ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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18階層
明くる日


荒い息づかいそのままに、ヘスティアは街を駆ける。昨日の夜からダンジョンから戻らないベル。そして、酒を飲みに出掛け、昨日のオラリオを震撼させた何かが起きそのまま帰ってこないギル。もしかしたらそれに巻き込まれたのかも知れない。

 

「ーーーッ!」

 

嫌な考えが脳裏を掠める。自身の恩恵を与えたベルの生死は、それによって確認出来ているが、もう一人の方は与えていない。

 

ーーーつまりその身に何が起こったのか、まったく分からないのだ。

 

「アドバイザー君!?」

 

「か、神ヘスティア!?」

 

ギルドの窓口にて、忙しなく動き回っていた顔見知りの職員に大声で話しかける。それによって、奇異の視線がヘスティアに向けられるが、構うことなくエイナにその勢いのまま用件を伝える。

 

「ベル君が!王様君が!昨日から帰って来ていないんだっ!!」

 

「な、何ですって!?」

 

その聞かされた内容に戸惑いを隠せない。その瞳を愕然と見開き、直ぐ顔色を青色にさせた。

 

お待ちくださいと、断りを入れ窓口から離れ、周囲の職員に聞き込みをしながら奥へと消えていった。

 

数分が経ち、戻ってきたエイナの顔色は戻っていなかった…。

 

「換金所の者や、他の職員に聞いてみましたが、誰も彼等を見ていないと…」

 

その告げられた答えに、ヘスティアは固まった。そして、神の直感(あたま)がズキズキと痛む。

 

「……アドバイザー君。クエストの発注を頼む」

 

「……申し訳ありません、神ヘスティア。今ギルドは昨日の事件の対処に当たっていて、今すぐにとは…」

 

最悪の答えが返ってきた。ヘスティアも知っていたとはいえ、昨日の事件がここまで大事になっていたとは予想が出来なかった。

 

……聞けば昨日の事件は、オラリオにおいて最悪の事件となっていた。

 

歓楽街の崩壊。生存者、目撃者共になし。そして、一夜明けた今でも何の情報も得られていなかった。

 

しかも、緊急の神会(デナトゥス)も開かれるとのこと、そんなもの勿論、今のヘスティアが出るわけがないが…。

 

「ア、アドバイザー君!頼む、何とか救出隊を…」

 

「……」

 

悲鳴にも似た声を上げるヘスティアに、エイナは何も答えられなかった。

 

どうしようもないのか…。そう脳裏に過ったとき…。

 

「ーーーヘスティア!」

 

「タケ…ッ?」

 

背後から自身を呼ぶ神友がそこにいた。

 

……沈痛そうな表情を浮かべる、眷族と思しき少女を隣に置いて。

 

ーーーーーー

 

時計の針が夕刻に近付いていることを知らせる。

 

『ヘスティア・ファミリア』のホームの上にある教会。そこでベル及び、ギルの捜索のための会議が行われていた。

 

ヘスティアと神友のミアハ、ヘファイストス。そして、先程ギルドにて声をかけてきたタケミカヅチ及びその眷族だ。

 

「すまん、ヘスティア。お前の子、ベルが帰ってきてないのは、俺達に原因があるかもしれん」

 

「……」

 

ギルドでヘスティアが悲痛の叫びで訴えているのを見て、命は事の顛末を包み隠さず主神に告げた。

 

……そして、それをヘスティアにも話した。

 

タケミカヅチの謝罪に、ヘスティアは腕を組んで目を瞑っていたが、しばし沈黙を貫いた後。他の神達が見守る側で、その瞳を開き、子供達の顔を見回した。

 

「ベル君達が戻ってこなかったら、君達のことを死ぬほど恨む、けれど憎みはしない。約束する」

 

ヘスティアは子供達を許した。その女神の慈悲深く寛容さを感じさせる眼差しに、彼女達は初めて主神以外の神に心を打たれた。

 

「今は、どうか僕に力を貸してくれないかい?」

 

『ーーー仰せのままに』

 

一糸乱れない動きで子供達は膝を床についた。その子供達の様子に、男神は目を細目、眼帯をする女神は神友に笑みを送った。

 

そして、探索に当たるための会議を本格的にしようと思った時…。

 

「ーーーオレも協力するよ、ヘスティア!」

 

教会の扉から、その優男の男神は現れた。己が眷族と共に。

 

「ヘルメス!?」

 

「お前、どうしてここに!?」

 

「おいおい。あれだけギルドで騒いでたんだ気付かないとでも思っていたのか?」

 

軽くあしらうように笑うその男神は、他の神が見守る中ヘスティアに近づく。

 

「やぁ、ヘスティア。久しぶり」

 

「ヘルメス…、何のようだい?今は君と話してる暇は…」

 

「眷族を助けたいんだろう?オレも協力するよ」

 

見てたのか…。ヘスティアはギルドでの経緯を見ていた男の瞳を見つめ返す。

 

「何で協力するんだ、ヘルメス。言え」

 

心友(マブダチ)を助けるためさ。それなら手を貸すに決まっているさ!」

 

それに、他の団員にはもう一人の捜索に当たって貰っているよと、告げるヘルメス。だが、その告げられた言葉をもってしても警戒は解かない。

 

「本当にそう思っているぜ。ーーーオレも、ベル君を助けたいんだよ」

 

それは先程までのふざけた雰囲気ではなく、真面目な声音で語られた。

 

ヘスティアを見つめるヘルメスの瞳、それにふぅとため息を吐いてから、ヘスティアは。

 

