仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜 作:ダイタイ丸(改)
クリスペプラーではありません。ダイタイ丸(改)です。
今回は日常を描いた短編となっています。
ラノベっぽいのは嫌?残念だったな、ここは地雷原だ。
<1st day>
『ジローの大冒険』
ーーーーー
(むむむ・・・)
とあるマンションの一室で”彼”は一人、思案していた。
(どうしたらアキラを元気にできるかなぁ)
と眉根にしわを寄せて考え続ける。
アキラとは彼の同居人にして恩人、葛葉晶のことだ。
最近、また少し元気をなくしている彼女に何かしてあげられることはないか。
それを考えているのだ。
普通に言葉をかけて励ませばいいと思うだろうがそうはいかない。
何故なら”彼”・・・ジローは柴犬なのだ。
(アキラはこの間コウタが帰ってきたときは少し元気になってた!よし!アキラにコウタを会わせればいいんだ!)
そうと決まれば早速行動に尽きる。
ジローはマンションのドア(オートロックタイプだが万が一を考えて今日は靴を挟んで半開きにしておいた)を開け、葛葉紘太を探すべく行動を開始した。
その頃、西の川沿いにあるステージではドラゴンロンドの面々がステージの準備をしていた。
「ふぅ・・・リーダー代理も大変だ」
と一息つくのはドラゴンロンドのブレーキことリーダー代理の淳吾だ。
「確かに、いつもは十馬くんがまとめてくれてるもんね」
と隣にリンが座ってくる。
「まとめ役になってみると大変さがよくわかるよ」
「でも、淳吾くんは日頃から皆をまとめてるじゃない?」
「それでも十馬がいるのといないのでは違うよ」
周りで騒ぐメンバーを見ながらため息をつく。
すると、背中に何かがぶつかってきた。
「わわ!なんだ!?・・・犬?」
「犬・・・だね。柴犬かな?」
ぶつかってきたのは柴犬の子犬だった。
なにやら焦っているかのようにまた駆け出そうとするのを持ち上げて止める。
「首輪ついてるな。こんなちっちゃいし迷子かも」
「大変!飼い主さん探さなきゃ!」
とあわあわする二人。
一方、思わぬ形で足止めをくらったジローはめちゃくちゃ焦っていた。
(こいつら何で僕を引き留めるんだ?・・・ま、まさか!僕を狙う悪の組織の手先だっていうのか!?)
人間でいうと大体小学五年生くらいの精神年齢であるジローは少し、思春期特有の病気のケがあるのである。
(早く逃げなきゃ!)
と身をよじり、なんとか少年の腕から抜け出しダッシュでその場から逃走する。
「あ!逃げた!」
「た、大変!者共!追えー!」
「「おー!」」
「えっ!?ステージはどうするんですかぁ!?」
ドラゴンロンドのリーダー代理と三馬鹿トリオと最年少優等生は柴犬を追う。
残された観客たちの頭にはハテナマークが飛び交っていた。
(ふぅ・・・危なかったぁ・・・)
路地裏に隠れ、追っ手を巻いたジローは街の中心地へと伸びる大通りを歩いていた。
走って少し疲れたため、道の端にちょこんと座り休憩していると自分の前で立ち止まる人影が。
「こんなところで迷子・・・いや、迷犬か・・・どれどれ」
とジローを抱き上げるのは沢芽市復興局、現地監督兼復興プロジェクト主任の呉島貴虎だ。
(な、なんだろうこの人・・・目つき悪いなぁ・・・)
なぜこうも熱い視線を向けられるのかわからず首を傾げる。
すると、貴虎も同じ方向に首を傾ける。
(・・・)
逆にもう一回傾けてみる。
すると貴虎もまた同じ方向に傾ける。
「(・・・)」
静か且つ、シュールな時間が流れる。
(・・・だ、だめだ!耐えられないこの空気!)
