Fate/magic bullet   作:冬沢 紬

1 / 7
生きてます。生きてました。ごめんなさい。

そんなわけで、新作投稿です。ごめんなさい。

Magic Bullet書いてたのも、ホントはこれがやりたかったからなんです。許して下さい。

そして、原作ファンのみなさん。ごめんなさい。


01

 

「満ったせ~、満ったせ~、満たして満たせ~。繰り返すつどに4……度? あれ、5度?」

 

 薄暗い……ではなく、真っ暗な部屋の中、陽気な声が流れて来る。

 

「えっと……ただ満たされるときを破却する。だよなぁ?」

 

 戸惑い交じりのその声に、応える者はいない。

 

「満たせ、満たせ、満たして満たして満たせっと。はい、今度こそ5度ね! OK!」

 

 意味のわからない言葉の羅列。本人にも意味などわかっていないだろう。

 

「ん?」

 

 

 ふと、彼の目線が点きっぱなしのテレビに移る。そこには、ここ、冬木市での連続殺人事件のテロップが流れていた。

 

 それをソファに寄りかかりしばらく眺めると、何を思ったかくるりと振り返り、突然演劇の役者のようにしゃべり始める。

 

「悪魔って、本当にいると思うかい? ボウヤ……?」

 

 そこにいたのは、否、芋虫のように転がされていたのは、1人の少年。年のころは、まだ小学校低学年か。

 

 怯えた目で、彼を見る。それもそうだ。この部屋に、生きている人間は2人しかいないのだから……。

 

 彼の独白は続く。

 

「もし本物の悪魔がいるとしたら、新聞や雑誌が俺を悪魔呼ばわりするのは、悪魔に対して失礼なことじゃないかなぁ? そうなると、悪魔であります! なんて名乗っちゃっていいものかどうか……」

 

 困ったように少年に近づく彼だが、少年はか細い声を上げることしかできない。

 

「したら、こんなものが出てきちゃったんだよねぇ、うちの土蔵から」

 

 そう言って彼は少年に古びた書物を見せびらかす。しかし、少年の目は何も見てはいないだろう。

 

「どーもうちのご先祖様ってば、悪魔召喚の研究家だったらしくてねぇ。それじゃさぁ、もう悪魔が存在するのかどうか確かめるしか無いじゃん?」

 

 じゃん? と言われても、少年には答えることもできないし、そんな気すら起こらないだろう。頭にあるのは、この部屋の先住人たちの末路。

 

 ちらりと視線を横にやるも、そこには変えようの無い事実が転がっているのみ。すなわち、ヒトの、クビ。

 

「でもさぁ、本当に悪魔が出てきちゃったとするよ?」

 

 そこで、彼はつかつかと歩んでいたその歩を止める。

 

「何の手土産もなしにお茶会ってのも、アホみたいじゃん? ま、要するにさ。ボウヤ……」

 

 そう言ってどっかと椅子に腰掛ける彼。

 

「ひとつ、殺されてみてくれない?」

 

「……っ! ンー! ンー!」

 

 猿轡をされたその口からは、言葉にならないうめき声が上がるのみ。

 

 唐突に、彼は立ち上がって笑い始める。

 

「あはははははは! 悪魔に殺されるのって、どういう感じなんだろうね! すばらしい経け……痛ッ!」

 

 そう言って彼は顔をしかめ、急にその右手を押さえた。

 

 痛みが引いたのか、ややあってその痛みの原因を注視する。

 

「なんだ……? コレ?」

 

 しかし、彼の口から漏れるのは戸惑い。そこに、何があったのか。

 

 アカい、刺青のような文様。それが徐々に浮かび上がってきたのだ。

 

「んッ!?」

 

 その場から飛び退るように後ろに一歩、そこには光り輝く魔方陣があった。そこからあふれ出す、光に次ぐ光。そして突風。

 

「あ……」

 

 彼の口からは、間抜けな声しか出てこない。

 

 光が徐々に勢いを弱め始めると、そこには1人の女性が立っていた。少女と女性の中間ぐらいだろうか、さらさらのロングヘアーをストレートに腰まで伸ばし、目は緋色、肌は白磁のよう。純白のドレスを自然に着こなし、美と言うものを素直に体現した形がここにあった。

 

 目を見開く彼。

 

「……問いましょう」

 

 その可憐な口から流れ出る、美しい音色。

 

「我と我の力を求めし者、キャスターとして顕現させし者」

 

 彼は、それが言葉だと言うことを理解するのに、数瞬かかった。

 

「汝は何者ですの……?」

 

