ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ガネーシャの宴が終わっても帰ってきていないヘスティア。

神友であるヘファイストスのところにいた。


土下座

「……あんた、いつまでそうやっているつもりよ?」

 

「……」

 

ベルが食い入るようにとある店のショーウィンドウを覗き込んでいた、同時刻。

 

そのとある店の屋内では、ヘファイストスが呆れたような疲れたような声音をこぼしていた。彼女の視線の先には、床に跪いてこれでもかと頭を下げているヘスティアがいた。

 

「私、これでも忙しいの。騒いでなくても、そこで虫みたいに丸まってもらってると、気が削がれて仕事の効率落ちるの。わかる?」

 

「……」

 

「ちょっと、ヘスティア?」

 

「……」

 

「……はぁ」

 

押し黙りずっと同じ態勢のままでいる小さな親友に、ヘファイストスはため息をつく。

 

(何があんたをそうさせるのよ…)

 

今までも散々頼られることはあったが、今回は様子が違う。何と言うのか、執念、あるいは切望じみた強い意思が伝わってくる。

 

「そもそも、あんた昨日から何やってるの?なんなのよ、その格好?」

 

「土下座。これをすれば何をしたって許されて、何を頼んでも頷いてもらえる最終奥義…ってタケから聞いた」

 

「タケ…?」

 

「タケミカヅチ…」

 

ああ…、とヘファイストスは親交のある神の顔を思い浮かべ、面倒を吹き込むなと悪態をついた。

 

もう無理だ、そう思いため息を一つ吐きヘスティアをじっと見据えた。

 

「……ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあんたがそうまでするのか」

 

「……あの子の、力になりたいんだ!今彼は変わろうとし、高く険しい道のりを走り出そうとしている!だから欲しい!あの子を手助けできる力を!あの子の道を切り開ける、武器を!」

 

ヘスティアは視線を床に縫い付けたまま、ヘファイストスの方を見向きもせずに、それにと言葉を続ける。

 

「……何もしてやれないのは、嫌なんだよ…」

 

消え入りそうな弱々しい言葉にヘファイトスはついに彼女を認めた。

 

「……わかったわ。作ってあげる、あんたの子にね」

 

ばっと顔を振り上げたヘスティアに、ヘファイストスは肩をすくめて見せる。

 

「私が頷かなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょうが」

 

「……うんっ、ありがとう、ヘファイストス!」

 

そう言って立ち上がろうとしたヘスティアだったが、長時間の土下座の反動ですぐによろめいて四つんばいに戻った。そんな親友の姿に形だけのため息を吐いた。

 

「でも代価はちゃんと払うのよ。何十年何百年かかっても、絶対にこのツケは返済しなさい」

 

「わ、わかってるさっ、僕だってやるときはやるんだっ。ああいいとも、いいともさ、ベル君へのこの愛が本物だって、身をもってヘファイストスに証明してあげるよ」

 

「はいはい、楽しみに待ってるわ」

 

胸を張って見せるヘスティアの言葉を話し半分に聞きながら、ヘファイストスは壁に付けられた棚の中からひとつのハンマーをとった。

 

「あんたの子が使う得物は?」

 

「え…ナ、ナイフだけど?ま、まさかヘファイストス君が打つのかい?」

 

「当然よ。これは完璧にあんたとの私情なんだから、ファミリアの団員を巻き込むわけにはいかないわ」

 

何か文句ある?とヘファイストスは左目でじろりと一睨みする。ヘスティアはそれに首をふり、顔を輝かせた。

 

「文句何てあるわけないじゃないか!天界でも神匠と謳われた君が打ってくれるんだよ!」

 

「あんたねぇ、ここは天界じゃないから私は一切『力』を使えないの」

 

「構うもんか!僕は君に武器を打ってもらうのが一番嬉しいんだから」

 

「……あっそ。そう言えば、あんたのもう一人の王様君だっけ?その子には良いのかい?」

 

「ああ…どうしようかな…でも良いのかいヘファイストス?ふたつも作って貰うのは…」

 

