今日もダンジョンで頑張ろうと意気込む。
そこで昨日会ったと思われる少女に出会う。
「よし…」
「ふむ。やっとらしくなったのではないか…?」
新しく購入したライトアーマーに、エイナさんから貰ったエメラルドの輝きを放つプロテクターを装備して、鏡に映った自分を見る。
間に合わせの支給品から一転して、やっと冒険者らしい装備になった。
王様からも、賛辞?の言葉を貰い僕は顔を輝かせた。
「神様、じゃあ行ってきますね!」
「う~ん、いってらっしゃい…」
「それでは行くか、ベルよ」
未だベットで沈んでいる神様に、僕は意気揚々と言ってダンジョンに向かった。
今日は良いことがあるじゃないかと、口元を緩ませながら中央広場を超え、バベルまでやって来た。
(今日も…)
頑張りましょう、そう後ろにいるであろう王様に言おうとしたベルだったが。
「お兄さん方、お兄さん方。白い髪のお兄さんと、格好いい金髪のお兄さん」
自分と思しき者を呼ぶ声に、周囲を見渡した。
「えっ?」
「下だ。下を見ろベル」
声のした人物を探そうと周囲を見ていた僕に、王様は下を見るよう促してきた。
「き、君はっ!?」
「初めまして、お兄さん方。突然ですが、サポーターなんか探していたりしませんか?」
僕よりも小さい身長なのに、背には、一回りも二回りも大きいバッグパックを持った、クリーム色のローブを身につけた人物がいた。
そのローブから覗かせた顔が少女であると確認できた。
「え、ええっ?」
「混乱しているんですか?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者様のおこぼれにあずかりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」
「サポーター?なんだそれはベルよ?」
目を丸くするベル。サポーターという聞いたことのない単語に首を傾げるギル、少女だけがニコニコと笑っていた。
「あや?格好いいお兄さん、サポーターをご存知ないので?文字どおり冒険者様をサポートするものですよ!」
「いや、そうじゃなくて…。君、昨日の…」
「……?お兄さん方とは初対面のはずですが?」
首を傾げる少女に、僕もつられて首を傾げあれぇ、と呟いた。
「それでお兄さん、どうですか、サポーターはいりませんか?」
「ええっと…で、出来るなら、欲しいかな…」
チラリと横にいる王様を見る。
「決めてよいぞベル。我には興味ないことだ」
……前々から、バッグパックを持ってくれる、サポーターは欲しいと思っていたし。王様持ってくれないし…。
「本当ですかっ!なら、リリを連れていってくれませんか?」
「いや、それはいいんだけど、うーん…?」
「あっ、名前ですか?失敬、リリは自己紹介もしていませんでした」
「リリの名前はリリルカ・アーデです。お兄さん方のお名前は何と言うんですか?」
朗らかに笑みを浮かべたが、少女の瞳は、少し怪しく光っていた。
ーーーーーー
リリルカ・アーデは困惑した。
昨日路地裏で、出会ったこの少年と青年。
その時、少年の得物を見たがなかなかの武器だった。青年の方はなかなかに油断できないと感じていたが、いざダンジョンに入ってしまえば、リリに注意をするなど不可能だ。
今までだって、何人かのパーティーを組んでいるところにもいたが、リリなら問題ないと思いーーー案の定リリの魔法によってパーティーに入るのは問題なかったが…ダンジョンに入った瞬間問題が起きた。
「……えっと、あのぅ?格好いいお兄さんは戦わないのですか?」
「当然だ。王足る我がそのような些事するわけなかろう」
後、我のことは王様と呼び、敬うがいい等と言っていたが、そうじゃない…
何の為にダンジョンに来ているのですか貴方はッ!?
「リリルカさんも、王様もそこで見ていて下さいね!」
「あっ、はい」
「うむ。励むがよいベルよ」
前でキラーアントと戦っている冒険者ーーーベルが後ろにいるリリ達に声をかけてきたが、今はそんなどころじゃない!
(これじゃあ…計画と違います!?)
いつも通り、いや普通のパーティーだったら二人前線で戦っているはずなのに…。この、王様とか呼ばれている人、リリの隣にいて何もしちゃいない。
しかも、前線で戦っている少年も、その事を指摘しないし…
ーーーいったいなんなんですかッ!?このお二人は!?
