ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ついにLv.2となったベル。

神会(デナトゥス)で二つ名を決めることになるが、そこに一枚の紙が紛れ込む。

そして、待望のスキルが発現する。


英雄願望

「もうエイナの弟君の馬鹿ぁ!」

 

「……ごめんミイシャ、でも言い過ぎだよ…」

 

ギルドのとある一室。

 

ミイシャと呼ばれた小柄な女性は小言を言いながらも書類を製作していた。

 

神会が間近に控え、ミイシャは書類製作を終わらせて一息付けると思っていた矢先に、急遽報告されたベルのランクアップ。

 

……一ヶ月半でLv.2になるなど思っても見なかったことに、ミイシャはあり得ないっ!と内心で叫びながら書類を書き進めた。

 

「て言うか、この活動報告もあり得ないし!どうすればLv.1の冒険者がミノタウロスに勝てるのっ!?」

 

「それについては、確かにそうだね…」

 

活動報告書の中に記載されている情報を見てミイシャは叫び、エイナは再度頭痛がする頭を右手で抑えた。

 

「まったくもーっ!」

 

苛立ちの声を上げながら書類は書き進められた。

 

……そうして、不出来ながらも完成した書類だったが、その時に一枚の紙が混ざってしまった。

 

ーーーーーー

 

『第ン千回神会開かせてもらいます、司会進行はうちことロキや!よろしくー!』

 

『『『イェー!』』』

 

円卓についていた神々は盛大な喝采と拍手をして盛り上がった。

 

糸目がちな瞳を笑みの形に緩ませながら、周囲の神々に手をあげて自身が司会に成ったことを告げる。

 

今回から初参加のヘスティアはその様子を見て不満げに呟いた。

 

「……何でやつが司会進行役なのさっ」

 

「自分から買って出たらしいわよ?何でも暇なんですって」

 

「ふんっ、暇なやつ」

 

ロキの姿を見て悪態をつくヘスティア、ヘファイストスは神友のそんな様子を見てため息を一つこぼした。

 

そんな様子を気にせず神々は好き勝手に喋りだし、忙しなく話題を変え情報を交換し合った。

 

「……ならそろそろ次に進もうか。命名式に…!」

 

それまでの弛んだ空気を一変させて、神々は緊張した面持ちに切り替えた。が…。

 

神会常連の一部の神々は、これ見よがしにゲスな笑みを浮かべた。

 

「資料は行き渡ってるな?ならいくでー?」

 

そうして悲劇(うたげ)は始まった。

 

神々の感性によってけられる称号は、子供達は目を輝かせるが…。

 

「じゃあセトの所の、セティっちゅう冒険者は『暁の聖龍騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)に決定!』」

 

「イテェエエエエエエッ!?」

 

神達はその『痛恨の名』で見悶えてしまう。

 

今も決定された称号に悶絶する神、そんな彼を指し爆笑する神々。

 

「ひ、酷すぎる…」

 

「あんたの気持ちはよーくわかる…」

 

ベルに意気揚々と無難な称号を勝ち取ってくると豪語したヘスティアだったが、その凄惨な光景にむ、惨いと目を背けた。

 

 

今も自分の気のいい神友が慟哭を散らしていたが、犠牲者は絶えることなく命名式は進んでいった。

 

そして…。

 

「じゃあ、いよいよ次で最後や!」

 

ヘスティアはぐっと息を吸い込んだ。

 

神会が始まる直前に滑り込んだこともあって最後になっていた、ベルだ。

 

そして、ヘスティアは周囲に目を向けた。

 

……沢山の笑みがあった。それはそれは下品な笑み(いいえがお)だった。

 

最初で最後の正念場だとヘスティアは己に言い聞かせる。

 

ーーーその直後、ロキが静かに立ち上がった。

 

「……ロキ?」

 

「二つ名決める前になぁ、ちょっと聞かせろや、ドチビ」

 

周囲の反応を一切無視し、先程までの雰囲気を一変させ細い目をスッと開く。

 

「一ヶ月半でうちらの『恩恵』を昇華させるっちゅうのは、どういうことや?」

 

バンッ、と。ベルの資料の上から手のひらを卓に叩きつけた。

 

「うちのアイズでも最初のランクアップを迎えるのに一年かかったんやぞ?それをこいつは一ヶ月やと?なにアホ抜かしとんねん」

 

