仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜   作:ダイタイ丸(改)

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あけましておめでとうございます!(もう2月ですが)
ダイタイ丸(改)です!
今年は早々色々ありました。
1月中に二回も風邪ひいたり、パソコンがお亡くなりになったり…
あ、あれ?吉報がないぞ?



第13話 奪還! 十馬VSシュバリヤ!

前回までのあらすじ

 

 

ついに自身の過去を明かした十馬。

彼は10年前、ニヴルヘイムの樹海に足を踏み入れ幼馴染の藤井真奈を植物に連れ去られていた。

それを知り、その上で真奈奪還に協力すると宣言した紘太達に十馬は感謝の涙を流す。

そして繰り広げられる戦いの最中、クラックを抜けた十馬は10年ぶりにニヴルヘイムの樹海へと足を踏み入れる。

そこで十馬は成長した幼馴染、真奈と再会を果たすのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

ずっと、寂しかった。

 

あの日、彼と離れ離れになってからずっと。

 

見知らぬ世界、見知らぬ異形の者達。

 

そんなものに囲まれて、もう何年経っただろうか。

 

普通の人間であれば、とうに狂ってしまっていてもおかしくないだろう。

 

それが、まだ8歳の少女ならなおさら。

 

けれど、彼女の心には支えとなるものが一つだけあった。

 

最後に見た、幼馴染の少年の瞳。

 

彼は、必死に自分を助けようとしていた。

 

『必ず、助ける。心配するな』

 

目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。

 

最後に見た彼の瞳は、確かに自分にそう伝えようとしていた。

 

だから、今まで生きてこれた。

 

 

・・・けれど

 

いつまで待っても彼はこなくて

 

いつまで経ってもこの理不尽な世界は変わらなくて

 

もう、半分諦めかけていたその時

 

 

奇跡が、起きた。

 

 

ーーーーー

 

 

「十馬・・・十馬っ!」

抱きついて、十馬の腕の中で喜びの涙を流す真奈。

 

そんな真奈を強く、強く抱きしめ俺もまた泣いていた。

「真奈っ!・・・よかった・・・生きててくれて、本当に・・・よかった」

 

俺は不安だったのだ。

 

あの時、気味の悪いインベスに見せられた幻覚。

 

血に濡れた真奈が、倒れ伏すあの光景。

 

それは俺が最も恐れ、そして心のどこかで想定していた最悪の結末だった。

 

でも、真奈は生きていた。

 

だから、今はそれだけで十分だった。

 

お互い徐々に落ち着いてきたところで一旦離れると、記憶にあるのとは違う成長した幼馴染の姿がはっきりと見て取れるようになる。

 

少し癖のある髪は背中まで伸び、少し大人びた雰囲気を醸し出している。

 

大きくなったなと頭を撫でようとしたその時。

 

「十馬!」

「くっ!」

 

真奈が叫ぶと同時、背後に気配を感じ振り向きざまにロックシードを拾い上げ、真奈を後ろにかばう。

 

 

そこには、異形の龍人が立っていた。

 

 

光を反射する鎧のような黒い皮膚、頭部の角。

 

それはまさしく『龍人』と呼ぶにふさわしい姿をしていた。

 

「・・・マナ」

「っ!」

と龍人が名前を呼び、呼ばれた真奈はビクッと肩を震わせる。

 

「・・・お前は・・・そいつと行くのか?」

「わ・・・私・・・」

真奈に語りかけるそいつの口調には決して敵意はない。

 

ただ、どこか寂しそうな雰囲気を漂わせながら真奈に問いを投げかける。

 

「・・・と、十馬は来てくれたから・・・だから・・・」

後ろに隠れながらも真奈が言うと龍人は「そうか・・・」と呟き、次に俺を見た。

 

いつでも変身できるようにベルトを装着し、ロックシードを構える。

 

そんな俺に龍人は語りかける。

 

「久しい・・・と言ってもお前はわからないか・・・龍崎十馬」

「何・・・?」

 

