ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ヘスティア「ぬふふっ、エアを抜くと思ったかい?残念、可愛い僕でしたー!」

ギル「ふざけ過ぎだ貴様っ!王の怒りを思い知るがいい…!」

天の鎖「はーい、縛るよ」

ヘスティア「ぐわぁっ!?や、やめるんだ王様君!?」

エア「呼ばれてきました」

ヘスティア「へ、ヘルプミー!王様君!」

ギル「喧しい!死して拝せよ!『天地乖離す開闢の星』 」

ヘスティア「ぐわぁぁぁ!」

ベル「神様が死んだ!?」

春姫「問題ないですね♪」

ベル「この人でな…えっ?」

感想欄見て思い付いた、小ネタ。





天の理

夜営地を離れ、ひっそりとした森の中を歩く。人の気配はなく、誰かにバレる心配はない。

 

「……あの、ヘルメス様。一体どこまで?」

 

僕は、付いてきてくれと言われここまで何も話さない神物ーーーヘルメス様に堪らず声をかける。

 

既に森のかなり奥のほうに進んでおり、何か大事な話をするなら問題ないようにも感じられる。

 

「……よし、ここがいいな」

 

とある木の前で足を止め、慣れているのかその長い手足を巧みに使いよじ登っていく。

 

……何しているんですか?

 

ぽかんとしている僕にも登ってくるよう促し、言われるまま後を追うようにその木に登っていく。

 

もしかして木の上で話があるかと思ったが、そんなことはなく、幹から幹へと入り乱れる枝道を進んでいく。

 

「へ、ヘルメス様!?は、話があるんじゃあ…」

 

「話?やだなぁベル君、オレはそんなこと一言も言ってないぜ?」

 

ちょ、ならなんでですか!?と疑問の声をあげる前に、ヘルメス様ずんずんと進んでいく。

 

……なら何で呼んだんですか!?

 

そんな僕の心の声が聞こえたのか、しばらく進んだ所で足を止めたヘルメスは、こちらに振り返った。

 

……晴れやかな笑みを浮かべて。

 

くいっと、親指で示されたとある方向からは…。

 

ーーーけたたましい滝の音が聞こえてくる。

 

「ここまで来たら、分かるだろう?…覗きだよ」

 

「!?」

 

その予想できなかった答えに、思わず目をひん剥く。…な、何を言っているんですか!?

 

「女の子達が水浴びしてるんだぜ?そりゃ覗くに決まっているだろう?」

 

「決まってませんよ!?」

 

「今更恥ずかしがるなよベル君。どうせいつもヘスティアと背中を流しっこしてるんだろ?」

 

「してませんよっ!?」

 

「大丈夫。君の所には王様君もいるんだろう?なら彼の法律に『覗きは正義』と加えてもらおう」

 

「殺されますよっ!!?」

 

何言ってんだこの神!?

 

赤面しながら叫ぶが、食えなさすぎる神物はハハハッと笑い声をあげながら再び前進する。死に物狂いで追うが、淀みのないその動きを止めることはできなかった。

 

「駄目ですっ、止めましょうヘルメス様!こんなことしたら…」

 

「静かにベル君、ここで騒いだら第一級冒険者には簡単にバレてしまう」

 

はっ、と反射的に口を手で押さえてしまう。枝の下方を見下ろすヘルメス様の先には…。少なくない女性冒険者達、見張りがいた。

 

……ま、まずい!?

 

目を大きく見開いて顔を振り上げれば…。

 

ーーーニコリと清々しい下劣な笑みを浮かべるヘルメス様がいた。

 

……駄目だこの(ひと)、もう手遅れだ…。

 

「ヘルメス様っ!駄目です、殺されちゃいます…!?」

 

「情けないなぁ、ベル君。覗きは男の浪漫(・・・・・・・)だぜ?君とは上手い酒が飲めると思っていたのに…。君の育ての親、それに王様君は一体何を教えてきたんだ」

 

屈みながらじりじりと前に進むなか、その言葉を告げられ、ハッと胸が揺れた。

 

覗きは、『男の浪漫』…?

 

胸の奥から、遥か昔、幼少の頃、あの祖父が幼児(ぼく)に語ったこと。

 

『……け』

 

脳内で黒い瘴気が立ち込め、懐かしい声が微かに聞こえてきた。な、なんだろう?

 

『行けぇ!ベルー!』

 

……お祖父ちゃんも手遅れだった。

 

脳内でけたたましく叫ぶ懐かしい声は、しきりに行けと、命じてくる。

 

……た、助けて神様!

 

暗黒(きおく)の蓋の中から、叫ぶ情けないお祖父ちゃん。それに耐えきれず堪らずヘスティア様に救いを乞う。

 

『大丈夫だよ、ベル君…』

 

か、神様!

