倒した後、意識を失った二人。
ギルは二人を抱え、帰路につく。
「ぬ?どうしたベルよ!?」
バタッ、と倒れたベル。それを見て瞬時に近くまで駆け寄り、様子を伺うとどうやら寝てしまったようだった。
「なんともまぁ、体力のないやつらだ」
ギルはそう悪態をつくと、二人を脇に抱えホームに向かい歩こうとした。
「ーーー王様ー!?二人とも大丈夫ですか!?」
歩き出そうとして数歩。先程まで祭りを同行していたシルと再び出会った。
「ぬ?娘か、何心配するでない。気を失ってるだけだ」
そうですか、シルはそう言い安堵の溜め息を吐いた。
「王様、そしたらここからでしたらウチの店が近いです。そこのベットに運びましょう」
「そうか、では案内するがよい」
そう提案し、二人は歩いていった。
ーーーーーー
「これで全部やったっけ?」
「いえ、…後一体、残ってます」
アイズが一刀の元にトロールを瞬殺した。
新種の花型のモンスターに襲われたあの後、アイズとロキは残りの脱走したモンスターの対処に、東のメインストリートまで来ていた。
残りのモンスターは、シルバーバッグと、アイズが相手をすればまた瞬殺できる。そう分かっているロキはヤル気もなく移動し、アイズもそれに付いて行っていた。
「あぁん?なんや、もう終わったんか?」
大通りの賑わいは、モンスターに怯えることなく、明らかに舞い上がっていた。
ロキは形成されている人だかりに近づき事情を尋ねた。
「おばちゃん、モンスターは?今どういう状況なん?」
「それがねぇ、あの男の子がモンスターをやっつけたらしいんだよ!それも、あの迷路の奥で一発で!」
「ちょ、ちょい待ち、あの男の子って、誰や?」
「見てなかったのかい?冒険者の少年だよ、赤っぽい目をして、白い髪で…そう、兎っぽい!」
「はぁ?」
困惑しているロキの側で、聞き耳を立てていたアイズはぴくりと微動した。
(白い髪…?)
心当たりがあった。
朝方商店の上で見た、深紅の瞳を持つ、白髪の少年。
『すいませーん?通して下さい!』
『道を開けよ!雑種共!』
前方の人だかりが騒ぎ出した。どうやら件の冒険者が帰還したらしい。
だがアイズは、一人の声に聞き覚えがあった。そうだ、あの人も一緒のファミリアだったんだ。
「すいませーん、失礼します」
その時だった。人垣を分けて出てきたのは、あの店にいた少女ーーーその後ろから、自身と同じ髪をした、自身を英雄王と名乗った青年が、件の少年とその反対側に少女を抱えて出てきた。
すぐ隣を通っていったが、向こうは気づいていなかった。
(おめでとう…それと)
(ありがとう)
アイズは過ぎ去った背中に振り返り、心のなかで、少年に賛辞と、青年にお礼を言った。
ーーーーーー
「んんっ?ここは?」
「起きたか…」
あの後『豊穣の女主人』に着き、二人を二階の一室を借りそこで寝かせていたが、先に起きたのはヘスティアの方だった。
「あれ王様君?…ってモンスターは!?」
「慌てるなたわけ。モンスターなら、そこで寝ているベルが倒したわ」
「……そっか。やったんだねベル君」
ヘスティアは隣のベットで寝ているベルに優しげな目を向けた。
「そうとヘスティアよ、このナイフは一体どうした?」
「ん?それかい、それは僕がちゃんと僕が話をつけて貰ってきたから大丈夫だよ!どうしたの王様君にしては気になってるぽいけど…?」
「なに、なかなかにして上等で、愉快な武器かと思ってな…。これならば我の宝物庫にも置いてもいいぞ」
「冗談はやめておくれよ…。それはベル君のだよ!王様君にもちゃんとあるよ!そこの包みがそうだよ」
そう言ってヘスティアは自身のベットに立て掛けてある(ベットに寝かせる前にシルが置いた)ものを指差した。
ギルは、怪訝そうな目でそれを見てゆっくりと包みを取った。
そして、それを見てギルは驚愕した。
「……ヘスティアよ、これは一体どうした?」
「…?どうしたいそんな怖い顔して?ベル君のナイフと一緒に作って貰ったんだよ?」
「作っただとっ!?これをか!?」
そうだよ、ギルの剣幕にビクビクしながらそう返した。
ギルは改めて、その黄金の剣と、黄金の鞘を手にとって確認した。
(……やはりこれは…)
ギルには見覚えがあった。自身と相対したセイバーがこの二つを持って、我と対峙したのだから。
「そっちは、ちゃんと王様専用だよ!大事に使ってね!」
ヘスティアが笑顔で言った言葉に、ギルは再度驚愕した。
(……我が担い手だとっ!?)
ギルの宝物庫にも、これの原典は入っている。正しそれは武器としてで、『乖離剣エア』のように『真名解放』はできない。担い手ではないのだから。
だが、これは今触れて分かったが、『乖離剣エア』と同じ感じがし、自身が担い手であると証明している。
「フハハ。ハハハハハハッ!ヘスティアよ、貴様なかなかに出来る神だったのだな!」
「ど、どうしたのいきなり笑いだして?…まぁ、王様君も僕の凄さがやっとわかったんだね!」
「う~ん?あれ?ここどこ!?」
ギルの笑い声に目を覚ましたのか、ベルがやっと目覚めた。
「起きたかベルよ、ここは娘の店だ」
「傷は大丈夫かい?ベル君?」
寝起きなのか、ぽぉーっと、していたが意識が覚醒したのか「か、神様っ!?」と慌て出した。
そんなベルにギルはヘスティアを指差し、事のあらましを語った。
「そう言えば神様、この武器は一体どうしたんですか?」
「あぁ、それはねーーー」
ベルの質問に、ヘスティアは居なかった数日の出来事を話し、自分が土下座耐久レースの末、手に入れたと答えた。
ベルは土下座がなんなのか、わからなく拷問の類いだと戦慄し、逆にギルは先程とはうってかわって、冷めた目で見ていた。
「そんな…、ヘファイストス・ファミリアの武器は凄く高価で、僕なんかには…」
「強くなりたんだろ?」
「……!」
「言ったじゃないか、誰よりも君を応援するって。…だって僕は君のことが好きだから」
ベルはその言葉に涙をながし、顔をぐちゃぐちゃにした。ヘスティアはそんなベルに満面の笑みで返した。
「いつだって頼ってくれよ。僕は君の神様なんだぜ?」
「神様ぁー!!」
ベルは子供のように、その小さな体にすがりついた。
ヘスティアはベルを受けとめ、ベルの背中に手を回す。ギルはその様子を、優しげな表情で見ていた。