Fate/magic bullet   作:冬沢 紬

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「知りませんわ。どこのどなたですの? 最も古い由緒正しき血統の前で王を名乗る田舎者は」

 

 言い終わらないうちに、その金ぴか鎧は雰囲気をまた変えた。チラリと一瞥し、一言。

 

「そうか。死んでおけ」

 

 俺に向かい、黄金の奔流が射出される――

 

 このままだと、俺は間違いなく死ぬ。しかし、俺には、これがある。どのサーヴァントにもない、武器が。俺には筋力も無ければ耐久もない。精々敏捷がそこそこなのと宝具がマシな程度だ。だが、一つぬきんでたものがある。それは、魔力。俺はその魔力を7割放出した。戯れの一撃とはいえ、その力は強大。俺は片腕を突出し、唱えた。

 

「facmnectimsoliyofs」

 

 次の瞬間、俺の張った魔導障壁に次々と金ぴか鎧の宝具が着弾していく。すさまじい光の中、俺の右腕がミシミシと嫌な音を立てる。

 

(セイバーをはるかに上回る俺の魔力を以てしても、これほど……!)

 

 俺は、戦慄した。これがまさか奥の手ではないだろう。しかも、何の気なしに放った一撃である。

 

 ようやく光の奔流が止み、そこには無傷の俺が立っている。俺は何とかしのぎ切った一撃を、さも当然と言う風に優雅に構えてみせる。

 

 セイバーは息をのみ、その後ろの白い女は「うそ……」と小さく漏らし、ランサーは視線を鋭くし、ライダーは「ほう……!」と感心のため息をつく。金ぴか鎧は、まなじりを吊り上げ、烈火の形相である。

 

「そうか……よほど惨たらしく死にたいらしいな、小娘……!」

 

 そう言うと、金ぴか鎧の背後からは、先ほどの倍以上の武具が現出する。

 

(これは……。さすがに、ヤバイかね……)

 

 今度も真正面から受け止めてやろうと金ぴか鎧に相対したところで、異変が起きた。俺と金ぴか鎧の間に、何か黒い渦が発生したのだ。すわ、金ぴか鎧の攻撃か、と構える俺だったが、それは杞憂に終わった。いや。金ぴか鎧の攻撃であれば、どれだけよかったか。

 

 その渦巻く闇は、徐々に人型を為し、唸り声を上げた。

 

「GUAAAAAAAAAAA!」

 

 セイバーが叫んだ。

 

「バーサーカーか!?」

 

 俺はあきれたような目をライダーに向ける。

 

「あの御仁は誘いませんこと?」

 

 それにライダーは首をすくめて答えた。

 

「ありゃあ……交渉の余地があるように見えるか?」

 

「見えませんわね」

 

「なら言うな……」

 

 その間にも、状況は動く。バーサーカーが、金ぴか鎧……こうなっては最早アーチャーだと確定だろう、をねめつけているのだ。

 

「貴様もか。そこの小娘ごと、散れ。狂犬め」

 

 光の奔流が、再度放たれた。堰を切ったように飛び出すそれは、まるですべてを飲み込む大蛇にも似て――。

 

 俺は、本当に紙一重の差で、障壁を張る。しかし、優雅に、さも余裕のある動作で。

 

 一方のバーサーカーはというと、初撃の剣をつかみ取り、その剣で次々と連撃をさばいていく。剣が破損したら次の剣へ。槍が折れれば次の槍へ。

 

 ライダーはふむ、と呟いた。

 

「えらく芸達者なやつよのう……」

 

「まったくだ……」

 

 それに応えるは、ランサー。

 

「バーサーカーも凄いけれど、あの攻撃を純粋な魔力障壁だけでしのぐアーチャーも流石だわ……あのクラスなのに、なんて魔力量なのかしら……!」

 

 そう言った、白い女。その言葉は、妙に戦場に響いた。それに反応したのは本当のアーチャーだった。

 

「アーチャー? アーチャーだと? そこの小娘が……。王を僭称するだけでは飽き足らず、我がクラスまでも騙るとは……。もういい、貴様はこの一撃を以って、塵に還れ……ん?」

 

 そこで一瞬アーチャーの表情がゆがむ。

 

「時臣か……臣たる身で大きく出たな……。おい、雑種! 次に見える時までに、間引いておくんだな……。我と相対す者は真の英雄のみでいい……。フン」

 

 そう言い残し。アーチャーは姿を消した。

 

「貴女は……アーチャーではなかったのか! 嘘をついたという事だな……」

 

 アーチャーの言葉を受けて、セイバーが激昂する。まぁ……致し方あるまい。騙されたも同然なのだから。だが。それはそいつが悪い。

 

「あら、私は一度も自身がアーチャーだ、などと明言したつもりはありませんわ……! この子も、わが宝具……手段の一つ」

 

「ならば貴様……キャスターか」

 

 ランサーが視線も鋭く問いかける。

 

