ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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迷子発見

18階層、安全階層(セーフティポイント)と呼ばれているここで、僕達は『ロキ・ファミリア』に、アイズさんによって救助されていた。

 

遠征からの帰路の途中、ここで野営をしているらしく、そこでふらりと歩いていたアイズさんが僕達を発見し、このテントに運び込み治療までしてくれたらしい。

 

「リリとヴェルフも目を覚まして良かったよ…」

 

「申し訳ありません、ベル様…」

 

「足ひっぱじまって、悪い…」

 

今現在は、二人とも無事目を覚まし『ロキ・ファミリア』の人達と一緒に外で食事をしている。

 

「そ、そんなことないよっ!」

 

謝罪してきた二人に、僕は声を荒げてまくし立てる。そんな僕の様子が可笑しかったのか、二人は目を白黒させて、苦笑いした。

 

「二人のおかげで、パーティー全員がいたからっ…、だから生き残れたんじゃないの?」

 

「……だな」

 

「誰か一人欠けても駄目だった、ですね」

 

苦笑いの後、二人の顔が晴れ配られた食料に口に運ぶ。とたん吐き気を催しかけた。

 

……何この雲菓子(ハニークラウド)ってやつ、甘っ!?

 

むせ返りそうなのを必死に堪える、その僕の態度にリリが、食べましょうかと言ってきたので、リリの口に食べさせようとしたとき、ヴェルフが横合いから綺麗に強奪(しょり)してくれた。

 

そのヴェルフの行動に、リリはゲシゲシとヴェルフを蹴る。蹴られている本人は胸焼けで苦しんでいるのか、あまり気にしていなかった。

 

「アルゴノゥトくーん!」

 

そんなやり取りをしていたら、ティオナさんがこちらに歩み寄ってきた。その後ろには姉のティオネさんが。

 

そして、どかっと僕の左右に腰を下ろしてきた。

 

……えっ?

 

「話、色々聞かせなさいよ。一宿一飯の恩よ、構わないでしょ?」

 

「うん、聞きたい聞きたーい」

 

割って入ってきた二人に、リリはぎょっとし、アイズさんも小首を傾げる。

 

……と言うより、近付き過ぎですお二人とも!?

 

そんな二人の距離に、僕の顔は真っ赤になっていた。

 

そんなこと露知らずと言った風に、ティオナさんは爆弾を投げ込んできた。

 

「どうやったら能力値(アビリティ)オールSに出来るの?」

 

……呼吸が止まった…。

 

痙攣した笑みを浮かべる僕に、瞳を細めるティオナさんが薄く笑っていた。まるで吐くまで逃がさない、と言うように。

 

……何で知っているのっ!?

 

いっそのこと正直に「努力デス」と言ってみようかな…。この雰囲気からすると絶対にそれでは許してくれそうにないけど…。

 

アイズさんも、何でもない風にしているが耳をこちらに向けて、一言一句聞き逃すまいとしている。

 

ヴェルフはファミリアの先輩に絡まれ、リリはティオナさん達ごと僕を睨んでいるし…。

 

……つ、詰んでる。

 

『ーーーぐぬあぁっ!?』

 

『おのれーっ!?リュー、貴様!』

 

その声はいきなり聞こえてきた。誰よりも聞き覚えのある二人の声。

 

ばっとリリと顔を合わせてみると、目を見開き僕の思考に肯定するように頷いた。

 

「すいません、行かせて下さい!」

 

ティオナさん達の返事を待たず、駆け出す。その後ろからリリも僕に追走し、ヴェルフも遅れて立ち上がる。

 

直ぐに目的の17階層と18階層をつなぐ洞窟が見える。『ロキ・ファミリア』の見張り番が、いち早く駆けつけていたが、その肩の後ろから顔を覗かせると…。

 

「くそっ!王様君でもゴライアスは無理だったのか!」

 

「ははは!賭けは賭けだぜ、ヘスティア!」

 