 

暗黒の中、一筋の光明が感じられた。た、助けにきてくれた!

 

しかし、そんな淡い願望は次の一言で砕け散った。

 

『僕を覗きたいんだろう?いいともさ!ああ、許すともさベル君、さぁ来るんだっ!』

 

……駄目だこいつら、早くなんとかしないと…。

 

助けにきてくれたと思っていた神様は、いつの間にかお祖父ちゃんの隣で手招きしていた。

 

脳内で二人が誘う中、ヘルメス様は、僕の胸中を見透かしているのか、その下劣な笑みを更に深める。

 

……もう駄目だ、おしまいだぁ…。

 

全てを諦め、もう流れに身を委ねようとした時…。

 

『ーーー天の鎖!』

 

黄金の光と共に、救世主が現れた。

 

登場と共に現れた鎖は、次々と現れ神様とお祖父ちゃんを縛り付ける。

 

『な、なんだこれはっ!?』

 

『ぐわぁぁぁ!?お、王様君!?』

 

鎖に縛られた二人は苦悶の表情を浮かべ、蓋の奥にいる人物に視線を向ける。

 

……お、王様っ!

 

『たわけどもがぁ!そのようなハサン染みた真似、我の(ベル)に教えるでない!』

 

ハサンが何か分からないが、言葉から察するに嫌な奴なんだろう。王様は鎖で捕らえた二人を、ズルズルと引っ張り奥のほうに引きずり込む。

 

『『や、やめろー!?』』

 

『貴様ら下種には地の理では生温い、天の理を示してやる…!』

 

……暗黒の蓋は閉じられた。

 

蓋の中は激しく動き、二人の悲鳴が漏れてくる。僕はそれを聞き流し、一瞬でも過ってしまった邪な感情を振り払う。…二人のご冥福を祈って。

 

「か、帰りましょう、ヘルメス様っ!?」

 

意識を現在(いま)に戻し、ヘルメス様を掴もうと動こうとする。

 

「……彼は一体何者なんだ?」

 

えっ?

 

そのポツリと呟いた言葉に、さっきまでとは違うその表情に、ピタリと動きを止めてしまう。

 

どうやら僕が脳内で騒動を起こしている間、ヘルメス様も思考に耽っていたらしく、その視線は僕の方に向いていたが目は僕を見ていなかった。

 

……動きを止めてしまったのが、不味かった。

 

「あっ、ベル君。そこは…」

 

意識を覚醒させたヘルメス様は、僕が踏んでいる小枝を目にして、ポツリとこぼす。

 

嫌な汗が頬を伝う中、僕は視線を下に向ける…。

 

……あっ、これは駄目なパターンだ。

 

直後、僕の体は宙へと投げ出された。

 

ーーーーーー

 

「……ない」

 

「たわけぇ!ふざけた戯れ言を申すなっ!きちんと付いておるわっ!!」

 

「いえ、あの、その、そういう意味では…」

 

驚きのあまり声に出してしまった言葉に、彼はそれを聞いた瞬間怒声を上げた。

 

……あの、本当にそういうのは…。

 

思わず突っ込んでしまったが、顔は熱を帯赤く染まっているだろう。

 

「……では何が無いと言うのだ、リューよ?」

 

苛立たしげな表情そのままに、私の方に向き直る。…下手な言い訳では、また謎のスキル(・・・)を放たれかねない。

 

もうここまでかと、覚悟を決め。私は正直に話すことにした。

 

「……いえ、貴方にはステイタスがないと知り、驚きの声を上げてしまいました…。申し訳ない」

 

「……ステイタス?ああ、アレか…。ふん、我がそのようなものあやつから貰うわけなかろう」

 

言葉を無くしてしまう。ステイタスをロック出来ることは知っていましたが、恩恵を貰わずスキルを使えるなど聞いたことがない。

 

……いえ、正確ではないですね。古代(・・)の時代、その時代の者達は恩恵等という物はなかったため、己が力で戦ったいたと聞きます。その時代の先祖のエルフ(わたしたち)は魔法を使えたと伝えられていますし。

 

ですが現代(いまのじだい)において、恩恵を貰わずにスキルや魔法を使える者など聞いたことがない。ましてや彼はヒューマン(・・・・・)、私達魔法種族(エルフ)のように特化している訳でもないのに…。

 

「大方貴様らは、我が宝持庫をそのようなちんけなものと勘違いしているのだろう。…あながち間違ってはおらんが、格そのものが違い過ぎるわ」

 

……宝持庫?

