Fate/magic bullet   作:冬沢 紬

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(落ち着け、こういう時こそ冷静になるんだ俺……)

 

 目の前には迫るバーサーカー。周囲からの援護は期待できそうに無い。そして、動かない体。

 

 まだ頭がグラグラする。こんなんじゃ、まともに思考できようも無い。

 

 なら。考えなくても出来ることをすればいい。そう、それは単純な話。

 

(これでもっ! 喰らえ!)

 

 周囲に突風が吹き荒れる。突如として生じた恐ろしいほどの圧力に、距離をとっていた周囲のギャラリーは顔を覆う。

 

 そしてその収束した衝撃を受けた対象、つまりはバーサーカーはどうなったか。無論、吹き飛ぶ。

 

 残りの魔力を半分ほど使って俺がやったのは、純粋な魔力を放出すること。恐ろしく燃費が悪いが、威力はバーサーカーを吹き飛ばしたことからも折り紙つきだ。

 

 ガシャンガシャンッと鎧の音を響かせ転がるバーサーカー。それを見ながら、何とか俺は立ち上がった。しかし、俺の心中は屈辱でいっぱいだった。自身の油断が招いたと言う事実が、さらに俺を苛立たせる。

 

「こ……の……っ! やって、くれましたわね! このわたくしを、地に這い蹲らせるなどと! 逃がしはしませんわ!」

 

 そう言うも、まだ俺の足はふらついている。その時、誰かの声が響く。ねとつくような、不愉快な、声。

 

「何をしているランサー、バーサーカーと共闘してさっさとキャスターを倒してしまえ!」

 

「!?」

 

 やられた……このままいけば、俺の脱落は確定的だ……。だが、だが、ランサーならば……!

 

「ですが、我が主よ! この二人は決闘の最中です! そこに横槍を入れるなどとは……」

 

 ここまでは予想通りだ。おそらく他のサーヴァントも動くまい。これで……勝機は見えてきた!

 

 しかし、響くは無情な声。

 

「令呪を以って命ずる。バーサーカーを援護し、キャスターを討滅せよ」

 

「ッ!」

 

「主よ!」

 

(やられた……!)

 

 そうだ、サーヴァントがそうでも、マスターもまたそうとは限らないのだ……。

 

「許せ……キャスター……」

 

 その言葉と同時に飛び掛ってくるランサー。鋭い刺突が俺を襲う。が、その槍筋は素直。だが、こちらは他のサーヴァントのように鎧で体を覆っているわけではないので、それで受けるわけには行かない。仕方無しに、短槍で受けた瞬間だった。武器が砕け散ったのは。

 

「なっ!?」

 

 いや、砕け散ったと言うのは語弊があるだろう。正確に言おう。解けたと。強固に二重三重の魔力結合で構成されているはずの氷の槍が、間単にその構成を崩され、ただの水へと還っていく……。

 

「呆っとしている場合ではないぞ!」

 

 ランサーの言葉に、意識が返った。無様な転移で距離をとる。俺は急ぎデリヴランスを握り締め、構える。一瞬で六連射。しかし、それは弾かれかわされ、一発たりともランサーには届かない。

 

「くっ! ……やはり!」

 

 ハンドガンを構えたまま、数瞬にらみ合う。あの槍に触れた瞬間魔力結合が崩壊した……。つまり、あの槍には何らかの仕掛けがあるということ……。それを打破するには。

 

 俺はデリヴランスのシリンダーをスイングアウトさせると、そこに新たに六つの魔法を込めた。

 

 これで……これなら……。

 

 カキン、とシリンダーを戻し、再び構える。律儀にも二人は待っていてくれたようだ。

 

「……これは、わたくしでは制御できませんの。覚悟はよくて?」

 

 切り札を一つ晒す。しかし、これも生き残るためならば致し方なし。緊迫していく空気。極限まで引き絞った弓弦のような空間の中、対峙するは3人。しかし、俺の助けはやはり、というかコイツから発せられた。

 

「あいや、待たれい!」

 

 その弦を引きちぎるような大音声がチャリオットの上から発せられた。

 

「ランサーのマスターよ、どこぞにコソコソ隠れているのかしらんが……これ以上戦いを続けると言うならば余はキャスターに加勢する。下らん根性で一対一の決闘を汚すでない!」

 

 セイバーも一歩前に出る。

 

「私も……これ以上神聖な決闘の場を邪魔立てするというのであれば。キャスターに加担せざるを得ない。……すみません、アイリスフィール」

 

 俺の鋭敏な知覚により、ランサーのマスターが歯ぎしりするのが聞こえた。そして、やむなしと言った声が響く。

 

「……撤退しろ、ランサー。今宵はここまでとする」

 

「……征服王よ、感謝を」

 

 ランサーはその声に従い、消え去る。

 

「それでどうする? バーサーカーよ」

 

 答えとばかりに、バーサーカーはくるりと振り返り、歩き去っていく。そのままそいつ雲散霧消した。黒い霧となり……。

 

 俺は安堵と共に、念話で龍之介に伝える。

 

『撤退ですわ。まずは工房に戻りましょう……』

 

 そして、別れの言葉を告げる。

 

「次に会い見えるときは……必ず潰して見せますわ……。相応の準備をして、ね……」

 

 俺は龍之介の場所まで転移し、彼を連れて根城へと戻った。

 


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