「ご明察……そうですわ、わたくし、キャスターですの。で、ですわ……。そこな狂犬殿はいかが……っ!」

 

 ギリギリ、だった。転移魔法が間に合わなければ、この身は粉微塵だっただろう。その場に落ちていた鉄骨を拾い、バーサーカーが襲い掛かってきたのだ。

 

 俺はデリヴランスを顕現させると、バックステップで距離をとりながら叫んだ。

 

「mocfetaliaeuledeau!」

 

 デリヴランスが一瞬で凍りつき、巨大な杭打ち機が完成する。そう、パイルバンカーだ。重ねて、俺は叫ぶ。

 

「dufionee!」

 

 すると、俺の全身に力がめぐってくるのが解る。身体強化の魔法だ。

 

 セイバーが後ろの白い女に尋ねる。

 

「アイリスフィール……あれは、呪文……ですか?」

 

「いえ、わからない……わからないの! 少なくともあんな意味不明な詠唱はこの世のどこにも存在しないわ。ありうるとしたら、はるか太古に失われた文明語……。でも、だとしたらあの拳銃は一体……!」

 

 バーサーカーの上段からの叩き下ろしをパイルバンカーの一撃を以って受け止める。その威力は半端なものではなく、バーサーカーの得物を半分ほどからねじ切った。

 

「ハッ、他愛が無いですわね……」

 

 俺は縦横無尽に迫り来る鉄骨をあるときはパイルバンカーに付いた楯で、あるときは杭を突き立てて躱す。だがしかし、後退しながら、という事実は覆せない。

 

 バーサーカーの右から迫る一撃を楯ではじくも、すぐさまその軌道は変化して縦からの剛撃の転じる。それをパイルバンカーで吹き飛ばす。

 

(このままではジリ貧……だが! やつの得物は徐々に破損していってい……るッ!?)

 

 あろうことか、やつは投擲したのだ、己の武器を。必死に側転で躱す俺。

 

「ですが! これで貴方の得物は殺ぎましたわ!」

 

 そう言い放つと俺は転移で5メートルほど距離を取り、詠唱を始める。

 

「decheumelantec, goeu, laclawetemts」

 

 求めるは、剛槍。何にも負けぬ、折れぬ、完璧な短槍を!

 

「mec! fatemtoloia!」

 

 周囲のマナを吸収し、ここに、槍が出来上がる。

 

「さぁ、行きますわよ……ハッ!」

 

 武芸指南は王族だけあって一通り受けている。俺は元男というのもあり、それぞれに非常に高い適性を示した。そして、身体強化の魔法……。魔術ではない。魔法だ。つまり、「」へ至りし俺の術式に、バカみたいな魔力を組み合わせれば、何でもできる。下手なランサーなら一騎打ちでも打ち取れるほどの、身体能力。

 

 そこに転移魔法が加わればどうか。一方的な殺戮劇の始まりだ。まずは、とバーサーカーの頭上に転移し魔力の放出による推進力を得て、一気に鷹の如く襲い掛かる。が、これは寸前で躱された。地面に穿たれる、大きなクレーター。そこから槍を引き抜き、構え直す。

 

「今のは……挨拶ですわ!」

 

 純白のドレスをはためかせて、舞い踊る俺。バーサーカーは徐々に徐々に後退していく。先ほどとは形勢が逆転した形だ。

 

 俺の姿を見たランサーがつぶやく。

 

「まさか……キャスターがバーサーカーを圧倒する姿を見る日が来ようとは……!」

 

 さらに転移を重ねる。戦闘中の詠唱と集中は並列思考ができないとまず無理であるが、俺はそれを半ば自動化することによって可能としていた。最低限、最小限の術式で。先に呪文の組み合わせを作って。

 

 今度は体勢を崩したバーサーカーの右脇を取る。そこから必殺の一撃を、繰り出そうとした時だった。

 

 俺は、ソクリとした殺気を顎の下に感じ、次の瞬間には宙を舞っていた。

 

(ヤバイ……デカいのをもらった……! 軽い脳震盪か……!)

 

 地面にどさりと横たわり、必死に立ち上がろうとするも、体が言うことを聞かない……。

 

 バーサーカーは、先ほどの瞬間、地面に落ちていた鉄柱を蹴り上げたのだ。そこまで誘導していたとしたらバーサーカーとは思えない。ヤバイ。このままだと、最初に脱落するのは俺……!

 

 脳をかき乱された俺は、転移することもままならない。このままだと、殺される!




ちなみに。レファのステータス。

筋力:E
耐久:E
敏捷:D
魔力:EX
幸運:E
宝具:デミ・ソメイユ(弓)・デリヴランス(リボルバー)・???

宝具の詳しい解説はまた今度。
ああ、この先の展開がどんどん難しくなっていく……。
龍之介陣営でいいSSってなんかありますかね? 勉強したい……。

励ましの一言を貰えると、更新速度上がるかもよ?(チラッ

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