仮面ライダー鎧武 新章 〜幻獣の樹海〜 作:ダイタイ丸(改)
クーリース―マスキャロルが―♪
ダハーカを撃破した一週間後ーーーーー
十馬は一人、自宅の部屋で寝ていた。
布団を蹴り、すやすやと眠る姿は実年齢より1、2歳は幼く見える。
「う〜ん」と寝返りを打つと衣服がはだけ、その下・・・包帯に覆われた、痛々しい肌が露わになる。
ダハーカとの戦いで辛くも勝利をもぎ取った十馬だったが、その代償は大きかった。
特に最後の必殺技同士の衝突の際、変身解除してしまった十馬は全身をエネルギー波に殴打され、かなりのダメージを負った。
そして全身打撲の状態になった十馬は貴虎に休むようキツく言われ、こうして自宅で寝ているのである。
「んん〜・・・」
と寝返りをもう一度打つと、足がベットの横の棚にガン!とぶつかる
そして棚が揺れ、上にあった地球儀が腹の上に落下してくる。
「ぐふっ!?」
腹部に母なる星の衝撃を受け、十馬は起きた。
「いたた・・・なんだって朝から地球儀にダイレクトアタックされんだよ・・・レボリューションすんぞこのやろー」
などとわけわからんことを呟きながら地球儀を横に置き、腹をさすりながら起き上がる。
そして顔を洗い、寝癖を整えるためシャワーを浴び、適当に服を見繕ってテレビをつける。
「はぁ・・・休んでろって言われてもなぁ・・・まぁ、まだ全身痛いんだけどさ・・・」
とニュースを見ながら呟く。
ニュースではこの間のビジネス街が立ち入り禁止になると報道している。
本来なら沢芽市全体が封鎖されてもおかしくないのだが余計な混乱を招くとの判断で警戒を呼びかけるにとどめているそうだ。
「学校もいっそ閉鎖してくんねぇかな・・・このままだと真面目に卒業できないんだけど」
そう呑気にボヤいていると、ピーンポーンとインターホンが鳴った。
「ん?郵便か?」
応対するために玄関までまだ痛みの残るお腹をさすり、ノタノタ歩いてドアを開ける。
すると目の前に綺麗な銀髪が見えたと思った次の瞬間、先ほど地球儀がアタックした箇所に少女がタックルしてくる。
「とーうーまー!」
「グハァッ!?敵襲!?」
再びの衝撃に悶絶しつつも抱きついてくる少女、イリスを引き剥がす。
「むー、敵襲とはなんですか!お見舞いに来てあげたのに!」
「おう、ただ正直ここ何日かで一番重い一撃だった・・・」
と頰を膨らますイリスの前で腹を抱えてうずくまる俺。
「だ、大丈夫ですか十馬!?ま、まだ助かる?」
「そのフリはやめい!」
と盛大にご近所迷惑しながらイリスを家に入れるのだった。
「とりあえず麦茶でも飲むか?お菓子はあいにくないけど」
「あ、別に気にしないでください・・・あの、それより話があって・・・」
といつになく歯切れの悪い様子でイリスが俺に座るよう手で促してくる。
促されるまま正面に座るとこちらの目を見て、イリスが口を開く。
「・・・この間は本当にごめんなさい。私のせいで十馬に怪我をさせてしまって・・・ずっと謝ろうと思ってたんですけど・・・」
そしてとてもすまなそうに頭を下げる。
そんなイリスに一瞬驚いたあと、彼女の頭に手を置き、答える。
「・・・いや、謝らなきゃいけないのは俺の方だ。俺がもう少しお前らのことを考えてやればよかったんだ・・・責任は俺にある」
「で、でも!」
と慌てて否定しようとするイリスを遮り、言葉を続ける。
「お前が悪いわけじゃない・・・それにさ、嬉しかったんだ。あんなことに巻き込まれても相変わらず接してくれるのが。だから・・・巻き込んでごめん。それと、ありがとう」
そしてイリスの手を握り、微笑んでみせる。
「・・・はい!十馬がそう言うなら!」
とイリスも嬉しそうに笑い、手をブンブン振る。
その仕草にハハハと苦笑しているとイリスが「あ!」と何かを思い出したように玄関の方へ走っていく
そして表に置いておいたのか、手提げ袋を持って戻って来る。
「ん?なんだそれ?」
「今日は十馬のお見舞いのつもりで来たので。というわけでジャーン!今からホットケーキを作りまーす!」
と中から卵や牛乳等ホットケーキの材料をイリスが取り出す。
「前に好きだって言ってましたし、卵も安かったですから!・・・ってなんですかその嫌そうな顔」
可愛らしく小首を傾げるイリスに俺は湿った視線を注ぐ。
「いや、お前さ。自分の実力わかってる?唐揚げケーキとかフルーツシチューとか山ほど前科あるけど」
「し、失礼な!新たな味の探求です!ふりかけカレーは美味しかったでしょう!?」
「おう、レトルトだしな。ご飯は水多くておかゆ状態だったけど」