身をよじり、ジローは貴虎の手から逃げ出し一目散に走って行った。
「む・・・行ってしまったか・・・飼い主が見つからなければ飼おうと思ったのだが・・・」
ジローを見送り、少し残念そうにした後、貴虎は何事もなかったかのように再び歩き出した。
(さっきの人はなんだったんだろう・・・)
酸欠でフラフラしながら川辺にたどり着いたジローは喉を潤すべく、川に口を突っ込み始める。
するとまたもや近寄ってくる気配が。
(今日は厄日だ・・・)
そう思いながら気配に振り向く。
年季の入った黒のレザーコートを着た男だった。
メタルのアクセサリーを首から下げ、片方の足には何故かプロテクターがつけられている。
見るからに、不審者だった。
(な、なんだこいつ・・・)
ジローは戦慄していた。
その格好、浮世離れした匂い、物憂げな表情。
全くもってパーフェクトに、かっこよかったのである。
あまりの感動に動けないでいると男がしゃがんで自分の頭を撫でてくる。
「・・・お前も、一人か・・・?」
と男がジローの中で一回は言ってみたいセリフベストテンにランクインしているセリフを言う。
うひょーっと心の中で叫ぶジロー。
そんなジローの首輪に男が気づく。
「なんだ・・・お前には心配してくれる奴がいそうじゃないか・・・いいよなぁお前は・・・どうせ俺なんか・・・」
と、何故だか思考をマイナスに急降下させている男。
だが、ジローが去ろうとした時、男はこちらを向いてこう言った。
「お前の家族・・・大事にしろよ・・・」
そう言って少しだけ口角を上げ、笑みを浮かべる男。
思わず敬礼したくなる衝動を抑え、ジローは家族、晶の元へ向かった。
ジローと別れ、川辺で石を弄ぶ男。
そんな彼にもう一人の人影が寄ってくる。
「兄貴!カップラーメン買ってきたから食べようぜ!」
「ああ、ありがとうな弟。お前は何味がいい?」
「俺は味噌がいいかな?」
「じゃあ俺は塩だ」
そうしてオーバーロードの兄弟、ゲオルとギウスは仲良くラーメンをすすった。
(かっこよかったなぁ・・・さっきの人)
と思い返しながら旧ユグドラシルタワー前の広場にジローはいた。
(コウタはどこかな・・・?)
てこてこ歩いていると、なぜか道のど真ん中に器に入った高級ドッグフードが置いてあった。
(・・・罠だ。絶対罠だこれ)
瞬時に見抜き、辺りを見渡す。
案の定、茂みや物陰から複数人の匂いがした。
(さっきのやつらか・・・こんな見え見えの罠に引っかかると思ってるのか?)
鼻で笑い、素知らぬ顔で通り過ぎようとする。
が、ドッグフードにもっとも近づき、香ばしい匂いが鼻に入り込んだその時。
くぅ〜っとお腹が音を立てて鳴った。
(・・・ちょっとだけならいいよね?)
そう、これはあくまで生きるためだ。
そもそもきょうは走り回っていつもの倍はカロリーを消費しているし、腹が減ってはなんとやらである。
本能に抗える動物など人間も含めてこの世にいるだろうか。いや、いない(反語)
美味しそうな匂いにつられ、ついに一口パクリと食べてしまう。
(う、うまぁーい!!)
そのままバクバクと食べ、あっという間に平らげてしまった。
(うまかったぁ・・・ハッ!)
満腹になり、満足したところでまんまと罠にかかったことに気づくジロー。
周りを見渡すと先ほど広場で会った面々が網でジローを囲んでいるのがわかる。
(し、しまったぁ!くっ!高さ的に飛び越えられないし絶体絶命だぁ!)
