翌日ヘスティアとベルはデートをすることになった。
そしてギルは、リリと街を歩いていた。
「ぬぁぁぁぁぁぁっ…!?」
「だ、大丈夫ですか、神様?」
ホームに二人でいたベルとヘスティアだったが、昨日の酒の飲みすぎのためか、ヘスティアはベットの上で、二日酔いに陥っていた。
「……ベル君、ダンジョンに行かなくていいのかい?」
「今の神様を放っておけませんから。…王様はリリを連れてどっか行っちゃいましたけど…」
「……王様君は…。ベル君の優しさが目に染みるぜっ!」
ギルの奔放さに、二日酔いとは違う頭痛がしたが、今に始まったことではないので、我慢することにした。
「神様、これ、食べられますか?」
「……ちょ、ちょっと辛いなぁ。ベル君食べさせてくれないかい?」
「あ、はい、わかりました」
リンゴをすりおろしたものを、ベルがヘスティアに食べさせ、ヘスティアはその光景に幸せそうな顔を浮かべた。
「う~ん。デリシャスッ!ベル君が剥いてくれたリンゴは、うまいなぁ~!」
「あ、ありがとうございます。…王様が神様の為に買ってきてくれたやつなので、王様にもお礼してあげてくださいね?」
「王よ!私が愚かだった!」
先程の悪態を思いだし、ヘスティアはベットの上で天を仰いだ。
「う…うぅー、頭がッ!」
「か、神様?」
二日酔いの状態で、そんな行動をしたためか、ぐらりと体が傾いてしまった。ベルはそれを自身の胸で受けとめた。
「か、神様っ?大丈夫ですか?」
「うわー、これは、ダメだー」
酷い棒読みをしながら、ヘスティアはベルの胸に更に顔を埋める。ベルも最初は困惑したが、調子に乗ってきゅうとすがり付く、ヘスティアの行動にいよいよ慌て出した。
ーーーーーー
「ふむ、あやつの堕神っぷりは今に始まったことではないが、相変わらずあやつはショボいな」
「……王様、自らの主神様をそのように言っては駄目ですよ。…リリも人のこと言えませんが…」
街中を歩いていた二人だったが、ギルは二日酔いで苦しむヘスティア思い出し、そう言った。それを、リリは駄目ですよと、諌めた。
だが、リリも小声で自身の主神を思いだし、顔を俯かせた。
「……あやつが我の主神だと?リリよ、冗談も大概にせよ」
「はぁ…。申し訳ないです王様…」
ギルの物言いに、リリはため息を吐きながら、頭を下げた。
……この人は、神様相手でもこの態度なんですね…。
「王様、そう言えばお聞きしたかったのですが、ベル様と王様のLvはおいくつなんですか?」
「ん?Lvとな?…ベルの奴は今だ成長していなかったはずだ」
「そうですか…。王様はどうなんですか?」
世間話程度に聞いたことだったが、リリは興味があった。
あの裏路地で、感じたプレッシャーは相当なものだった。…それこそ、第一級冒険者と呼ばれる者達と、同等なほど。
「知らん。我にはそんなもの等ない」
「えっ?」
「何を呆けている?我は王だぞ、至極当然のこと」
「いやいや…っ?そしたら恩恵も貰わずにダンジョンに入っているのですかッ!?」
「そうだが?…先程からコロコロ表情を変えおって、愉快なやつよの」
フハハと、笑いだすにギルに、リリは驚愕していた。
「恩恵も貰わずにダンジョンに入るなんて死にたいんですかッ!?」
「我が、あの程度の穴蔵で死ぬと申すか!?いくらリリと言えど、その冗談は無礼であろう!!」
リリの発言に、ギルは顔を怒りで歪め、リリはその様子を見て、必死に否定した。
ーーーまた、あのプレッシャーは浴びたくないっ!
「ち、違いますッ!?リリは王様のことを思って…そうですよね!王様が死ぬはずないですよね!!」
「わかればよい…。王の寛容な器をもってして、今の愚行は見逃してやる」
「あ、ありがとうございます…」
何故この人と話すと、疲れるのだろうか…。リリは内心で、何処かのエルフと同じことを思った。
「はぁ……。本当にもう死にたいです…」
「むっ?何か言ったか?」
「い、いえ。リリは生まれ変わって、もうちょっとマシなリリに成れば、王様に仕えるに相応しくなれるかなぁ~、と思っただけですよ…」
「ふん。たわけたことを申すな、我が見いだしたのは、今の貴様だ。…死して変わろうなど、軟弱にも程があるぞ」
「……や、嫌だなぁ王様は、今のリリにそんな価値ないじゃないですか」
はんと、鼻で笑いギルはリリに向き直った。リリは自身を見つめる目と目線が重なった。
「貴様の価値を貴様が決めるでない!その価値を決めるのは王である我だ!」
「……王様…」
そう言ってくるギルに、思わず涙が出そうになったが、リリはそれを隠すように、顔を俯かせた。
「我の臣下になれるなど、凡百雑種にはあり得ぬ栄光。リリよ、誇るがよい!」
ーーー何故この人は、いちいち物言いが偉そうなのか…。でも、どうしてだろう…こんなに嬉しいのは…
「……ありがとうございます…」
「うむ。やっとわかったか、ではリリよついてこい!」
そう言って、ずんずん進んでいくギルの後を、リリはついていった。
ただ、その背中は本来よりも、大きく見えていた。