そして、戦士の戦いが始まった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

その数分後、ステージではドラゴンロンドとファイターズのステージが幕を開けようとしていた。

 

 

「皆さん!今日は盛り上がっていきましょー!!」

 

そう十馬が宣言し、波人のリードで演奏が始まる。

 

 

スタンドマイクを握り、自慢の声を披露する。

 

 

観客も演奏する全員も、誰もが熱狂していた。

 

 

 

 

「すご・・・十馬ってあんなに歌うまかったんだ・・・」

「知らなかったんだ?カラオケ行くとしょっちゅう90点台出すよあいつ」

「楽しそうですね!・・・竜希君も来れればよかったんですが」

「仕方ないっしょ。その分俺らがエンジョイしなくっちゃ!」

 

 

ステージの袖でファイターズの演奏を見ながら各々感想を述べている。

 

 

そして曲が終盤にさしかかり、出番が近づいていることを知らせる。

 

 

「よーし!真奈ちゃんの初ステージ、頑張ろう!」

「「「おー!!」」」

 

 

 

青春の熱狂はまだまだ続く。

 

 

ーーーーー

 

 

 

一方、校舎内から屋上に場所を移してゴクマゴクインベス達と竜希の戦いは続いていた。

 

 

 

「はぁっ!」

 

気合と共に昇龍刃を振るって、インベスを牽制するも決定打は与えられていないようだ。

 

(やっぱり二体同時は苦しい・・・せめて一度に両方にダメージを与えられれば!)

 

 

そう思案しながら戦っていると不意に片方のインベスが逃げるようなしぐさを見せる。

 

 

「っ!逃がすか!」

 

反射的に昇龍刃を投擲し、相手を貫こうとする。

 

 

するとインベスが突然進行方向を変えたかと思うと、こちらに猛スピードで突進してくる。

 

 

(しまった!武器が!)

 

 

ダメージを和らげようと腕を交差し、防御の構えをとる。

 

 

すると次の瞬間、猛進していたインベスが突然ダメージを負ったように吹き飛ぶ。

 

 

「へ?」

 

すると何と先ほど投げる直前に引っかかっていたのか手に昇龍刃の柄のようなものを握っていることに気づく。

そして相手のいた場所にはたった今ぶつかったように昇龍刃の刀身が浮遊している。

どうやらこの武器は柄が節目ごとに分割し、鞭のようにもなるようだ。

 

「こんな感じなんだ!なら!」

 

ある作戦を思いつき、まずは昇龍刃を元の青龍刀型に戻す。

 

 

そして二体のインベスが同時に突進してくるのを見切り、素早くかわして二体を衝突させる。

 

 

混乱している間に昇龍刃の柄を伸ばし、二体をグルグル巻きにして固定する。

 

 

 

「おりゃあ!!」

 

二体のインベスを引き連れて、竜希は一気に4階の屋上から地面に飛び降りた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

一方、十馬達のステージは終盤に差し掛かっていた。

 

 

「それじゃ最後の曲だ!全力で楽しもうぜ!」

 

叫ぶと同時に曲が始まり、メンバーが踊りだす。

 

十馬の歌と共に真奈が、皆が一つの波を作り出す。

 

 

まさしくそれは音の波に乗る者・・・ビートライダーズ!

 

 

そして曲が終わり、真奈と十馬がハイタッチをしてステージは終わりを迎えるはずだった。

 

 

 

だが、そう簡単に幕引きは訪れなかった。

 

 

頭上からうひゃああああ!!という情けない声と共に謎の物体がステージの天井を突き破って落ちてきたからだ。

 

 

面食らうも状況を把握すべく、たちこめる土煙に目を凝らす。

 

 

すると一人の青いアーマードライダーと二体のインベスの姿を認識する。

 

 

「な!インベス!?皆、周りにもいるかもしれない!観客と一緒に非難を!」

「でも十馬はどうするの!?」

 

 

すると十馬君!と自分を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

見ると光実が黒いアタッシュケースを持って駆け寄って来ている。

 

「光実!来てくれてたのか!」

「ええまあ。それよりあのライダーは竜希君です!これを使って彼に加勢を!」

 

そしてアタッシュを開け、中身を差し出してくる。

 

 

フェイスプレートが認証された戦極ドライバーにレモンエナジーと見たことのないロックシード。

 

そしてゲネシスドライバーのコアユニットだ。

 

 

「これ・・・もう認証済みじゃねぇか!俺じゃ使えないだろ?」

「大丈夫。ゲネシスドライバーのイニシャライズロックを破れたならこれもいけるはず!・・・と葵さんが」

「この土壇場でギャンブルかよおい!?」

 

 

こうなれば腹をくくるしかあるまい。

 

 

ええいと気合を入れ、バックルを腰に当てるとベルトが出現し、装着される。

 

「よし!行けた!」

「ゲネシスコアをフェイスプレートを外したところにつけて!それでエナジーが使えます!」

「了解!」

 

 

指示通りにフェイスプレート・・・青い公爵のような仮面の描かれたそれを外し、コアを取り付ける。

 

 

「変身!」

 

 

『レモン!』

『レモンエナジー!』

 

『ROCK ON!』

 

『ミックス!レモンアームズ!インクレディブルリョーマ!ジンバーレモン!ハハーッ!』

 

 

 

閃光と共に現れたのは青いライドウェアに琥珀の鎧と眩いマントを纏った騎士。

 

 

アーマードライダーデューク ジンバーレモンアームズ!