「……よっと、これでとりあえず全部ですかね?」
「いやぁ…ベル様はお強いですねぇ…」
「ふむ。まあまあといったところか…。ところで貴様顔色が優れていないが、病気か?」
「まさかぁ…。大丈夫ですよ王様!あっ、それよりもリリは魔石の回収に行ってきますね!」
むんと、気合いを入れて、元気ですとアピールしてキラーアントの死骸から魔石を取り出す作業にかかる。
(……これは、どうにか考えないと不味いですねぇ…)
キラーアントから魔石を取り出す傍ら、今後について考えることにした。
「あっ、僕も手伝おうか?リリルカさん」
「いえ、それには及びませんベル様。それとリリのことは、どうぞリリと呼び捨てにして構いません。他の呼称でもいいですがさんづけはダメです」
「ど、どうして呼び方くらいでそんな…」
「たわけ。…まさかベルよ、我の呼称も『そんな程度』と考えていたのか!?」
「い、いえ!?そんなことないですよ!…うん。そうだね呼び方は大事だね」
ギルの睨みに、ベルは慌てて否定して、それじゃあリリって呼んでもいい?と確認してきた。
……本当にこの青年はなんなのか…。呼び方ひとつで怒ってるし…。
リリは再度、目元に手をあて頭痛をほぐした。
「と、とにかくリリはリリでいいので、今日はこの辺にしときましょうか?」
「えっ、でも…」
「うむ。そうするか」
まだ、探索したさそうなベルだったが、ギルも賛同したことから、渋々探索を切り上げた。
ーーーーーー
あれからギルドに戻り、魔石やドロップアイテムを換金し、リリと報酬の話をすることにした。
「リリ、今日の報酬なんだけど…」
「いえ!今日の報酬は全てベル様のもので構いませんよ!」
「ええっ!それじゃあリリ、本当にタダ働きだよ!?」
「これでお二人の信頼を買えるならお安いものですよ。……それにいつもと変わりませんし…」
「えっ?」
「うむ。その殊勝な態度、ますます気に入ったぞリリとやら、やはり王に付き従う臣下はこれぐらいではないとな!」
リリの最後の方の発言は小さすぎて聞こえず、問い返そうとしたが、王様はリリのその態度を気に入ったのか、僕の背中を叩き、「ベルもこやつを見習うがよい」と言ってきた。
「ま、まぁそう言う訳なので今日の報酬はよろしいですよ。なので明日からもリリを雇ってくれると、とても嬉しいです!」
「う、うん。またお願いするかも知れないから、よろしくね!」
はいと、元気よく手を振って別れを告げるリリを残し、僕達はホームに戻ることにした。
ーーーーーー
「ふぅ…。さて明日からはどうしましょうか?流石にあの青年が、隣にいるときは無理ですし…」
ベル達を見送った後、その場で今後の行動について思案していた。
「はぁ…。あの王様とか呼ばれている人、本当に冒険者なんですか?」
「我がどうかしたか?」
「わっ、ひゃあっ!?」
自身の独り言に、反応する声がかかり、後ろを振り返ると今日ダンジョンで一緒にいた例の青年が立っていた。
「む?何を驚いている?いくら我が偉大な王でも、その態度は無礼であろう」
「す、すいません王様、リリは何分。お、王様のような高貴な方とは縁がなく、無礼な態度をとってしまいました」
なるほどと、ギルはその答えに満足げに頷き、リリは戻ってきたギルに、バレたかと内心で冷や汗をかいていた。
「そ、それで王様、リリに何かご用ですか?」
「うむ。貴様のその殊勝な態度、ますます気に入った!…喜べ!貴様を我の臣下にしてやる!」
「は、はぃぃっ!?」
嬉しかろう…。とギルは得意気にリリを見下ろしていた。
……この人、頭大丈夫なんですか?
リリは、自身を臣下にしてやる等と言ってくるギルに困惑した。
「返事はどうしたリリよ?…いや、我が臣下リリよ」
「あ、ありがとうございます?」
「うむ。よき返事だ!」
フハハと、高笑いし始めたギルに、広場にいた全ての人が振り向いたが、リリは注目されるのは不味いと、戻ってきた理由を聞いた。
「そ、それで王様はご用はそれだけですか?それならリリも、もうホームに戻らなければ行けないので…」
ではと、その場を離れようとするリリを待てと、再度呼び止めた。
「……何でしょうか?」
「なに、我が臣下になった恩賞をくれてやる。ほれ」
おもむろに、ギルは上着から小袋を取りだし、リリに放った。
「えっ…?」
「用はそれだけだ。今後とも我が臣下として我をサポートするがよい。…後、ベルのやつよもな」
それだけ言い、ギルは後方で待っているベルの元へ戻っていった。
「……なんなんですか、あの人は…?」
残されたリリは、その場でポカーンと立ち尽くし、去っていく背中を眺めていた。
「それにこれ、一体何なんですか…?ええっ!?」
リリは渡された小袋を見て、驚愕した。
ーーー少なく見積もっても100万ヴァリス入ってるっ!?
「一体何者何ですかーっ!!?」
リリの叫びが広場にこだました。
ーーーーーー
「ふむ。待たせたなベルよ」
「あっ、おかえりなさい王様。一体どうしたんですか?」
「なに、あやつに、我が臣下にしてやる旨を伝えたに過ぎん」
「王様、リリのこと気に入ってましたもんね」
当然だ。ギルはそう答えた。
我のことをサポートしたい等、言い出したときは不快に思ったが、なかなかダンジョンのことも詳しく、なにより我の素晴らしさをよくわかっていた。
……リリはダンジョン内にて、二人の信用を得ようと、二人のことを誉めちぎっていたが、リリ自身は自身の目的のためだったが、ギルはその態度を気に入った。
ギル自身、媚びへつらう者は気に入らないが、リリは子供、しかもサポーターとしてもなかなかの腕を持っていた。
「臣下かぁ、王様僕もそろそろ下僕から…」
「たわけ。貴様はまだ下僕のままだ」
「……そうですか」
ベルは未だ下僕のままであることにショックを受け、黄昏た。
『ええええええっ!!?』
その時広場から誰かの叫び声が聞こえた。
「……何だろ?今、広場から叫び声が聞こえませんでした?」
「ふん。どこぞの雑種が騒いでいるのだろう」
そのような些事気にするなと、ベルに言い、二人はホームに帰っていった。