リリは、ギルによって自身の行動に迷いが生じた。
「……王様帰ってこなかったな…」
ギルが酒を飲みに出かけ、あれから帰ってこず、日が明けてしまった。ベルはそう呟き、ダンジョンに行くため装備を整えていた。
「それじゃあ、神様行ってきます」
「うみぅ~。行ってらっしゃい~」
ヘスティアは寝ぼけ眼で、そう返した。どうやら王様の帰りを遅くまで待っていたのか、随分眠そうだった。
そうして、ベルはホームを後にした。が、
「むっ?ベルか、今からダンジョンに行くのか?」
「お、王様!?昨日はどこ行ってたんですかっ?心配しましたよ!」
「酒を飲みに行くと、言っておったであろう、たわけ」
ぺしっと、ベルのおでこを叩いた。ベルはその痛みで涙目になり、王様~と情けない声を出した。
「うぅ…。でも良かったです、帰ってきて。…神様も心配してましたよ?」
「ふん。酒を飲みにいった程度で、心配することなどなかろう。…まぁよい、ベルよ」
はい?とベルは首を傾げた。
「リリに言付けを伝えておけ、『我の臣下になったのだ、悪戯は控えろ』とな」
「は、はい……?よくわかりませんが伝えておきます?」
ベルが頷いたのを確認し、ギルはホームに戻っていった。
ベルは、悪戯?何のことだろうと、首を傾げていた。
ーーーーーー
「……スピー…」
「……」
ゲシッ
「アイタッ!?」
「我のベットで何を惰眠を貪っておる、たわけ」
ベットで熟睡していたヘスティアを見て、ギルは蹴り飛ばした。
「あ、あれ?王様君?…って蹴ったの君かーっ!」
「何度も言わすな、たわけ」
蹴り飛ばされ、怒り心頭のヘスティア。それを見ても、何も思わないギル。
「蹴ることないじゃないかっ!…って、それより昨日はどこに行ってたんだい!?心配したじゃないかっ!」
「酒を飲みに行くといったではないか!何度も言わせるな」
まったくと、ため息をついて、ギルはベットに横になった。
「心配してたのに、なんだいその態度は!?」
「うるさいぞ、ヘスティア。我はこれから寝るのだ、静かにしろ」
ふんがーと、ギルの態度に憤慨するヘスティア。だがギルは、それに取り合わず眠りにつこうとする。
「ふんっ!王様君にはがっかりだぜ、心配してたのにその態度じゃ、僕も怒ってしまうぜ!」
「うるさいと何度も言わせるな、たわけ。土産にプリンを買ってきてやった。それでも食べて、大人しくしておけ」
「王様君、僕は君を信じていたぜっ!」
プリンー。とヘスティアは、ギルが買ってきた包みを空け、早速食べていた。
……プリン一つで買収された、ヘスティアを見て、ギルは呆れたが、睡魔の方が強く何もいわなかった。
大人しくなったヘスティア、そして、ギルは静かに眠りについた。
ーーーーーー
「はぁ…」
リリは何度目か分からないため息をついていた。
「リリ?どうかした?」
「い、いえっ?何でもないですよ、ベル様っ!」
心配そうに声をかけてきたベルにそう返したリリ。
リリは昨日、思わぬ高収入が手に入り、後はこの少年の武器さえ手に入れば、目的が達成できると喜んだ。
しかも今日は、昨日の王様とか言う青年がおらず、絶好のチャンスだったが、その青年からの言付けに凍りついた。
(……悪戯って、どうしてバレているのですかっ!?)
