ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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皆さんの反応をみる限り、オッタルさんはきっとカリスマEくらいはあるね!

感想ありがとうございます。


格の差

ーー迫り来る黄金の軌跡。それは何処か美しい光景でもあり、神秘的な光景でもあった。だが悲しいかな、その軌跡を描くのは空に輝く流星ではなく、目標の障害を粉砕する王の裁き。その死の鉄槌だ。

それが一人の男に向けられていた。それは行き過ぎた攻撃で、行き過ぎた裁き(・・・・・・)でもあった。

 

だが眼前に迫る死の鉄槌を見据える男もまた、この都市で唯一他と並ぶことのない強者であった。

 

一撃目の死の鉄槌ーー豪華な彩飾で彩られた槍をかわし、二撃目に迫った最初に向けられた槍とは逆の彩飾がない、だが研ぎ澄まされた剣身が己が心臓を抉りくる。

 

男はそれをかわせないと悟っていて、かわす気もなかった。常人では見ることも出来ない速度で、何人も並ぶ事がない力で、大剣をそれに薙ぎ払い迎撃した。

 

目標を強制的に変更させられた剣の行き先は、かつて人が住んでいた家屋。しかしそんなことはその剣には関係がなく、立ち塞がるモノは何人たりとも何であろうと打ち砕いた。

 

「……ほう」

 

「……ッ!?」

 

数秒まであった家屋がガラクタに変わる。だが男達には関係がなく、ましてや興味もなかった。

二人にあったのは驚嘆だった。

 

「雑種と思っていたが…。始めて会ったな、珍しく歯応えの良さそうなのは」

 

「そうか…。それは俺を認めたととっても良いのか?」

 

薙ぎ払った男ーーオッタルは男は無惨なリフォームを遂げた家屋に一瞥してから男にそう返した。

 

ーーLV.7。オラリオにおける最高を誇るLVで、並び立つ者がいなかった境地。故に授けられた二つ名は『猛者(おうじゃ)

 

それがオッタルを示すLVで、誇るべきあざ名。事実オッタルも誇ってはいたし、事実だと思っていた。

ステイタスに過信することなく励んだ武芸。冒険者にはLVだけで過信する者が多々いる。

 

しかしオッタルはその例外で、そして異例でもあった。並ぶ事のないLV、同等の実力を持つ実力者。そう思っていたーー。

 

ーーこの日、この瞬間までは。

 

「ほとほと愉快な奴よの、しかし良いぞ雑種、その愉快さと、先程の芸故に、許してやろうーー」

 

だが残念なことに目の前にいるのは例外でもなく、異例でもないーー超越者。

 

『英雄王』ギルガメッシュ。オッタルは知るよしもない事で、知り得なかった情報の一つ。

 

向かい合う男が認めたと解釈したオッタルは、目の前の同じ王である男の次の動作、次の言葉を待った。

 

それがオッタルにとっての唯一の分岐点で、オッタルにとっての唯一の勝機だった。

 

次など待たずに直ぐ様距離を縮めれば、傷を付けることは出来ただろう。それこそ急所を付く事もできた。

が、しなかった。オッタルはそれでも女神の望みである『男の力量』を計るためにそれをしなかった。

 

それは認められた者に許された権利だろう。オッタルは認められている、この都市に住まう、この世界に生きる全ての人から、そして神々から。

ーー故に次の分岐点など無くなって、チャンスは彼方へと消え去った。

 

目の前の一挙一動を見守るオッタル。次にどんな行動を取ろうとも、即座に動けるために。腰に備えている剣を抜いて迫ってきても、先程の金の波紋からの射出にも対応できるように。如何なる攻撃に対応できるように、痛いほど大剣を握り締めた。

 

だからオッタルには対応出来なかった。男の行った次の動作に。何も返せなかった、次の言葉に。

 

身を翻し跳躍、未だ取り囲む家屋の内の一つに飛び上がった。最初は逃げるのかと疑ったオッタルは、しかし再度こちらに振り返った男にその疑問は塵へと消えた。

 

「ーー故に自害を許す。さぁ、疾くその薄汚い首を跳ね果てるがよい、雑種」

 

