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17階層にて、ギルとジャガ丸を見送った二人。未だ傷む体だが、
戦闘時間事態は短かったが、予想外の出来事が起こったため時間を取られたことには変わりはない。束の間の休息をとった後、Lv.6の
最初、ギルに今回の戦闘で得た魔石を渡そうとしたが…。
「ーーーそんな石ころなどいらん!」
一蹴され、どうしようかと悩んだ二人は、取り合えず自分達が持ち帰って、後でベルに渡そうと結論付けた。
その体と同じ大きさの魔石。しかしながら、そのステイタスで強化された力は、その重さを感じさせなかった。
両手が塞がってしまったが、元より上層の敵など歯牙にもかけない二人には、特に問題はなかった。
現れるモンスターの攻撃をかわし、その間をすり抜け地上へと向かう。
「……帰ったら報告することが、また一つ増えたね」
「……うん」
……アイズは最早何度助けられたか分からない、彼の背中を考えていた。自分達とは違う力を持ち、自分とは隔絶した高みにいる彼。
……その彼に、アイズは
ーーーーーー
『オオオオオオオオオオオッ!!』
17階層の洞窟の前に佇んでいたゴライアスは、持っていた黒大剣を地面に突き刺し、雄叫びを上げながら18階層の中央の、戦場へとその巨体で走り向かってくる。
その様子を見て、戦場にいる冒険者も、アスフィとリューでさえ絶望してしまう。
……最早これまでか。
全員が諦めたその時、黒いゴライアスは異常な行動をとる。
『ゴァアアアアアアアアアッ!!』
向かってくるゴライアスに咆哮を上げる。そして右腕を後ろに振りかぶる。その光景に、リューをはじめとした冒険者達は、何をと訝しむ。
『オオオオオオオオオオオッ!!』
そしてゴライアスもまた、
『ーーーーーーーーーー』
轟音が戦場に鳴り響く。お互いに腕を振りかぶった階層主達は、その仲間であるはずのお互いに攻撃したのだ。
交錯する二つの巨人の腕。必殺の一撃とおぼしきそれを、同じ一撃を持って迎撃した。腕を交錯させ、お互いの力で敵を倒そうとする。
しかし両者の力は拮抗していた。黒いゴライアスは、言わずもがな通常のそれとは異なり、そして目の前にいるゴライアスもまた、通常のそれとは同じではなかった。
灰褐色の皮膚の上に血管が浮き出ていた。一目見て異常な体、だがそれ故にその力は増していた。
目の前にいるのは同族のはずなのに、お互いは仇敵を見るような目で睨み付けていた。
余波の風の勢いだけで、何人かの冒険者は後方に飛ばされる。しかし未だ冒険者達は、その目の前で行われる大型モンスター同士の闘いを、呆然と見ることしかできなかった。
ーーーーーー
「一体なんだって言うんだっ!?」
戦場を一望できる丘にて、仰向けに寝かせたベルを必死で呼び掛けていたヘスティアは、突如現れた二匹目のゴライアスの行動に叫び声をあげる。
今は仲間割れをしている二頭のゴライアス。しかし、いつその脅威が自分達に向けられるか分からない。
「ーーーベル様っ!」
今だ目覚めないベル。そこへ、あのゴライアスが持っていた物と同じ黒大剣を持つリリが、息も切れ切れに駆け寄ってきた。そして傷付くベルのその姿を見て息を飲む。
血だらけの体となった桜花の治療をしていた命と千草が、その声に振り返り、同時に危険を察知した。
……囲まれていた。
先程までは冒険者の者達が、周りのモンスターを倒していたが、二頭目のゴライアスの出現によって驚愕で動けないため、ここまでの接近を許してしまったのだ。
治療していた命がいち速く行動する。いやこの場において、モンスターと対峙できるのは彼女しかいなかった。
迫りくる小型のモンスターを迎撃するが、この場においてそのモンスターだけではなかった。
「ミノタウロスまで…っ!」
敵との戦闘を行う命は、そのモンスターに続くように、こちらに向かってくるミノタウロスの群れを見て戦慄する。
命一人では捌ききれない程の数。最早これまでか、と絶望する。
「まずいっ!誰かいないのかい!?」
ヘスティアが襲いかかるモンスター見て、周囲に呼び掛ける。しかし他の冒険者は呆然と立ち尽くし、気付いていない。
「王様、何処にいるのですかーーー!!」
リリの悲痛な悲鳴が木霊する。ここにはいない、今は行方不明となっている人物を。
ミノタウロスが命に、その手に持つ
「ーーーまったく、そう叫ばなくとも聞こえておるぞ。して雑種共、我のモノに手を出したその罪、その身で払うがよい」
リリが待ち望んでいた人物が、今までいなかった王が…。
ーーー剣の雨と共に帰還した。
ーーーーーー
「まったく…。我がしばし留守の間に、随分と様変わりしたものだ」
向かってくるモンスターの反対側、リリ達の後方から悠然と歩んでくる。
襲ってきたモンスター達は、降り注いだ剣の一撃をもって灰へと帰っていた。目の前で対峙していたモンスターが、その後ろにいたモンスター達が、全て降り注いだ剣によって消えたことに、命は目を見開き。
その声の人物をよく知っているリリも、ヘスティアも勢いよく振り返った。だがヘスティアは同時に驚愕する。あり得ないと。
……どういうことだいっ!?彼には恩恵を授けてないはずだ!