もちろん、俺は奴のことは知らない。

それよりも今はこの状況をどうするか、それだけを考えていた。

 

(どうする?・・・正直、コイツを相手に勝てる自信は無い・・・)

 

こうして、対峙しているだけで伝わるプレッシャー。

これまで約一ヶ月間、自分よりも強い強敵たちと戦ってきたからこそわかる。

 

(コイツは・・・ヤバい・・・)

 

今までまともに戦った相手の中で最も強かったダハーカや貴虎をも凌ぐ相手だということは確実だ。

 

(まずは敵意があるのか確認しなきゃな・・・)

 

「で、アンタは何が目的なんだ?・・・真奈を引き止めるってんなら容赦しねぇぞ」

と相手の目的について探りを入れてみる。

 

「・・・いや、マナの判断は尊重しよう。危害を加えるつもりもない・・・だが」

そう言って手に童話の死神が使うような大鎌を出現させる。

 

そして瞳に敵意をみなぎらせ、俺を睨みつける。

 

「お前は・・・ダハーカを殺した。家族を、俺からかけがえの無い仲間を奪った・・・それだけは許さん!」

 

大鎌を振りかぶり迫る龍人。

そんな奴の言葉に俺は衝撃を受けていた。

 

「な!ダハーカが死んだ!?うそだろ!?」

「とぼけるな!最後にあいつと戦ったのは貴様だろう!」

 

そして奴が大鎌を振り下ろす。

 

俺は咄嗟に真奈を抱き上げ、背を向けて逃げる。

 

奴の鎌の間合いからは完全に抜け出せていた。

 

なのに

 

次の瞬間、俺の背中は切り裂かれていた。

 

「がはっ・・・!?」

意識が飛びそうな程激しい痛みが全身を駆け巡り、傷口から血が溢れ出す。

 

「十馬!」

腕の力が抜け、投げ出された真奈はすぐに駆け寄ってくる。

 

「・・・運がよかったな。まともに当たっていればお前の体は真っ二つになっていただろう」

そう、冷たい声で龍人が言ってくる。

 

「ま、真奈・・・逃げろ・・・こいつは、俺が足止めする・・・」

意識をギリギリ保ちながら真奈を後ろに庇い、彼女に逃げるよう言う。

 

「そんなのやだよ!十馬が死んじゃうよ!」

と泣きじゃくりながら真奈がしがみつく。

 

そんな俺たちに龍人が近づいてくる。

 

「償ってもらうぞ・・・仲間を殺した罪を・・・お前の命をもってしてな」

そして大鎌を上段に構え、今にも振り下ろそうとする。

 

絶体絶命、俺は何もできずにいた。

 

だが、後ろにいる真奈は諦めていなかった。

「十馬は来てくれた・・・だから、今度は私が・・・!」

そう言い、目を見開く。

 

するとその目が赤く輝くと同時、四方から植物の蔓が伸びて奴の動きを阻害する。

 

「くっ!マナ、お前!」

そう叫び、振り払おうとする龍人。

 

だが植物はどんどんその数を増していき、やがて奴の視界を遮るほどまでに増殖する。

 

「・・・目障りだ、散れ!」

龍人が命令すると植物は一気に勢いをなくし、バラバラにちぎれ飛んだ。

 

 

そして先ほどまでいた二人の姿はなくなっていた。

 

 

「・・・マナ、お前を傷つけたくはない・・・だが、龍崎十馬をかばうというなら・・・次は容赦しないぞ」

誰もいない空間でつぶやき、龍人・・・シュバリヤは瞳を閉じた。

 

 

ーーーーー

 

 

その頃、沢芽市再開発地区では未だに激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「うおりゃぁ!」

気迫とともに打ち込まれるナックルの炎を纏った拳。

 

それを受け、ダメージを受けながらも銅のオーバーロード、テーバイは嬉しそうに笑う。

 

