ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ベル達と別れ、一人酒をたしなむギル。

だが、すれ違いが起きギルは一人ダンジョンへ向かう。


見逃し

「今日は僕も君達の訓練を見物させてもらう!」

 

「えっ!?」

 

「なんだいベル君、その顔は。僕に見られるとまずいのかい!?」

 

「い、いえっ、そんなことはないです!…ただバイトは…」

 

「今日はもう上がる」

 

ピシャリと有無を言わせないヘスティアの言い分に、ベルは困惑しながらも了承した。

 

……あの後、何とか神様を説得し、お許しを得ることが出来た。

 

王様は終始笑っていたが…。

 

「フハハ。よい見せ物だったぞベルよ、我は先にこやつの店に行き酒を楽しむとしよう」

 

「……歓迎します」

 

神様が露店の中に消えた後、事の成り行きを一緒に見ていたリューさんを指差した。しかし、リューさんはそれに顔色一つ変えずそう述べた。

 

神様が戻ってくるのを待たずに、二人は『豊穣の女主人』のある方向に歩いていった。

 

……まだ明るいけどもうお酒飲むんだ…。

 

上機嫌で去っていった王様と入れ替わりで、神様は戻ってきた。

 

ちらりと、隣で立っていたアイズさんを見やると、いつもと同じ、表情の読めなさそうな顔だったが、若干不機嫌?になっていた。

 

「……君達は、名前で呼ばれるんだね…」

 

「えっ?」

 

その声は小さすぎたため、僕は拾うことが出来ず思わず聞き返してしまった。

 

「なんでも、ないよ。…ただ、君の神様も、あの人も、優しいんだね」

 

「……はい」

 

変えられた問いに気づかなかったが、僕はアイズさんのその問いに、頬を緩めそう返した。

 

ーーーーーー

 

「いらっしゃいませー!…って王様じゃないですか?リューも一緒にいるなんて…!」

 

「シル、それは誤解だ」

 

「……」

 

リューが男の人と一緒にいるなんて…。その光景を目にして、驚きと嬉しさ半々の声をあげた。

 

しかし、リューはいつもの感情を出さない声で返し、ギルはそんなシルをスルーした。

 

「……って、無視はひどいですよ王様ー!?」

 

「たわけ。つまらぬ道化に反応するなど、我の王としての格が下がるわ」

 

女将よ、酒だ。と前回と同じ様にカウンター席に腰を降ろし、ギルはカウンターの中にいる女将に注文をした。

 

カウンターの中にいた女将は、ギルを一瞥しいつものビールとは違い、ワインを出してきた。

 

「はいよ、これは極上の一品だと思うよ。…値段はするが、王様(あんた)には問題ないだろ?」

 

「無論だ。逆にこれ程顔を出しているのに、王足る我にあのようなものを再度振る舞うことこそ問題だ」

 

「はいはい」

 

女将は分かっておるな…。そんな事を思いながら、ワインの蓋を開けた。しかし、蓋を開けた状態で先程の事でショックを受けているシルと目が合った。

 

「……娘、先の不敬我の酌をすることで流してやろう」

 

「本当ですか!?」

 

スルーされたことがよっぽどショックだったのか、シルは声をあらげ、ギルからワインを受け取りグラスに注いだ。

 

「……まぁまぁといったところか」

 

「そ、そうですか」

 

辛口のコメントに、シルは苦笑いで返すことしかできなかった。

 

そうして、ベル達がやって来るまで酒をたしなんでいた。

 

ーーーーーー

 

時刻は夕刻に迫り、辺りも暗くなってきていた、が。

 

「……遅いな…」

 

「何かあったんでしょうか…?」

 

テーブルの上には既に空となったボトルが置かれていた。

 

ベルが訓練を終えたのなら、もう来てもおかしくないが…。

 

隣にいるシルも、ベル達が来ると話を聞いていたため、来ないことに困惑していた。

 

「また、何かトラブルでも合ったのでしょうか?」

 

「……まったくあやつは」

 

前回でのこともありますし…。そう表情を暗くし呟くシルに、ギルはグラスに残っていたワインを飲みきった。

 

「女将よ、所用ができた」

 

「……あいよ、坊主が来たら伝えとくよ」

 

不安そうな表情でこちらを見ていたシルを一瞥し、ギルは上着から小袋を取り出して、店を後にした。

 

……シルの予感は当たっていた。ベルは街で見知らぬ冒険者に襲われていた。

 

が、この時ギルは、またベルがダンジョン(・・・・・)でモンスターと闘っていると思っていた。

 

ーーーーーー

 

7・8階層を難なく踏破し、ギルは9階層ーーーベルが今これる10階層の前まで来ていた。

 