「分かった…。お願いするよ、ヘルメス」

 

「ああ、任された!…と言ってももう一人の眷族の情報はまだ無いけどね」

 

その言葉にぐっと喉を詰まらせたが、それでも頼むよと、再度頼んだ。

 

その後、ヘルメスが共に連れてきた眷族をプラスして、捜索隊を送り出すことを決める。

 

「……じゃあヘスティア。それをよろしくね、私達は神会に行くわ」

 

「すまぬ、ヘスティア。手を貸せず」

 

良いさ、と来てくれた二人の神友に。そして、捜索隊に眷族を出してくれたタケミカヅチに礼を述べた。これから起きる緊急の神会に出席するため彼等は教会から去っていった。

 

残ったヘスティアと、その三人の後から出ていったヘルメスは探索隊の一員としてダンジョン(・・・・・)に向かう。

 

……先程こそこそと聞いていたのを知り、ついていくを決めた。

 

……せめて、ベル君だけは生きていて欲しいと願って。

 

「しかし、いいのかい?神会に出なくて?」

 

「いいさ、後で他の神に聞くさ。…どうせ何も分からないだし」

 

ヘルメスがギルドに行ったのは、昨日の事件の情報を求めてなのだが、そこで何も得られなかった事から出る気はなくなっていた。

 

後頭部をかきながら、教会を後にする二人。集合時間まで準備するため戻るとのこと。

 

「……これは、あと一人助っ人を頼むかぁ…」

 

ーーーホームではなく、別の場所に。

 

ーーーーーー

 

「……さて、僕も準備しなくちゃ」

 

僕の呼び掛けに応じてくれた、神友達が去っていったのを確認した後。地下室に続く階段を下る。

 

……ヘルメスのところに頼んだけど、本当に王様君は…。

 

沈痛そうな顔を浮かべたが、いけないと頭を振る。彼が死ぬはずないと、そう信じて。

 

僕も早く準備して、集合場所に向かおう…。

 

階段を下りきり、そこは無人のはずの部屋。

 

しかし…。

 

「む?ヘスティアか。何処に出掛けていた?」

 

「お、王様君っ!?」

 

ーーーいるはずのない人物がいた。

 

「い、一体何時から!?」

 

「なんだその顔は…。明け方には帰ってきてたわ」

 

そのいつも自身に向けられる呆れた顔を見て、あぁ本人だと確認したヘスティアはダイブした。

 

「うわぁぁん!?王様君!!」

 

「ええい、なんだヘスティア!?」

 

突如突っ込んできたヘスティアに、目尻を吊り上げそのままぶん投げようとしたが、その目に涙を浮かべていたのを見て、止めた。

 

「ぐすっ。良かったよ、ぐすっ。心配したんだから!」

 

「まったく…。この我の心配をするなどホトホト貴様は駄神だな」

 

泣いているために、上手く言葉を喋れないヘスティア。しかし、その頭はポンポンと撫でられていた。

 

「それで、ベルのやつはどうした?今日も穴蔵に入っているのか?」

 

「そ、そうだよ王様君!?ベル君も君と同じで昨日から帰って来ていないんだ!」

 

暫くして泣き止んだヘスティアに、この場所に居ないもう一人の人物を聞き、今だ帰って来ないことを知る。

 

その事を知り、はぁとため息を吐く。

 

「また手間をかけさせる…。迷子になるとは、情けないやつだな」

 

「迷子って…。いや、あってはいるけど…」

 

「仕方あるまい。しばし待っていろヘスティア、直ぐ連れ戻してくる」

 

立ち上がり出ていこうとするが、直ぐに今まであったことを説明し皆で行くから待ってくれと頼んだ。

 

他の者がいることに、いらんと言っていたが。流石に中層に向かうのに彼一人だと心配を通り越して、無謀だ。

 

何とか説得し、皆で行くことを認めてくれたのだが…。

 

その時初めて気付いた。奥のベットで寝ている、誰かに。それはちょこんと、金色の尻尾はみ出し揺らしていた。

 

「お、おおお、王様君?」

 

「どうした?」

 

「アレは誰だい!?ど、何処から連れてきたんだいっ!?」

 

「あぁ、アレか…。拾い物だ、故に気にする必要もあるまい」

 

……いやいや!?何言っているんだい!?

 

拾い物!?アレどう見ても人じゃん!!

 

驚愕する僕に対して、気にする素振りも見せず、カップに注がれた紅茶を優雅に飲む王様君。

 

「ま、アレは留守番させておけばよい。さ、行くぞヘスティア」

 

「ま、待ってくれたまえ王様君!?ちゃんと説明を!?」

 

しかし、説明してくれるはずもなく。二人はホームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明け方。月見酒を楽しんだ後、かつてベル達が訓練していた壁の上に降り立ったギル。そこでやっと春姫は目を覚ました。

「あ、あれ?あっ王様、ここは?」

「やっと目を覚ましたか…」

手に抱えられていた春姫は、先程までと違う景色に寝惚け眼で周辺を見回す。そして、何処にいるのかが理解できた。

だが…。

「えっ?嘘!きゃあああっ!?」

ーーー次の瞬間、ギルはそこから飛び降りた。春姫を抱えたまま。

「では戻るとするか…。ん?」

何事もないように着地したが。手に持つ春姫は再び寝ていた。否、気絶していた。

「……面倒なやつだ」

一瞥し、そのままホームに戻っていった。

春姫はお留守番です。






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