オッタルは認めていた、先程の一瞬の交錯で男の実力を。それは未だ手に残る痺れが、自分の武器を一撃で罅入れた男の武器を。

この出会いを女神に歓喜した程に。何故ならオッタルは都市最強。故にその力を奮えることはほとんどなく、その培った武芸を生かせる事は滅多にない。

 

武器を払ったあの時、オッタルは全力で、己が培った武芸を惜しみ無く震った。なのに返ってきた答えがこれだ。

 

「どうした? この我直々に命じているのだぞ、速やかに果てるがよい」

 

何も行動を起こさないオッタルに、薄笑いを浮かべながら首を傾げる。本当に自害しないことを不思議に思って。

 

オッタルには理解できなかった、この王の考えが。けれども解った事はあった。

この男は俺を認めていない。それ以前に、敵とさえ見ていない。

 

ーーオッタルの中で何かが切れた音がした。

 

頂点まで来たLV(プライド)を笑われ、極限まで鍛えた武術(プライド)を傷つけられたオッタル本能の赴くまま、吠えた。

 

「ウオオオオオオオオオッ!!」

 

猛者の咆哮。一介の冒険者を震え上がらす、モンスターでさえ裸足で逃げ出す力ありし獣の遠吠え。囲まれた家屋に反響されたそれは天へと登る。

 

突然のオッタルの咆哮に、笑みを消し眉をピクリと上げ表情は怒りのそれへと変わった。

 

「ふん、理知無き獣風情が、先程から我の許しなくて吠えるでない」

 

浮かび上がるは三つの波紋。オッタルはそこから覗く武器を、最早痛みすら感じないほどの力で握った大剣で睨み付けた。

 

一つ目を皮一枚で避け、ニ撃目を横薙ぎに振るい弾き、最後の攻撃を大剣で叩き付けた。

ぶつかり合う武器が火花を散らし、そして爆ぜた。もうもうと上がる煙の中から、砕け散った剣の柄をあるところへ投じた。

 

投じられたその行方は、ギルが乗る家の屋根ではなく、オッタルが事前に用意していた袋が乗る屋根だった。

LV.7の力で放たれたそれは、屋根を砕きそして家をバラバラに倒壊させた。それが壊れた剣の柄で行ったとは誰にも思えない。

 

降りてくる袋の中には、多種多様な武器が顔を覗かせる。オッタルがもしもの時に用意していた武器だ。それも自分のためにはではない。

力量を計る、そのためには相手に全力で来て貰わなければならない。武器がないだのという言い訳をさせないために。

 

それは皮肉にも目の前にいる王には必要なくて、猛者の自分には必要になってしまったが。

新たに袋から今度は槍を取り出し、その槍を手に取り頭上で廻し構える。オッタルにとって、この武器を扱う技量は人よりあると自負している。

 

「ふん、獣風情がよく耐える。()たる我の許しなくて未だ息をするとは、不敬が過ぎるぞ雑種」

 

「何だと?」

 

新たに現れる歪みの数は四つ、オッタルは更に一つ増えたその数ではなく、目の前の男の放った言葉に更に怒りを増幅させる。

それは今回オッタルがすべき事で、今回の目的でもあった。だがオッタルには既にその事はどうでも良かった。崇拝する女神からも許可は頂いている、無論そこまでする気は無かったが、この男はあまりにふざけすぎだ。

「この都市で『猛者(おうじゃ)』は唯一人、この俺だ!」

 

「何?」

 

地面を踏み抜き、取り囲む家の壁を足場に縦横無尽に移動する。加速するその速度に、着いてこられる者はいない。

 

オッタルを射抜くが如く発射された武器の雨は、しかしオッタルを捉えることは出来ず、足場の家を粉砕する。

四つの武器の雨をかわしたオッタルは、悠然と立つ男に強襲。心臓を穿つが如し突きを放つ。

 

忌々しげな舌打ちを一つ残して、後ろの家へと跳躍。そして浮かべる表情は怒り。自分に矛を奮った男へ。不遜にも王を名乗った男へ、それは向けられていた。

 

「獣風情が王を名乗るだと…? 余程その頭蓋愉快に造られているのだな、壊せばさぞその中身は滑稽だろう」

 

