ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ベルのランクアップを祝うことになった。

『豊穣の女主人』にてささやかな打ち上げをすることになった。


酒宴

「た、大変だった…」

 

「むっ?やっと来たかベルよ」

 

「ベル様!こちらです!」

 

『豊穣の女主人』に向かう途中、神様達に囲まれ酷い目にあった僕。店に駆け込んだ僕を見て、王様とリリは声をかけてきた。

 

二つ名を神様から聞くために残ったのだが、王様は待たずに先にお店に来ていてお酒を飲んでいた。

 

「ベル…?」

 

「白髪のヒューマン…、間違いねぇよ。『リトル・ルーキー』?」

 

「あれが、世界最速兎(レコードホルダー)か…」

 

王様達のテーブルに向かっている間に複数の視線が僕に向いているのがわかった。

 

僕は奇異の視線に晒されて、首を傾げた。

 

……やっぱり、僕を見ている?

 

見られていることに緊張し、姿勢を低くしながらテーブルに向かい、腰を下ろした。

 

「一躍人気者になってしまいましたね、ベル様」

 

「そ、そうなの?何だかすごく落ち着かないんだけど…」

 

「名を上げた冒険者の宿命みたいなものです。どうか我慢してください」

 

「はん、いちいち反応するでないベル。しょせん有象無象の雑種、気に止める必要もない」

 

……相変わらずだなぁ…。

 

王様の不遜な物言いに苦笑いしながら、僕はシルさんに飲み物をお願いした。

 

数分後、いつか助けてくれたリューさんと一緒に戻ってきたシルさんは、僕に飲み物を渡してから同じテーブルに座った。

 

「あの、シルさん達はお店のほうは…?」

 

「酌の相手がいないと王様が怒るだろ?とミア母さんの伝言です」

 

「……ふむ。今日はリリが相手をしていたが、そういうことなら…。リューよ、注げ」

 

「はい」

 

僕の隣にシルさんが、王様の隣にリューさんが座り、そしてリリが持っていたお酒を受け取り、グラスに注いだ。

 

「さぁ、ベルさん。沢山飲んでくださいね?今日はベルさんが主役なんですから。それとも、何かお食べになりますか?」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「リリよ、それを我によそえ」

 

「はい、王様!」

 

 

……僕のランクアップのお祝いなんだよね?

 

リューさんにお酒の酌をしてもらい、リリにツマミを小皿によそわせている王様を見て、そう思ってしまう。

 

……て言うか、リューさんが持っているお酒…。あれはワインかな?すごく高そうだし…。

 

「むっ?どうしたベルよ。貴様も飲むなり食べるなりするがよい。今日は貴様がランクアップしたことを祝うのであろう?」

 

「そうですよ、ベルさん!」

 

「は、はい。…そう言えばシルさん、すごい機嫌良さそうですね?」

 

王様もそう思ってくれてることに、内心でホッとしたが、どうにも先程からシルさんは、興奮しているように思える。

 

「そうですか?…でも、私のお手柄というのはおこがましいんですけど…。あの本を渡して、ベルさんのお役に立てたのかな、って。そう思ったら、なんだか嬉しくて」

 

こちらの瞳を見つめて上目使いに微笑むシルさんは、強烈だった。

 

そして机の下でのリリの足への蹴りも、痛烈だった。

 

極めつけは、王様の投げたフォークだった。痛い。と言うかおでこに刺さった。

 

「って、王様酷いですよ!」

 

「たわけ。我の前でその様な情けない顔を見せるでない」

 

フォークを抜いて抗議したが、王様は冷めた目で僕を見ていた。隣にいたリリもうんうん、と同意するように首を縦に振っていた。

 

「ですが、本当におめでとうございます。よもやたった一人でランクアップを成し遂げるとは…。どうやら見誤っていたようだ」

 

「い、いやぁ…」

 

先程の流れを断ちきるように、リューさんは賞賛の言葉をかけてくれた。

 

いやぁ、嬉しいですけど。上手く笑えない…。

 

「それでクラネルさん、今後はどうするのですか?」

 

「?」

 

「貴方達の動向が、私はいささか気になっています」

 

……明日はリリがお休みするって言ってたし、壊れた防具の買い物かな?それにダンジョン探索もそろそろ再開しなきゃなぁ…。

 