「ハハハ!いいねぇ!やっぱり戦いってのはこうでなきゃ・・・なっ!」

と強力な拳をさきほどパンチをした姿勢のまま無防備なナックルに叩き込む。

 

「させるか!」

とグリドンがとっさに間に入り込むが衝撃を殺しきれずナックル共々吹き飛ばされる。

 

「ザック!城乃内!くそっ!おっさん、二人を頼む!」

そう言って鎧武はジンバーチェリーアームズにアームズチェンジする。

 

そして高速移動しながらテーバイに連続して斬撃を食らわしていく。

 

急接近して斬撃、それに反撃しようとする相手から離れ光の矢で攻撃し体制を崩し、その隙に再び急接近。

 

ジグザグに移動しているため残像が生まれ、テーバイも少し混乱しているようだ。

 

(よしっ!あの時の感覚がうまく再現できてるな!)

 

鎧武が再現しようとしていたのは約1年前、メガへクスとの戦いで使ったドライブアームズでの動きだった。

 

メガへクスですらとらえきれなかったこの動きなら、このオーバーロードにも通用する。

そう考えた上での攻撃だった。

 

「このまま決めてやる!」

 

そう言ってベルトのブレードを二回倒し、無双セイバーを構え二刀流になる。

 

『ジンバーチェリーオーレ!』

 

「これで終わりだぁ!」

電子音声と共に今まで以上の速さで相手を何度も切りつけ、最後に上段に構えエネルギーのこもった特大の斬撃をテーバイに叩きつける。

 

衝撃が空気を裂き、音の波となって辺り一帯に撒き散らされる。

 

 

立ち込める煙の中、鎧武は静かにさきほど攻撃を放った位置を凝視していた。

 

すると煙の中から立ち上がる人影と笑い声が轟く。

 

「ハハハハハ!最っ高だぜぇ!ここまで血がたぎるのは久しぶりだぁ!」

 

身体の各部から赤黒い血を流しながらテーバイが高らかに笑う。

 

その声は、心の底から湧き上がる歓喜と狂気に彩られていた。

 

 

「あれでもダメかよ・・・くそっ!」

ジンバーレモンアームズにチェンジし、果敢に向かっていく鎧武。

 

だが、さきほどの攻撃で倒しきれなかったところを見る限り、まだまだ勝機は見えそうになかった。

 

 

ーーーーー

 

 

一方、もう一体のオーバーロード、ファフニールを相手にする斬月・真と北斗も未だに勝機を見出せずにいた。

 

 

「あらあら、どうしたんです?そんな攻撃では私は傷つきませんよ?」

とまだ余裕綽々のファフニールとは対照的に、二人のアーマードライダーはかなりの窮地に陥っていた。

 

「くっ!せめて装甲の弱いポイントがわかれば・・・」

「十馬がいないこの状況じゃ無理でしょ・・・っ!来ますよ!」

二人が左右に跳躍すると同時、ファフニールの放った光弾が先ほどまで二人のいた場所を大きく抉る。

 

「強力な攻撃だが・・・当たらなければ意味はない!」

先ほどからしているように迫り来る光弾を回避しながらも矢を次々と放ち、命中させていく斬月。

 

だがその攻撃も、ファフニールの鉄壁の表皮の前では全く意味をなさない。

 

「やれやれ・・・学習しないんですか貴方達は?単調でさすがに飽きます」

と矢を真っ向から受け、尚且つ痒くもなさそうにファフニールが嘆息する。

 

「そいつはどうかな?光実!」

と斬月が不敵に笑う。

 

 

次の瞬間、先ほど斬月が矢を当てた位置に遥か彼方から弾丸が三発、連続して命中する。

 

空を裂き、着弾と共に轟音を響かせる高威力の弾丸がファフニールに少なからずダメージを与え、姿勢を崩させる。

 

そして後ろに待機していた北斗がベルトのブレードを三回倒す。

 

そして居合切りの要領で体をひねり、正確無比の斬撃『流星斬』を食らわせる。

 