過去のLv.2到達最高速度と同記録であった偉業に、オラリオが、世界が大いに騒いだ。

 

「うちらの『恩恵』はこういうもんやない。おいこら、ドチビ、納得でけるよう説明せえ」

 

「……」

 

凄みを利かせるロキに、不味い、非常に不味いと胸中でだらだらと汗が流れた。

 

「言えんのか?まさか(うちら)の力使ったんやないんやろうな?」

 

「そ、そんなことするわけないだろうっ!」

 

「じゃあ、どういうことか説明せい」

 

再度問い詰めてくるロキに、困った表情を浮かべ言葉が詰まった。

 

他の神々も興味津々といった風で、誰も口を挟まない。

 

……万事休すか…。

 

「あら、別にいいじゃない」

 

諦めた瞬間、一人の女神がその美しい声を響かせた。

 

「あぁん?」

 

ヘスティアに向けられていた視線は、その女神ーーーフレイヤに一斉に集まった。

 

フレイヤはその向けられた視線たちに動じることもなく、あっけらんかと言葉を続けた。

 

「ヘスティアが不正をしていないなら、無理に問いただす必要はないでしょう?団員のステイタスを知ろうなんて禁制(タブー)のはずよ」

 

「一ヶ月やぞ?この意味分かって言ってんのか、色ボケ女神」

 

「ふふ、どうしてそこまで強情になっているの、ロキ?」

 

微笑を崩さないフレイヤは自身の推測を語っていく。

 

「この子は奇跡的にも、あのミノタウロスを倒したのでしょう?Lv.という差を覆して。このミノタウロスが因縁の相手だった場合、獲得した経験値は…。それこそランクアップするかも知れないじゃない」

 

フレイヤの推測に神会が揺れた。

 

資料にも載っているように、ベルは二度に渡ってミノタウロスに遭遇し、うち一度は撃破している。

 

その内容に、周囲の神々を同調の意を示しかけ、ロキも口をへの字に曲げた。

 

そしてフレイヤはヘスティアに微笑みを浮かべたまま一目見て、席から立ち上がった。

 

「あれ。フレイヤ様、帰んの?」

 

「ええ、急用を思い出したから、失礼させてもらうわ」

 

「最後の最後だし、決まってから帰ったら?」

 

「ふふ、悪いわね。でも、そうね…」

 

資料に載っているベルの似顔絵を見て、一言。

 

「どうせなら、可愛い名前をつけてあげてね?」

 

「「「オッケーッ!」」」

 

男神達は清々しい笑みと共に、声を揃えた。女神達はその様を見て、生塵を見るかのような視線を送った。

 

……一人ロキだけが、去っていくフレイヤの背を開いた目のまま見ていた。

 

取りあえずの危機が去ったことにヘスティアは、内心でため息を一つこぼした。

 

「「「決まったー!!」」」

 

そんな彼女の心情を知らず内にベルの称号は決められた。

 

これで決まりかと思い、次々とフレイヤの後に続くように立ち上がる神々だったが。

 

ロキが何気なくベルの紙をずらすと、一枚の冒険者登録(・・・・・)の紙が混ざっていたことに気づいた。

 

「あぁん?」

 

「ん?どうしたんロキ?もうお仕舞いだろ」

 

「何々?何見てんの?」

 

ロキの訝しげに呟いた言葉に、去っていこうとした神達はロキに視線を向けた。

 

暫し、その紙を見ていたロキだったが…。

 

「アハハハハッ!こいつは傑作やでー!」

 

唐突に笑いだした。

 

ロキの様子を見ていた神達も、腹を抱えて笑うロキに興味を示し、後ろに覗きこんだ。

 

「ブフッ!こ、こいつは!」

 

「くっ!なかなかやるわねこの子!」

 

そして同じように笑いだした。

 

ベルの称号が無難なものに決まり、安堵のため息をついて帰路につこうとしたが…。

 

「ブフッ!お、おいドチビー、お前んとこにはおもろいやつがおんなー!」

 

いつの間にか笑い声をあげる神々に、囲まれたロキに声をかけられた。

 

「なんだいロキ、もう終わったはずだろ?だったらその貧相なものをもう見たくないし、僕はもう帰るよ」

 

「なんやとっ!?まぁいいわ。これお前んとこのやつやろ?」

 

何時もならつかみかかってくるロキが、この時は笑ったまま一枚の紙を見せてきた。

 

ヘスティアは訝しげにその紙を見たが、瞬間絶句した。

 

「んなっ!」

 

写真に写っている人物はギルだった。しかし書かれている内容が…。

 

 

ーーーーーー

 

名前|このような安い紙に書く名など持っていないわ!