「ここまできたら一つもふたつもかわらないわ。で、その子はどんな武器を使うの?」

 

ヘスティアはヘファイストスの質問に後頭部をかき、わからないんだよね、と答えた。勿論そんな返答にヘファイストスは呆れた。

 

「はぁ?あんたねぇベルって子にうつつ抜かし過ぎじゃない?恩恵与えてんでしょ?」

 

「いや、与えてないだよね恩恵…いらないって断られて…」

 

「なによそれ?ファミリアに入ったのに恩恵いらないって…。冒険者じゃないの?」

 

「う、うん。ギルドにも断られたらしいよ。…でもベル君と一緒にダンジョンに行ってるから、こっちはこっちで不安なんだよね…」

 

はぁ?ヘスティアに話を聞いていたが、ますますわからなくなった。恩恵を貰わずにダンジョンに下界の子が行くなど、自殺行為にも等しい。

 

「……危なっかしいわね、その子。よくダンジョンから帰ってこれてるわね」

 

「ベル君曰く、王様君が睨むとびびって逃げるらしいよ」

 

「アハハ。なにそれそんなことあるわけないじゃない」

 

そうなんだけどなぁ、とヘスティアもヘファイストスの意見には同意だが、ベルと何度もダンジョンに入っていつも何事もなく帰って来る様から、あながち嘘と断言できずにいた。

 

「フフ、まぁいいわその子には、初心者にでも扱える剣を作ってあげるわ」

 

「重ね重ね、ありがとうヘファイストス!」

 

「……正し!これからやる作業、あんたも手伝いなさい!」

 

「わかった、任せてくれたまえ!」

 

ヘファイストスは、ビシッとヘスティアに指を指し手伝いすることを命じ、ヘスティアもそれを快諾し、二人の神は武器を作り始めた。

 

ーーーーーー

 

神様が出掛けられたから、三日目の朝。未だに神様は帰ってきていない。

 

それでも、今日も今日とて、ダンジョンに僕は向かう。

 

王様は昨日の夜、食べてるときに今日はダンジョンに行かないことを聞き、いまだ寝ている。

 

僕はそんな王様を起こさないように僕はホームを後にした。

 

王様と一緒にダンジョンに入っているときは、敵がどっちから来るかを言ってくれるから、不意討ちには対応できてるけど、今日はひさしぶりの一人と言うことで、その辺も考えなきゃ。

 

……逆にそれしかしてくれないけど…

 

「おーいっ、待つニャそこの白髪頭ー!」

 

ダンジョンに行くためのメインストリートを歩いていると後ろからそんな声が聞こえ、白髪という単語にぎょっと反応してしまい、僕は思わず振り返る。

 

そこにはこの間会った、キャットピープルの少女がぶんぶんと手を振っていた。僕は自身に指を向けて「僕ですか?」と確認すると、こくこくと頷かれた。

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャ」

 

「あ、いえ、おはようございます。…えっと、それでなにか僕に用ですか?」

 

「ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。はい、コレ」

 

「へっ?」

 

「白髪頭はシルのマブダチニャ。だからこれを渡して欲しいニャ」

 

手渡されたのは、お財布だった。僕がいきなり呼び止められ、これを渡されて思考停止していると、前回も会ったエルフの店員さんが現れ、事情を説明してくれた。

 

何でも、今日は『ガネーシャ・ファミリア』の怪物祭なる催しものがあり、シルさんはそれに向かったが財布を忘れてしまい、お店の準備もあるし、どうしようかと困っていたらシルさんと面識のある僕を見掛け、届けて欲しいとのこと。

 

……良かった、キャットピープルの少女の説明じゃ何も理解できてなかったから…

 

「そう言うことなら、わかりました。シルさんにはいつもお世話になってますし」

 

「ありがとうございます。シルは先程出たばかりなので直ぐ追いつけるでしょう」

 

そう言いエルフの店員さんは、背負っているバッグパックは邪魔だろうと、預かってくれることになった。

 

身軽になった僕は、二人にお別れを言い、東のメインストリートーーー怪物祭がやっている方に走っていった。

 

 

 

 


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