この世の冒険者としての力、恩恵。それが無ければ魔法も、スキルも使えない。この世の絶対的なルール。
「お、王様君ッ!い、今のは一体…」
「王様ッ!一体今まで何処へ行っていたのですか!」
問いただそうとしたヘスティアだったが、リリの声によってかきけされてしまう。振り返る命達でさえ、知らなかった彼の力。
「何、些事で出向いたつもりだったのだが、思ったより時間がかかってしまってな」
突如現れたギルは、周囲の視線が集まっている事など気にせず、側に寄ってきたリリに視線を向ける。
眼下では、今だ大型モンスターが闘いあう中。今だ戦場を絶望が支配する中。それを、気にする素振りすら見せなかった。
近寄ってきたリリの頭をポンポンと撫でた後、今だ瞠目するヘスティアの側へと歩みを進める。いや、その側で横たわるベルへと。
ーーーーーー
『貴様に英雄の名は重たいか?』
闇の狭間を漂うベルの意識に、誰よりも尊敬し、憧れた人物の声が響き渡る。
その声を、その響きを、ベルは知っている。ーーー否、誰よりも聞いている。
『大方貴様のことだ、また中途半端な行いをしたのだろう』
今までこの戦場に居なかった人物は、断定するように言葉を告げる。
……持ち得る全ての力を振り絞って出した一撃。しかし、その人物はそれを否定する。
混濁する意識の中にいても、それは否定したかった…。自分はよくやったはずだと。
『たわけが、今だ発展途上の貴様が、そんな結果で満足するな』
だがその人物は許さない。発展途上、それが意味することは、ここが限界ではない。
……いやそんなことはない、あれは自分の力を限界まで高めた一撃だったはずだ。
『忘れたか?貴様の力は、王たる我が認めているのだぞ』
……っ!!
『折れてもよい、認めてやる。挫けてもよい、よかろう許してやる。泣いてもよい、貴様も所詮人の身だ。しかし敗北は許さん。それが我が
……なんだ、認めてくれてたんだ。なら…。
『願いを貫き通せ、その想いを叫んでみせよ』
……笑みを浮かべる、目の前の人物の顔が思い出される。否、目に写る。
『さぁ、立ち上がれベルよ!貴様の
「ーーーッッッ!!」
覚醒する。
「ベル、くん…」
立ち上がった僕に、神様は呆然と声を落とす。
傷付いた僕の目の前にいたのは、やっぱり
僕を見つめていた王様は、立ち上がった僕を見て満足気にフッと笑う。
……起きろ、戦え、もう一度剣を執れ。この
何よりも、大切な仲間達を救うために。限界まで、いや限界を超えて、己を賭けよう。
「ベル様ぁ!」
彼方から駆け付けてきたリリが、その小さな体を一杯に使って、その身に持つ黒大剣を渡そうとするが、それを王様が手で制す。
一体何を、と瞠目するリリに向き直る事なく、王は立ち上がった臣下に、いや英雄に相応しい武器を、己が宝物庫から取り出す。
目の前に現れた歪みに、丘にいる皆が瞠目する中、その柄を引き抜く。そしてその引き抜いた剣の柄を僕に差し出す。
「本来なら、武功を立てた功績にくれてやる予定だったが、あのような不出来な玩具では貴様の真価は計れん。故に、先払いで授けてやる」
この王が武器を授ける。それがどういう意味を持つのか、この場にいる誰もが知らない。それは『剣姫』が、『勇者』ですら許されなかったこと。
リリが持っていた黒大剣を玩具と下す。誰もがその剣の禍々しさに息を飲むが、王が差し出した黄金の剣の前では、それさえ霞んで見えるほどだった。
禍々しさを放つ黒大剣に対して、その黄金の剣は同等の、いやそれ以上の聖なる雰囲気を醸し出していた。
丘にいる皆が見守る中…。
……憧憬を燃やせ。願望を吠えろ。
もとより僕に他者に勝る唯一があるとすれば、それは、愚かで、幼く、かけがえのないーーーその一途な想いしかないのだから。
「っっ!」
ーーー
『
白光を収束させる蓄力の出力が跳ね上がった。
リン、リン、という
ーーー手に持つ黄金の剣から、戦場を照らす極光が立ち上る。
ーーーーーー
その音に、その光に気付いたのは、リューとアスフィ、そしてモルドだった。
後方の丘に振り返り、それを放つ人物を瞳で捉え、同時に確信する。
……この場を終わらせる事が出来るのは、アレしかないと。
しかし周囲の冒険者達は違う。今だ眼前で猛威を奮い続ける二頭の階層主に怯え、逃げ惑っている。
「逃げるな、てめえらあぁ!!」
そんな仲間達を押し止めようとするモルド。しかし、冒険者達は目の前の恐怖に錯乱し、聞こえていない。
「勝負にでます…!」
「分かりました!」
