発展アビリティには聞いたことのないものが…。
発展アビリティ
「……まさかこれほどの余興になるとは…。くっくっ」
薄暗いダンジョンの中、リリを脇に抱えベルを背に背負い、先の死闘を思い出し一人笑い声を上げる。
……途中出くわすモンスター達は、我の一睨みの元去っていった。
「そう言えば、こやつに報奨をくれてやらねばな…」
ふと、何時か言った言葉が脳を掠めた。
……やはりこやつには剣でもくれてろうか。
自身の宝物庫の中でどれをやろうか考えていたが、その時自身の腰に備えられている
「……良いか。こやつには
そう決定付けるとベルを地面に降ろし、鞘をベルの体に当てた。
……この時ギルは、ヘスティアから受け取ったままの
ーーーーーー
「……これは?」
「おい、どうしたアイズ!」
ギルが二人を連れて去っていった後、アイズは落ちている紙に気がついた。
……あの人の、落とし物?
そう思って裏返して確認してみると、驚きの事実が書かれていた。
「あの子のステイタスとか気になるよね!」
「ちっ、ババアが早くに気がついていれば、分かったものがっ!」
「……貴様は私に盗み見をしろと言うのか…」
終始、会話の内容は先の死闘を行っていたベルの話題だった。
第一級冒険者と呼ばれる彼等も、先のベルの動きからどれ程のアビリティかと推測していたが、アイズは唐突にその紙に書かれている文字を口にした。
「……S」
「ん?」
「何がだい、アイズ?」
黄金の瞳は鋭くその紙を見つめていた。
「魔力以外、オールS。あの子のステイタス…」
『オールS!?』
ルームにいたメンバーは声を揃え驚愕した。
彼らは一瞬、言葉を失った。
……魔力がSではなかろうと、身体能力面のアビリティが全てS等聞いたことがない。
「ア、アイズッ!それ見せて!」
「おいっ!それ寄越しやがれ、アイズッ!」
「……」
「「ああーっ!?」」
ベートとティオナは、アイズが手に持つ紙を奪おうと詰め寄ったが、それより早くアイズは紙を剣で細切れにした。
それを見て慟哭の声を上げる二人。周りにいた他のメンバーも見たかったのか、あっと声を上げていた。
暫しアイズのことを呆然と見ていたメンバーだったが、フィンがいち早く意識を取り戻した。
「こほん。…まぁ、アイズの対応は合っているよ。他人のステイタスは無闇に流布するものじゃないし…」
「そうだな…」
「そ、そうですよね団長…」
渋々と言うように納得する二人。紙を奪おうとした二人だけが、口惜しそうにアイズを睨んでいた。
……この時アイズは一つの事実を伝えていなかった。
ーーーSS、アビリティの限界突破という、目を疑う事実を。
ーーーーーー
数日後、ヘスティア・ファミリアのホーム。
「Lv.2に成ったって本当ですか、神様っ!?」
あれから傷は癒え無事完治したベルは、神様から聞かされた言葉に興奮し、机から身を乗り出した。
「ああ、本当だよベル君。だから少し落ち着きなよ…。それにまだランクアップはしてないよ」
「えっ?何でですか、神様?」
「発展アビリティを選ばないといけないからね、まだ選んでないのにランクアップするわけにはいかないんだよ。…アドバイザー君から聞いているだろう?」
「あっ、アハハ。そう言えばそうでしたね…」
忘れてました…。顔を羞恥で赤く染めながらも、口許はニヤケっぱなしだった。
「浮かれるのは良いが、もう少し抑えるがよいベルよ」
「は、はい王様」
「まったくだよベル君…。それで君が発現したアビリティなんだけどね…」
浮かれる僕とは対照的に神様は歯切れが悪いようだった。
……どうしたんだろう?出てきたアビリティが良くなかったのか?
神様の態度に内心不安になってきた…。
「ちょっと見当もつかないんだよね…」
そう言って神様は紙に出現した発展アビリティを書き始めた。
「一つ目は『狩人』。これはまだ良い…」
「『狩人』!それにします神様っ!」
『狩人』冒険者からも神様達からも、人気の高い項目だ。
まさか僕に発現するとは思わなかったため、即答でそれにしますと言ったが、最後まで聞きなさいと諌められた。
「二つ目は『幸運』。…コレも僕には良く分からない。勘になるけど加護に近いのかも知れない。僕的にはコレかな?」
「こ、『幸運』ですか?」
聞いたことのないアビリティに神様は自身の推測を語ってくれた。
『加護』…神様が言うには本人の預かり知らない所で働く超常的な護りらしい。神様が言うにはコレに近いんだとか。
神様がコレを選んだ理由は、普段から危なっかしいからだと…。
う~ん、僕は『狩人』の方が良いかな…。
「最後に!」
「ま、まだあるんですか、神様!?」
「……うん。コレについては本当に意味が分からないんだよね…」
神様が分からないって、どういうアビリティだろう?
僕は固唾を飲み込み、隣で聞いていた王様は、カップに口を当て飲み物を口に含んだ。
「……『担い手』。一体何を担うものなのか、僕には分からない…。だからあまりおすすめはーーー」
「馬鹿なッ!?」
ガシャンッ!と大きな音を立てて、手に持ったカップが落下し、王様は驚きの声を上げた。
王様が驚愕した姿を見て、僕達もビックリした。
……王様は何か分かるのかな?
「お、王様君?大丈夫かーーー」
「……ベルよ、『担い手』だ!『担い手』を選べ、それ以外あり得ん!」
他のスキルには何の反応もしなかった王様だったが、『担い手』というスキルを聞いて語気を強めて勧めてきた。
「お、王様っ!?で、でも他のスキルも…」
「たわけ!王足る我の決定だ、異論は認めん!」
え、ええっ!?
「待ちたまえ王様君!ベル君には幸運が良いっ、絶対にだっ!」
王様の断定するような言い方に、神様はそれでも『幸運』が良いと反論した。
ど、どうしよう?
狩人も捨てがたいけど、この二人の感じから
「たわけがっ!ベルよ、コレは貴様が英雄になるために必要な物だ!ならば、悩む必要などなかろう!」
「ず、ずるいぞ、王様君!そんな言い方は…」
「……!」
英雄になるために必要なもの…。
ならば、悩む必要なんてない!
……神様ごめんなさい。と内心で謝ると、神様はまったくと言って、言い争うのをやめた。
「神様、僕っ!『担い手』に決めます!」
「分かったよ…!」
「うむ。それでよい!」
王様は満足気に頷き、神様もなんだかんだ言って最後には笑顔で頷いてくれた。
……この後ギルドに行き、ランクアップしたことをエイナさんに伝えたが、大声で驚かれた。
そんなこんながあったが、晴れて僕もLv.2となった!