仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜   作:ダイタイ丸(改)

16 / 22
こんにちは!最近調子のいいダイタイ丸(改)です!
今回は短編第二弾!



番外編 変わるもの、変わらないもの

<5th day 〜part noon〜>

 

『変わる日常』

 

 

ーーーーー

 

11月12日、司令室に呼び出すなり葵は十馬に告げた。

 

「というわけで、真奈ちゃんは十馬くんの家で住むことになったから」

「いやいや待て待て待て!お前起承転結って知ってる!?」

思わず突っ込んでしまう十馬に貴虎が実は・・・と補足説明。

 

なんでもヨルムンガルドの管理下にある旧ユグドラシル社宅に彼女を案内したところ、拒否されてしまったそうだ。

 

「で、理由を聞いたらお前と一緒がいいとのことでな。お前の家が狭いようなら新しい家を用意するが?」

「いや!だからなんで一緒に住むこと確定!?いろいろまずいだろ!」

流石に年頃の男女が一つ屋根の下はまずいと思うんですと抗議すると隣にいた真奈が口を開く。

 

「・・・一緒にいてくれるって約束したでしょ・・・?」

「いや!だからってお前・・・俺男の子!お前女の子!アンダースタン!?」

「・・・何か、いけないことでもあるの?」

「い、いや・・・その、あの・・・う・・・」

 

10年間もニヴルヘイムにいた真奈は感覚が少しズレているところがある。

確かに10年前は孤児院で一つ屋根の下だったし、布団も隣り合わせで寝ていた。

ただ、今はお互い精神はともかく身体は順当に成長している。

十馬だって男の子。女性らしい真奈の身体に興味が全くないと言えば嘘になる。

ただ、向こうは精神年齢ほぼ8歳なのでまったくそういうのを気にしていないのがネックだ。

 

返答に困り、貴虎と葵の方を見やる。

 

朴念仁な貴虎は「何か問題が?」というふうに首を傾げ、葵はめちゃくちゃニヤニヤしてこの状況を楽しんでいる。

 

そして前方を見るとだんだん不安げに瞳を潤ませる幼馴染が。

 

もう、覚悟を決めるしかなかった。

 

「だぁー!わかった!ただし、経済的援助はしてもらうぞ貴虎!タダでさえ我が家の家計は苦しいんだからな!」

「ああ、そこは大丈夫だ。月々仕送りをしよう」

十馬のやや自分勝手な交換条件をあっさり受け入れる貴虎。

 

そして真奈は「ほんと!?」と嬉しそうに目を輝かせる。

 

「はぁ・・・まぁ汚い家だけどな。お前がいいなら泊めてやるよ」

「・・・ありがと。ごめんね、なんか」

「いいよ、もうこの際全部面倒見てやるさ」

まかせときんさいと胸をドンと叩く。

 

 

「・・・だが十馬。お前の家、そんなに広いのか?学生だとどうしても家賃の安い狭い部屋なのではないか?」

「ああ、家賃は安いけど七畳くらいはあるからな。トイレ、キッチン、風呂も完備だぜ!」

「へぇ〜、ちなみに家賃おいくら?」

「三万くらいだな。結構いいだろ?

「三万円?それは安いね、いいじゃん」

「だが、やはりそれなりのバイトが必要なのではないか?」

「おう、お陰で基本寝不足。授業で寝たことないのは体育だけだ!」

「調理実習とかでも寝るんだ・・・」

 

やはり苦学生だったのかと同情する貴虎にジト目を向ける葵。

 

結局、月々30万貰って真奈を住まわせることになった十馬だった。

 

 

 

 

 

そして荷物を持って真奈は十馬のアパートにお邪魔することになった。

 

階段を上ろうとすると横から「龍崎くん」と声をかけられる。

 

「あ!木下さん、こんにちは」

「こんにちは。最近忙しそうにしてたから心配してたんだよ。はいこれおすそ分け」

と煎餅の缶を差し出してくるこのお爺さんはアパートの大家、木下傑さんだ。

ちなみに下の名前はすぐると読む。

 

普段からこうしておすそ分けをくれては龍崎家の食費に多大な貢献をしてくれているいい人である。

 

「おや?そちらのお嬢さんは?」

「・・・っ!・・・あ、の・・・その・・・」

と笑顔で真奈に話しかける木下さん。

その人畜無害な笑みに少し緊張がとけたのか、頑張って自己紹介しようとする。

 

「え、えっと・・・”龍崎”真奈っていいます・・・十馬は・・・双子のお兄ちゃんで・・・」

「ふぁっ!?ちょっと真奈さん!?」

急に変なことを言い始める真奈を止めようとするも止まらない。

 

「十馬は・・・小さい頃に離れ離れになって・・・でも、最近また一緒にいられるようになって・・・それで・・・」

 

それは真実だ。でも真奈さん、いつからあなたは私の双子の妹になったんでしょう?