万事休す、そう思い諦めて座り込むジロー。
それを網で囲み徐々に距離を詰めるドラゴンロンドの面々。
すると、救いの声が響いた。
「お前ら、なにやってんだ?」
「「「「リーダー!?」」」」
そこに現れたのはこの馬鹿どもの大将、龍崎十馬である。
ついでに後ろには葛葉紘太もいる。
「彼らは何やってるんだ?」
「わかんないけど、うちはこれで平常運転なんスよ。誠に残念なことに」
目の前で展開されるシュールな光景に戸惑う紘太としくしく涙を流す十馬。
「ってジローか?姉ちゃんとこから抜け出してきたのか?」
紘太が聞くとジローはそうだと言わんばかりにワンっ!と鳴いた。
「そっか・・・うちの合鍵は持ってるし、送っていこうかな」
「紘太さんのお姉さんの犬だったんだって・・・お前ら、何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「追いかけ回してすみませんでした・・・」
「ま、誠にソーリー・・・」
「申し訳ありませんでしたわ・・・」
「止められなくてすいませんでした・・・」
と寒気がするほどの笑顔をうかべる十馬にメンバーが震え上がる。
まるで雨に打たれたチワワみたいだった。
「じゃ、俺はマンションに行くよ」
そう言って、紘太が歩き出そうとする。
だが後ろから「待って」と声をかけられた。
「って姉ちゃん!?なんでここに!?」
「お昼休みだから一回家に戻ろうと思ったのよ。そしたら向こうが騒がしいしあんたもいるから」
と言う晶の口元には笑みが浮かんでいた。
まるで、久しぶりに実家に帰ってきた弟の世話が焼けるのが嬉しくてたまらないといった様子だ。
「そっか、じゃあ俺も一緒に行くよ」
「ありがとう、助かるわ。あ、そうだ。ご飯まだなら食べていかない?」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな?それじゃ、十馬に皆!ありがとうな!」
と言い、姉弟仲良く帰り道を行く。
その姿を見て、ドラゴンロンドの面々は笑みを浮かべるのだった。
帰り道、紘太に抱っこしてもらいながらジローは満足そうにしていた。
(アキラも嬉しそうだし、大成功だな!)
そう思いながらニヤニヤしていると晶がジローに顔を寄せる。
「今日はありがとう。頑張ってえらいねジローは」
と言って頭を撫でてきた。
(ふふん!当たり前さ!僕はパーフェクトでスーパーな柴犬だもの!)
そう心の中で言って、今はもう少しこの優しい手のひらの感触に甘えることにした。
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<2nd day>
『少年少女たちの談話会〜boys side〜』
ーーーーー
「恋が・・・したいっ!」
ドンっとグラスをテーブルに叩きつけ叫んだのは自称策士、城乃内秀保だ。
「なんで・・・なんで十馬やザックには女の子が周りにいるんだ・・・これがこの世界のバランスとでも言うのかー!」
「おうおう、その調子だその調子。嫌なもんはよ、ぜーんぶ吐き出しちまった方が楽だぜ」
と空になったコップにこどもビールを注ぐのはドルーパーズ店長にして彼女いない歴=年齢の悲しい男、坂東清治郎だ。
「まったくだよなぁ!戒斗さんはわかるぜ!?だってかっこいいもん!でもぶっちゃけザックと俺って同じくらいのレベルだよなぁ!?しかも自分の姉!なんなんだよこのジレンマはぁ!」
と同じく叫ぶのはビートライダーズリーダー補佐のペコだ。
意外と炭酸の刺激が強いこどもビールをまるで水のように飲み干している。
他にも各チームの男子たちが一堂に集まり、ドルーパーズを貸し切ってこどもビールを煽っている。
そして天井には『チーム合同!男子会』と墨で書かれた垂れ幕がぶら下がっている。
これは元々ザックが交流を深めるための企画として用意したのだが当の本人が急用で来れず、飲み会のような有様になっている。
