ハイスクールD×D 勇者の絆を持つ神の子が往く 作:始まりの0
~零と一誠のいる空間~
零は何処から出したのか分からないが、大きなソファーに腰掛けている。
(一先ずは元の鞘に収まったかな………)
意識の半分を朱乃達に向けて様子を見ている。その様子を見て、笑みを浮かべている。
「なぁ、レイ」
隣の椅子に座っている一誠が零に話し掛けた。
「なんだ?」
「さっき、人を甦らせるのは世界の理を変える為に凄い代償が必要だって言ってたよな?」
「あぁ、神々ですらもそう簡単には行えない程のな」
「ならレイは何で、朱乃さんの為にそんな事をしたんだ?」
「不思議か?」
「あっ……あぁ、お前が朱乃さんやギャスパーに妙に肩入れしてるけど」
「あぁ……俺も半分は人間だ。人間の捨て子だった俺を拾い育ててくれたのが母様。それで死にかけた事があってな、色々と制約があって俺を助けられなかった」
「はぁ!?」
一誠は驚きの声を上げる。なら何故、零は此処にいるのだろうと考えたのだ。
「母様は俺を助ける為に、俺を魂と肉体に分離させて自分の中で再び1つにして俺を腹に宿し、本当の子にした。だから他の神からすれば穢れた存在だ………【忌み子】【神を堕落させた者】【穢れた子供】【化物】その他にも色々と言われたよ。時には石を投げられ、剣を向けられ、暗殺されかけた事もあったな」
零は指を何もない空間に向けると、そこに零の話す光景が映し出される。
「でもなんで……そんな、子供を」
一誠にはそれが理解できなかった。例えどんな生まれとは言え、子供を蔑むだけでなく殺そうとするなど通常は考えられない事だったからだ。
「……姫島家にとって、直系である姫島朱璃が堕ちた天使であるバラキエルの子供を産むと言う事は、家そのものが穢れるという考えだ。だからこそ姫島朱乃を始末しようとした。その様な輩だ………俺の場合も同じだ、俺自身が穢れであり、俺が消えれば母様が浄化され、元に戻ると考えたんだろうさ…………一誠、そんな俺達はどうなると思う?」
「どうなるって………」
一誠はそう言われ、考えてみるが思いつかない。
「道は2つ、誰かに支えられ自分の道を往く。もしくは壊れて総てを壊そうとする。前にも言ったが、混血の力は特異で凄まじい物だ。物によってはそれこそ世界をぶち殺す事だってできるだろうさ、実際俺だって母様や叔父上、姉上がいなかったら………目の前にあるもの全部壊してただろうな、例えばそうなった俺が此処に居たら…………お前は今頃ミンチになってるかもな」
一誠はそれを聞くと、顔を引き攣らせ若干その身を退いた。零はしない、しないと手を振る。
「俺には母様達がいた………でも姫島朱乃やギャスパーには本当の意味で支え、愛してくれる存在が居なかった。まぁ正確にはいたが、近くにいれなかっただがな。だから俺が会わせただけ………俺は一度堕ちた、彼女達にはそうなって欲しくないだけだ」
「えっ……それってどういう」
「おっ…………来たか」
零がそう言い、立ち上がると目の前の空間が割れ、そこから朱乃達が出て来た。
「そっちの時間で1週間、家族でゆっくり過ごせましたか?」
「はい、お蔭様で」
朱璃に話しかけ、彼女は笑みを浮かべそう答えた。零はそれを受けると「良かった」と呟き、目を細める。
「1週間?でも俺等が此処にいたのは数時間じゃないか」
「此処と向こうと時間の流れが違う………こっちでの数時間は、姫島朱乃のいた空間では1週間だ。まぁ色々と在るんだよ………さて、そろそろ時間ですね」
一誠の言葉に零がそう答えると、朱璃の身体が薄くなっていく。もう朱璃が此処に居れる時間がないと言う事だろう。
「えぇ……貴方様のお蔭で、娘と夫に想いを伝える事が出来ました。本当になんと感謝すればいいか」
「いやいや気が向いただけですよ………では道を開きます」
零がそう言い、扇子を取り出し何も無い空間に向けると無数の髑髏で形成された門が現れた。
「なっなんだ、この門は?!すっげぇ怖い……」
「何かこう……本能的な恐怖を感じますわね」
一誠と朱乃がそう呟いた。
「そりゃそうだ、これは冥府へ続く門だ。つまりは【死】の象徴とも言えるもんだ。生きている奴にとって本能的に恐怖するのは当然だ……俺や既に死んでいる朱璃殿にとってはなんら問題ないがな」
「でもレイだって、生きてるだろ?」
「俺だから問題ない」
「えっ何それ?」
「さて、それはさて置いて……そろそろ刻限です」
零は一誠を置いて、朱璃の方に目を向けた。
「レイ、朱乃さんの御母さんって生き返ったんじゃないのかよ?!」
「一時的にな……本当に蘇らせる方法はあるが、【今の】俺には使えない。姫島朱乃とバラキエルには朱璃殿の言葉が必要だったから、一時的に蘇らせただけだ」
「えっそうなのか……でもレイなら生き返らせるんなら何とかなんないのか?!折角会えたのにこんな別れなんて…」
一誠は自分の事の様に悔しそうな顔をしている。
「いいえ、いいんです。私は死者……在るべき場所に還るのは必然な事ですわ。貴方が一誠くんですね?」
朱璃はそう言うと、一誠へと近付き、ジッとその顔を見つめている。
「えっ……えっと」
「フムフム……流石、私の娘。男を見る眼はあるようね」
「そうでしょう、お母さま」
朱乃と朱璃の言葉が全く分からない一誠。
「一誠くん」
「はっはい!」
「貴方の事は娘から色々と話は聞いてます。朱乃の事をお願いね。あの子、あぁ見えて弱い所もあるから……親の欲目から見てもかなり美人だし、料理も上手い、他の家事もできる………貴方の大好きな胸も結構大きいわ」
「はっはい!朱乃さんのおっぱいは最高です!とても柔かかったです!」
『ゴゴゴゴゴゴゴッ』←?