 

するとそれに何故か木下さんが涙を流し始める。

 

「そうかいそうかい・・・感動的な再会じゃないか・・・龍崎くん、いや十馬くん。妹さんと、幸せにね・・・」

「確かに今のは感動ポイントだけど!違うんだって木下さん!てかなんで結婚したみたいになってんだ!?」

「いいんだよ・・・何も言わなくていい・・・たとえ茨の道でも、おじさんは応援するからね・・・」

「話を聞けぇぇぇぇ!」

 

そして真奈に飴を渡してから木下さんは去っていった。

 

「・・・飴ちゃん、おいしい」

「そですか・・・」

 

なんかここ数時間ですごく叫んだ気がする。

 

疲れながらも部屋の鍵を開け、真奈を案内する。

 

お茶を出しながらテーブルを挟んで向かい側に座る。

「そういや、なんであんな嘘ついたんだよ?」

「・・・葵さんが、一緒に住むならこっちの方が色々都合いいよって」

「・・・あの腐れニートめ」

 

絶対嫌がらせだ。今度寝てる間に粗大ゴミに出してやろうかと危険な思考が頭に浮かぶ。

 

そして適度に部屋の説明をし、ふと時計を見ると10時だ。

 

「やっべ!ちょっと買い物してくる!」

「・・・え?まだ、お昼には早いんじゃない?」

「今日は10時半から近所のスーパーでタイムセールなんだ!乗り遅れるわけにはいかない!つーわけでちょっと待っててくれ!」

と言うなり玄関を飛び出していく。

 

 

「・・・十馬もいろいろ大変なんだ・・・」

と鍵を閉めて部屋に戻った真奈は少し周りを見渡してみる。

 

中くらいの大きさのテレビがあり、その横の棚にはプラモデルが置いてある。

10年前から十馬がハマっていた人気のロボットシリーズのものだった。

さらにその横のスペースにはやはり10年前からハマっていた特撮ヒーローシリーズのグッズがズラリ。

 

「やっぱこういうの好きなのは変わってないんだ・・・」

とさらにその横を見やる。

 

そこには真奈の背丈より少し低いくらいの本棚があり、色んな本が並んでいる。

タイトルからみるに推理小説や雑誌、図鑑などがグループごとに分けられて並んでいる。

ただ、その中でどうしてもタイトルから内容が想像できないグループがあった。

 

青や黄色、ピンクに紫といったカラフルな背表紙の本の集団だ。

 

一冊、手に取ってみる。

 

表紙にはカラーの漫画みたいな女の子のイラストが描かれていた。

 

試しに一ページ開いてみる。

 

こちらもカラーの女の子が何やら扇情的な格好をしていた。

 

「・・・み、見なかったことにしよう・・・お、男の子だもんね?」

内心、動揺しながら本を戻す。

 

ただ、今度は別の興味が湧いた。

 

十馬はこういう本を結構買っている。

ならば、この本の中に彼の好みの女性像があるのではないだろうか?

 

 

「・・・」

勝手に読んではいけないと思いつつも手は本棚へと伸びていった。

 

 

 

 

 

そして1時間後、真奈は部屋にあった大体のカラフル背表紙の本に目を通し終わっていた。

 

なんというか、作品ごとに様々なヒロイン像があり困惑気味だ。

 

髪の色でさえ黒髪、銀髪、金髪、赤や青など千差万別である。

全体的な傾向でいえばロングヘアーで胸が大きいキャラが多かった。

 

「・・・」

視線を下方に向け、自分の胸を見やる。

 

同年代の女性といえばヨルムンガルド内では舞くらいだったので平均がどれほどかは分からないがそこまで大きい方ではないだろう。

少なくとも、本の中のキャラ達よりは小さい。

 

「こればっかりはどうしようもないよぉ・・・」

少し、悲しい気持ちになる。

 

ちなみに真奈は貧乳というわけではない。

三次元の平均値ぴったりといったところだろう。

しかし悲しいかな。今、彼女が比較対象にしているのはフィクションの、現実にはそうそういないレベルの猛者が跳梁跋扈する二次元世界の住人たちなのだ。

 

「どうすればいいんだろう・・・」

一人、首をかしげヒントを得るため再び真奈は本の山に向かった。

 

その後、帰ってきた十馬にライトノベルを読みあさっていたのを目撃され、パニックになり好きな胸の大きさについて延々と問いかけることになる真奈だった。

 

 

ーーーーー

 

 

 

<5th day〜part afternoon〜>

 

『変わらない過去』

 

 

ーーーーー

 

 

「さて・・・午後は何する?」

昼食に作ったオムライスを食べ終わり、満足げに顔を緩ませている真奈に十馬は問いかける。

 

「え、えーとね・・・十馬が一緒なら、なんでもいいよ?」

と上目遣いをしながらそんなことを真奈が言ってくる。

 

「・・・じ、じゃあ!俺の仲間にお前を紹介してもいいか?」

少しドキドキしながら、前々からしようと思っていたことを提案する。

 

真奈は十馬と共にこちら側で生きることを決めてくれたものの、まだまだ人との関わりに消極的だ。

なら、同年代の友人を作ることで少しでも人との関わりを増やせるようにできるのではないかと考えていたのだ。

 

「仲間って、同じダンスチームの人たち?」

「ああ、最近俺も顔出せてないし、お前も友達作れるかな〜って」

「・・・でも、私・・・」

「大丈夫、いい奴らだから差別なんてしないさ。お前がオーバーロードだってことも秘密だしな」

 

恐らく真奈は自分が人間ではないことを気にしているのだろう。

だが、十馬は思う。

人であるかそうでないかは見た目ではなく、心で決まると。

誰かを思いやる優しい心を持つ真奈は、まぎれもなく人間だと。

 

「・・・でも」

「大丈夫だ。俺もそばにいる。約束だもんな」

安心させるように真奈の頭を優しく撫でてやる。

 

すると、少し勇気が出たのか顔を少し明るくする。

 

「・・・一緒にいてくれるなら、頑張る」

「よし、じゃあ行くか?」

「・・・うん!」

 

