ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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リヴィラの街

野営を行っていた場所から険しい道のりを経て、僕達は眺めのいい高所に出た。

 

恩恵を与える側の神様は、慣れない運動ですっかり息があがってしまっている。対照的にヘルメス様、そして恩恵を貰っていない王様は全然平気そうだった。

 

「はっ、はぁっ…、へ、へぇ壮観じゃないか」

 

「ほう…」

 

神様も王様も、そして僕達も目が奪われるそれは、18階層全体の景色だ。

 

……迷宮(ダンジョン)でこんな光景が見れるなんて。

 

各々が思い思いの感想を口にし、僕もこの美しい景色を胸へ刻み付け、ここを後にし僅かばかりもない道を経て…。

 

「わぁ…!」

 

念願の目的地に到着する。木の柱と旗で造られたアーチ門に、僕は思わず感嘆の声を上げる。

 

水晶と岩に囲まれた宿場町…『リヴィラの街』。

 

「この街を経営するのは、他ならない冒険者達です。細かい規則や領主などは存在せず、各々が好き勝手に商売を営んでいます」

 

皆と並んで辺りを見回しながら、アスフィさんの話を聞く。…何故か後ろにいるアイズさんは眠いのか、瞼を下げては上げてを繰り返している。

 

……昨日寝れなかったのかな?

 

暫く歩く僕達は、見晴らしのいい広場へと出た。

 

「流石にこの人数で移動するのは周りに迷惑だ。ここからは自由行動、各自行きたい…」

 

「ベル、あっちを見に行くぞ。リリよついてこい」

 

ヘルメス様が提案している最中に、僕は王様に首根っこを掴まれ、そのままなすすべなく引きずられてしまった。

 

「は、はい!王様!」

 

「あぁ、ベル君!?王様君待ってくれたまえよ!?」

 

名を呼ばれたリリ、そして王様の行動に驚いた神様はその後をついてくる。

 

「あっ…、行っちゃったよ。まぁいいか、じゃあアスフィ行こうか」

 

「……」

 

残されたヘルメス様はアスフィさんに声をかけてから、僕達の方向に歩いてくる、桜花さん達は別の方向へと歩いていった。そしてアイズさんは無言で見ていた、…いや立ったまま寝ていて今起きたのか、アイズさん達もまた僕達の方向に向かってくる。

 

「お、おい!?待てよお前ら、置いていくなよ!?」

 

……ぞろぞろと去っていくことで、一人残されたヴェルフが悲鳴じめた声を上げ駆けてきた。

 

ーーーーー

 

「……ん?何故付いてきている雑種共!」

 

「そうだぞ、ヴァレン某君!」

 

「お、王様、神様も落ち着いてくださいよ!?」

 

「ははっ、賑やかでいいじゃないか」

 

付いてきたことにお冠な王様。何故かアイズさんにだけ文句を言う神様。王様は小さく舌打ちをしてから、視線をリヴィラの街並みに戻す。

 

……しかしこの街、恐ろしく値段が高い。

 

「ここでは武器や道具、食料などを、通常価格の何倍もの値段で販売しています」

 

店を見ながら、アスフィさんが説明をしてくれる。…確かに迷宮では簡単に物資を確保できないけど…。それにしても高すぎる…。

 

案の定、ここでバックパックを買おうとしていたリリが値札を見て固まる。今回普通にダンジョンに入っていた為に余りお金を持ってきていないのだ。

 

ぐぐっと、悔しそうに呻くリリだったが、ふと王様を見やると何やらぶつぶつと思考してから、王様に近づいて行った。

 

……確かに王様なら持ってそうだけど、無理じゃないかなぁ…。

 

「王様。リリにこれを買ってください」

 

「……如何に臣下と言えど、そのような無礼我が許すとでも思うか?」

 

底冷えするような声。しかし、リリはそれさえ折り込み済みなのか、臆することなく言葉を続ける。

 

「王よ無礼をお許しください。しかし、これは必要経費(・・・・)です」

 

「ほぅ…」

 

……ひ、必要経費?

 

その単語にピクリと反応をしめし、微かに笑みを浮かべる。

 

「臣下たるリリは、これが必要と判断したのですが…。王様が駄目と仰るなら…」

 

「ふっ。そう悲壮めいた演技などするなリリよ、王たる我の目はごまかせん。しかし、貴様には微々たる褒美しか与えてなかったな。よかろう此度の経費我が落としてやる。何、必要経費だ致し方あるまい」

 

あぁ、と崩れ落ちるリリの行動は傍目から見ていた僕らでさえわかる演技だった。けれど王様はそれを咎めることなく、バックパックを買うと発言した。

 

……す、すごい…っ!