三人のアーマードライダーによる連携攻撃、これにはさすがのファフニールも無事ではいられない。

 

そう確信し、斬月がさらに追い討ちをかけるために吹き飛んだファフニールを追う。

 

 

だがその瞬間、ファフニールが突然空中で姿勢を直し、さらには空中に浮遊してみせる。

 

どうやら結界を空中に張り、そこを足場にして立っているようだ。

 

 

「なるほど、いい戦術ですね。あなた方の中にもそれなりの策士がいるようだ・・・けど、残念。私の方が一枚上手でした」

 

そう言って手にした槍で複雑な文様を描き出す。

 

すると先ほど光弾が当たり、えぐれた地面が一斉に光り出す。

 

それらは丁度、斬月と北斗を囲むように綺麗な円を描いていく。

 

「っ!まずい!星崎、退避だ!」

円から逃げ出そうと走るがもう遅い。

 

円からはエネルギーの幕が立ち上り、ドーム状の結界が二人を閉じ込める。

 

「さて・・・我々もそろそろお暇させていただきましょうかね・・・テーバイもストレス発散にはなったでしょうし」

そう言って、ファフニールが地面に降り立ち踵を返す。

 

「待て!貴様を十馬の所には行かせん!」

と斬月が走る。

 

「そう言うと思ってましたよ・・・術式解放っと」

そう言ってファフニールが指を鳴らす。

 

すると結界内に電撃が満ち、二人を襲う。

 

「ぐぁぁぁぁ!?」

「ぐっ!がぁぁぁ!!」

電撃の猛攻を受け、二人が跪くも電撃の勢いは止まらない。

 

そんな二人を尻目に、ファフニールは先ほど弾丸の飛来した方向を見る。

 

「・・・なるほど、あそこか・・・」

 

そして手に光弾を出現させ、遠くのビルに向かって放った。

 

 

ーーーーー

 

 

遠くのビルから狙撃による支援をしていた龍玄はファフニールが光弾を放ったの見てベルトのブレードを一回倒す。

 

そしてエネルギーを溜め、エネルギー収束砲『閃龍咆哮』を放つ。

 

放たれたエネルギーは相手の光弾に命中し、衝突により対消滅した。

 

相手に隙を与えてはならない。

続けて弾丸を放とうとしたその時。

 

ビルが突然轟音と共に大きく揺れた。

 

ついで何かが破壊される音が響き次の瞬間、足元の床が傾いた。

 

そして足場にしていた屋上や壁面、ビル全体に亀裂が走っていく。

 

突然のビルの崩落に龍玄は抵抗もできず飲み込まれた。

 

 

ーーーーー

 

 

遠くで崩落していくビルを見ながらファフニールは笑みを浮かべる。

 

先ほど彼が放った光弾は特殊なものだ。

 

放った光弾は龍玄のビーム砲と衝突した。

 

そして次の瞬間、三つに分裂していたのだ。

 

そう、先の光弾は『衝撃を受けると分裂する』という特性を備えていたのだ。

 

そして油断した龍玄の足元で光弾はビルの基盤を滅茶苦茶に破壊し、龍玄をビルごと葬り去った。

 

 

横に目線を向けると電撃の立ち込める結界内に倒れ伏し、動かない二つの人影が確認できる。

 

それを確認して結界を解き、テーバイの元へと向かう。

 

 

テーバイは元・始まりの男、葛葉紘太が変身した鎧武と戦っていた。

 

さすが始まりの男というべきか。

 

鎧武はテーバイとの戦力差を技術でカバーし、何とか互角に持ち込めているようだ。

 

「さて、そろそろ引き上げますかね・・・」

そう呟いて光弾を三発、二人の足元に打ち込み距離を取らせる。

 

そして突然の乱入に少しキレ気味のテーバイを落ち着かせ、鎧武に向き合う。

 

