感想、ありがとうございます。
ーーー回想二日目。
この日、僕と王様は色々な人に生還報告を、そしてギルドに報告をしに向かっていた。
『ミアハ・ファミリア』に行って、主神であるミアハ様に、そして唯一の眷族であるナァーザさんに会い、そして二人から無事に帰ってきた事を喜ばれ、そして良かったと、笑顔で迎えてくれた。
次に『豊穣の女主人』に向かい、そこで再び会ったリューさんと、シルさんに迎えられた。
シルさんに最初出会った時、目に涙を浮かべて抱き締められた。
突然の包容に、意識など何処かへ飛んでいき、顔を真っ赤に染めて、なすがままになってしまった。
……そして王様の拳骨で意識を取り戻した。
「い、痛いですっ、王様!」
「たわけが…。いい加減に覚えろ、またこやつに良いように使われるぞ」
「酷いですよ王様…。本当に心配してたんですから」
僕から離れたシルさんは、王様に向き直り反論した。しかし、その瞳には既に涙はない。
……シルさぁーん…。
王様はシルさんの反論を聞き流し、まだ開店前の店へと入っていった。どうやらミアさんに用があるらしい。
「でも、本当に心配してたんですよ」
「すいません…。ありがとうございます」
微笑みを浮かべて見つめてくるシルさんに、僕も笑顔でお礼を言う。リューさんは、そんな僕とシルさんのやり取りを横で見ていた。しかしその表情は、以前より柔らかく見えた。
「……それより、聞きましたよベルさん。リューを覗いたそうじゃないですか!」
「ち、違います!」
じーと見つめた後、指をずいっと詰め寄ってくるシルさん。
誰が話したんだ!それにそれなら…。
「そ、それに、僕だけじゃなくて王様も…」
「王様も…?」
「クラネルさん、それ以上は駄目だ」
僕の発言にシルさんは首を傾げ、リューさんは僕を止めようと一歩前に出る。
しかし、リューさんを背後から抱き止め、シルさんはその肩から、面白い事を聞いた風に顔を輝かせた。
「クラネルさん、お願いだ…」
「それで?王様も覗いていたんですか?」
「い、いえ。お、王様は一緒に沐浴してました」
笑ってる筈のシルさんの目が恐すぎて、正直に話してしまった。案の定知らなかったのか、シルさんは肩越しにリューさんの顔を見つめる。…とてもいい笑顔で。
顔を真っ赤に染めたリューさんが、シルさんの視線から逃げるように顔を背ける。そして次の瞬間、シルさんの甲高い、しかし嬉しそうな悲鳴が木霊した。
そしてリューさんの襟首を掴んで、店の奥へと足早に去っていった。去り際のシルさんの…。
「全部聞かせてね!」
の言葉と。
「クラネルさん…」
真っ赤に染まったまま、僕を睨んでくるリューさんの顔が脳裏に焼き付いた。
……ごめんなさいリューさん。でも、あの目には逆らえなかったです…。
去っていったリューさんが、どうなったのか心配になった僕は扉から顔を覗かすが、店の裏まで連れてかれたようで、その姿は確認できなかった。
その代わりに…。
「ーーーなんだ貴様、生きていたのか」
「ーーーあんたこそな」
ーーーーーー
その後僕達は、初めて向かう『タケミカヅチ・ファミリア』のホームに来ていた。
僕達の探索に協力してくれた命さん達に、そして主神であるタケミカヅチ様に、改めてお礼を言うために。
王様は興味がなかったため、あまり時間がかかる事でもなかったため、ホームの外で待つことにした。後、ややこしくするから。
「ーーータケミカヅチ様、今回は本当にありがとうございました」
「いや、礼を言われる筋合いはないぞ。今回はこちらが悪かった。主神として改めて謝罪しよう、すまなかった」
頭を下げる僕に対して、神であるタケミカヅチ様も頭を下げる。そして、その側にいた命さんも次いで頭を下げる。
今僕の目の前にいるのは、タケミカヅチ様と命さんの二人だ。
桜花さんも出迎えるつもりだったが、18階層の無理が来たのか、今は寝込んでいる。
一応、18階層を出る前に
……桜花さんは、本当に良く働いてくれたからなぁ(意味深)。