ならばと、後ろで怯える冒険者達を目覚めさすために、そして、その後方で蓄力しているベルの時間を稼ぐために、最前線に立っていた二人は、意を決す。
『『オオオオオオオオオッ!?』』
二頭のゴライアスが殴りあい、そしてお互いに雄叫びを上げ後方へ尻を付く。勝負に出るには今しかなかった。
「行きます、合わせて下さい!」
「言われなくともっ!」
疾駆する。狙いは目の前にいる灰褐色のゴライアスだ。こちらに背を向けている方に、当たりを付けていた二人は、攻撃を仕掛ける。
アスフィは持っていた
『オオオオオオオオオッ!!』
「ぐっ!?」
「
直前で気付いたゴライアスに、掴まれる。爆煙が視界を遮っていながら、本能で迫りくる脅威を防いだのだ。
掴まれたリューに、悲鳴染みた声で呼び掛ける。が、右目を失ったゴライアスはその掴んだ力を緩めない。いや、その失った右目さえ、ぼこぼこと音をたて回復していた。
せっかく今の爆音で、視線こそ集められたものの、これでは意味がない。内心で、これまでか、と諦めた時…。
「ーーージャガ丸ッ!!」
ーーー王の怒声が木霊する。
掴まれているリューが、それを目の前で見ていたアスフィが、そして戦場にいる全ての冒険者が、その声の主へと視線を向ける。
怒声の主はその双眸を吊り上げ、リューを掴んでいるゴライアスを睨んでいた。
丘で蓄力していたベルでさえ、そして周りにいたヘスティア達も、その人物の怒声に目を見開く。
……一体何を、と皆が共通の疑問を上げるなか。
「貴様、下僕の分際で我の命に背くのかッ!!」
下僕、つまりは彼の手下のような者だろう。しかし、この場においてそんな名前の者はいない。誰もがそう思う、いや、そんな人物いないだろう、と。
しかし、一人だけ違った。否、一頭だけ、その人物の声に反応していた。
『ゴァァッ!?ゴァァァッ!!』
リューを掴んでいるゴライアスが、高速で首を横に振る。…まるで王の発言に応えるように。
……まさか。ここにいる誰もが、側にいた
「ならば、その手に掴んでいる、リューはどういうことだ!!」
皆の視線がその人物から、リューを掴んでいるゴライアスへと移る。
……いやいや、あり得ない。と誰もが信じられない中。
『ゴァッ!?ゴァァッ!?ゴァァ…』
反対側の空いてる手で、さも、違いますと手を振るゴライアスがいた。
そして、その手に持つリューをゆっくりと地面に下ろす。
……ない。いやいや、ない。下ろされたリューでさえそう思う。
皆が言葉を失い、戦場に似つかわしく空気が流れる中。その人物に、とことこ、とリリが近寄ってくる。…確認するためだ。
「あの、王様…?もしかしてですけど、あのゴライアスって…」
「ん?何を訝しがっておる、それにあやつの名はジャガ丸だ。…んん?もしや、言ってなかったか?あれは先程、我の下僕として飼い始めたのだ」
あっけらかんと告げる。問いかけたリリが、逆に硬直する。戦場の中で告げられた驚愕の事実に、全員が同じように固まる。
しかし戦場は動き続ける。背から倒れていた、黒いゴライアスがその身を起き上がらせる。
「ジャガ丸!貴様は、そこの雑種を足止めしていろ!止めはベルがさす!!」
王の命が下る。全員が首をギギッと動かすと…。
『オオオオオオオオオッ!!』
ーーービシッと敬礼するゴライアスがいた。
それは見事な敬礼だった。モンスターが敬礼をする。しかも階層主が、だ。
そして王の命を遂行するため、起き上がってきた黒いゴライアスへ、再び襲いかかる。
「ありえない、ありえない…」
「落ち着きなさい、アスフィッ!私も同じ気持ちです…!」
信じられない事実に、壊れたように首を横に振るアスフィ。肩を揺するリューでさえ、遠い目をしている。
「見たか…。あれが、テイムだ…」
「桜花、傷が開いちゃうよ!?」
「違います、あれは違います…」
気を失っている桜花のうわ言を、命が否定する。リリは口を開いたまま固まって、ヘスティアはギルを指差し「知ってるかい。僕、恩恵与えてないんだぜ…」とまるで他人事のように小さく呟く。蓄力中のベルも、隣にいるギルに、口をパクパクさせている。
17階層、階層主ゴライアス。今は名を改めジャガ丸。その頼もしい、いや頼もしすぎる援軍。
「何をヘンテコな顔をしておるベル。言っておくが、アレは貴様が倒すのだぞ」
「っ!」
視線に気付いたギルは、横にいるベルにそう告げる。思わぬ出来事に忘れていたが、アレを倒すのは僕だ。
緩めていた表情を引き締め、眼下にいる黒いゴライアスを