新たに浮かび上がるは十を越える(・・・・・)金の波紋。それがどれ程の脅威か、オッタルには分かっていた。否、解ってしまった。

 

不味い、そう本能が警鐘を鳴らす脳の中、オッタルはしかしそれに従わず槍を構える。逃げるなど最初から考えてはおらず、思考にあるのは天上を知らず登る怒りのみ。

 

「ーー敬愛する女神に捧げた名だ、それを貶した貴様は最早生かせはせんぞ!」

 

この名は他でもないかの女神が、自分のために授けた名だ。故にオッタルの怒りは当然でーー。

 

「……はぁ?」

 

ーー目の前の男の突然の挙動は予想外だった。

 

「今なんと言った貴様…?」

 

原初の王の怒りを示すが如く震えていた武器達の震えは止まり、その怒りも霧散していた。本当に意味が分からなかったからだ。

 

そしてオッタルもまた困惑した、決死の覚悟で望んでいたのに、男のそれは余りにも意図が読めなかったから。

沈黙が周囲を流れる。突然の家の倒壊に住人達が下で騒いでいるが、この二人には聞こえてはいなかった。

だから最初に言葉を放ったのはオッタルだった。

「俺は敬愛する女神にこの名を頂き、崇拝する女神にその名を捧げた…」

 

それがオッタルの答え。この名を受け取った時も、今も、これからも変わらぬ答え。

故に自信を持って答えた。これが答えで、これしか思わなかったから。

 

「くっ…」

 

顔を手で隠す。それが戦闘中にどれ程の隙を晒す事になるか解っていながら、彼はそうするしか無かった。そうしなれば耐えれなかったから。いや、耐えきれていなかった。

 

「フハッ、フハハハッ! 自ら王を名乗っていながらその名を捧げているだと…!」

 

腹を抱え、原初の王は笑う。オッタルには突然の男の奇行を理解できなかった。

 

「こいつは滑稽だ! その頭蓋を割らずとも解ったわ。よい、よいぞ道化、貴様の道化ぶりはこの都市で随一だ!」

 

褒めて遣わす。そう言って手を鳴らすその姿に、オッタルは怒りも何も抱けない、唯理解できないでいた。

「何が可笑しいっ! この名は女神が、そして自分を認めた同士達が認めた名だぞっ!」

 

「くっ! そ、そうか。貴様はその名を、その女神だけではなくその者等にも捧げたと言うのだな…」

 

「そうだと言っているっ!」

 

「フハハハッ! フハッ、フハハハ! おいおい我に叶わぬと知って、我を笑い殺す事にしたのか貴様は」

 

最早我慢など出来なくて、腹を抱え尻を着き大声を発しながら笑う。それは本当に哀れな者を見たように。

 

オッタルはもう我慢が出来なかった。ここまで笑われて、ここまで貶されて、それを許す事はできないから。

手に持つ槍を放つ。風を割き、彼方の建造物を破壊する気で放ったそれはーー防がれた。

 

ーーそれは歪みの中から突如現れた盾で、オッタルが今まで見たことのない盾でもあった。

何故ならこの都市で造られた盾であれば防ぐ事ができないはずだから。

 

「ーー雑種、名はなんと言う? ここまで興じされた褒美に名乗る事を許す」

 

屋根に着いていた尻を叩き、汚れを落とす動作をしながら立ち上がる。オッタルはそれを見て背筋が凍った。

男の赤き瞳が、男の雰囲気が変わったことに。

 

「……都市最強、LV.7『猛者(おうじゃ)』オッタルだ」

 

「そうか…」

 

金色の髪の王の背後が大規模に歪む(・・・・・・)。それは猛者には予想もできないモノで、未知の光景であった。最早十や二十では数えきれないほどの歪み。

 

「此度の余興の駄賃だ。『英雄王(オレ)』と『猛者(きさま)』の格の差を見せてやろう」

 

ーー『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

その言葉を、その光景を、オッタルは信じられないモノを見たような目で見ていた。

ーーそれは捧げた者と、捧げられた者の違いで、絶対の王とLV.7(頂点)だと思っていた王の違いでもあった。

 

ーーしかしこの数量は、王の全てではない。王は言った、此度の余興の駄賃だと。それ故にそれに順する数しか展開しなかった。

 

 






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