ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

29 / 75
ギル不在でダンジョンに入るベルとリリ。

リリは、ギルによって自身の行動に迷いが生じた。


迷い

「……王様帰ってこなかったな…」

 

ギルが酒を飲みに出かけ、あれから帰ってこず、日が明けてしまった。ベルはそう呟き、ダンジョンに行くため装備を整えていた。

 

「それじゃあ、神様行ってきます」

 

「うみぅ~。行ってらっしゃい~」

 

ヘスティアは寝ぼけ眼で、そう返した。どうやら王様の帰りを遅くまで待っていたのか、随分眠そうだった。

 

そうして、ベルはホームを後にした。が、

 

「むっ?ベルか、今からダンジョンに行くのか?」

 

「お、王様!?昨日はどこ行ってたんですかっ?心配しましたよ!」

 

「酒を飲みに行くと、言っておったであろう、たわけ」

 

ぺしっと、ベルのおでこを叩いた。ベルはその痛みで涙目になり、王様~と情けない声を出した。

 

「うぅ…。でも良かったです、帰ってきて。…神様も心配してましたよ?」

 

「ふん。酒を飲みにいった程度で、心配することなどなかろう。…まぁよい、ベルよ」

 

はい?とベルは首を傾げた。

 

「リリに言付けを伝えておけ、『我の臣下になったのだ、悪戯は控えろ』とな」

 

「は、はい……?よくわかりませんが伝えておきます?」

 

ベルが頷いたのを確認し、ギルはホームに戻っていった。

 

ベルは、悪戯?何のことだろうと、首を傾げていた。

 

ーーーーーー

 

「……スピー…」

 

「……」

 

ゲシッ

 

「アイタッ!?」

 

「我のベットで何を惰眠を貪っておる、たわけ」

 

ベットで熟睡していたヘスティアを見て、ギルは蹴り飛ばした。

 

「あ、あれ?王様君?…って蹴ったの君かーっ!」

 

「何度も言わすな、たわけ」

 

蹴り飛ばされ、怒り心頭のヘスティア。それを見ても、何も思わないギル。

 

「蹴ることないじゃないかっ!…って、それより昨日はどこに行ってたんだい!?心配したじゃないかっ!」

 

「酒を飲みに行くといったではないか!何度も言わせるな」

 

まったくと、ため息をついて、ギルはベットに横になった。

 

「心配してたのに、なんだいその態度は!?」

 

「うるさいぞ、ヘスティア。我はこれから寝るのだ、静かにしろ」

 

ふんがーと、ギルの態度に憤慨するヘスティア。だがギルは、それに取り合わず眠りにつこうとする。

 

「ふんっ!王様君にはがっかりだぜ、心配してたのにその態度じゃ、僕も怒ってしまうぜ!」

 

「うるさいと何度も言わせるな、たわけ。土産にプリンを買ってきてやった。それでも食べて、大人しくしておけ」

 

「王様君、僕は君を信じていたぜっ!」

 

プリンー。とヘスティアは、ギルが買ってきた包みを空け、早速食べていた。

 

……プリン一つで買収された、ヘスティアを見て、ギルは呆れたが、睡魔の方が強く何もいわなかった。

 

大人しくなったヘスティア、そして、ギルは静かに眠りについた。

 

ーーーーーー

 

「はぁ…」

 

リリは何度目か分からないため息をついていた。

 

「リリ?どうかした?」

 

「い、いえっ?何でもないですよ、ベル様っ!」

 

心配そうに声をかけてきたベルにそう返したリリ。

 

リリは昨日、思わぬ高収入が手に入り、後はこの少年の武器さえ手に入れば、目的が達成できると喜んだ。

 

しかも今日は、昨日の王様とか言う青年がおらず、絶好のチャンスだったが、その青年からの言付けに凍りついた。

 

(……悪戯って、どうしてバレているのですかっ!?)

 

リリとギルは本当に昨日が初対面。それでも、バレていると言うことは、何処かで、リリの正体がバレてしまったのか…。

 

(……今日いないのも、もしかしたら…)

 

リリを捕まえるためなのかも知れない。犯行後、ダンジョンから戻った時に捕まったら、言い訳などできない。そう考えられることから、リリは未だ行動出来ずにいた。

 

(……はぁ、もうこのお二人は諦めましょう…。隙を見て逃げ出しましょう…)

 

内心で更にため息をつき、そう結論付けた。

 

「そうだリリ!とりあえず、サポーターをお願いする期間だけど…」

 

「あっ、それはベル様にお任せしますよ!」

 

「ほ、本当っ!?そしたら、一週間とか、二週間くらいお願いしたいんだけど、大丈夫?」

 

「い、一週間…」

 

「……やっぱりダメかな?」

 

「いえいえ、リリをそこまで雇って貰えるのに、嬉しくてビックリしただけですよ!」

 

「ほ、本当っ?やったぁー!」

 

嬉しそうに両手を上げるベルだったが、リリはそれどころではなかった。

 