 

所属ファミリア|ヘスティアとか言う駄神の所にい・ち・お・う入っている

 

前職業・現職業|天上天下において王とは我一人

 

持っていればスキル等|よくわからんが、宝物庫なら持っているわ

 

特技|お金持ち

 

ーーーーーー

 

「なん…だ…と…?」

 

「ほんま愉快なやつやな。ブフッ、なんやドチビの所には王様さんがおんのか?」

 

ロキの笑い声に同意するように、周りの神々も笑いだした。

 

隣でチラッと見た神友のヘファイストスも、その内容に口許を手で隠し顔を背けた。

 

……くっ、君もかいヘファイストス。と言うよりなんだいコレはっ!?

 

ーーー前回ベルと一緒に冒険者登録しようと書いた紙で、エイナが「ふざけないでっ!?」と一喝したものだったが、捨てることを忘れていて、今回神会の書類に混ざってしまい、運悪く悪戯者(ロキ)に見つけられてしまった。

 

「ブフッ!で、こいつはどうしましょうかねロキさんや?」

 

「フフフ、こんなおもろいやつ滅多におらんからな」

 

「ロリ神、こいつ名前なんて言うんだよ?」

 

一様に神々は興味を持ったのか、書類に記載されている人物の名前を聞いてくるが…。

 

「……王様君は王様君だよ…。僕も名前は知らないし…」

 

そう言えばと、ヘスティアはふと思った。

 

今まで王様君と呼んでいたが、名前を聞いていないことに。

 

「なんやそれ?自分とこの子やろ、ステイタスに乗っとるやろ」

 

「いや、恩恵与えてないんだよ、王様君には」

 

「ブフッ!なんや、そしたら恩恵も貰わずに冒険者になる気やったのか?アホやな~」

 

ロキにつられるように周囲にいた神達も笑い、今どきそんなやつがいるかよ、と口々に口にした。

 

「もういいだろ!僕は帰るよ!」

 

自身の家族を馬鹿にされて頭に来たヘスティアは、ロキ達を置いて扉に向かおうとしたが。

 

「まぁ待てドチビ」

 

「ふむゅっ!?」

 

自身のツインテールを引っ張られた。

 

「何するんだ!?」

 

「いやな、こんなおもし…可哀想な子のためにうちらは名前をつけて上げようと思ってなぁ…。なぁ、みんな?」

 

「「「もちろんっ!!」」」

 

後ろを振り返り他の神々に聞くと、皆口を揃えた。

 

これほどの逸材(おもしろいやつ)を、娯楽に飢えた神々が見逃すはずもなかった。

 

「んじやぁ、みんなもう一回席ついてやー!」

 

「「「オッケーッ!!」」」

 

「っつても、これじゃあ情報が少なすぎるわ。ドチビなんか他にないんか?」

 

「ドチビ、ドチビ言うな!…そう言えば前にベル君が英雄王とかなんとか言ってたっけ?」

 

こうして、冒険者でもない者の名前を決めるため、神会は続いた。

 

ーーーそして、その紙を一人の女神が見ていた。

 

「……ふーん。内容はアレだが、顔を見るに随分良い男じゃないか…」

 

ーーーーーー

 

「くしゅんっ!」

 

「あれ、王様風邪ですか?」

 

「たわけ、我が風邪など引くか。どこぞの雑種が噂でもしているのだろう」

 

二人しかいないホーム。

 

ベルは自身に始めて(・・・)発言したスキルが載っている紙を見てため息をこぼした。

 

「はぁ…。『英雄願望(アルゴノゥト)』か…」

 

「良いではないか。我に畏敬の念を抱いているのだ、必然だろうに。しかし、愛い奴だなベルよ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

またからかわれたことに、ベルは顔を真っ赤にさせ悲鳴をあげた。

 

 

 

 




英雄王の二つ名募集中。

やっぱりAUO?

活動報告にも書きました。

是非そちらに書いてください。

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