最初は仲良く喋っていたのだが話題が恋愛ネタになったことで日頃の鬱憤が爆発。現在に至る。
「なんでレイナちゃんはいつも冷たいのかなぁ・・・最近、素で嫌われてる気がしてきた・・・」
「大丈夫ですよ!ツンデレって大概当事者から見ればそんなものらしいですから!」
「いーじゃんツンデレ!うちの女子陣は全くそういう気配ないからね!?」
向こうでツンデレについて語り合っているのはドラゴンロンドのジョーと竜希、元鎧武のラットである。
「ほんとに?本当にツンデレでいいのあれは?デレがないんだけど」
「大丈夫です!レイナさんの性格的に本当に嫌いなら話しかけただけで蹴り飛ばしますから!」
「そんなにデンジャーなのその子!?」
さめざめと泣くジョーの背中をさすり励ます竜希とその言葉に反応するラット。
その隣では・・・
「つまり!そのリンという子は君に好意を持っているのだよ!淳吾くん!」
「はっ!?いやいや俺とあいつそんなんじゃないから!」
「そんなことはない!君たちもそう思うだろう!聖司くんに波人くん!」
「ほえ?そんなの本人次第だろ?・・・さて、次は君の番だよ浪人」
「浪人ゆーな!波人だよ!な・み・と!今回こそ負けねーぞ!」
ドラゴンロンドのストッパー、淳吾にチームファイブバードのリーダー、大和士健(おおわし けん)が絡み、さらにその奥ではチームライズGのリーダー、鳳聖司(おおとり せいじ)とチームセブンオーシャンのリーダーであり現役浪人生、浪川波人(なみかわ なみと)がジェンガ対決している。
無視されたことなど気にせずキュピーンと音がなりそうな特撮ヒーロー的ポーズを取りながら健が続ける。
「周りにチャンスがあるのに何故手を伸ばさない!君も羽ばたけ!あの鳥のように!」
「暑苦しい・・・あんたは彼女いるの?」
「いないっ!」
「即答!?」
そんな二人にハイハイと坂東さんが甲斐甲斐しくコップを満たす。
「でもよ淳吾。もしお前にその気があるんならアタックしちまったほうがいいぞ。手を伸ばせば掴めるものを掴まなかったら一生後悔する。だから手を伸ばすべきなんだ」
とさりげなく名言を残し去っていく坂東。
「あの人、結局どういう人なのだ?」
「さぁ?ただ有名人の秘書やってたとか秘密組織の幹部だったとか説は色々あるみたいだけど」
仲良く首をかしげて二人はグラスを煽った。
そして、おもむろに店内のテーブルの上に城乃内が高らかに叫ぶ。
「諸君!今まで諸君と話してよーくわかった!俺たちには恋が、熱くその身を焦がせる恋が必要だ!そこで提案する!次はぜひ!男女混合で親睦会をしようではないか!ウイスキーボンボン!王様ゲーム!何でもありで!」
策士の宣言に淳吾と竜希以外の男子がうおおお!と雄叫びをあげる。
さりげなく坂東さんも参加していた。
そんな熱狂から少し離れ、淳吾と竜希はおとなしくこどもビールを飲んでいた。
「・・・そんでさ。竜希は好きな人とかいるの?」
「へぇっ!?な、なんですかいきなり!」
「ははは、いや別に深い意味はないけどさ。我らが弟分ももうそんな歳なのかな〜と思って」
「むむ・・・なんか馬鹿にされた気が・・・でも好きな人はいませんよ。チームの皆さんのことは大好きですけどね」
「そっか・・・なぁ、俺ってリンのこと好きに見える?」
「ふえっ!?そうですね・・・仲よさそうだな〜とは思いますけど」
「・・・そっか・・・よしっ!まぁでも気長に行くか!」
「なんかよくわかんないですけど頑張ってください!応援します!」
「ありがとうな!竜希!」
ガシッと熱い握手を二人は交わした。
その後、おかしなテンションのまま宴会は続き全員が疲れて眠ってしまった。
後日、散らかした罰として1日店の手伝いをさせられる羽目になったがそれはまた別のお話。
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<3rd day>