「・・・それでは、大変お騒がせしました。今日のところはお暇させていただきます。またお会いしましょう・・・」

そう言ってクラックを開き、テーバイを引き連れてニヴルヘイムの樹海へと帰っていく。

 

次の標的である、侵入者にどんな術式で相手してやろうかを考えながら・・・

 

 

ーーーーー

 

 

ファフニールとテーバイがクラックへと姿を消すのを確認し、紘太は変身を解いてその場に崩れ落ちた。

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・なんて奴らだ・・・」

息を荒げつつ周りの状況を確認する。

 

城乃内とザックは意識は保てているようなので無事な様だ。

凰蓮も現在は司令室の葵に報告をしているので大丈夫そうだ。

 

その横を見ると、貴虎と昴がボロボロになって倒れている。

 

「っ!貴虎!昴!大丈夫か!?」

と近寄り、肩を揺さぶると貴虎が跳ね起きる。

 

「はっ!・・・私は・・・負けたのか・・・」

「・・・ああ、悔しいけどな・・・」

と悔しげに呟く貴虎に紘太も頷く。

 

「星崎は・・・大丈夫か?」

隣の昴を揺さぶってみるとさっきの貴虎と同じ様に跳ね起きた。

 

「どうやら、感電して意識を失っていた様だな・・・」

「なるほど・・・道理で寝覚めが悪いワケだ」

と二人して静電気のせいで大きく跳ね上がった髪を抑えながら言う。

 

「そうだ!ミッチは!?ビルが崩れたのは音でわかったんだけど無事なのか!?」

とビルに視線を向けると向こうから肩を押さえながら歩いてくるボロボロの少年の姿が。

 

「ミッチ!大丈夫か!?」

「・・・命はなんとか・・・でも、肩と左目をやられました」

と流血した左目を閉じ、足を引きずりながらも光実が紘太達の元へとやってくる。

 

「目をやられたか・・・とにかく重傷者は一度本部に戻れ。動けるものは十馬の捜索に向かうぞ」

「わかりました。僕とザック達は一度戻る事にします」

「じゃあ僕と葛葉さん、呉島さんは捜索組だね」

 

お互いのやるべき事を確認し、アーマードライダー達はそれぞれ散っていった。

 

 

ーーーーー

 

 

その頃、ニヴルヘイムでは・・・

 

 

「くっそ・・・血が・・・止まらねぇ・・・」

「十馬・・・私のせいで・・・」

 

黒い龍人から逃げ、遺跡の壁の影に隠れる形で何とか逃げ切った十馬だったが重傷を負い動けずにいた。

 

「くっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

どんどん冷たくなっていく自分の体に恐怖を覚える。

 

(とにかく出血のせいで体温が下がりすぎてる・・・せめて血を止めないと)

 

しかし、それとは裏腹に意識が遠のいていく。

 

そんな十馬に真奈がそっと触れる。

 

「・・・ま、な・・・?」

「ごめんね十馬・・・ごめんね・・・でも、助けるから」

そう言って、目を閉じ集中する。

 

すると真奈の手を伝って温かいエネルギーが十馬の身体に染み込んでいく。

 

そしてエネルギーの流れが止まり、真奈が手を離す。

 

「っ?何を・・・ってアレ?」

何をしたのか問おうとした時、先程との身体の違いに気づく。

 

「傷が・・・治ってる?」

 

さっきまでドクドク血が溢れていた傷口は止血しており、触ると痛みは走るが先ほどより全然いい。

 

「お前・・・何したんだ?」

「・・・意外だね・・・そこは『何者なんだ』じゃないの?」

と背を向け真奈が言う。

 

「・・・お前は藤井真奈だ。それ以外の何者でもない。俺の大事な幼馴染だ」

強く、確信を持って俺は答える。

 

振り返り、俺と見つめ合う形になる。

 

「・・・私ね。もう十馬と一緒に居られないんだ・・・」

悲しそうに、不安そうに真奈が言う。

 

