ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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※副題は『我様のファッションセンスがこんなに酷い訳がない』




レフィーヤの受難

 こんにちわ、私レフィーヤ・ウィリディスです。『ロキ・ファミリア』に在籍する、エルフの魔導士で現在のLvは3。敬愛するアイズさん達にはまだまだ追い付けそうにはありませんが、何時かその場所まで到達してみせます。

 

 はてさて、そんな私はと言うと今見知らぬ男性と行動を共にしています。そうというのも、私の勘違いで迷惑をかけてしまったのです。……そうですよね、よくよく考えてみればアイズさんがこ、告白なんて真似するわけありませんよね、あれは白昼夢だったのでしょう。

 

 でも横に並ぶその人は、確かにあの時見た人と一緒だと思うのですが……。でも雑種って言っていて、アイズさんの事知らなかったしなぁ。

 

 まぁ、あんまり疑り深くなるのも失礼なのですしね。でもこの都市に住んでいてあのアイズさんを知らないのは人生を半分以上損していると言っても過言ではないので、私が懇切丁寧にお教えしてあげましょう。

 

「ーーと言うわけで、アイズさんはこの都市で数少ないLv.6になり、そして数少ない第一級冒険者の中で最強の一角と呼ばれているのです」

 

「そうか」

 

 私があの階層主の中でも最強と目される『ウダイオス』との激闘を事細かに話したと言うのに、そうかの一言で済ますなんて…!

 

 むっきー!何ですかその態度は!そこは『ああ、なんて凄いんだ!そんな人と同じ都市に住めるなんて…』って、感激するところですよ!分かっているんですか!?

 

 話最後まで聞いてました? むむっ?そうです、はいそうです。……どうやら話は聞いてくれていたみたいでした。ならもう少しリアクションをですね。……まぁ良いです、夜まで暇なのです。その間、たっぷりとアイズさんの素晴らしさをお教えしてあげますよ。

 

「むっ? どうした先程から震えおって? あぁ、そんな格好を何時までもしているからか……。さっさと服屋へ向かうぞ」

 

「違います! いや、違くもないですが、そうじゃありません!」

 

 とんちんかんな勘違いをしないでください。一概にもそうとは言いませんが、今の震えは違います!

 

 落ち着きなさいレフィーヤ。今私はこの人に迷惑をかけている立場、冷静にそしておしとやかに対応するのよ。そうです、会話を、会話をし続ければいいのです。

 

「そう言えば貴方って冒険者何ですか?見たところそうは見えませんが?」

 

「たわけ。見たところも何も、何処からどう見ても完璧な王にしか見えるまい」

 

 すいません、見えません。そんなことは怒鳴るので口にはだしませんが。何故そうもお馬鹿な事を言うのです!

 

ーーそして冷静に対処しながら歩くことしばしば、私達は目的の服屋に到着しました。その服屋は前回アイズさん達と一緒に行ったお店で、人種(ヒューマン)の方が好む服が置いてある所です。

 

 私としては替えの服を買うとしたら同じエルフ御用達のお店が良かったのですが、今回服を買うとなればヒューマンのこの人には、少々嗜好の問題があるでしょうし。

 

 やっぱりお洋服屋に来るとなると、相手の事も考えなければなりませんし、ええ。断じて私があのアイズさんと同じ服を買いたいだんなんて浅ましい考えで選んだ訳ではありませんよ?

 

 店内へと入る扉をくぐると、やっぱりと言いますかヒューマンの方達しかいません。それと服を買いに来るのは女性の方が多いのは分かりますが、お客全員が女性というのは軽くビックリしました。

 

「ねぇねぇ、あの人格好良くない?」

 

「ヤバイよね。隣の女の子は彼女さんかな?」

 

「……いや、それは無いんじゃない? ファミリア内の兄妹的関係じゃない」

 

 入店してとある女性客の会話が耳に入りましたが、何ですかそれは!?私とこの人はそんな関係じゃありません。と言うか、こう言う場合はか、彼氏彼女とかそう言う風に見えるもんじゃないんですか!!