千草さんは看病を、他の団員は回復薬の買い出しに出ているとのこと。
「ベル殿、今回は本当に申し訳ない!」
「い、いえ!」
床に膝をつき、頭を下げそうになる命さんを必死で止める。タケミカヅチ様はそんな僕らを見て、苦笑いを浮かべる。
「しっかし、ヘスティアの所はうなぎ登りだなぁ。今も人気を上げる君に、王様ってのも凄く強いんだろ?」
称賛の言葉をかけてくれたタケミカヅチ様に、僕も苦笑いで返してしまう。
僕自身、純粋に褒められたことは嬉しかったが、それ以上に王様の、あの階層でのインパクトはでかすぎた。
帰りの道中命さんに聞かされたが、王様は自身の力も強かったらしい。…それ以上にジャガ丸の存在があるが。
命さん曰く…。
『あの方は登場と共に、ズバーンと、迫り来るモンスター達を倒してしまったのです』
……うん、良くわからないや。
でもあの時、僕に剣をくれた時に出した波紋に何か関係があるのかな?後で王様に聞いてみよう。
確かに僕のファミリアは、今は絶好調かもしれない。新たに入ってくれる人も増えたし、それに相棒も。…後、ジャガ丸もいるし。
そう言えば彼女の名前って、命さん達に似てるな。もしかして同じ出身かも知れない。
そう思った僕は二人に、新たらしく眷族になった春姫さんの話をした。
新たらしく眷族が増えたことに、違うファミリアとはいえ笑顔を浮かべていた二人だったが、彼女の名前を言ったとたん、笑顔が消えた。
「えっ、タケミカヅチ様?それに命さんまで、どうしました?」
「ベル…」
「ベル殿…」
真剣な表情を浮かべる二人に、まるで言ってはいけないことを言ってしまったと錯覚してしまう。
不味いと思って狼狽している僕の肩を、タケミカヅチ様がガシッと掴む。
「……そいつの名前は?」
「えっ、えっ?た、確かサンジョウノでしたけど…」
瞬間、命さんは疾風の速さで玄関から飛び出ていった。タケミカヅチ様も奥へと消えていき、そして戻ってきたと思ったら、寝込んでいる筈の桜花さんと、その看病をしていた千草さんが現れた。
しかしそれも束の間、僕にすまんと、深々と一礼して命さんと同じく去っていったしまった。
戻ってきたタケミカヅチ様も、靴を履いて何処かへ出かける準備をし始める。そして靴を履き終えてから、再度僕の肩を掴む。
「すまん、実はそいつは命達の知己なんだ。どういう経緯でヘスティアの所にいるのか分からないが…」
そう言ってタケミカヅチ様も、去っていってしまった。
そして直ぐにリターンして、ホームには金目のものがないから戸締まりは大丈夫だと、告げられた。
……まさか本当にお知り合いだったなんて。
一人ポツンと残された僕も、何時までいるのはあれなので、外に出ることにした。
外に出て、壁に寄り添って本を読んでいる王様の元へ向かう。入る前は持っていなかったはずなのに…。いつの間に…。
「王様?」
「む、終わったか?何やら騒がしかったが、また問題でも起こしたか?」
呼び掛ける僕に、王様は本から顔を上げ問いかける。いくら王様でもそれは酷いですよ、人をトラブルメーカーみたく言うなんて。
違いますよ、と首を横に振って否定して答えると、王様はまた本へと視線を戻した。どうやら読みながら歩くらしい。
一体何を読んでるのか気になって、王様に素直に質問してみた。
「これか?何、貴様のためのものではない。これは臣下たるリリに授けようかと思っているものだ。我も、暇潰しで読んでいたに過ぎん」
使うかどうかは本人次第だがな、と王様は持っていた本をパタンと閉じた。
気になった僕であったが、あまり追及すると、王様からありがたい拳骨を頂くのを直感したため辞めた。
そして僕らはいよいよ、今回の本題であるギルドへと足を向けた。
……さぁ、エイナさんと会うぞ。でも大丈夫、今の僕の隣には王様がいる。きっとなんとかしてくれるさ。
「さっさと済ませよベル、我はそこのソファーで待っているぞ」
「えっ?」
こうして僕は、一人でエイナさんと話すことになった。
し、死んでしまう…。