「え?何でだよ?お前だってこんなところにいつまでもいたくないだろ?」

「・・・違うの。いたいとかいたくないとか、そうじゃないの・・・」

「・・・どういうことだよ」

不吉な予感を感じながら真奈に聞く。

 

「これだけは・・・見せたくなかったんだけど・・・」

そう言って真奈が瞳を閉じる。

 

すると、足元から植物が伸び彼女を覆い尽くす。

 

唖然とする十馬の前で、体を覆っていた植物が徐々に離れていく。

 

 

そこには、人ならざる者が立っていた。

 

 

白い外皮に覆われた身体は鱗のようにも見える。

頭部には小さい二本の角もある。

 

まるで、先ほどの龍人と同じ種のものに見えた。

 

何も言わない十馬に何を感じたのか、龍の少女は自嘲するように薄く笑って言葉を紡ぐ。

「・・・私ね、もう人間じゃないんだ。”ココ”で生きるにはこうなるしかないらしいの・・・だから、もう・・・」

そこまで言って、言葉を止める。

 

人ならざる異形の顔。

そこにある二つの瞳から、少女は涙を流した。

 

「・・・私だってっ・・・一緒にいたいよ・・・また、院長先生や院の皆、クラスの子達と笑って生きたいよっ・・・でもっ・・・」

堰を切ったように溢れる涙。

 

その姿は、少なくとも少女が人の心を宿している証拠だった。

 

 

そして泣きじゃくる龍の少女を、優しい幼馴染を。

 

十馬は優しく抱きしめた。

 

 

「っ!・・・」

驚き、離れようとする少女を俺は更に強く抱き寄せる。

 

そして、視線をしっかりと合わせ口を開く。

 

「・・・俺はお前がどんな姿になろうと拒絶したりなんかしない。見た目なんて関係ない。お前はお前の・・・優しくて、いつも笑って、ちょっと意地っ張りで、本当は寂しがりやな・・・俺の幼馴染の、藤井真奈のままだ」

そう言って、笑いかける。

 

初めて会った日、彼女が俺に向けてくれたような。

 

優しく明るい、向日葵のような笑みを。

 

 

「で、でもっ・・・私みたいなのがいたら皆きっと怖がるよ!?・・・きっと、十馬にも迷惑がかかっちゃう・・・孤立しちゃうよ・・・」

「俺は誰かがお前を拒絶しても側にいる。世界がお前を拒絶するなら世界と戦う。一人になんかしないしならない。お前がいるからな」

そう、強い瞳で彼女を見つめる。

 

「だから俺はお前とずっと一緒にいる。嫌だって言われても離れてなんかやらないからな?」

 

その言葉に、龍人化を解き人の姿に戻った真奈は呟く。

 

「・・・もう、そんな事言われたら本気にしちゃうよ・・・」

 

「へ?なんか言ったか?」

「ううん。何でもない・・・十馬・・・」

「何だ?」

「もう、ずーっと一緒にいてくれる?」

「当たり前だろ」

「・・・じゃあ、証拠見せて?」

 

そして真奈が顔を近づける。

 

お互いの顔が触れ合うところまで近づいた瞬間。

 

 

背後の壁が爆発した。

 

 

「きゃっ!」

「真奈!」

爆風に煽られる真奈の手を握り、跳躍。

 

そのまま壁と距離を取り、背中で真奈を庇う。

 

粉塵の中から現れたのは先ほどの黒の龍人だ。

 

「見つけたぞ・・・龍崎十馬!」

「しつこいな・・・黒光り!」

 

そう叫ぶ龍人にこちらも叫び返す。

 

「真奈、お前クラック開けるか?」

「え?くらっくって、あの裂け目の事?」

「ああ、出来るか?」

「・・・やる。やった事ないけどやってみる!」

「・・・じゃあ、任せるぞ。時間は俺が稼ぐ!」

そう言ってロックシードを構え、龍人と対峙する。

 

正直、十馬には勝機など見えていなかった。

だが、戦える。

たとえ、これが最後の戦いになったとしても・・・

(全身全霊で、戦い抜く!そして、真奈と生き抜く!)