そうして、二人はドラゴンロンドの新本拠地のガレージに足を運んだ・・・

 

 

10分後、二人はガレージの扉の前にいた。

 

ちなみにこのガレージは元はチーム鎧武が使っていたものだ。

現在はビートライダーズが管理していたのだが、ドラゴンロンドが本拠地としていた倉庫が壊れてしまったため譲ってくれたのだ。

 

ドアを開け、うーっすと挨拶する。

 

すると中にいたメンバーがそれぞれに声をかけてくる。

 

「十馬!大丈夫!?」

「あ!十馬さん!」

「おー!リーダーおひさー!」

「休みすぎですわ。不信任案出しますわよ」

「まま、レイナちゃんおちついて!ね?」

「大変だね、リーダーってのは・・・ってその子誰?」

と淳吾の問いかけに全員の注目が真奈に集まる。

 

「・・・っ!」

一方、急に注目された真奈はかなり萎縮してしまっていた。

裾を引っ張り、背中に隠れるようにしてひっついている。

 

「ほら真奈、自己紹介できるか?」

緊張をほぐすために肩に手をおいて優しく声をかける。

 

その感触に勇気が出たのか、カチコチになりながら真奈が前に出る。

 

「・・・と、十馬の幼馴染のっ!ふじっ、藤井真奈ですっ!・・・よ、よろしくお願いします!」

緊張で顔は真っ赤でカミカミではあるが、何とか自己紹介ができた。

 

そして言い終わるとすぐに十馬の後ろに隠れてしまう。

 

 

困惑する一同に、えーっとと十馬は追加説明をする。

 

真奈とは孤児院の頃からの幼馴染で離れ離れになっていたが先日再会できたという事を、うまく誤魔化しながら説明する。

 

最初は戸惑っていた面々だが、十馬の幼馴染ということで馴染めると思ったのか段々質問をするようになってきた。

 

「ねね!十馬くんとは何歳くらいから一緒なの?」

「・・・大体、5歳くらいから・・・です」

「へー、昔のリーダーってどんなだった?」

「え、えっと・・・会ったばかりの頃は、静かでした・・・」

「ねぇねぇ!この問題解ける?」

「自分の課題くらい自分でやりなさいな・・・」

 

戸惑いながらも、興味津々なメンバーたちの質問に答えていく真奈。

 

そんな光景に、ついつい涙腺が潤んでしまう十馬だった。

 

 

 

 

そして、一同がある程度真奈と馴染めてきた所で十馬はある提案をするため皆の意識を向けさせる。

 

何事かと一同がこちらを向くのを確認し、口を開く。

 

「実は、皆に発表がある!・・・真奈をチームの一員として迎えようと俺は思う!」

 

 

その発表に、メンバー達はあっけらかんとしている。

 

「と、十馬!?聞いてないよ!」

当事者の真奈は突然の宣言に面食らっている。

 

それもそうだ。真奈はオーバーロードで皆は人間。

正直に言って、真奈は怖かった。

人間が、ではない。

親しい関係になった人に、自分の本当の姿が知られてしまったら。

何よりも、拒絶されることが怖いのだ。

 

今だって、まだ会ってから30分も経っていない。

そんな余所者を彼らは認めてくれないだろう。

 

 

だが、面々が次に言った言葉は真奈の想像と違っていた。

 

 

「本当ですか!?よろしくお願いしますね!真奈ちゃん!」

「なるほど、わざわざ連れてきたのはそれが目的だったんだ。そんじゃま、よろしくね」

「わーい!もっとお話ししようね!」

「よろしくね〜。ニューメンバーは色々働いてもらうよん」

「・・・パシリにしたら血祭りに上げますわよ。それはともかく、これからよろしくお願いしますね。真奈さん」

「よろしくお願いします!僕、最年少なんで敬語じゃなくていいですよ!」

 

各々、祝福の言葉を並べ真奈に笑顔を振りまいてくれる。

 

 

そして一同の後ろで十馬が「な?大丈夫だって言ったろ?」と優しく笑う。

 

また泣いてしまいそうになるのを堪え、真奈は笑顔を浮かべた。

 

心の底から、嬉しそうな笑顔を。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、ちょっと俺はある人を呼んでくるから真奈は皆と留守番しててくれるか?」

皆と打ち解けようと頑張る真奈に十馬は告げる。

 

「・・・うん。待ってるね」

一瞬、不安そうな顔をしたが、すぐにそれを引っ込める。

 

そんな真奈に偉いなと一度だけ頭を撫でてやり、十馬はある場所に向かった。

 

 

 

 

十馬が行ってしまって、少し寂しそうにする真奈にイリスが話しかける。

 

「やっぱり、十馬といると落ち着きますか?」

「ふぇっ?・・・そう、ですね・・・落ち着き、ます」

「ふふっ、別に敬語じゃなくてもいいんですよ?私のこれは癖ですけど」

「・・・は、はい!・・・い、イリス・・・ちゃん」

と話す二人に他のメンツも参加し始める。

 

そして、話題はイリスと十馬の出会いに発展する。

 

「・・・って出会い方なんだよ!素敵じゃない?」

「そ、そうですね・・・でも、十馬らしいと思います」

「そうだよね〜。リーダーって、困ってる奴をほっとけないタイプだからさ。って、言うまでもないか」

淳吾がしみじみと、何かを思い出すように言う。

 

それを聞いて、真奈はあることが気になった。

 