 

会話の中に現れたその単語に、私も、彼の反対側にいた彼女も首を傾げる。

 

一体それは?その言葉を口にしようとした時…。

 

「ーーーうわぁぁぁぁ!?」

 

森の奥、私達の正面方向から、何者かの絶叫が聞こえてきた。

 

その声はどんどんと私達の方に近付いており、まさかモンスターに追われている?と考えた私と彼女は勢いよく立ち上がり、万が一に備える。

 

「何者だっ!」

 

その人物は、泉の縁まで勢いよく転がってきて、グシャっと、その顔を地面に埋め込ませた。

 

その白髪の人物に一応の警戒をしていたのですが…。

 

「剣を納めよ、貴様ら。ベルだ」

 

唯一、その声に動じず体勢を変えなかった彼は、その白髪の人物の名を告げた。

 

地面に埋め込ませた顔を、必死で抜こうとしている彼は、良く良く見れば、いつも見たことのある冒険者の服装をしているクラネルさんだ。

 

その人物が分かった私達は、手にかけていた剣から離す。…何事かと思いましたが、彼でしたか。

 

「それで?一体何事だ、ベルよ?」

 

「お、王様っ!?そ、それが地面に穴が…」

 

勢いよく顔を引っこ抜いたクラネルさんは、声の主である彼に答えようとして。…瞬時に固まった。

 

その視線は両隣にいる私達を交互に移り変わっていき、その顔を真っ赤に染めてから、再び地面に顔を突っ伏した。

 

「お、おおお、王様!?一体何を!?」

 

「ん?見てわからんか、沐浴だ」

 

「そ、そういうことじゃないです!?な、何でアイズさんとリューさんが、そ、その()でいるんですか!?」

 

……?彼は一体何を?この通り、服を着て…っ!?

 

彼の言葉が気にかかり、視線を下に、自身が着ているはずの服に向ける。

 

ただしそれは、もはや服としての機能を失っており、水に浸りすぎて透け透けだったが。

 

「「ッ!?」」

 

立ち上がっていた私達は、勢いよく再び水面に体を沈める。わ、忘れていました!

 

「こやつらか…。何、我の裸に欲情してな。あまりにも不憫に思った我が、王の情けとして同席を許したまでだ」

 

「こ、これが英雄王(おうさま)の力…!?」

 

「「ち、違う…」」

 

赤面しながらも、全力で否定する。だが彼はクラネルさんの反応が面白かったのか、哄笑する。

 

「くっくっ。貴様はまっことうぶな奴よの、良いぞベル、貴様も同席しても?」

 

えっ、と小さく呟いたクラネルさんは、思わず顔を上げてしまう。私達は泉の中に体を沈めているため、先のように体を見せてはいない。

 

……彼のステイタスを暴こうと、成り行きでこうなってしまったため、その彼には申し訳ないが…。

 

「……申し訳ないクラネルさん、今回は…」

 

「……ごめんね」

 

「う、うわぁぁぁん!!」

 

目を伏せ、彼に謝罪した瞬間。正に脱兎のごとく、再び森の奥へと消えていった。

 

ーーーーーー

 

ダンジョンの上、オラリオの街では活気が溢れていたが、特にすることもない春姫と偽ベルは束の間のお昼寝を楽しんでいた。

 

「すぅすぅ…」

 

「キュィ…」

 

昨日は酷い目にあったが、寝ている時ならば問題はないと油断していた偽ベルに、その悲劇は起こった。

 

「……てい」

 

「キュ、キュィィィ!?」

 

突如腹部に走る激痛。そのあまりの衝撃に、ベットの上から壁へと叩きつけられた。

 

い、一体何が…っ!?

 

その一撃で、瞬時に天へと登って行きそうになってしまう。薄れゆく視界の先、偽ベルはそのベットの上で、未だ寝息を立てている犯人を見据える。

 

「……くすくす。駄目ですよ、王様。そんな方達と一緒にいては…」

 

寝ているはずのその人物は、くすくすと笑いながら寝言をこぼしていた。

 

最後にその言葉を聞いた偽ベルは、ガクッと頭を下げ、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ぅん?あれ、偽ベル?」

寝ている時、何かの夢を見ていた春姫は、ふと近くにいるはずの存在を探っていたが、いつの間にか居なくなっていることに気付き、意識を覚醒させる。

寝惚け気味に、周囲をキョロキョロと見回すと、壁に寄りかかり死に絶えそうな偽ベルを発見する。

「偽ベルッ!?」

即座にその場に駆け寄り、その手で偽ベルの顔をペチペチと叩くが、反応はない。

「う、嘘…」

一体誰が…?

周囲を確認するが、今のファミリアのホームには他の者など誰もいない。

回復魔法など使えず、手元に回復薬(ポーション)など一つもない。

どうにかして、助けなきゃ…!

突然の出来事ながらも、必死に命を救おうと考えた春姫がとった行動は…。

「ーーーてい!」

「キュィィィ!?」

ーーーショック療法だった。

「偽ベルッ!気が付いた?よかったぁ…」

「キュ、キュィ…(もういっそ、楽にしてくれ…)」

何とか一命はとりとめました。

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