 それを聞いて、彼は少し困ったように戸惑いながら答えた。

 

「え、えーと……。雨生、龍之介っす……。あー、フリーターやってて、趣味は人殺し全般……」

 

 彼女はその言葉に顔をゆがめることなく言を重ねる。

 

「ふむ……ここに契約は成立したようですわね……。貴方が聖杯に求むは、何なるや? わたくしも求めるものである、それに……。わたくしが現界したからには、もはやそれは手中も同然ですわ。何しろ、わたくしは王女なのですから」

 

 聖杯という文句に一瞬わけがわからない、という表情を漏らした彼だったが、すぐに微笑む。

 

「……とりあえず、お近づきに……御一献、いかがです? コレ、どうぞ?」

 

 そう言って指差すは、足元に転がる先の少年。召喚劇をぼうっと見ていた少年だったが、自分も渦中の人物だと思い出したのか、激しく暴れ始める。

 

 不自由な体を必死に動かし、後ずさりする少年。しかし、彼女は一歩一歩近づいていく。

 

 悲鳴を上げ、来るな来るなと首を振るも、一切無力。少年にとっての死そのものは、近づいてくる。そして彼女の手が、少年の肩に触れた。

 

「ンーッ!」

 

 体を縮こまらせて、目をつぶる少年……。その少年を、彼女は、立たせた。

 

「落ち着いて、目を閉じて……。今から縄を解きますわ。リラックスして、力を抜いて……」

 

 彼女の声には何か不思議な安心感が篭っていた。なぜかはわからないが、先ほどの恐慌状態からは一転、落ち着いて素直に立っている少年。

 

 面白くないのは、彼――龍之介である。

 

「ねぇ、何を……」

 

 せっかくの獲物をわざわざ逃がされようとしているのだ。面白いはずが無い。

 

 それを手で制する彼女。余りにも自然なその行為に、黙らざるを得ないかのようにその口を閉ざす龍之介。

 

 そして、彼女は妖艶に微笑みながら、目を細めてこう言った。

 

「怨みなさい? ボウヤ……」

 

 彼女が足で何かを蹴り上げ、それを一閃、突き出した。

 

「いっ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 響く絶叫。少年の右目にはナイフが突き立っていた。それをぐちゅりと抜き放つと、今度はナイフが光を放ち始めた。彼女はそれをもう一度、心臓の辺りめがけて突き出す。そして、何の躊躇もなく、抜く。

 

「あ……ぎ……。いだい………いだいよぉ……」

 

 彼女はひざを折り、少年と目線をあわせ、言う。

 

「お行きなさい、ボウヤ……? ただ、ここであったことは話してはダメよ。呪いがあなたの心臓に喰らい付いているから……! もし、そうね……それを何とかしたかったら、殺しなさい。わたくしを! さあ、憎むがいい、怨むがいい! その怨嗟こそ、わたくしの求めるもの……!」

 

 そして、彼女はその少年をどことも知れぬ場所に転移させる。つかつかとテレビに近寄ると、それを撫でてモニターへと役割を変えさせる。移るは、件の少年。路地裏でのた打ち回り、もがき、か細い声で助けを求める。時刻は夜。運がよければ助かるだろう。

 

「いかがかしら……。ただ奉げられた供物を殺すことは家畜にも劣りますわ。怨みを一身に受け、猛き感情の者を絶望に変え、殺す……。コレこそが、殺しのエクスタシーですわ! あの子もいい獲物になって帰ってくるでしょう……。帰ってこなければ、それまで……。収穫とは、待ち遠しいもの!」

 

 一方、置いてきぼりになっていた龍之介だが、その一連のマジックショーに歓声を上げる。

 

「すげぇ、すげぇよ! アンタ超COOLだ! 聖杯だかなんだかともかく! 俺はアンタに付いていく!」

 

 そう言って彼女の手に触れようとするが……彼女はそれをひらりとかわす。

 

「私は王女ですわ……下々の者とは簡単には触れ合いませんの」

 

 龍之介はそれを聞いているのかいないのか、さらに続ける。

 

「さぁ、殺そう! もっともっとCOOLな方法で! 俺を魅せてくれ!」

 

「ふ……ククク……龍之介と、言ったましたわね……。あなたのような「正常な」マスターを得られるとは、どこぞにいる神とやらに感謝を奉げたい気分ですわ……!」

 

 上気した頬、少し乱れた髪。未成熟な妖艶さを振りまいて、彼女は告げた。

 

「私の名は、レファントルーシア=デュークロア・レン・フォーヴィリカ。そうね……遠い異国の……お姫様ですわ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。