「・・・そういえば、皆さんはどうやって十馬と知り合ったんですか?」

 

その問いに、全員がキョトンとした表情を作る。

 

「そういえば、お互い話したことなかったかもね」

「この際、話しちゃうか?」

「いいねいいね〜!素敵だね〜!」

 

 

じゃ、まずは俺から!とジョーが話し始めた。

 

 

 

 

ジョー・・・城ヶ崎若葉は、貿易商として世界を転々とするの父の子として産まれた。

父は全てにおいて厳しく、ジョーはそんな父が嫌いだった。

ダンサーを目指したのも、父のようなお堅い職業につきたくないからだった。

 

そして、沢芽市にやってきた。

 

しかし、周りのチームから勧誘を受けることはなかった。

 

それもそのはず。まともなレッスンも受けたことのないジョーの踊りは完全に自己流のもので、周りに合わせられるものではなかった。

 

せっかく家を出てきたってのにこの有り様かよ、とジョーは悔しがった。

 

そして、毎日目立たない場所で、ひたすらに自分の踊りをし続けた。

 

 

そんなある日、いつものように踊っていると一人の少年が話しかけてきた。

 

「お前の踊り、面白いな」

 

バカにしてるのかとジョーは切れた。

 

だが、少年は笑ってこう言った。

 

「バカになんてしてないさ。むしろ好きだ、そういうの。自分を曲げない奴が好きなんでね」

 

そして自分の隣に立ち、音楽に合わせともに踊りだした。

 

 

 

ジョーは驚いていた。

 

少年はジョーの動きについてきた。

 

そればかりか、アドリブも交えさらに踊りを高い次元のものへとしていた。

 

音楽が終わり踊りきった後、少年は言った。

 

「俺は龍崎十馬。チームを新しく作ろうと思ってるんだ。どうだ?入ってみる気、ないか?」

 

ジョーは初めて、仲間と呼べる存在を知った・・・

 

 

 

 

「てなとこかな〜。ちなみに、親父とは仲直りしてるよん」

語り終えたジョーがニカッと笑う。

 

「やっぱり・・・出会いはダンスだったんですね」

「そそ、そういえばレイナちゃんは?ダンスは基本しないよね?」

「わ、私ですの?私は・・・」

 

と、今度はレイナが語り始めた。

 

 

 

 

園咲麗奈は名家、園咲家の分家の娘として産まれた。

家は本家ほどではないものの、かなりの財力があった。

有り体に言えば、お嬢様だったのである。

 

そしてある日、当時16歳のレイナはこっそり街に繰り出した。

 

しかし、地理感がない上に方向音痴の彼女はすぐ迷子になってしまった。

 

そこに通りかかったのが十馬だった。

 

「よっ、大丈夫か?道案内なら俺がするぜ?」

 

そして、無事屋敷にたどり着けたレイナは十馬に、何か恩返しをさせてくれと申し出た。

 

すると、十馬は笑ってこう言った。

 

「じゃあ・・・俺の友達になってくれよ。俺、地味に友達少なくってさ」

 

そんな彼を変に思いながらも、レイナは友達になることを了承したのだった・・・

 

 

 

 

「・・・で、それ以来チームにも顔を出すようになって今に至る、というわけですわ」

「ほ、方向音痴なの・・・すごく親近感湧きます・・・」

「なんていうか、レイナちゃんらしいね〜」

「うっ、うるさいですわねっ!じゃあリンはどうなんです?」

「私?私はね〜・・・」

と、今度はリンが十馬との出会いを話し始めた・・・

 

 

 

 

寺田凛は元はビートライダーズのチームの一つ、蒼天の見習いメンバーであった。

しかし、3年前の事件のせいでチームは解散。

他のチームも同じような有様になった。

 

だが、ザック率いる新生ビートライダーズに加わる気にはなれなかった。

 

なんというか、新しいものを求めていたのである。

 

そんな時、正式なチームとして登録していないため、ランキングには乗らないがスゴ腕だという男三人のチームがいると噂で聞いた。

 

リンは思った。

これこそ、自分の求めていた新しいものだと。

 

そして、そのチームのまとめ役だという少年・・・十馬にチームに加わりたいと話した。

 

リンはダンスの腕前はかなりのものだった。

だが、それが逆に女だてらにと言われ、蒼天では少し孤立していた。

 

だが、そんなリンに十馬は笑ってこう言った。

 

「全然大歓迎だよ!てか、そんなに上手いなら教えてくれないか?ウチ、頑固なやつしかいなくて中々上達しないのよね」

 

自分よりうまいということを簡単に認め、そして全くそれを気にする風もない。

 

十馬のそんなところに惹かれ、リンはチームに加入。チームのエースとなった・・・

 

 

 

 

「・・・って感じかな?大したもんじゃないでしょ?」

「でも、十馬さんらしいです!」

「うんうん。さてと、次は竜希かな?」

「あ、はい!僕はですね・・・」

と今度は竜希が話し始めた・・・

 

 

 

 

緑川竜希は昔から、ビートライダーズの大ファンだった。

ダンスを始めるきっかけになったのも、たまたま見たビートライダーズのステージだ。

当時の竜希には、自由な彼らがとてもかっこよく見えたのだ。

 

しかし、3年前の事件でビートライダーズは散り散りになり、その後統合した。

竜希も初めはそこに入ろうと思った。

しかし、そんな時あるチームのステージが目に入った。

 

それが後のドラゴンロンドとなるダンスチームである。

 