リリとギルは本当に昨日が初対面。それでも、バレていると言うことは、何処かで、リリの正体がバレてしまったのか…。
(……今日いないのも、もしかしたら…)
リリを捕まえるためなのかも知れない。犯行後、ダンジョンから戻った時に捕まったら、言い訳などできない。そう考えられることから、リリは未だ行動出来ずにいた。
(……はぁ、もうこのお二人は諦めましょう…。隙を見て逃げ出しましょう…)
内心で更にため息をつき、そう結論付けた。
「そうだリリ!とりあえず、サポーターをお願いする期間だけど…」
「あっ、それはベル様にお任せしますよ!」
「ほ、本当っ!?そしたら、一週間とか、二週間くらいお願いしたいんだけど、大丈夫?」
「い、一週間…」
「……やっぱりダメかな?」
「いえいえ、リリをそこまで雇って貰えるのに、嬉しくてビックリしただけですよ!」
「ほ、本当っ?やったぁー!」
嬉しそうに両手を上げるベルだったが、リリはそれどころではなかった。
……一週間もボロを出さないように気を付けなくては…。
リリは内心で絶望しながら、ベルと一緒にダンジョンに入っていった。
ーーーーーー
時刻は夕刻。
ダンジョンの探索から戻ってきたベル達は、広場の片隅で今日の収穫を確認していた。
「「30000ヴァリス……」」
やあぁーーーーっ!と歓声を出して喜んだ。
リリも昨日貰った額から考えれば、雀の涙だが、今までサポーターをしてきた中で、最高金額を出したことに喜んだ。
(……まぁ、でも…)
貰えないんだろうな…。そう思ってしまい、リリは顔を俯かせた。
「……リリ、どうしたの?」
「い、いえっ。ベル様がたくさん頑張ったのに、リリは全然だなぁ、と思っただけですよ!」
「そんなことないよっ!リリがいなきゃ、こんな稼げなかったよ!」
必死の形相で否定するベルに、リリは内心で悪態をついた。
(……どうせ、貴方も一緒でしょ…)
「……それでは、ベル様、分け前を貰ってもよろしいですか?」
「うん、はい!」
どばっっ、と20000ヴァリスをリリの方に渡した。
「……へ?」
「うん、リリの方が多いのは、王様の臣下になったお祝いも含めてるからだよ!」
「いやいや…」
「どうしたのリリ?」
今だ笑顔のベルに、リリは驚愕していた。
「……ひ、独り占めしようとか…。思わないんですか?まして、リリの方が多いなんて…」
「え、どうして?」
質問を質問で返され、リリは逆に言葉が詰まった。ましてや、本当に意味が分からないと、言う顔をしているベルに何も言えなかった。
「むっ?ベル達か?」
「あっ、王様!」
そうしていると、昨日いたギルもこちらに気づき、寄ってきた。
「王様はどうしてここに?」
「何、我も先程目を覚まし、小腹が空いたゆえ貴様と食べようと、我自ら出向いてやったのだ」
「そうなんですか?そしたらリリも一緒に食べようよ!」
「えっ…?」
「何を当たり前のことを問うている、ベルよ。我の臣下であるリリが、我と一緒に食事を共にするのは当然だろう?」
「ええっ?」
ナチュラルにリリも同席することに、リリは驚きの声を上げた。
「して、貴様ら何をしていた?」
「今日の収穫について、話してました」
「……!そうなんです王様!ベル様ったらリリにお祝いとか言って、リリより今日の報酬少ないんですよっ!」
リリはギルにそう言い、ギルはそれになにぃ、と怪訝そうな顔をした。
(……そうです。それが普通なんです!って、リリは何でこんなことを言ったのでしょう…)
何故こんなことを言ったのかリリにも分からなかった。が、ギルの反応にリリは内心で安堵していた。
ーーーそうこれが、当たり前なんです。リリみたいな、駄目な奴がこんな貰ってはいけない。
「ベルよ!祝いと言うのであれば、ちゃんと全てくれてやれ!我の臣下を祝うのであれば当然だ!!」
「えっ…?」
「ええっ?そしたら今日の食事代もなくなっちゃいますよっ!?」
「ふん、臣下の祝いだ。我が出してやるに決まっておろう!」
「本当ですか?」
うむ。というギルにベルは、それならと言って、持っていた小袋もリリに渡した。
「ベル様ッ!?これはいけません!受け取れません!!」
「何を断っている?」
「うん、そうだよ!リリのお祝いなんだから受け取ってよ!」
本気で不思議そうに首を傾げるギル。笑顔で今日の収穫を全て渡してくるベル。そんな二人を見て、リリは本気ですかッ!?と驚いた。
「そんな…。そしたらベル様の本日の収穫は0になってしまいます!?」
「別に良いよ!…それに昨日リリが言ってたじゃないか、信用を得られるなら、それぐらいお安いものだよ!」
「……ッ!?」
「フハハ。ベル、貴様言うようになったな!」
ベルの言い分に、笑い声を上げるギル。
ーーー違いますッ!リリはそう言う意味で、言ったんじゃないんです!
あれは贖罪の意味も込めて、…リリにはそんな気なかったんです!
(どうしてですか?どうしてお二人は笑っているのですかっ!?)
リリは俯いたまま、顔を上げることができなかった。
(……お祝いなんて、リリには受け取れないですよ…)
「じゃあ、行こうリリ!」
「べ、ベル様!」
「うむ。それでは向かうとするか!」
リリは否定しようとしたが、ギルはリリに向き直り、ベルはリリに手を差し出していた。
リリは顔を上げず、おずおずとその手をとった。
どうしても、二人の顔を直視できなかったから。