「だっ大丈夫です!御母さん!朱乃さんは俺が守ってみせます!」
「フフフ、貴方の様に、誰かの為に喜べて、悲しめる人なら娘を安心して任せられます。これからも娘を頼みますね」
「はい!!!」
『ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!』←?
「じゃあ、アナタ、朱乃……私は本来居るべき場所に戻ります、でも何時でも私は2人を見守っていますから」
「はい」
「あぁ」
朱乃とバラキエルは涙を流す事なく、朱璃を笑顔で見送る。既に話は終わっている、伝えるべき事も伝えれた、2人とも触れ合えた、成長した娘と愛した夫も仲直りできた、故に朱璃も別れに涙を流す事なく笑顔で逝ける。
朱璃はゆっくりと冥府へ続く門へと歩を進める。それに呼応する様に、門は開く。その先には坂がある……この坂こそ「黄泉平坂」と呼ばれる黄泉への道だ。
朱璃が門を潜ると、ギギギッと音をたてて門は閉まっていく。そして完全に門は閉じ、門自体もその場から消滅した。
「ふぅ………逝かれたか」
「天王理くん」
零は朱乃に声を掛けられた。
「何かな?」
「母と再び言葉を交わせたのも、父さまと仲直りできたのも貴方のお蔭です。本当になんと感謝すればいいか」
「私からも礼を言わせて欲しい」
朱乃とバラキエルは零に礼を言った。感謝してもしきれないだろう。
「俺は俺のしたい事をしただけだ……姫島朱乃、絶望にだけは墜ちないでくれよ。堕ちればそこから這い上がるのは容易な事ではないからね………さてと」
『パチッ』
零は朱乃にそう言うと、指を鳴らした。すると周りが元の兵藤家の和室へと戻った。
「俺はオーフィス達を愛でるのに忙しいので帰る。後、結界での時間とこっちでの時間の流れは違ってる、こっちでは数分しか経ってないから安心しな。爺は俺が連れて帰るから、ごゆっくり」
零はそう言うと、襖を開けて出ていく。一誠達も続いて出ていき、時計を見てみると本当に数分しか経ってないのに驚いていた。
「おらっ帰るぞ、爺。じゃあな、一誠。生きてたらまた会おう」
零はそう言言いながら大きなタンコブが出来ているオーディンを肩に担ぐと、その場から消えた。そしてこの時、零が麻婆神父の様な顔をしていた事は誰も知らない。
「えっ?生きてたらって……変な事言うな、アイツ」
「さて赤龍帝」
一誠はバラキエルに声を掛けられ振り返ろうとした時、殺気を感じその場から飛び退いた。その後、直ぐに一誠の立っていた場所に光の槍が突き刺さっていた。
「いっ一体、何をするんですか、お父さん!?」
「誰がお義父さんだぁ!?貴様にお義父さんなんて呼ばれる筋合いはない!私は認めんぞ!!!しかも嫁入り前の娘の胸を揉んだだと!?」
完全にキレているバラキエル。先程から『ゴゴゴゴゴゴゴッ』と言う音はバラキエルの殺気と魔力の様だ。彼が怒っている理由は凄く簡単だ。
先の戦いでロキと一誠達は三大勢力の中でも有名な存在となった。「乳を揉んでパワーアップ」「突いて更なる覚醒」等々の活躍を見せた一誠、バラキエルの耳にもその話は入ってきていた。その様な男に惚れている朱乃……そんな男を娘に近付けたくないのは父親としては当然の反応だろう。それに加え、朱乃の胸を触った事を自白した一誠に対して怒りを向けたのは必然なのだろう。
零はそれを察していたため、「生きていたらまた会おう」と言った。
「朱乃が欲しいなら私を倒してからにしろ!!!」
「ちょっと待って……朱乃さん!助けて!?」
「一誠くん……信じてますわ、お父さまに勝ってくれるって」
「でぇぇぇぇ!?」
「朱乃の乳を揉んでパワーアップ?!突いて禁手化だと!?嫁入り前の娘をよくも汚してくれたな!!!此処で殺「一誠くんに何か在ったら、絶縁します」………半殺しくらいにしておく」
朱乃に言われて、少し考えそう言い直したバラキエル。
はてさて……一誠は生き残れるのだろうか?それはまさに神のみ……悪魔なので魔王のみぞ知ると言う所だろう。