ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ダンジョンに二人で入っているベルとギル。
帰り道カーゴに閉じ込められているモンスターを見る。


ミアハ様

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『グゲェ!?』

 

こちらに背を向けていたダンジョン・リザードは危険を察知し、泡を食ってその場を逃げようとするが、僕の方がそれよりも早く、装備していた短刀を突き刺す。

 

ダンジョン・リザードはその一撃で絶命し、ピクリとも動かなくなった。僕はまだ残っていたゴブリンに背負っていたバックパックを投げつけた。

 

『ギィ!?』

 

度肝を抜かれたゴブリンに見事直撃し、ゴブリンは後方に弾かれるように飛んだ。バックパックを抱き止める格好でゴブリンは転がり、『……グゥ』と短い悲鳴を上げ動かなくなった。

 

「……よし」

 

「……くぁ」

 

沈黙したモンスター達を見てふぅと短く息を吐いた。王様はそんな様子を欠伸をしながら見ていた。

 

相変わらずダンジョンに一緒に入ってきているけど、モンスターには襲われずに、王様は僕の戦闘を後ろで眺めているだけだった。

 

(……バックパックぐらい持ってくれてもいいのに…)

 

僕は内心でそう思ったが、王様に荷物なんか持たせたら確実に怒られる。

 

「……強くなってるよね?」

 

「さてな…だがまぁ、最初よりはいくぶんかマシにはなったのではないか」

 

現在位置はダンジョン4階層。僕は自身が強くなっているかどうか、小声で疑問を出していたが、意外にも王様が答えてくれた。

 

「ふふ、ありがとうございます王様」

 

「その調子で精進すれば、下僕から家臣にしてやるのもやぶさかではないぞ」

 

僕は倒したモンスターから魔石の欠片を回収して今日のダンジョン探索を終わりにした。

 

帰り道、僕の貧相な装備より格段にグレードの高い武装を纏う面々を見かけ、うぐっと声が詰まる。

 

……まぁ、王様は何一つ装備、武器も持っていないから他の冒険者が驚いていたが。

 

(そういえば、神様、今日も帰ってこないのかな…)

 

神様が友人のパーティーに出掛けて二日たつ。神様自身何日か留守にするって言っていたが、少し心細くなる。王様は普段と変わらない態度で、気にするなと言っていたが、それでもやはり気になってきてしまう。

 

(……あれ?)

 

『始まりの道』とも呼ばれる横幅が限りなく広い1階層の大通路を越え、バベルの地下一階に戻ってきた僕は見慣れない光景を目にした。

 

巨大なカーゴ。物資運搬用の収納ボックス、それがダンジョンの大穴から少し離れた場所にいくつも置かれている。

 

おぼろげにカーゴの群れを眺めているとーーー唐突に、ガタゴトッ、と箱が揺れた。

 

(いっ!?モンスターが、閉じ込められてる!?)

 

箱の中身が暴れているとなれば、蓋を開けずとも予想ができた。僕はそれに、情けない顔をしてびっくりした。王様は、ちらっと横目で見ていたが興味がないのか何の反応も示さなかった。

 

『今年もやるのか、アレ』

 

『怪物際ねぇ…』

 

『あんな催し飽きずに続けて、意味あんのか?』

 

『パンと見世物であろう…くだらん』

 

『ガネーシャのところも損な役回りだな。ギルドに押し付けられて、市民に媚を売るような真似を、毎年毎年』

 

『そりゃあおめぇ、何てったって[群衆の主]様だしなぁ、はははっ』

 

喧騒とまでは言えないざわめきから、そんな話し声を拾った。

 

……怪物際?

 

聞きなれない単語に首を傾げる。強引に捕獲されたモンスター達が、この場所に次から次へと運び込まれているのは、その怪物際というものに関連してのことなのだろうか。

 

象の頭の描かれたエンブレム付きの装備を纏うファミリアの構成員達。彼等が大小様々なカーゴを引っ張ってくる光景を、僕は周囲の人達と同じように眺めていた。

 

(あっ……エイナさん?)

 

視界の隅に見覚えのある姿を見つけた。整った顔立ちを真剣な表情に変え、もう一人いるギルド職員と何やら入念に打ち合わせを行っている。

 

(仕事中、なのかな…?)

 

書類を片手に話し込んでいるエイナさんへ声をかけるのはためらわれた。何より今は王様と一緒にいる、ここで見つかったらまた王様と揉め出してしまう。

 

僕はそう思い、後ろにいるはずの王様に戻りましょうと、声をかけようとしたが後ろに王様はいなかった。

 

ッ!?どこに行ったんだろ?……まさか!?

 

「おいエイナとやら、この辺鄙なものはなんだ?」

 

「ごめんなさい今ちょっと手がはなーーーって、何で貴方がここにいるの!?」

 

「王の質問に質問で返すな、たわけ」

 

「はぁっ…!?貴方はねぇ…、ここは冒険者登録してない人は入っちゃ駄目って言ったでしょ!」

 

「雑種の尺度ではかるでない。我は王だぞ、立ち入れぬ場所などないわ」

 

「またそんな勝手なこと言って!ここは本当に危険なんだから、未登録の人は入っちゃ駄目なの!」

 

「戯言はいい。あれはなんなのだ?さっさと話すがよい」

 

「……ッ!こ・の・人は~!!」

 

僕はエイナさんが噴火しそうだったので、その場を後にした。

 

……王様、すいません僕はまだ死にたくないです。

 

ーーーーーー

 

あの後、ギルド本部にて魔石とドロップアイテムを換金して、僕は一人あてもなくぶらぶらと歩いていた。

 