「むむむ〜!見ててください!絶対美味しいって言わせてみせますから!」
と頬を膨らませ、エプロン姿になったイリスが台所に立つ。
「えーと、まずはボウルと泡立て器を用意して・・・」
「おう、がんばれ。あと皿は割るな」
「そ、それはもちろ・・・キャァ!」
とボウルを取ろうとしていた時に振り向いたため、ボウルの下にあった皿が落下し、ガシャーンと盛大な音と共に木っ端微塵になる。
「ご、ごめんなさい!怪我してないですか?」
「俺は大丈夫だけどお前は?」
「だ、大丈夫です・・・本当にごめんなさい」
と申し訳なさそうに謝るイリス・・・まぁもう慣れたもんだけどさ。
「はぁ・・・よし!俺も手伝ってやる!」
それを見かねて腕まくりをし、台所(皿の破片はもう処理済みだ)に入る。
「え?で、でも十馬はまだ怪我人ですし・・・」
「いいから。それに二人で作る方が俺も暇しないし美味しくできるだろ?」
な?とイリスに提案する。
「・・・わかりました。十馬がそれでいいのでしたら。美味しくできるという点には全力で異議を申し立てたいですが」
「その自信はどっから湧いてくるんだよ・・・まぁいいや。一緒に作ろうぜ」
かくして、俺とイリスはホットケーキ作りを始めたのだった。
ーーーーー
十馬がイリスの炭化ホットケーキに悶絶している頃、葵は自室でパソコンを操作していた。
「さて、次のロックシードは何にしようかな〜」
そう言いながら眺めるその画面には幾つもの新しいロックシードのアイデアが映し出されている。
「てかアレを調べるのが先か。よし、じゃあ・・・」
とキーボードを素早く叩き、作業に完全に没頭している。
「珍しく積極的に仕事をしてるじゃないか、葵」
そんな葵にいつの間にか部屋に入ってきていた貴虎が苦笑しながら言う。
「・・・貴虎、人の部屋に入るときはノックくらいしてよ。それが人間のルールだよ?」
「お前はいちいち大げさだ・・・ところで葵、例の新装備はどうなっている?」
貴虎が尋ねると、葵がデスクの下からアタッシュケースを取り出し、開く。
その中には無双セイバーから刀身を無くしたような形をした銃が二丁入っていた。
「開発コードUNW-01・・・戦極凌馬風に名付けるなら『無頼シューター』といったところかな?」
おどけたように肩をすくめ、葵が貴虎にアタッシュを渡す。
「はい、レベル設定もちゃーんとしてあるから博士たちの護身用にね」
「確かレベル1で民間人でも使える牽制程度の威力、レベル2で軍用、レベル3でアームズウエポンと同等だったか」
「うん、生身でもインベスと戦えるようになるから応用次第でかなりの兵器になるよ」
自慢げに葵が解説する。
「ここ最近、不自然な次元の揺らぎが観測されている・・・お前も、注意しろよ」
「気になるよねぇ。ま、過去にも弱い揺らぎが観測されたりしてることもあるからシステムの不備かもしれないけど」
と、あまり歯牙にかけていない様子の葵とは対照的に貴虎の表情は険しいままだ。
「・・・それでは私はこれを星崎博士に届けに行くが、お前はどうする?」
「ん?僕はやることがあるんだ。それが終わったらアレを調整して次のロックシードを作る。あと、寝る」
「・・・わかった、ほどほどにな」
と半目で葵を見てから、貴虎は研究室を後にした。
ーーーーー
貴虎が退室してからしばらくした頃、葵はディスプレイを眺めながら黙考していた。
「10年前に起きた行方不明事件、龍崎十馬の優れた戦闘能力と並々ならぬ覚悟、そして小規模ではあるが断続的に起こっていた次元の揺らぎ・・・これらが全て繋がっているとしたら・・・?」
独り言を呟きながら考えるその姿はいつになく真剣だ。
「・・・まぁ、こういう詮索とかは好きじゃないから、詳しくは本人にだね」
と、十馬を呼び出すべく、携帯を取り出したその瞬間。
視界が、天井からのランプの光で真っ赤に染まった。
「な!これは!!」
葵が驚くのも無理はない。
この部屋も含め、ヨルムンガルドの地下施設中に取り付けられた非常用ランプは色でレベル分けがなされている。
緑のランプは不測事態による注意喚起、黄色のランプはクラック出現とそれに伴うインベスの被害警告。
そして赤のランプは、全戦力を持ってして当たらなければならない緊急事態である。
「・・・総力戦?でもオーバーロード出現時も区分はイエローだったし、一体何が・・・」
とそこまで言いかけて、頭の中にある可能性が浮かぶ。
「まさか、ここ一週間の不自然な揺らぎはこのためのもの!?クッ!なかなかしたたかじゃないか、オーバーロード君達!」
そして状況を確認するべく、葵は司令室へと急いだ。