『少年少女たちの談話会〜girls side~』
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全ては、女子会にありがちなこの一言から始まった。
『コイバナ、しよっ?』
「・・・というわけで私は十馬と知り合ったんです」
「へぇ〜それは惚れるわぁ。だから好きになっちゃったんだ」
「かっこいいなぁ。まさに漫画の中の話だよ」
「は、はい・・・」
と十馬との過去を話し、恥ずかしそうにうつむくイリスに元鎧武のリカとチャッキーがヒューヒューとはやし立てる。
ここはシャルモン本店の中だ。
今日は特別に凰蓮が貸切にしてくれたのだ。
天井には『チーム合同企画!ガールズ☆パーティ』と可愛らしい丸っこい文字で書かれた垂れ幕がぶら下がっている。
ちなみに書いたのは凰蓮だ。
「そっかそっかぁ・・・私もそんな恋がしたいよ・・・」
「なになに?コイバナ!?」
チャッキーの呟きに女子らしく反応するリン。
男子会とは違い、こちらは普通に進んでいた。
「コイバナ・・・たしか想いを寄せる殿方の事を話し合うことですわよね?」
「おっ!興味やっぱりある?レイナちゃんも乙女だねぇ〜」
「はいはーい!私たちも混ざりたいでーす!」
とレイナ、元インヴィットの女子陣、さらに舞も話に食いつく。
そして盛り上がってきたところで凰蓮がケーキを持ってきて口を開く。
「コイバナ、しよっ?」
これほど女性らしい可愛い笑みを浮かべる凰蓮を一同は初めて見た。
「なるほど、つまりイリスちゃんはシトロンの坊やのことが好きなのね?」
「は、はい・・・恥ずかしながら・・・」
イリスの正面の席に座り、凰蓮がイリスと話す。
「しかも!十馬くんに助けられて惚れたんですって凰蓮さん!」
「強い男に惹かれる気持ち・・・私にもよーくわかるわよ!私にもね・・・好きな方がいるの。強くて美しい完璧なお方よ」
「凰蓮さんも恋してるなんて・・・ステキ!」
漫画のような十馬とイリスの出会いにキャーキャーする女子5人+オネエ1人。
そんな一同の反応が恥ずかしいやら嬉しいやらでイリスは口をもごもごさせる。
「でも、まだ告白してないんだよね?」
「は、はい。十馬は最近忙しそうにしているので、かえって困らせてしまうと思って・・・」
もちろん、彼のことは大好きだ。
だが、自分と付き合えば迷惑になってしまうのではないだろうか。
まともな料理一つ作れない自分に自信が持てないのである。
「まぁ確かにあなたには台所に立ってほしくないわね・・・」
と表情から思考を読み取ったのか凰蓮が苦笑する。
「でもでも!絶対に告白したほうがいいよ!」
「うんうん!舞はどう思う?」
「私に振られても困るよ!でも、十馬くんはイリスちゃんの事を迷惑に思ってないと思うよ」
穏やかな笑みを浮かべて舞が言う。
「そ、そうですね!わかりました!十馬に告白します!・・・め、目処がたったら・・・」
勢いよく言うかと思いきや、顔を赤くして最後は俯いてしまうイリス。
「もうっ!イリスちゃん可愛すぎだよっ純情すぎだよっ!」
「これは私達でイリスちゃんが変な男に釣られないように生涯を持って見守っていかねば!」
「そうね。私も応援するわ。頑張ってねイリスちゃん」
イリスの宣言(?)に沸き立つ女子陣+オネエ。
沸き立つ一堂にイリスもある提案をする。
「だったら、レイナさんとリンちゃんも応援してあげてください!」
「「は、はぁっ!?」」
と突然名ざしにされた二人は椅子から身を乗り出した。
「え?二人も好きな人いるの?」
「誰?ねぇ誰?」
「も、もしかして淳吾くんとか?あ、ジョーくんもいるよね?」
「ま、まさか!十馬くん!?」
「「な、なんだってー!?」」
と女子特有の質問攻めを受ける二人も仕返しとばかりに返す。
「で、でも!私見たことありますけど舞さんだって彼氏さんっぽい人いるじゃないですか!」
「そ、そうですわ!確か紘太さんでしたか・・・すごく仲よさそうでしたわ!」