 

「変身!」

 

『レモンエナジー!』

 

『ROCK ON!』

 

『レモンエナジーアームズ!ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイッ!』

 

 

そして黄金色の鎧をまとった蒼の騎士は名乗りをあげる。

 

「アーマードライダーデュークⅡ!恨みはないが守るべきものの為!全霊を持って狩らせてもらう!」

「・・・龍の王、シュバリヤ。亡き友の無念を晴らすため、貴様を潰す!」

 

雄叫びをあげ、二人の戦士がぶつかり合う。

 

デュークⅡはソニックアローを放ち、相手の間合いの外から攻撃を仕掛ける。

 

ソニックアローの側面のスイッチを操作し、対象に当たると爆発するスタンモードから殺傷力を持つ矢の形状をしたエネルギー体として敵を貫くキルモードに移行し容赦ない攻撃を浴びせ続ける。

 

(葵に感謝かな・・・)

ここにはいない天才科学者に心の中で礼を述べながら絶え間なく矢を浴びせる。

 

このモード切り替え機能は作戦開始直前に葵が施してくれた措置だ。

 

10分足らずで作業を完了させた時はさすが天才と拍手をしてしまったほどだ。

 

(でも、そう簡単に倒せないよな?)

 

その思考に呼応するように不可視の斬撃が向こうから飛んでくる。

 

デューク固有の強化されたセンサーで空気の流れを感知し紙一重で避け続け、距離を詰めていく。

 

大鎌を辛うじて避け、デュークⅡが斬撃を放つ。

 

それを鎌の持ち手で受け止め、シュバリヤが胴体に拳を突き出す。

 

しかしそれを交わしてカウンターのパンチをデュークⅡが繰り出す。

 

それを紙一重で交わし、今度はシュバリヤがハイキック。

 

一進一退、お互いの気迫に満ちた一撃が何度も繰り返され、空を切る。

 

(あまり長引くと怪我をしているこっちが不利だ・・・せめて戦闘不能に追い込まなきゃな!)

 

勝負を決する為、ロックシードをソニックアローにセットし、強化された刃で斬りつける。

 

だが龍人・・・シュバリヤはそれを大鎌で受け止め、人を遥かに上回る膂力で弾きかえす。

 

だが、その瞬間にもうデュークⅡは次の行動に移っている。

 

ソニックアローからロックシードを外し、ベルトに再装填。

 

レバーを二回引き、今度は足にエネルギーを集中させる。

 

それを読んでいたのか、弾きかえすと同時にシュバリヤは距離をとり跳躍。

 

そのままエネルギーを集中させた飛び蹴りを放つ。

 

二人の異形が繰り出すキックが激突し、一種の力場のようなものを作り出す。

 

「くっ!」

「チィッ!」

力が均衡するもお互い一歩も譲らない。

 

「俺は負けない・・・負けてなんていられないんだよ!」

そう叫び、デュークⅡがさらにレバーを数回押し込む。

 

ロックシードから溢れ出た膨大なエネルギーは制御を離れ、暴走する。

 

その力は相手だけでなく十馬の中にも流れ込み、灼けるような痛みが全身を襲う。

 

「ぐっ!・・・がぁっ・・・!」

だが、歯を食いしばり、足にさらに力を込める。

 

「食らえぇ!」

 

そしてバランスが崩れ、あまりあるエネルギーは爆発を起こした。

 

 

 

煙が晴れ、中心部に人影が見えるようになる。

 

地に伏す影と、それを見下ろす影。

 

 

地に伏しているのは・・・ボロボロになった十馬だ。

 

「・・・くっ・・・そっ・・・」

「お前の負けだ。龍崎十馬」

 

そう言って、シュバリヤが十馬を踏みつける。

 