 

 べ、別に私はアイズさん真理教徒(現在一名)なのでいくらこの人が格好いいからとお付き合いすることはありませんが、普通男女で入店してきたならそう見えるはずでしょう。

 

 はっ!何ですかもしかしてこの人はこの出会いが運命だとでもおもっているのでしょうか。ごめんなさい無理です。私はアイズさんのように強く、気高く、美しくないかたではないと受け付けません。

 

「……ふん」

 

 この人もこの人で、店内のお客さんの会話など知るよしもないと、鼻をひとつ鳴らして並べてある服を見始めてしまいますし。…まぁ、服屋に来て服を見るのは別段不自然ではありませんけど、立ち尽くす私を置いていきますか、普通。

 

 ま、まぁ、今更この人のこんな対応ごときで怒鳴る私ではありませんよ、ええ。買ってもらう立場の私が怒鳴るのも違いますし。私もとっととお目当ての服を購入してこの人とバイバイしましょう。

 

 本当にもったいない事をしますね。先程の会話もそうですが、もう少し良いリアクションをしてくれたならこの出会いを祝してアイズさんへの謁見の機会ぐらいは整えて上げようと思っていたのですが。

 

 貴方みたいな人に、アイズさんと出会える機会なんてないんですよ? これはチャンスなんですよ? アイズ真理教徒は絶賛入信者募集中です!

 

「先程から何をぶつくさ言っておる……。レフィーヤよ、我と共に行動する栄誉を得て浮かれるのは分かるが、もう少しわきまえよ」

 

「違いますってば!」

 

 何ですかさっきから!温厚な私でもそろそろ噴火しますよ! どこぞの王様さんか知りませんが私は既に入信済みです!

 

 私はお目当ての服を探す為、店内をキョロキョロと見回しながら歩き回り、そしてお目当ての服を奇跡的に見つける事に成功しました。良かった…。あのアイズさんが購入した服となれば、売り切れになっていてもおかしくありませんし。

 

 べ、別にこの服を買うためにここの服屋を選んだ訳ではないですよ? ただこんな運命的な出会いをしてしまったら買うしかないじゃないですか!

 

「むっ?そんな服が良いのか? 味気のない色合いよな。それよりこっちの方が……」

 

「いやいや、その豹柄のなんて誰も買いませんよ。私と王とでは感性が違うのでこれで良いですよ」

 

 何時のまにやら後ろに立っていたこの人に皮肉たっぷりに返して上げました。全くそんな柄を買う人なんているわけないじゃないですか。

 

 それもそうか、なんて言って他の品を探し始めましたが、今の皮肉通じてます? ……まぁ、いいです。何時までも濡れた服を着てるのは辛いですし、着替えましょう。

 

ーーーーーー

 

 店内に設けられた試着室にて着替え、そこに備え付けられている鏡に写る自分を見つめる。白い服に身を包んだ私は紛れもなくあの、アイズさんと同じ服を身に付けている。

 

 ……はぁ。まさかあのアイズさんと同じ服を着れるなんて……。そして今日はファミリア内で遠征の打ち上げをすることになっています。勿論私服で。つまりこの服を着ていけばーー。

 

『ーーレフィーヤ、それ……』

 

『こ、これはあれですよ! そう今日とある人に買ってもらって』

 

『ふふっ。そっか、お揃いだね』

 

 ふにゃあああ!!何て事に、何て事になってしまいますよ!完璧です。完璧過ぎますよ私!

 

 気分上々になった私は試着室から出て、店内へと舞い戻る。あれ?あの人は一体何処に行ったのでしょう?店内を見渡してもあの金色の髪のあの人が見当たりませんが?

 

 まさか私を置いて出て行ったとか!?で、でも何て言うかあの人はそんな非道な事はし…しないと思いますけど。

 

「あのぅ、もしかして一緒に入店した男の人を探してる?」

 

「は、はい!」

 

 キョロキョロと店内を見渡していた私に、一人の女性客が話しかけてきた。もしかしてあの人の行方をしっているんでしょうか。

 

「あのね、今隣の試着室で着替えてるから待ってて、だって」

 

「本当ですか!? あ、ありがとうございます!」

 

 私はその女性にお礼を言い確かに隣の試着室が使用されているのに気が付いた。全く、変な心配をしましたよ。でも何ででしょうか? 店内にいるお客さん達の目が酷く可哀想なモノを見るような目をしているのは。

 

ーーそして試着室のカーテンは豪快に開かれた。

 

 店内にいる全ての女性客達は、その服を手に取って試着室へと向かった男性客を最初は何かの間違いであるかと思っていた。ーーそう、それほどまでに男は格好良かった。下ろした黄金の髪、その赤き瞳は力強く。そしてその着込んでいるライダースーツはちょっこっとポイントは低いが似合っていった。だが残念なことに、何時だって世界は美しくーーそして残酷だ。

 

 現れたモノを見て、レフィーヤ絶句。圧倒的絶句!