個性的でダイナミックな、今まで見たこともないそのダンスに竜希は夢中になった。

 

そして、入学した芽吹高校の三年にチームのリーダー、龍崎十馬がいると知った竜希は直にチームに入れて欲しいとお願いしに行った。

 

すると、最初は戸惑っていた十馬だったがすぐにこう言った。

 

「おう、そんじゃまずはチーム名決めてくんね?俺ら、ランキング制度とか疎くてさ」

 

新人はてっきり片付けなどの雑用からするものだと思っていた竜希は驚いた。

 

同時に嬉しかった。直ぐに自分を信頼して大事な仕事を預けてくれた事が。

 

そして、竜希の発案でチーム名は『ドラゴンロンド』となり、正式にチームとして登録。

 

ランキングをすぐに駆け上がり、一躍有名となった・・・

 

 

 

 

「・・・というところです。十馬さんのことは本当に尊敬してます!」

「そーいや、竜希のおかげでランキングに登録できるようになったんだったねぇ〜」

「さすがは弟分だね!」

「い、いや〜そんなぁ〜」

謙遜する竜希をいじくりまわす一同。

 

そんな光景を真奈はいいなぁと思いながら見ていた。

 

「・・・あ、そういえば淳吾さんは、どうやって十馬と知り合ったんですか?」

と、一同から少し距離を置き壁に背を預け立っていた淳吾のそばまで行き、真奈が聞く。

 

「俺?俺はね・・・」

と淳吾は十馬と出会った日の事を真奈にだけ聞こえるよう話し始めた・・・

 

 

 

 

稲本淳吾は昔から兄と比べられるのが嫌いだった。

勉強は兄よりもできるがスポーツは兄の方がセンスがあった。

 

いつか、兄を見返したい。そう思い、兄がやっていたダンスの道に淳吾も進んだ。

 

淳吾は努力し、ダンスの盛んな沢芽市まで武者修行にやってきた。

 

色んなダンスチームのステージに乱入し、力を見せつけるのが日課だった。

 

だが、どんなに力の差を見せつけても、淳吾の心は晴れなかった。

 

 

ある日、人気のない空き地でダンスの練習をする少年を見つけた。

 

きっと、周りの流行に乗っただけだろう。

自分より上手いダンスを見て仕舞えばすぐにやめるはずだ。

 

意地悪をするように、淳吾は少年の前に文字通り躍り出てやった。

 

しかし、踊り終わった淳吾に少年はこう言った。

 

「お前すげぇよ・・・けど、見ててつまんない。お前の踊りからは可能性とかが感じられない」

 

淳吾はショックを受けた。

まさか初対面のこんな下手くそな奴に言われるとは思わなかったからだ。

 

淳吾は正直、ダンスに飽きてしまっていた。

どんなに踊っても、自分を超える奴はいない。

そう思うと、何も情熱が湧いてこないのだ。

 

だから、こうして真っ向から否定されるのを逆に尊く思った。

 

(こいつ・・・面白いな)

 

そして、少年は次にこう言った。

 

「あんたのダンスは誰かと合わせればもっと面白くなる!で、俺はもっと上手くなりたい!だからお前のためだと思って俺にダンスを教えてくれ!」

 

そんな少年の申し出に、淳吾は頷いた。

 

 

そして、淳吾は十馬にダンスを教え、十馬は淳吾の隣で踊った。

 

淳吾に、誰かと協力して何かをすることの面白さを教えてくれたのが龍崎十馬だったのだ・・・

 

 

 

「ま、そんなとこかな。リーダー・・・十馬は親友で、恩人だよ。今の俺があるのも十馬のおかげだしね」

語り終えた淳吾が懐かしむように言う。

 

真奈は今までの皆の話を聞いて思ったことがあった。

 

「ここにいる人は皆・・・はぐれ者だったんですね・・・」

「・・・そうだね、はぐれ者同士で寄り添ってできたのがこのチームさ。お互い、一人になる辛さを知ってるからこそ強い絆がある。もちろん、君ともね」

「・・・でも、私は今日入ったばかりですから」

「でも、前は一人だったんでしょ?顔に書いてあるよ」

 

ハッとして淳吾の顔を真奈は見やる。

 

もしかしたら、自分が人ならざる身であるとばれてしまったのではないだろうか。

 

そんな不安をにじませる真奈に淳吾は続ける。

 

「ま、君に話したくない過去があるのは薄々わかる・・・でも、それを気にするほど俺らは野暮じゃない。だから、何も遠慮することはないんだよ?仲間なんだから」

そう言って、ウィンクしてみせる淳吾。

 

その言葉に、真奈は少しだけ救われた気分になった。

 

 

その後、十馬が呼んできたアザミさんという女性とリンに真奈はダンスを教わった。

初めての経験だったが、二人は笑って優しく教えてくれた。

 

まだまだ、他人と関わるのは怖いし勇気もいる。

 

でも、十馬とその仲間たちとなら。

 

少しだけ、強くなれる気がした。

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

<6th day>

 

『真奈、学校に行く』

 

 

ーーーーー

 

 

十馬、イリス、竜希の在籍する芽吹高校にも、定期テストが存在する。

 

だがしかし、ここの所学校を休んでいた十馬は忘れていた。

 

来たる11月14日(月)からは。

 

期末テストがあったのだ。

 

 

 

 

 

11月15日12時30分。

 

テスト終了を知らせる予鈴が鳴り、一同がゾンビのような挙動でテスト用紙を前に送り、机に突っ伏す。

 