「えっ!ちょっと!たしかに紘太とは仲がいいっていうか絆があるけど!べ、別に好きとかそういうんじゃ・・・」
「ない、と言い切れるかしら?」
「うぐ・・・」
「あれー?舞ー?」
「う、うるさいわねっ!それを言うならチャッキーだって・・・」
とこのようにコイバナとは名ばかりのちょっかいの掛け合いになり、後半は女子会というより小学生の会話みたくなってしまった。
だが、こうして再びみんなと笑いあえる。
それだけで舞は幸せだった。
そして、皆に話したことで少しだけ気持ちが楽になったイリスなのであった。
ーーーーー
<4th day>
『新しい日常』
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ニヴルヘイムから真奈と共に帰還した翌日、真奈は十馬と一緒に自分のことを葵に詳しく説明していた。
「ふむふむ・・・つまり気づいたときにはオーバーロードになっていたと?」
「は、はい・・・お役に立てなくてごめんなさい・・・」
あまり記憶が定かでなく、オーバーロードにいつなったのかが思い出せない真奈がすまなそうに葵に謝る。
「いいって、仕方ないさ。8歳の時からずっとあんな場所にいたんだ。むしろ、思い出したくないことの方が多いだろう」
「すいません・・・」
「葵もいいって言ってるし、謝んなくてもいいんだぞ?」
何度も頭をさげる真奈に優しく十馬は声をかける。
ちなみに十馬の怪我は本人の驚異的な回復速度と真奈の能力のおかげでほとんど治っていた。
粉砕されたあばらを優先的に修復したが、そこで真奈に限界がきてしまい背中の傷は残ったままだ。
激しい運動をすると傷が開くため、しばらくダンスは禁止となっている。
「・・・よし、じゃあ聞き取りはこんなところでいいかな。今日からは外に出て生活してもいいことになったから」
「・・・!本当ですか?」
「よかったな真奈。じゃあ今日は俺が街を案内してやるよ。10年経って、この街もずいぶん様変わりしたしさ」
「・・・うん!じゃあ、よろしく・・・お願いします」
とわざわざ改まってお願いしてくる真奈。
そんな彼女がたまらなく可愛く思えて、十馬は彼女の頭をなでようと手を伸ばす。
「こほん・・・」
「・・・ハッ!い、今のは違うぞ!べ、別にそういうアレじゃなくてだな!」
葵のせきばらいで現実に引き戻された十馬は慌てて弁解するも葵は聞く耳持たない。
「ハイハイ、イチャイチャノロケごちそうさん。部屋出るときは電気消していってね」
「・・・?何でだ?」
「寝るから」
「なるほど・・・いくぞ真奈」
葵らしい理由に湿った視線を注いでから、真奈の手を引いて十馬は部屋を後にした。
「さーて、どこから回るか・・・」
地上に出て、辺りを見渡していると服の裾にくいくいと控えめな引力を感じる。
「どうした?」
「・・・あ、あのね・・・じ、実は・・・」
ともじもじしながら真奈が何か言いたそうにもごもごする。
「言ってみろって。何か欲しいとか?」
「え、えーとね・・・あ、あれ・・・」
と指差す方向にはおしゃれなブティックが。
「折角だし・・・お、おめかししたいなって思って・・・」
そんなことを上目遣いにほんのりと赤らんだ顔で言ってくる。
なんだこの可愛い生き物と思いながら、冷静になるために般若心経を唱えつつ十馬はブティックに足を向けた。
店に入ると店員がいらっしゃいませーと声をかけてくる。
「で?どんな服がいいんだ?」
「え?ちょ、ちょっと待ってね・・・えーっと、えーっと・・・」
目をぐるぐるさせながら店を見渡す真奈。
その様子がおかしくて思わず苦笑してしまう。
「じゃあ店員さんと相談しながら探すか?」
「う、うん・・・」
そして近くにいた女性の店員を呼び女子高生に人気だという服が並ぶスペースにやってくる。
「では、どのような雰囲気にしたいですかー?」
と店員がさっきから十馬の後ろに隠れている真奈に聞く。