……悔しそうに地面を叩く神様と、その隣で大笑いしている男神様の姿が。それ以外にも悔しそうにしている者や、何故かガッツポーズをしている者もいる。

 

……しかし僕は、いや僕達の視線は一組の男女(・・)にくぎ付けにされていた。

 

「ええい!さっさと我の上から退かんか、リュー!?」

 

「いえ、あの、その、ええっ!?」

 

腰まで届くフードの付いたケープを羽織り、下はショートパンツを履いており、ロングブーツとの組み合わせで折れてしまいそうな脚線美が目立つその女性は。

 

勢い良く飛び込んだのか、そのケープがめくられ特徴的な耳が見えていたエルフの女性に見覚えがあった…。

 

ーーー『豊穣の女主人』の店員リューさんだ。

 

そんな彼女は今…。

 

「何時まで我の上に股がり、手を握っているつもりだ!」

 

「あの、その、嘘…」

 

ーーー王様の上に股がり、その両手をがっちり握っていた。さっきの僕なんか目じゃないくらい顔を真っ赤にさせて。

 

……oh…。

 

「ベル君!良かった、王様君!ベル君が…。oh…」

 

思考停止している僕に飛び付いてきた神様だったが、王様を呼ぼうと後ろを振り返った瞬間、同じような言葉を口にしていた。

 

……その光景を目撃して固まっている僕達は…、唯一ヴェルフだけがリューさんと面識が無かったが、しかしその光景に顔を手で覆っていた。

 

「ええい!いい加減にそこから退け!」

 

「キャッ!?」

 

痺れを切らした王様が、握られている片手を勢い良く引き体を反転させた。その行動に、何時もからは考えられない声をリューさんは上げた。

 

「まったく…。我の上に股がり欲情でもしていたのか?時と場所を考えるがよいリューよ。…ん?ベル、貴様何処まで迷子になっていたのだ!」

 

「よ、欲情…」

 

そして、立ち上がった王様は僕を見つけ声をかけてきた。…リューさんはその言葉にショックを受けているのか、放心状態のままその場で寝そべっている。

 

……ま、迷子って、いや、合ってはいるのかな?

 

「全く、世話のかかるやつだ。…して貴様、何時まで横になっているつもりだ?」

 

「え?」

 

声をかけられた事によって、意識を取り戻したリューさんだったが、無意識によるものなのかその手を上げていた。

 

「ふん。この我に手を引けと?貴様も貴様で手のかかるやつだ」

 

そう悪態をつきながらも、その手を引きリューさんを立ち上がらせる王様。リューさんは再度手を握られた事によって、何かぶつぶつと小声で喋っていた。

 

そんなリューさんを尻目に、王様は神様に抱きつかれている僕を手招きしていた。

 

……何だろう?そんなことを考えて近寄ったら…。

 

「手間をかけさせるな、ベル!」

 

ーーー王様のありがたい拳骨を頂いた。

 

今でも僕は、あれは理不尽だったと思っている。

 

……こうして、18階層で僕達は王様達と合流した。

 

ーーーーーー

 

「ふっ!」

 

『キュイイ!?』

 

「あっ…。ご、ごめんなさいです、偽ベル。大丈夫?」

 

『ヘスティア・ファミリア』のホームで留守番していた春姫だったが、突如近くのものを殴りたい衝動に襲われ、近くにいた偽ベルを殴り付けていた。

 

『キュ、キュイイ…』

 

「良かったぁ…。大丈夫ならいいよね?それじゃあ『豊穣の女主人(ここ)』に行きましょう」

 

か細い鳴き声を上げ、首を上下に動かす偽ベルを見て春姫はほっと、安堵の溜め息を吐き、お腹が空いたため地図に載ってある場所を目指す。

 

その後に続くように歩く偽ベルは、痛むお腹に手を当て「この人の機嫌を損なわないようにしなくちゃ…」と、本能で感じ取っていた。

 

 




18階層は、OUSAMAダークネスの予定です。

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