イリスも皆に習い、疲れ切った顔で机に覆いかぶさった。

 

今回、テスト期間にステージが運悪く重なってしまったため、あまり勉強できなかったのだ。

 

特にまずいのは日本史、物理、古典だろう。

 

特に古典はもはや別の国の言葉であると割り切った方がいいのではないだろうか。

近くて遠い日本を改めて感じる。

 

そして、チラリと欠席続きだった隣の十馬を見る。

 

 

完全に死体だった。

 

瞳孔が開いてるのではないかと思われるほど生気のない淀んだ瞳。

口も半開きで肌や髪にもツヤがない。

 

おそらく、ろくに勉強せずに臨んだことで精神がズタボロにされたのだろう。

ちなみに十馬がテストの存在を知ったのは一昨日13日。

テスト前日だった。

 

 

 

そして、担任が入ってきてホームルームを始めようとする。

この学校では1日目に6時限フルに使ってテストを行い、二日目に四時限使って残りを行うのだ。

 

なので必然的に二日目は四時限で終わるため、午後はゆっくりできるのだ。

 

 

すると、担任がHRの前に「龍崎」と隣の死体と化した十馬を呼ぶ。

死体だった十馬がふぁい、と起き上がって返事をすると担任は少し困ったような顔をして告げた。

 

「龍崎、お前にお客さんが来てるぞ」

「へ?客?」

「ああ・・・入ってくれて構わないよ」

と担任が廊下に立っていると思われる客に入るよう促す。

 

するとその客は「失礼します」と小さく言って教室に入ってきた。

 

その姿を見て、十馬とイリスは思わず椅子から立ち上がってしまった。

 

「「真奈(ちゃん)!?」

「・・・き、来ちゃった・・・」

 

そう、客人とは十馬の幼馴染にしてイリスの友達、藤井真奈だった。

 

「・・・で、真奈。なんでお前来たの?」

「・・・えっと、これを・・・」

と真奈が手提げカバンから弁当箱を取り出す。

 

「今日、お弁当持っていかなかったから・・・その、作ったんだ・・・」

「あー・・・なるほど」

どうやら十馬が昼食抜きになることを危惧して弁当をわざわざ作ってきたらしい。

 

「ありがとな真奈。でも俺今日は午前中で学校終わりなんだ。だから家で作って食おうと思ってたんだけど」

「ご、ごめんね・・・余計なことしちゃって・・・」

「いや、全然助かるよ。あ、でもお前の飯が無くなっちまうな・・・」

「あ、それなら・・・」

再びカバンをゴソゴソし、もう一つ弁当箱を取り出す。

 

「一緒に食べようと思って・・・め、迷惑だった?」

そう、上目遣いで聞いてくる。

 

一瞬、ドキッとしながらじゃあ一緒に食うかと笑う。

 

が、クラス中から浴びせられる視線に笑顔がピシッと固まる。

 

「あ、あのな・・・これはだな・・・」

弁明しようとあたふたするもクラスメイトからの怨嗟の声は止まらない。

 

「このやろう・・・これ見よがしにイチャつきやがって・・・」

「学校休んでナンパとか・・・最低・・・」

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・なんでお前なんかが両手に花なんだよ・・・」

 

さらには担任までもが「ゲスが」と呟いているのだから居場所のない十馬は縮こまるしかなかった。

 

 

 

 

HR終了後、食堂で昼食をとった三人は時間を持て余していた。

 

「さて、折角学校に来たんだからこのまま帰るのはもったいないよなぁ?」

「え?・・・うん、できれば色々、見て回りたい・・・かな」

「学校探検、いいですね!行きましょう!真奈ちゃん、十馬!」

 

イリスの号令で今日の午後は学校探検をすることになった。

 

 

 

まずはクラス。

 

「ここが私たちの教室です!」

「・・・高校は後ろに習字とか飾らないんだね」

「芸術科目は選択式だからな。ちなみに俺は音楽」

 

 

 

次に職員室。

 

「ここが職員室。先生のいるところだ。夏場は冷房、冬場は暖房がよく効く快適空間だぜ」

「小学校より広いね・・・」

「科目がいっぱいありますからね。あとは非常勤の先生とかもいますし」

 

 

さらに音楽室。

 

「・・・そういえば何で肖像画があるんだろうね」

「確かに、無いところは見たことないな」

「ベートーベンは絶対いますよね。曲名、運命♪」

「・・・じゃじゃじゃじゃーん?」

「乗らなくていいからな?」

 

 

次、生物室。

 

「人体模型とか地味に使わないよな〜」

「標本とか、見てるだけで可哀想になってくるよね・・・」

「つ、次行きましょう次!」

 

 

美術室。

 

「そういえば、昔十馬が描いた似顔絵がすごく怖かった思い出が・・・」

「やめろ!トラウマを思い出させるんじゃない!」

「自分でトラウマになるってどんだけですか・・・」

 

 

図書室。

 

「俺は本は買う派だからあまり来ないなぁ」

「私はよく来ますよ?落ち着いて勉強もできますし」

「・・・十馬は頭悪いの?」

「・・・言うな、頼むから・・・」

 

 

 

こんな感じで色んな教室を見て回った。

真奈はとても楽しそうにしていた。

いつか、また昔みたいに一緒に学校に通いたい。

そう思う十馬だった。

 

 

そして、イリスと別れての帰り道を二人は歩く。

 

すっかり外は夕焼け色に染まり、綺麗な夕日が道を照らす。

 