「がはっ・・・!」

「痛いか?怖いか?苦しいか?・・・あいつも、ダハーカも同じ思いをしていたはずだ!」

足に力を込めると、あばらが折れる音がした。

 

だがそれでもなお、十馬の眼は諦めてはいなかった。

 

「諦めの悪い愚か者め・・・」

そう言って、足元にあったベルトとロックシードを思いっきり蹴り飛ばす。

 

それらは勢いをつけ、そして遥か谷底へと消えていった。

 

それでも、十馬は諦めない。

 

上体を起こし、真正面からシュバリヤを睨みつける。

 

「終わりだ・・・龍崎十馬!」

そう叫び、上段に大鎌を構え振り下ろそうとする。

 

そんなシュバリヤに十馬は思いっきり皮肉を込めて言う。

 

「ああ、終わりだ・・・お前の負けでな!」

 

そして手に持っていた光の矢を思いっきり、無防備なシュバリヤの腹部に突き刺す。

 

「ぐぅっ!?貴様ぁ!」

「これで・・・駄目押しだ!」

 

そしてもう片方の手に隠し持っていた銃・・・葵に渡された新装備、無頼シューターを矢にあてがい、何度もトリガーを引く。

 

銃弾によって加速した矢はシュバリヤの外皮を突き破り、深々と突き刺さる。

 

 

そしてその衝撃でシュバリヤと十馬は共に後方に吹き飛ばされる。

 

「真奈!今だ!」

「っ・・・!開いてっ!」

 

そう叫び、真奈が前方に手をかざすとそこに人一人が通れるほどのクラックが出現する。

 

 

「帰ろう!二人で!」

「・・・うんっ!」

 

そして二人は共にクラックへと飛び込む。

 

 

信じる仲間が、家族が、待つ世界へと。

 

 

ーーーーー

 

 

ヨルムンガルドの司令室でクラックの反応を探していた葵はモニターに表示された次元の揺らぎを見逃さなかった。

 

「っ!見つけたっ!」

 

そして耳につけたインカムを一番近くにいる貴虎に繋ぐ。

 

「もしもし貴虎!?クラックが発生した!座標はそっちに転送したから大至急向かって!」

と大声で指示を飛ばし、息を吐く。

 

そしてホッとした表情で天井を仰ぐ。

 

「やれやれ・・・心配させないでくれよ・・・」

 

その顔には、安堵の笑みが浮かんでいた。

 

 

ーーーーー

 

 

沢芽市郊外のとある空き地に十馬と真奈は倒れていた。

 

「・・・うう・・・ここは?」

と先に目を覚ました真奈が辺りを見渡す。

 

するとここが見覚えのある場所だという事がわかる。

 

「・・・ここって、あの日の・・・」

 

建物は取り壊され、広々とした空き地になっているがここは10年前に真奈と十馬があの森に迷い込んだ場所だった。

 

「帰って・・・これたんだ」

懐かしさに思わず泣いてしまいそうになるが、隣に倒れている十馬に気づき、慌ててゆり起こそうとする。

 

何度揺すっても起きないので呼吸を確かめるため、自分の膝の上に彼の頭を乗せて耳を近づける。

 

 

するとスヤスヤという寝息が聞こえてきた。

 

あまりの呑気さに苦笑してしまう。

 

そして彼の頭に手を置き、撫でながら呟く。

 

「ありがとうね・・・私のために今まで頑張ってくれて・・・これからは、私も一緒に背負うから。君の大事なものも、全部」

 

 

 

 

その後、貴虎の到着と同時に目を覚ました十馬は真奈の事を説明し、すぐさま医務室に運ばれた。

 

その時の顔は、傷だらけの泥まみれで滑稽だったけれど。

 

誰よりも、輝いて、かっこよかった。

 

 

 

 

 

 

 




はい!というわけで第13話でしたがいかがだったでしょうか。
自分にしては戦闘シーン頑張って…みたつもりです(汗)
見た目じゃなく中身が大事。わかっていても難しいものです。

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