と考えていた僕の思考が分かったのか、王様が口を開いた。

 

「……間違っているぞベルよ。こやつの言っているのは、もっと先だ」

 

「え?」

 

「はい。…そうですね、具体的に言いましょう。貴方達はダンジョン攻略を再開させる際、すぐに『中層』へ向かうつもりですか?」

 

その言葉で、やっとリューさんの意図がわかった。

 

ランクアップしたこともあるし、顔を覗かせようとは思っていた。…それに王様もいてくれるなら。

 

「ベルよ。我は今後、穴蔵には潜らんぞ」

 

「「えっ?」」

 

リリと僕の声が重なった。

 

「……どうにも貴様は我にすがろうとする節がある。それでは貴様が育たんからな」

 

「っ!」

 

その答えに僕は先日のミノタウロスとの闘いを思い出した。

 

……そうだ、僕はあの時王様にすがってしまった。情けなく震えながら。

 

「なに、そう険しい顔をするでないベルよ。あの時のこと我は許そう。だがこの先は別だ、今後も我にすがるようなら…」

 

「分かっています。…でも」

 

僕は俯いてしまった顔を上げ、王様の目を見た。

 

「これからは、あんな無様な真似は見せません!」

 

「フッ、そうか」

 

僕の答えに王様は満足気に笑い、お酒をあおった。リリ達は何が何やらという風に、話が理解できなかったが、王様が笑ったのを見て飲むのを再開した。

 

「では…」

 

「はい。ひとまずは11階層で体の調子を整えて、もしも行けそうだったら12階層まで…。そんな感じにします」

 

「ええ、それが賢明でしょう」

 

上層の区切り、12階層までは足を踏み入れると伝えた。その先は…いよいよ中層だ。

 

「そうするとベル様、リリ達もパーティーを増やさないとなりませんね」

 

「ええ。そうすべきだ、ダンジョンには三人一組(スリーマンセル)が基本。貴方達は後一人、仲間と呼べる者を見つけた方がいい」

 

リリの提案にリューさんは同意した。リリと僕だけでは、いざというときに戦えるのは僕だけになる。

 

う~ん、と首を傾げ悩む。

 

仲間になってくれる人に心当たりが無さすぎて、意見を求めようと王様をチラッと見る。

 

「……言ったそばから我にすがるでない。貴様がどのような雑種を選び、こき使おうが我は文句は言わん」

 

……駄目だった。

 

ていうか別にこき使いませんよ!?

 

僕は文句を内心で押し止め、また悩んだがいい案は出てこない。

 

……そんな時。

 

「はっはっ、パーティーのことでお困りかぁっ、『リトル・ルーキー』」

 

えっ?誰?

 

他のテーブルで飲んでいた、冒険者と思われる男が声をかけてきた。その後ろを見ると仲間を二人連れていた。

 

すごい、いかついなぁ…。

 

「話は聞ぃーた。仲間が欲しいんだろ?なら、俺達のパーティーに入れてやろうかぁ?」

 

その内容に驚いた。まさか見ず知らずの他人から、パーティーの誘いを受けたのだから。

 

「それで、な!俺達がお前を中層に連れてってやるから…」

 

雲行きが怪しいな…。

 

他の皆もどこか嫌な予感…というよりこの冒険者達の目付きから、予想出来ていているのか嫌悪感バリバリだ。王様に至ってはゴミを見るような目で見ている。

 

「この嬢ちゃん達を貸してくれよ!?こんのえれぇー別嬪のエルフ様達をよっ!」

 

うわぁ、うわぁ…。

 

王様のゴミを見るような目が、他の皆にも浸透していた。

 

でも、珍しく王様は口を挟まなかった。いつもなら「失せろ」と一蹴していたのに…。

 

もしかして、僕に決めて良いと言っていてたから、何も言わないのかな?