リリの補助ありきのため、ベルがうろうろしているとすればこのあたりかと踏んで、周辺を探していた。

 

少ししてギルは、あるものを見つけた。

 

「……あの時のカーゴか、だが何故だ?」

 

鎖で厳重に捕縛されたカーゴ。

 

辺りを見渡しても周囲には人がいなかった。もう遅い時間のため、ここに来るまで誰かとすれ違うこともなかった。

 

……誰が、何のために…。

 

その異様な雰囲気を纏うカーゴを見て、しかしギルは物怖じすることなく、腰に備えてある剣でカーゴの鎖を切った。

 

蓋の中にいたのはモンスター(・・・・・)だった。

 

それも上層では現れるはずのないモンスターだった。

 

ーーーミノタウロス

 

『ヴォオオオオオオッ!!』

 

大音声。

 

ダンジョン内全域に届くかと思わせる吠声。

 

解き放たれ、目の前に獲物がいることを確認したミノタウロスは、通常ならば用いるはずのない大剣を振り上げた。

 

この階層を主流とする通常の冒険者ならば、その圧倒的存在感に恐れ戦くだろう。

 

そう通常の冒険者(・・・・・・)ならば…。

 

「……雑種が…。誰に向かって吠えている?」

 

『ヴォオッ!?』

 

瞬間。振り上げた腕、剣は無数の鎖によって阻まれた。

 

驚きの声を上げるミノタウロスだったが、その間にも虚空から現れた鎖によってその肉体を封じられた。

 

「雑種の分際で我に剣を向けた不敬…。その身で払うがよい」

 

次いでギルの背後から、体長2M(メドル)に及ぶミノタウロスにも匹敵する、巨大な槍が出現した。

 

その光景にミノタウロスは初めて、目の前の人物に焦点があい、恐怖した。

 

……自分はいったい誰を標的にしたのか…。

 

そうして、やって来る衝撃に覚悟を決めた。

 

「……待てよ」

 

が、その声と共に後ろで控えていた槍は消失した。

 

そして、暫し思案していたかと思えば、次いで自身を縛っていた鎖が消失した。

 

『ヴォオッ!?』

 

再び自由の身になったミノタウロスは、困惑の雄叫びを上げた。

 

が、目の前の人物は気にすることもなく淡々と告げた。

 

「喜ぶがいい雑種、貴様の命我が使ってやろう」

 

勿論、言葉など通ずるはずがない。だが、ミノタウロスは動けずにいた。

 

「貴様の死は決定だが。我が仕留めるのは呼吸をするが如く容易い」

 

だから、とギルはミノタウロスにニヤニヤとした笑みを送った。

 

「貴様を殺すのは、ベル(・・)に任すとしよう」

 

終始ミノタウロスは立ち尽くしたまま、見ていることしか出来なかった。

 

「さぁ、去るがよい雑種。貴様を仕留めるのはまだ先だ」

 

いってよいぞ、と手をぷらぷらと振る行動に、ミノタウロスは本能で嘗められていることを感じた。

 

本能のまま襲いかかろうかと思案したとき、何者かに折られ失った片角の代わり、痛みの代償として得た知能が、引くことを支持した。

 

纏まらない思考で立ち尽くしていたミノタウロスは、しかし…。

 

 

『ヴォモォ…』

 

「聞こえなかったか?…我は消えろといったはずだっ!」

 

一喝。

 

本能と知能の狭間で揺れていた思考は、逃走を選択した。

 

『ヴォモォオオオッ!』

 

その雄叫びを最後に、ミノタウロスは9階層の奥に消えていった。

 

「……フフ。どこの雑種か知らんが、ずいぶんと面白い趣向を考え付く。…が、あやつは我が貰うとしよう」

 

誰かの思惑によって、本来ならあり得ない9階層にてのミノタウロスの出現。

 

だが、ギルも知るよしもないことだがこれは猛者オッタルがベルの試練の為にと、わざとこの階層にて放置したものだった。

 

冒険者によっては駆逐されることもある、半ば賭けのようなものだったが、得てして賭けは成功した。

 

「王様ーっ!?」

 

「むっ、ベルか?」

 

「すいません王様、僕を探しにここまで来てたなんて…」

 

「よい、思わぬ収穫もあった。…ベルよ」

 

「どうしました、王様?」

 

「我の期待に応えて見せよ。…さもなくば」

 

「えっ…?わ、わかりました。王様の期待に応えられるよう頑張ります!」

 

最後の言葉が聞こえなかったが、ベルは笑顔でそう返した。

 

命を落とすぞ…、その言葉はダンジョンの闇へと消えていった。

 


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