 

僕が驚愕の表情を浮かべている中、王様は店員に近付き商品の値段のヴァリスを渡す。そして、リリはそれを王様から受け取って、笑顔を王様に向ける。

 

「流石です、王様!やっぱり、英雄の中の英雄王様は違いますね!」

 

「ふっ。そう褒めるでない、つい店ごと買い取ってしまいたくなるではないか」

 

褒め囃し立てるリリに、王様は愉快そうに笑う。…さらっと凄いことを言って。

 

その様子を、とある店の香水を眺めていた神様は、くねくねと変な動きをしながら王様に近づいて行った。

 

「王様くーん。僕もあの香水が欲しいんだけど、これも経費ってことで…」

 

「……匂いを付けたいのであれば、そこにあるゴミでも塗りたくればよかろう」

 

神様に対して店の裏側に設置してあるごみ箱を指差す王様。い、いくら何でもそれは言い過ぎですよ。

 

「ひ、酷いじゃないか王様君!」

 

「たわけ、貴様のは経費でも何でもないわ。それ以上せびるとこの我自らごみ箱に放り込むぞ」

 

……それでも諦めきれないのか、神様は王様の足にすがり付き懇願する。あぁ、何時もの光景だなぁ…。

 

その神として情けない姿に、他の面々は苦笑いを浮かべる。…何も言ってこないことだけが救いだった。

 

その後、神様は土下座の上位互換?らしい土下寝なるものをして、王様から香水を買ってもらった。

 

だからだろう、僕は周囲のことを良く見ていなかった。

 

「あぁん?」

 

「あ…。す、すいません!?」

 

ドンッとすれ違おうとした、とある冒険者の肩とぶつかってしまった。その相手に慌てて謝ったが、ふとその顔には見覚えがあった。そして、それと同時に目の前の冒険者が瞠目する。

 

「てめぇ、まさか!?」

 

「間違いねえ!モルド、こいつと後ろにいる奴も、あの酒場の時の奴らだ!?」

 

モルドと呼ばれた強面のヒューマン、そしてその後ろに控える二人の男達。以前『豊穣の女主人』にてリューさん達に叩き伏せられた冒険者だった。

 

「何でてめぇがここにっ!?」

 

酒場の醜態を根に持っているのか、僕に掴みかかってこようとしたが、側にいたアイズさんを見てその手がピタリと止まった。

 

目元を震わせ驚愕の表情を浮かべたモルドと呼ばれた冒険者は、ちっ、と舌打ちをして仲間とともに去っていく。

 

「おいおい、ベル君。また何か因縁をつけられているのかい?」

 

「まったくだ、ベルよ。あのような見知らぬ雑種と何かしたのか?」

 

「王様、覚えてないんですか!?」

 

王様と神様が問いかけてきたけど、王様は一度会ってますよね!?

 

しかしながら本当に覚えてないようで、しかも興味がないのかまたリリと談笑し始めた。王様ぁ…。

 

神様の後ろにいたヘルメス様も、その事に疑問に思っていたため、二人には事情を説明した。

 

ヘルメス様はふぅん、呟きその体を振り向かせ、道の奥で小さくなっていくモルド達の背中を、じっと見つめていた。

 

ーーーーーー

 

「ねぇねぇ、皆で水浴びしに行こうよ!」

 

時間は正午に差し掛かる前辺りだろうか、そんな中野営地に戻った女性陣に問いかけるティオネ。

 

その問い掛けに、姉のティオナが軽い冗談を言ってから賛同し、リリやヘスティアも同意するように頷いた。

 

命及び千草、そしてアスフィもまた話を聞いていたのか、自分達もと同意した。

 

「アイズも行こうよ!」

 

「うん…」

 

「沐浴か…。雑種、疾く案内するがよい」

 

背後からアイズに抱き付いたティオネ。そこに話を聞いていた中で唯一興味を示したギルは、さらっと自分も参加することを告げる。

 

「何、貴方も入りたいわけ?残念だけど混浴じゃないわよ。男はあっちよ」

 

アイズに抱き付いたままキョトンとしていたティオナに代わるように、ギルの後ろからティオネが答えた。本人も、最初から一緒に入ろうなど露ほども思っていないため、指し示された方向に歩んでいった。

 

「……」

 

「どうしたの、アイズ?」

 

一人だけ、何時までもその去っていくギルに視線を向けるアイズに、抱き付いたまま問いかけるティオネ。

 

「うぅん…。あ、私着替え、持ってくるから…」

 

「あ、うん、わかったよアイズ。じゃあまた後でね!」

 

するりと抱きついていたティオネから抜け出したアイズは、他の女性陣に先に行くよう促してから自身のテントの方に戻っていった。

 

「……チャンス」

 

その呟きは、誰にも聞かれてはいなかった。

 

ーーーーーー

 

「……ん」

 

テントの中は私だけだった。…恐らく彼女は他の方を案内するのに、朝から出たのでしょう。

 

テントの入り口から顔を覗かし、顔に光が当たるのが感じられる。『ロキ・ファミリア』の方と思われる冒険者達が、外に出て活動をしていた。…話がチラリと聞こえましたが、今はどうやらお昼前らしい。

 

「……水浴びでもしましょうか」

 

昨日の夜は色々あり、結局寝れたのは朝方のほう。ここまで来たことと、今まで寝ていたこともあり、どうにも汗を流したい衝動に駆られる。

 

……流石にこれ以上トラブルは起こらないでしょうし。

 

決断した私はすぐさま移動し、目的地に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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