 

それならばと、こういう場は相変わらず慣れないが、意を決して断ろうとしたとき…。

 

「いい。結構です。貴方達の手は、彼に必要ない」

 

黙っていたリューさんが口を開いた。

 

「……おぉ?何でだい、俺達じゃあソイツのお守りは務まらないかい?」

 

「ええ、だから帰りなさい」

 

「ひひっ、聞いたかぁ!俺達が足手まといだとっ!逆じゃなくてよ、はっはっ!?」

 

男達の哄笑。僕は立ち上がる機会を失ってしまい言葉を挟めない。

 

「嬢ちゃん、俺達これでも全員Lv.2だぜ?」

 

「なんだやはりゴミか。我の勘違いかと思っていたが…。リューよきちんと片付けよ、貴様の店の格が疑われるぞ?」

 

「申し訳ない、王よ。さぁ、ゴミ箱(おかえり)はあちらです」

 

そう言って出口を指すリューさん。

 

……なんで、この人達煽るの得意なの?

 

豪快に笑っていた男達は、その顔を怒りで染めて今まで黙っていた王様に向き直った。

 

「テメェーーー」

 

王様に触ろうとすると、どうしても手前のリューさんをどかさなければならない。そのため男達が、その手をリューさんの肩に置こうとした刹那。

 

「触れるな」

 

僕の飲みかけの大ジョッキを掴み取り…。

 

がぽっと、音を立てて男の手は見事容器に収まった。そのまま立ち上がり、ジョッキをひねった。…中に手が入ったまま。

 

「いっ、ででででででぇっ!?」

 

腕をとんでもない角度に曲げられ、悲鳴をあげる。苦悶する仲間を助けようと、後ろの二人が動こうとしたとき…。

 

「「はげっ!?」」

 

仲間も悲鳴をあげ、地面に叩きつけられた。その背後を見ると、二人のキャットピープルがモップを肩に担いでいた。

 

「ニュフフ、後頭部がお留守にニャっていますよ、ニャ」

 

「王様。直ぐ片付けますニャー」

 

笑みを浮かべるクロエさん、獣耳ピコピコ動かすアーニャさん。

 

やったのは彼女達だけど、一応この人達Lv.2だよ!?

 

「……なっ、なんなんだっテメェ等はぁぁぁ!?」

 

リューさんにあしらわれた男は、腰に装備してあった短剣に手をかけた。…が、その直後別の方向から大爆発が起きた。

 

こ、今度は何っ!?

 

カウンターの台の真ん中が床に陥没しており、その場には、握りこぶしを振り下ろしたミアさん。

 

「騒ぎを起こしたいなら外でやりな。ここは飯を食べて酒を楽しむ場所さ」

 

そして一喝。店内は静まり返り、他の店のお客さんも縮こまっていた。…唯一王様は動じず、ワインを飲んでいたが。

 

男は逃げ出そうと仲間を抱え込んで、出口に向かう…。

 

「アホタレェェッ、金は払っていくんだよぉ!!」

 

「は、はいぃぃっ!?」

 

ミアさんの怒号に、男は大量のヴァリス金貨が詰まった袋を床に置いて、店から逃げるように飛び出した。

 

Lv.2のパーティーが、裸足で逃げ出していく酒場…。

 

「まったく。以後気をつけよ、貴様等」

 

「「はいニャ、王様!」」

 

王様はそんな男に目もくれず、キャットピープルの二人に注意してから、懐から袋を取り出した。

 

「だが。よい余興にはなった、少ないが取っておけ」

 

「「ありがニャき、幸せ!」」

 

……どう見ても、置いてった袋より入ってるんですけど!?

 

恭しく受け取った二人は、そのままミアさんにそれを渡しに戻っていった。

 

「すいません、せっかくの場に水を差す真似をしてしまって」

 

「い、いえ、大丈夫です…」

 

こういうの慣れてないのって、僕等だけかなぁ…。

 

狼狽が抜けきらない僕は、正面のリリを見た。

 

「ふふっ、王様は相変わらずお凄いですね!」

 

……リリは王様に称賛を送りながら、また小皿にツマミをよそっていた。

 

こういうの慣れてないのって、僕とシルさんだけかなぁ…。

 

横にいるはずのシルさんを見た。だがそこにはシルさんは座っておらず、カウンターからボトルを抱えて戻ってきていた。

 

「はい、王様!ミア母さんからチップのお礼と、つまらないものを見せたお詫びだそうです」

 

「ふむ。ではリュー注げ」

 

「はい」

 

ボトルをリューさんに渡して、シルさんはまた席に戻った。そして周りを一度見てから手を叩き。

 

「それじゃあ、仕切り直しをしましょうか?」

 

僕だけかぁ…。

 

 




木曜までには決めます。

没ルート好評だなぁ…。

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