「今日も楽しかったよ・・・こんなに、生きるのって楽しかったんだね・・・」

髪を風に遊ばせながら、真奈がそんなことを言う。

 

10年も生き地獄を味わった彼女の言葉には、やはり何処か影がある。

 

それを消すことはできない。無理やり消そうとすれば、彼女にも自分にもいい結果は訪れないだろう。

 

だからこそ、十馬はこう言う。

 

「ああ、誰かと一緒に生きるのはもっと楽しいけどな」

 

心の傷も、暗い過去も、決して消せはしない。

だが、それを背負い共に歩むことはできる。

十馬はこれからも歩いていくだろう。

真奈と、かけがえのない家族と共に。

 

真奈の手を握り、再び歩き出す。

 

小さくか弱い手を、守るように優しく握って。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

<another day>

 

『戦士の名前』

 

 

ーーーーー

 

 

これは、今となっては知る者も一人しかいないある日の物語・・・

 

 

 

 

ある日の昼下がり、街には人が行き交い空は心地よく晴れている。

 

 

そんな日に、街を一望できる高台に一人の青年が立っていた。

 

鋭い視線は彼に近寄りがたい印象を与え、さらに尋常ならざる気配が青年からは漂っていた。

 

「・・・平和だな・・・この世界は。幸せが、笑顔が溢れている・・・」

どこかを思い出すように遠い目をしながら、彼・・・ダハーカは呟く。

 

「・・・シュバリヤ。お前はこの世界をどうしたいんだ・・・俺は、どうするべきなんだ」

ダハーカがこの世界に攻撃を加える理由。

それはシュバリヤから頼まれたからだ。

 

「この世界を試せか・・・だが、それは本当にお前がしたいことなのか・・・」

 

答える相手もいなく、ダハーカの問いは続く。

 

「・・・いや、それも今更か」

そう結論付けて踵を返す。

 

彼がするのは戦いのみ。

それ以外は何も望まない。

 

かつて一度、希望を失った彼にはもはや、戦いへの渇望しか残されていなかった。

 

幸せなど、求めるべきではない。

 

 

すると、突然胸にドンと何かがぶつかる衝撃が伝わる。

 

「きゃっ!」

「ん、すまない。不注意だった。大丈夫か?」

素直に謝り、ぶつかってきた少女に手を伸ばす。

 

ダハーカは戦いしか求めない。

だがその前に彼は一人の戦士でもある。

最初にこの世界に侵攻した際は、相手の敵愾心を煽るためガラにもない芝居もしたが本来の彼は戦いの場以外では弱いものに手を差し伸べる真っ当な性格だ。

だから今も、純粋に少女を心配して手を伸ばした。

 

「あ、すいません。こっちも急いでて・・・すいませんでした」

と少女が手を取り、こちらに顔を向ける。

 

少女は何も感じなかったが、ダハーカは少女の顔を見て衝撃を受けた。

 

彼女は以前、ダハーカが龍崎十馬をおびき出すために襲うフリをした銀髪の少女だったのだ。

 

あの時は自分でも情けないことをしたと思っている。

 

今、謝るべきだろうか。だが、少女は自分の人間の姿を見ていない。

 

どうするべきか、手を握ったままで考えていたものだから少女はいぶかしんだ顔でこちらを見る。

 

 

「あの・・・どうかされましたか?」

「・・・っ!すまない。少し、ぼーっとしていた・・・」

「そうですか。では、急いでいるので失礼します!」

と少女が再び走り去っていこうとする。

 

「・・・待て。何をそんなに急いでいる」

それをダハーカは呼び止めた。

 

「え?えーっと・・・」

「その様子だと待ち合わせというわけでもあるまい。・・・察するに探し人。もしくは物といったところか?」

「す、すごい!正解です!・・・実は、猫を探していまして」

「・・・猫だと?」

「は、はい!名前はミーちゃんです!三毛猫でお隣さんが飼ってたんですけどいなくなっちゃって・・・」

推理が外れたことに少し動揺しつつもダハーカはあることを思いついた。

 

「・・・なら、俺も協力してやる」

 

ダハーカとしては、怖がらせてしまったことへの詫びのつもりの申し出だった。

さすがに本人だと言えばまた怖がらせてしまうし、この姿なら大丈夫だろうと考えた結果である。

 

 

一方、申し出をされた少女・・・イリスはめちゃくちゃ感動していた。

 

(こんなにいい人がいるなんて・・・さすがは日本!)

 

いやどこからどう見ても怪しい人だろうという思考は彼女には無理だったようだ。

 

 

 

イリスと共に、ミーちゃんがよくいたという公園にダハーカは向かった。

 

「ミーちゃーん!出ておいで〜!」

「・・・猫に人の言葉は伝わらないと思うが」

「そんなことないですよ?ミーちゃーんどこー?」

「・・・はぁ」

 

なんだか付き合っている自分が馬鹿らしく思えてきた。

 

さっさと終わらせよう。そう決めてダハーカはイリスから見えない位置で手に六つの小さな光球を出現させる。

 

「”千里眼”拡散」

その文言を唱えると六つの光球は散り散りになり、街中を駆け巡る。

そして、その光球が捉えた景色が頭の中に映像として映し出される。

その中に、目当てのものを見つける。

 

「・・・見つけた。ここから3キロほどの埠頭か・・・」

そう呟き、イリスに「おい」と声をかける。

 