……一週間もボロを出さないように気を付けなくては…。

 

リリは内心で絶望しながら、ベルと一緒にダンジョンに入っていった。

 

ーーーーーー

 

時刻は夕刻。

 

ダンジョンの探索から戻ってきたベル達は、広場の片隅で今日の収穫を確認していた。

 

「「30000ヴァリス……」」

 

やあぁーーーーっ!と歓声を出して喜んだ。

 

リリも昨日貰った額から考えれば、雀の涙だが、今までサポーターをしてきた中で、最高金額を出したことに喜んだ。

 

(……まぁ、でも…)

 

貰えないんだろうな…。そう思ってしまい、リリは顔を俯かせた。

 

「……リリ、どうしたの?」

 

「い、いえっ。ベル様がたくさん頑張ったのに、リリは全然だなぁ、と思っただけですよ!」

 

「そんなことないよっ!リリがいなきゃ、こんな稼げなかったよ!」

 

必死の形相で否定するベルに、リリは内心で悪態をついた。

 

(……どうせ、貴方も一緒でしょ…)

 

「……それでは、ベル様、分け前を貰ってもよろしいですか?」

 

「うん、はい!」

 

どばっっ、と20000ヴァリスをリリの方に渡した。

 

「……へ?」

 

「うん、リリの方が多いのは、王様の臣下になったお祝いも含めてるからだよ!」

 

「いやいや…」

 

「どうしたのリリ?」

 

今だ笑顔のベルに、リリは驚愕していた。

 

「……ひ、独り占めしようとか…。思わないんですか?まして、リリの方が多いなんて…」

 

「え、どうして?」

 

質問を質問で返され、リリは逆に言葉が詰まった。ましてや、本当に意味が分からないと、言う顔をしているベルに何も言えなかった。

 

「むっ?ベル達か?」

 

「あっ、王様!」

 

そうしていると、昨日いたギルもこちらに気づき、寄ってきた。

 

「王様はどうしてここに?」

 

「何、我も先程目を覚まし、小腹が空いたゆえ貴様と食べようと、我自ら出向いてやったのだ」

 

「そうなんですか?そしたらリリも一緒に食べようよ!」

 

「えっ…?」

 

「何を当たり前のことを問うている、ベルよ。我の臣下であるリリが、我と一緒に食事を共にするのは当然だろう?」

 

「ええっ?」

 

ナチュラルにリリも同席することに、リリは驚きの声を上げた。

 

「して、貴様ら何をしていた?」

 

「今日の収穫について、話してました」

 

「……!そうなんです王様!ベル様ったらリリにお祝いとか言って、リリより今日の報酬少ないんですよっ!」

 

リリはギルにそう言い、ギルはそれになにぃ、と怪訝そうな顔をした。

 

(……そうです。それが普通なんです!って、リリは何でこんなことを言ったのでしょう…)

 

何故こんなことを言ったのかリリにも分からなかった。が、ギルの反応にリリは内心で安堵していた。

 

ーーーそうこれが、当たり前なんです。リリみたいな、駄目な奴がこんな貰ってはいけない。

 

「ベルよ!祝いと言うのであれば、ちゃんと全てくれてやれ!我の臣下を祝うのであれば当然だ!!」

 

「えっ…?」

 

「ええっ?そしたら今日の食事代もなくなっちゃいますよっ!?」

 

「ふん、臣下の祝いだ。我が出してやるに決まっておろう!」

 

「本当ですか?」

 

うむ。というギルにベルは、それならと言って、持っていた小袋もリリに渡した。

 

「ベル様ッ!?これはいけません!受け取れません!!」

 

「何を断っている?」

 

「うん、そうだよ!リリのお祝いなんだから受け取ってよ!」

 

本気で不思議そうに首を傾げるギル。笑顔で今日の収穫を全て渡してくるベル。そんな二人を見て、リリは本気ですかッ!?と驚いた。

 

「そんな…。そしたらベル様の本日の収穫は0になってしまいます!?」

 

「別に良いよ!…それに昨日リリが言ってたじゃないか、信用を得られるなら、それぐらいお安いものだよ!」

 

「……ッ!?」

 

「フハハ。ベル、貴様言うようになったな!」

 

ベルの言い分に、笑い声を上げるギル。

 

ーーー違いますッ!リリはそう言う意味で、言ったんじゃないんです!

 

あれは贖罪の意味も込めて、…リリにはそんな気なかったんです!

 

(どうしてですか?どうしてお二人は笑っているのですかっ!?)

 

リリは俯いたまま、顔を上げることができなかった。

 

(……お祝いなんて、リリには受け取れないですよ…)

 

「じゃあ、行こうリリ!」

 

「べ、ベル様!」

 

「うむ。それでは向かうとするか!」

 

リリは否定しようとしたが、ギルはリリに向き直り、ベルはリリに手を差し出していた。

 

リリは顔を上げず、おずおずとその手をとった。

 

どうしても、二人の顔を直視できなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。