 

 これほどの衝撃を味わったのはあのアイズ、今や崇拝するまでに至った女性を見たとき以来だった。いや、それ以上だった。

 

 そして男はーー否、原初の王は高らかに笑う。

 

「フハハハハ! 庶民の服屋やと思っていたが、中々に良いモノを置いておるではないか!!」

 

 もはや誰も言葉を出せない。人は、行き過ぎたモノを見ると何もアクションが起こせない。そんな言葉があったそうな。

 

ーーたなびく髪は逆立ち。耳には黄金のピアスが。

 

ーー黒いライダースーツは何処へ、今は豹柄のスーツに身を包んでいた。

 

 そう豹柄。立派なアニモゥにだ。

 

「フハハ! ……うん? 何だレフィーヤよ結局それにしたのか、やはり地味よな」

 

ーーですね……。

 

「まぁ良い。レフィーヤよ、この衣装をあつらえた者は中々良い趣味をしていると思わんか?まぁ一重に、それを着こなす我が素晴らしいのもあるが」

 

ーーそうですね……。ほんと、王様じゃなくて、夜の帝王とか名乗れば良いんじゃないですか?

 

「全く我は王だと何度言えば分かるのだ……。まぁ、しかし……夜の帝王……。隠しようもなく淫靡な響きよ、良い気に入った」

 

ーーわぁい、うれしいです。

 

 この世界に神はいない、レフィーヤは強くそう思った。何故私にこんな罰を? この人を襲ったから? それにしてはこの仕打ちは余りにもあんまりだ。

 

 悠々と進む男の背に、フラフラとレフィーヤは付いていく。彼女は何処から間違えたのだろう。この店を選んだ所? この人と一緒に入店して連れだと言ってしまったから? それともあの時もっと深く謝罪しなったから? 神様、私そんなに酷いことしました? レフィーヤの胸中にあるのは深い後悔と懺悔だ。だがそれが届くことはあり得ない。

 

「店員会計だ。我の服と、こやつの服。それと例のモノだ。……あぁ釣はいらんぞ、好きに取っておけ」

 

 かしこまりましたー。と言ってレジの奥へと消えて言った店員をレフィーヤは誉めてあげたい。よくこの人の服装を間近で見て笑わなかったものだと。

 

 戻ってきた店員から一つの袋を受け取ったこの人と共に外に出る。もう私の目には光りはありません。絶望の中にいる私にそんなものがあるはずないじゃありませんか。ですがどんな絶望の中にも希望はあるもの。そう、もう後はこの人と別れるだけ。未来永劫この人と会うことはないでしょう。

 

「では、すいませんがこの辺で私は……」

 

「ーーまぁ待て」

 

 足早にその場を後にしようとする私の手が掴まれる。離して! 離して下さいっ! もう、私のライフは0です!! 今の私はレフィーヤ・ライフゼロですっ!!

 

「な、何でしょうか?」

 

「何、このまま貴様と別れるのはいささか興醒めだ。ギロッポンでグーフの後に、ザキンでシースでもしようではないか」

 

絶対に嫌です! 何ですかその怪しい言葉の羅列はっ! もう私を解放してください!!

 

 しかし、おしとやかな乙女である私はそんなことを言えるはずもなく、しかし、それだけは絶対に行きたくないのでやんわりと断りを入れようとーー。

 

「ーー何、分かっている今のはAUOジョーク。いかな我とて、幼童である貴様を連れて行くがなかろう」

 

 ですよね! そうです、私はまだ幼いんですからそんなところ行けませんよ! 神様ごめんなさい、貴方はやっぱり生きていたんですね!!

 

「だが先程言ってたが、夜まで暇なのであろう? なればもう少し我と付き合え。王からの厳命である、断れる道理はないぞ? 服も買ってやったしな」

 

神は、死んだっ!!

 


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