「は、はい!?なんですか?」

先ほどまで茂みをごそごそ探していたせいかあちこちに葉っぱをつけながら返事をする。

 

「・・・目撃情報があった。ここから3キロほど離れた埠頭で先ほど見た奴がいるそうだ」

千里眼で得た情報に嘘を交えて彼女に知らせる。

 

「ほんとですか!?」

「ああ、間違いないそうだ。いなくなる前に早く行くぞ」

そう言って彼女を肩に担ぐ。

 

「ふぇっ!?な、何をやってらっしゃるんですか!?」

「俺の方が足は早い。だからこっちの方が早い」

「その理論はなんか違いますよ!」

「うるさい。行くぞ」

と言うなり足を踏み切り思いっきり加速。

 

人間をはるかに超える速度で走るダハーカに抱えられながらイリスはスピードに目を回すしかできなかった。

 

 

 

 

埠頭に到着したあと、ダハーカは千里眼の情報の中で猫がいた倉庫に入っていく。

 

目が回り、フラフラしながらもイリスもそれについていく。

 

「ここにいるはずだが・・・」

「ま、まってください〜!・・・って!あの子ですよあの子!」

とイリスが倉庫の奥を指差す。

 

するとコンテナのそばに三毛猫が寝転んでいるのが見える。

 

「よかった〜。心配してたんですからね!」

駆け寄り、三毛猫にプンプンと説教をするイリス。

 

そんな彼女が記憶の中の誰かと重なった気がして、ダハーカは目を細めた。

 

 

 

だが、次の瞬間。彼の研ぎ澄まされた戦士としての本能が危機を察知した。

 

「・・・そういえば、猫が家出するのは身ごもった時だ。だとすれば子供がいるかもしれない」

「え!?大変です!探さなきゃ!」」

「ここは俺が探しておく。お前は別の場所を探しておけ」

 

ダハーカに言われ、慌ててイリスは倉庫を出て行く。

 

 

 

 

イリスが去り、ダハーカだけとなった倉庫。

 

そこでダハーカは一人口を開く。

 

「・・・あいつを見逃したということは、狙いは俺か・・出てこい!隠れているのはわかっているぞ!」

 

すると、その声に呼応するように倉庫の物陰から6つの人影が出てくる。

 

黒い鎧に同じく黒の槍を持った異質な連中。

 

ダハーカは知らないがそれらは量産型アーマードライダー、黒影トルーパーと呼ばれる者だった。

 

黒影たちは槍の切っ先をこちらに向け、殺意を放ってくる。

 

だが、そんな殺意に晒されてもダハーカは動じない。

 

むしろ、呆れていた。

 

 

 

待ち伏せに、1対6という卑劣な陣営。

 

故に、ダハーカは判断する。

 

こいつらは、他愛もない雑兵だと。

 

 

「お前たちが何者か等に興味はない・・・だが、お前たちが俺と戦おうというなら全力で相手になろう。かかってくるがいい!」

 

その声と同時、黒影たちは殺意を込めた槍を一斉にダハーカに突き出した。

 

 

だが、その切っ先はダハーカには届かない。

 

直前で跳躍し、倉庫の天井に逆さに着地したダハーカは、そのまま勢いをつけて急降下。

 

まるで兎を狩る荒鷲のように素早く、一人の黒影の頭に踵落としを決める。

 

そして昏倒した黒影から槍を奪い、ベルトを破壊する。

 

黒影に変身していたのは特殊部隊のような風貌の男だった。

 

 

(やはり下っ端か・・・つまらん。さっさと終わらせるか・・・)

 

敵の大体の実力を推し量ったダハーカは槍を振るい、残りの黒影を掃討するべく跳躍した。

 

 

 

 

そして5分も経たないうちにダハーカは全ての敵を倒してしまっていた。

 

槍を放り、倉庫から出て行く。

 

その目には、戦いへの渇望と、相対した敵の弱さへの失望が内包されていた。

 

 

 

倉庫を出てすぐのところにイリスはいた。

 

「あ、赤ちゃん・・・見つかりませんでした・・・」

 

息を切らしているのを見ると走り回って探していたのだろう。

 

なぜそこまで必死なのか分からなかったが、猫を撫でる彼女を見ていると少し心が安らいだ。

 

 

だからこそ。

 

「今更だ・・・」

 

そう呟いて、ダハーカは踵を返した。

 

「え?あ、あの・・・」

「猫は見つかっただろう?なら、俺の仕事は終わりだ」

そう言って、立ち去ろうとする。

 

「あの!せめて名前だけでも教えてくれませんか!?」

 

そんな彼女の申し出に、眉をひそめる。

 

「何故、俺の名を聞きたい?」

 

すると、その問いにイリスはこう答えた。

 

「だって、こんなにいい人のことをいつまでも覚えていたいじゃないですか!」

 

 

いつまでも覚えていたい。

 

その言葉にハッとなり、振り向くとそこには。

 

 

屈託のない、はじけるような笑顔を浮かべる少女の姿があった。

 

 

 

「・・・グウシェ」

「え?何ですかそれ?」

「・・・俺の名だ。お前が覚えていてくれるなら、それでいい・・・」

 

そう言い残し、戦士は黄昏色の空に背を向け去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、この物語は幕を閉じる。

 

死の間際、彼が思い描いたのは家族か、好敵手か、それとも・・・

 

それは、誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい!というわけで短編シリーズMk-2でした!
期末テストは学生を殺すためのものですから死体になるのもしゃーなし。
次回からは通常運転なドラマパートをお送りいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。