「あ・・・え、と・・・っ!・・・」
頑張って話そうとするが直ぐ服の裾を引っ張り十馬に助けを求める。
オーバーロードになってしまった為か、現在の真奈は対人恐怖症を持ってしまっている。
十馬が紹介した貴虎や葵は幾分か平気なようだが、まだまだ十馬以外の人とは話しづらいようだ。
「ほら、言ってみろって。頑張れ頑張れ」
「・・・えっと・・・その・・・か、かわいいものをお願いひまふ!」
と緊張のあまり噛んでしまい、ますます顔を真っ赤にして後ろに隠れる。
そんな彼女を微笑ましいものでもみるような穏やかな視線で見てから、店員は幾つかの服を組み合わて持ってきた。
「今の時期はこんな感じでどうでしょう?」
と言って店員が渡してきたのはボーイッシュな上着とホットパンツ、地の厚いストッキングにショートブーツといったものだ。
「これですか?真奈はもうちょっと女の子らしい格好の方が似合うと思いますが・・・」
「い・い・え!お客様の実に可愛らしい女の子らしい部分はこの服で外見をボーイッシュにすることでさらに際立ちます!ギャップ萌えですギャップ萌え!」
息を荒くして詰め寄ってくる店員に若干引きながらも真奈にどうだ?と提案してみる。
服を店員から受け取った真奈はしばらく思案していたが、店員に何かをささやかれ、顔を真っ赤にしてこちらを見た後直ぐに試着室へと入って行った。
試着室に入ってから数分後・・・
わ、笑わないでねっ!と念押ししてから真奈が試着室のカーテンを開ける。
「ど、どう・・・かな・・・」
不安げに真奈が聞いてくる。
そんな真奈に俺は正直に言った。
「・・・か、かわいすぎるぞ・・・!」
あまり女の子が好んで着るような暖色ではなく寒色で纏められた服がボーイッシュな雰囲気を醸し出している。
だが、顔を赤くしなれないストッキングの感触に足をすり合わせるその姿はとても儚く、庇護欲をそそられる。
「これが・・・ギャップ萌えか!」
「はいっ!そうです!」
「最高だ!ありがとう!店員さん!」
「はいっ!私もいいもの見られましたっ!」
ガシッと熱い握手を交わす二人。
そんな二人を前に真奈はどうしたらいいかわからず、オロオロするしかなかった。
その後、寒いので服に合う色のマフラーを買って二人は店を出た。
去り際、グッ!と親指を立ててくる店員さんに十馬もまたグッ!とサムズアップで返した。
真奈は小さく手を振っていた。
「さてと・・・次はどこに行くか・・・」
とマップを広げ、スポットがないか探す。
「この辺でいうと・・・あ、そうだ・・・」
地図にある名前を見つけ、真奈に見せる。
そこには『沢芽ハッピーランド』と書いてある。
「これって・・・?」
「そ、遊園地だ。行くか?」
「・・・うんっ!」
そうして二人は手を握ったまま、遊園地に向かった。
しばらく歩くと遊園地の入口が見えた。
「・・・遊園地、初めてだよ・・・十馬は何回くらい来てるの?」
真奈が何気なく聞く。
真奈は知っている。もう十馬には自分以外にも大事な仲間がたくさんできていることを。
だから、その人たちと一回くらいは遊園地に来ているだろうと思ったのだ。
だが、十馬の答えは真奈の想像とは違っていた。
「いや・・・俺も実は初めてなんだ、遊園地」
「え?てっきり何回か行ってるのかな〜って思ってたけど・・・」
「そんなことないさ。だから・・・今日は初めて同士、楽しもうぜ?」
「・・・うんっ!」
門をくぐった後はあっという間だった。
コーヒーカップでははしゃいだ真奈が思いっきり回転させて二人揃って酔った。
ゴーカートでは恥ずかしそうにしながらも二人乗りで楽しんだ。
ジェットコースターでは十馬が情けない声を出して真奈を笑わせた。
意外にも真奈がシューティングゲームが得意だということがゲームコーナーで判明し、十馬の神がかったクレーンゲームの腕前でぬいぐるみを取ってもらった。