ーーーーー
そのころ、貴虎は星崎がいるビルに向かうため、車で再開発地区を走っていた。
この地域はかつてヘルヘイムの侵攻時にひどく破壊された。
復興開始当初は再建する予定だったのだが住民たちが他の地域への移住をしたため再建は中止。
そのため、半壊した建物の並ぶゴーストタウンのような有様になっている。
崩落の危険があるため立ち入り禁止であるこの区域を通行できるのは復興局上層部の特権だ。
まぁ普通に職権乱用であるが近道なのでいつも使っている。
「無頼シューターか・・・たしかにアイツがつけそうな名前だ」
と、運転しながら新兵器の名を反芻してみる。
そういえば、彼・・・戦極凌馬はネーミングセンスも常人とは違っていた気がする。
自身が製作したことを誇示するかのように最初のドライバーに『戦極』の名をつけたり、ロックシードのアームズを呼び出す音声も妙に奇天烈だったりといった具合にだ。
だが、自分が使うことになったメロンロックシードの音声は『天下御免』と割とまともだったと思う。
今思えば、あれは凌馬なりのメッセージだったのだろうか。
共に何者も寄せ付けない天下のその先へ・・・神の領域へと行こう、というメッセージ。
しかし、貴虎はそれを拒んだ。
だが、それでよかったと貴虎は思っている。
おかげで自分の弱さ、未熟さ、至らなさに気付けたのだから。
「フッ、こんなことを思うようになるとは私も変わったものだ」
そう言って、十字路を曲がったその時。
目の端に、異常なものが映った。
「・・・?あれは、まさか!」
と急いで車を急停止し、ハザードランプをきっちり出して車を降りる。
そして、先ほど曲がった十字路の正面の通りに立ち、視線を目の前の半壊したビルに向ける。
そこには、ほぼ完全に開きかけた直径12メートル程はあろうかという巨大なクラックが出現していた。
「な・・・これは・・・」
と驚愕のあまり立ち尽くすことしかできない。
これまで確認されたクラックは自然発生のもので最大4メートルほど。
人為的に開いたままにしてあったユグドラシルの地下にあったクラックですら5メートルだ。
それの倍以上はあろうかという前例を見ない巨大なクラック。
「しかもまだ完全に開いてはいない・・・だがなぜインベスがいない?そもそも、なぜ観測システムは気づけなかったのだ・・?」
とそこまで言って、葵と交わした会話を思い出す。
「まさか、ここ一週間の揺らぎはこれを開くためのものだったのか!?」
と言ったまさにそのタイミングでクラックが完全に開ききり、その余波が放たれる。
「クッ!とにかく、本部に戻るのが先決だな」
そしてポケットから小型の通信カメラを取り出し、クラックが見えるギリギリの位置に設置する。
そして車に戻ると、充電していた携帯がアラーム音と共に葵からのメッセージを受信したことを知らせる。
それを一瞥し、貴虎はアクセルを踏み込んだ。
ーーーーー
そして時を置かずして、全アーマードライダーにこの巨大クラックの情報が伝えられることとなる。
ある者はかつての仲間と談笑していた時に。
ある者は兄の負担を減らすため、現状戦力の分析中に。
ある者は師と特訓をしている時に。
ある者は仲間とのダンスの練習中に
ある者は間借りした社宅で荷物を整理している際に。
ある者は仕事のためにビル内を移動中に。
ある者は仲間の作った炭料理にチャレンジしている際に。
そして、誰もが思った。
今までにない、激戦になると。
ーーーーー
それから約30分後、ヨルムンガルドの司令室には、十馬、紘太、光実、貴虎、葵、城ノ内、凰蓮、ザック、昴の主要メンバーが集まっていた。
「皆、それぞれ情報が入ったと思うが沢芽市東にある再開発地区に巨大なクラックが出現した」
貴虎が言うと同時にモニターに先ほど貴虎が目撃した巨大クラックが映し出される。
「ちなみにこれはリアルタイム映像。さて、この違和感に気付ける人〜」
のほほんとした様子で葵が皆に聞く。
だがその目は真剣そのもので事態が決して軽いものではないことを物語っている。
「違和感?・・・あ!インベスが出現してないことか!?」
「ピンポーン!ザックくん正解!何故かクラックが開いているのにインベスが出てきてないんだよね」
とザックの方を向いて腕で大きな丸を作る。
「少しは緊張感を持て・・・さて、話を戻すが何故インベスが出現していないかについてだが、葵」
「ほいほい、じゃあこれを見て」
と促された葵が手元を操作すると先ほどのクラックの画像と波のようなグラフ、そしてサーモグラフィーのような図が映し出される。