 

 

「これ、デュークⅡとは微妙に違うな・・・でもこれで戦えるぜ!」

 

 

気合を入れ、手に持ったサーベル型アームズウエポン『レモンレイピア』を振りかざし、インベスに向かう。

 

 

 

棍棒を振るってくる相手の攻撃をかわし、レイピアで高速の突きを無数に浴びせる。

 

一方の竜希も昇龍刃で敵の外皮を切り裂き、徐々にダメージを与えていく。

 

 

 

すると二体が肩を組んだかと思うと融合し、双頭のゴクマゴクインベスへと姿を変える。

 

 

「竜希!協力して奴を叩くぞ!」

「はい!十馬さん!」

 

 

並び立つ若き二人の戦士は同時に地面を蹴り、相手に向かっていく。

 

 

竜希が昇龍刃を鞭のごとくしならせ牽制し、その隙をついて何度もレイピアで刺突を繰り返す。

 

相手が棍棒を振るえばそれをデュークが絶妙な剣技で受け流し、それと同時に竜希が一刀を浴びせる。

 

 

 

共に、まるでリズムを奏でるかのように息の合ったコンビネーションでインベスを追い詰めていく二人。

 

 

 

そして竜希が昇龍刃で相手をがんじがらめにし、ブレードを一度倒す。

 

 

それを見たデュークもブレードを一回倒し、エネルギーを足に集中させる。

 

 

『ドラゴンフルーツスカッシュ!』

『ジンバーレモンスカッシュ!』

 

同時に飛びあがり、それぞれのモチーフとする果実の断面のようなエネルギー体を無数に潜り抜けて二人はインベスに合体技『雷閃双龍脚』を食らわせる。

 

 

 

キックを浴びたゴクマゴクインベスは叫びを上げて爆散した・・・

 

 

 

 

敵が消滅したことを確認し、竜希と十馬はお互いに変身を解く。

 

 

いつもと違う形態だったからだろうか。

 

十馬は自分の体にあまり疲労が蓄積されていないのを感じていた。

 

一方の竜希は変身解除と同時にその場に尻餅をついてしまう。

 

初めての変身だったからか、かなり疲れているようだ。

 

それに屋上から落下したダメージも少なくはないだろう。

 

 

舌を出してバテている竜希に十馬が歩み寄る。

 

 

そして、その額に思いっきりデコピンをくらわせる。

 

 

突然の不意打ちに「ぶへぇっ!?」と情けない声を出しながら後ろに倒れる竜希を、一方の十馬はやれやれといった表情で見下ろしている。

 

 

「な、なにするんですか!?」

「バーカ、何勝手に首突っ込んでんだ。死にたいのか?」

 

そう言ってくるところを見るとかなり心配していたのだろう。

かなりお怒りの様子だった。

 

 

「言わなかったのは謝ります・・・でも、僕は後悔してません。僕だって守りたいものがあるんです!」

 

彼の瞳を見つめながら、自分の意思をしっかりと逃げずに伝える。

 

 

それにふぅと息を吐いて、グリグリと十馬が頭を撫でてくる。

 

「ったく・・・その代わり、もう無茶はするなよ?別に誰かに頼ったっていいんだからさ」

 

言いながら十馬も少し自分に驚いていた。

 

 

誰かに頼ってもいい・・・それはついこの間までの自分なら言わなかったであろう言葉だ。

 

皆が、自分と真奈のために全力を尽くしてくれた後だからこそ、絆の力を実感した後だからこそ言えた言葉だ。

 

 

「ま、俺もそれなりに頼らせてもらうけどな・・・ほれ、立てるか?」

そう言って十馬が手を差し伸べてくる。

 

「・・・はい!」

 

その手を握り、竜希は立ち上がる。

 

 

憧れた、十馬と同じ景色を見るために。

 

 

 

 

「・・・そういや名前決めたのか?お前が変身するライダーの」

 

「え?・・・そうですね、それじゃあ龍と鯉の滝登りにちなんでバハムートなんてどうでしょう?」

 

「かっこよすぎねぇ?」

 

「そのうち似合うように強くなります!」

 

 

 

「じゃ、がんばれよ。アーマードライダー!」

 

 

 

その言葉は、どんな祝福の言葉より真っすぐに竜希の心に沁みわたっていった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

二ヴルヘイムの樹海、その遺跡の奥にある空間にシュバリヤはいた。

 

 

 

そこには大きな石板のようなものがあり、鎮魂の詩が刻まれている。

 

 

彼はそこに、ファフニールから渡された機械・・・ダハーカが使用していた戦極ドライバーを花と共に置く。

 

 

そして顔を上げ、亡き友に向けて宣言する。

 

 

「ゆっくり休め・・・お前の思いは俺が継ぐ。仇はとるさ」

 

 

祈りを終え、静かに石板の間を去っていく。

 

 

 

その背中は家族を思う人のそれにも、復讐を誓った修羅のそれにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

to be continue

 

 

 

 




以上、15話でした
小説鎧武、超面白かったですね!
やっぱプロはすげえなぁ。
どーせ俺なんか……(やさぐるま兄貴モード)

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