お化け屋敷ではびびった真奈がお化け役をノックアウトし、二人で平謝りした。
メリーゴーランドは思ったより楽しくなくてただ恥ずかしいだけだった。
「わぁ・・・」
もう日は暮れ、観覧車に乗りながら真奈が綺麗な夜景を見て感嘆の声を漏らす。
「そうだな・・・綺麗だ・・・」
とそれに賛同するように十馬が呟くと何故か真奈がポッと顔を赤くした。
本当に、気持ちがすぐ表情に出る少女である。
その様子がおかしくて口元に笑みを浮かべると今度は頬を膨らませてむ〜っと不満そうに言った。
調子を崩されたといった様子でしばらく膨れていた真奈だったがふと、疑問を口にした。
「そういえば、どうして友達と遊園地に行こうとか思わなかったの?誘われそうなものだと思うけど・・・」
「実際、何度も誘われたよ。でも断ったんだ」
「なんで・・・?」
「・・・覚えてないか?約束したの」
「約束・・・あ・・・」
十馬に言われ、過去の記憶の中からその約束は蘇ってきた。
あれは10年前の、最後に人間として迎えた真奈の誕生日のことだった。
その日、本当は十馬や院の皆で遊園地で真奈の誕生会をするはずだった。
だがその日に限って風邪を引き仕方なく真奈は皆に楽しんでくるように言い、院長先生もそれで納得してくれた。
でも、十馬は行かなかった。
「・・・ごめんね十馬・・・いきたかったでしょ?遊園地・・・」
「・・・別に、お前が行けないなら意味ないし」
「・・・え?」
「俺はさ・・・お前と行きたかったんだ・・・コーヒーカップとかジェットコースターとか・・・一緒に笑って、楽しみたかったんだ」
「・・・」
「だから気にすんな。お前と一緒に行きたいっていうのは俺の駄々なんだからさ」
「・・・ねぇ、十馬」
「何だ?」
「来年の誕生日は・・・一緒に遊園地行こうね?」
「・・・ああ、それまでは俺も誰とも行かない。二人で、初めての遊園地を楽しんでやろうぜ」
「うん・・・約束だよ?」
「ああ・・・約束だ」
だがこの約束が叶うことはなかった。
その次の週、真奈はニヴルヘイムに囚われ、十馬は戦いへの一歩を踏み出したのだから・・・
「・・・覚えてて、くれたの?」
「忘れるわけないだろ?それに、今日が何の日かわかってるか?」
「・・・え?」
「11月11日・・・お前の誕生日だ」
「・・・っ!そう、だったんだ・・・カレンダーとか見てなかったから・・・っ・・・」
言葉の途中で真奈は涙を流し始めた。
自分は人ならざるものになってしまったのに、まだ自分をこんなに想ってくれる人がいる。
こんなに、愛してくれる人がいる。
それがわかったからだ。
「で、コレが・・・ほい」
とそんな真奈に十馬が小袋を差し出す。
開けると中には、花の形をしたペアネックレスが入っていた。
「これって・・・!」
「誕生日プレゼント。ペアだからもう片方は俺がつけるけど」
ともう一つ小袋を取り出し、中身を出してみせる。
それは真奈に渡された花のネックレスと合わせられるようにデザインされた蝶を形どったネックレスだった。
そしてそれを首につけて、笑ってみせる。
それに真奈は首元のマフラーを外し、同じようにネックレスをつけることでこたえた。
向日葵のような笑顔が、そこにはあった。
「ねぇ、十馬・・・」
「何だ?」
「また・・・遊園地来ようね」
「ああ、今度はチームの皆も一緒に来るか?」
「うん、それもいいけど・・・」
「わかってるよ。また・・・」
「うん・・・また、二人で来ようね」
そんな二人を包み込むかのように、街の明かりは休むことなく輝いていた・・・
というわけで短編第一弾でした。
どうだったでしょう。男子会女子会は話題作りが大変で大変で…おかげでかなり短めです(汗)
今回出てきたダンスチームの皆様は別に重要人物というわけではありません。
ただ、周りにはこういう奴らがいるんだぞという事を表現するためのゲストでした。
デートなんかしたことないよぉ…
ああいうテンションの高い店員さん、嫌いじゃないぜ!