「まず、この図を見て欲しいんだけど。これはクラックをスキャンしてエネルギーの流れを視覚化したものなんだ。で、これを見るとクラック全体に謎のエネルギーが観測される」
とサーモグラフィーのような図がアップで映り、細かいデータが表示される。
「で、それが何?」
「つまり、なんらかの結界のようなものが張られている可能性があるということだ」
と城乃内の問いかけに貴虎が答える。
「でも、何故オーバーロードは結界をわざわざ張ってインベスを出さないようにしているのかしら?」
「確かに、それじゃあクラックを開いた意味が無いはずです」
と皆で考え込む。
「もしかして、奴らはインベスを一度に呼び出したいんじゃねぇかな?」
と紘太がふと、思いついたように言う。
「・・・そうか!一度に大量のインベスを呼び出して物量で攻めるつもりなのかも!」
「あれ?でもオーバーロードなら任意の場所にクラック開けるはずだろ?なら、インベスがいる場所を狙って大量にクラックを開ければ事足りるんじゃねぇか?」
「確かに・・・じゃあ何が目的で」
うーんと再び考え出す一同。
「・・・もしかしたら彼らはクラックを”自由”に開くことはできないのかもしれない」
と葵がふと、呟く。
「何?どういうことだ葵?」
「彼らの力には制限があって、連続してクラックを開いたり一度に沢山のクラックを開いたりはできないんじゃないかってこと。これならここ一週間はこのクラックを徐々に開いていくための期間だったと予想できるし」
「なるほど・・・ここの観測システムは一定以上の揺らぎがなければクラックだと判断できない。そこを突かれる形となったわけか」
と葵が述べた仮説に貴虎が納得したように言う。
「葛葉、お前の意見を聞かせてくれ。実際のところ、そういう可能性はあるのか?」
「ニヴルヘイムの植物は俺たちには制御できなかった。ヘルヘイムとは勝手が違うってことになるからありえなくもないんじゃないか?」
と紘太が言い、皆もそれで一応納得したようだ。
「さて、それじゃあそろそろ対策の方に話を移そうか。と、その前に十馬君」
と葵が今まで一言も発していなかった十馬に視線を向ける。
「・・・何だよ?」
「今回、君の役割は初めから決まっている。君は後衛だ。対オーバーロード用の戦力として君と昴君には力を温存しておいてもらう」
「・・・断る。高みの見物なんて俺は嫌だからな」
そう言って、逃げるように司令室を出て行こうとする十馬。
そんな彼に向かって、葵は投げかける。
「君は、あのクラックからニヴルヘイムの樹海へと向かうつもりだね?」
その言葉に一同が騒然となる。
「な!なんだってー!」
「どっかで聞いたようなボキャブラリーはやめなさい坊や!ていうかシトロンの坊や、あなた正気!?」
「何でそんな無茶をしようとするんだよ!?十馬!」
十馬は何も答えようとしない。
そんな彼に周囲を黙らせた貴虎が語りかける。
「・・・十馬」
とそこまで言いかけて言葉を止める。
それは今の十馬が、かつての弟と重なってしまったからだ。
全てを一人で抱え込み、一度は一線を越えた弟。
それはきっと、貴虎が『自分の中にある人間らしい弱さ』を見せずに、強い兄であろうとしたからではなかったか。
それが劣等感を生み、信頼を捨て、善と悪の境界線を見えなくさせてしまったのではないだろうか。
なら、もしも今あのときの光実に自分が何か言えるとしたら。
何を言うべきか、意を決し貴虎は口を開く。
「私は、ずっとお前を巻き込んでしまったことに罪悪感を感じていたのかもしれない・・・だが、お前がもし望んで戦うというなら、私はお前の助けになる。それが私の責任であり、私の意思だ。だから十馬、訳を話してはくれないか?」
それでもなお、十馬は黙り込んだままだ。
それを見かねた葵が一言、呟く。
「・・・10年前に沢芽市で起こった行方不明事件」
「っ!」
とその言葉を聞いた瞬間、十馬の目に動揺が浮かぶ。
「やはり、関係していたんだね。さぁ、どうする?僕のはあくまで仮説止まりだけどなかなか的を射ていると思う。・・・できれば、こんな形で皆に知らせたくはない。君自身の口から言わないというなら、僕が代わりに話そう」
と提案する葵を睨んでから、十馬が観念したように息を吐く。
「わかった、話すよ・・・俺の戦いが、全てが始まった10年前のあの日の出来事を」
〜To be continue〜
以上、第11話になります。
ガンダムにどハマりしましたごめんなさい。
00二周しましたごめんなさい。
これが世界の歪みです……締め切りという名の。