……王様がダンジョンに入っていた事をエイナさんに後で怒られるなぁ~、何てどこか他人事のように考えながら。

 

「ん?おお、ベルではないか!」

 

「あっ、神様!」

 

気の向くままに歩いていたら、正面から来た人物に声をかけられた。

 

僕はファミリアの主神であるヘスティア様を除いて唯一親交のある神様、ミアハ様にお辞儀をした。

 

「こんにちは、ミアハ様。お買い物ですか?」

 

「うむ。ゆうげのための買い出しだ、私自らな。ベルはなにをしている?」

 

「僕はちょっとお店を見ていました。…お金はないんで、本当に見ているだけなんですけど」

 

「ふははっ、お互いファミリアが零細であると苦労するな」

 

大きな紙袋を持ったミアハ様は気持ちよく笑いかけてくる。つられて僕も口の端を緩めていると、そこでふと神様ーーーヘスティア様のことを思いだし、僕は少し尋ねて見ることにした。

 

「あの、ミアハ様。ヘスティア様のことについて何か知っていませんか?二日ぐらい前に友人のパーティーに出てから、まだ、その帰っていなくて…」

 

「ヘスティアが、か?ううむ…すまない。私には見当がつかん。力になってやれそうにない」

 

「い、いえっ、気になさらないでくださいっ」

 

神様に謝罪させてしまった僕は、滅相もございませんと慌てて手を振った。

 

「パーティーというのはガネーシャの開いた宴でまず間違いないだろうが…私はその日、宴そのものに出ていなくてな。顔を出していれば何か分かったかもしれんが」

 

「えっと、ミアハ様はその宴にご招待されていなかったんですか?」

 

「いや声はかけてもらっていた。が、極貧のファミリアを率いる身としては暇がなくてな、先日も酒宴そっちのけで商品調合の助手に勤しんでいたのだ」

 

ミアハ様のファミリアも僕達のファミリアと負けず劣らず脆弱だったりする。

 

僕みたいな駆け出しの冒険者でもミアハ様と関わりを持てたのは…その、いわゆる底辺同士のお付き合い、というやつなのかもしれない。

 

「おお、そうだ。ベル、これをお前に渡しておこう。今も話したが、できたてのポーションだ。オウサマと一本ずつやろう」

 

「えっ!」

 

紙袋を片手で支え、懐から二本の試験管を取り出したミアハ様は、それを気軽に差し出してきた。

 

……ミアハ様は王様のことをオウサマと呼んでいる。初めて会って自己紹介をしたとき、王様が「我は王の中の王!王様と呼ぶが良い!」といい、ミアハ様は「オウサマか……、変わった呼び名だな」と勘違いし、以来どこかアクセントのずれたオウサマと呼ぶようになっていた。

 

ってそんなことより!

 

「ミ、ミアハ様、これって!?」

 

「なによき隣人に胡麻をすっておいて損はあるまい?」

 

面食らった僕を尻目に、ミアハ様は少し意地悪く、そして男前に笑う。ぽんぽん、と空いた手で僕の肩を叩いた後、ミアハ様はすぐとなりをすり抜けていった。

 

「ふはは、それではなベル。今後とも我がファミリアのご贔屓を頼むぞ」

 

片手を振りながらミアハ様は僕に背を向け雑踏の中に消えていった。僕は、去り行くミアハ様に笑みを送り、ペコリとお辞儀をしてから、装備しているレッグホルスターに、頂戴したポーションをしまいこんだ。

 

(……ぶっちゃけ王様には必要ないんだけどなぁ…)

 

内心でそう思ったが、せっかくの貰い物なので後でキチンと王様に渡そうと思った。

 

そして、ミアハ様とも出会えたことだし、僕も帰ろうと思いホームの方向に歩いていった。

 

武具関連のお店が目に見えて増えだし、僕はある店舗の前で足を止める。隣接する左右の店と比べて、二回りも大きい武具店。

 

僕は周囲の目を気にしながら、いつもそうするように店頭のショーウィンドウに歩み寄った。素人目で見ても逸品だと分かる数々の刀剣が飾られてある。

 

……どこぞの辛口英雄王のお眼鏡には叶わなかったが。

 

(やっぱり憧れちゃうよなぁ…)

 

こうしてこのお店のショーウィンドウに顔を張り付かせるのは、もはや恒例のようなものだった。ギルドの帰り道、王様が食糧を買っている間、立ち寄る真似をしている。

 

「ベルよ!ここにいたのか。王たる我を置いて先に行くとは何事か!」

 

「あっ、すいません王様。長くなりそうだったので…」

 

後ろから声をかけられ、振り返ると王様がいた。先に出ていった事を聞かれたが、まぁよいと言って王様は僕が見ていたショーウィンドウを見た。

 

「なんだベルよ?このような二流の武器に興味でもあるのか?」

 

「二流って王様…そうですね、欲しいですけど今の僕じゃ百年早いですし…」

 

「たわけ。武功も立てていないのに報奨が欲しいなどベルと言えど片腹痛いわ」

 

そうですよね…。僕が王様の発言にズーンと肩を沈めていると、王様はそんな僕を見て、ハァとため息をついた。

 

「……だかまぁ、貴様がキチンと武功を立てた暁には我が宝物庫から報奨を賜ってやる」

 

「本当ですか!?」

 

あぁ、と王様はそう返してくれた。僕は未だに王様の宝物庫を見ていないが、きっと宝物庫って言うぐらいだから、すごいのが入ってるんだろうなぁと思っていた。

 

……もっともベルの想像以上に宝物庫の中身はヤバイのだが。

 

「それなら王様!武功ってどのくらいのモンスター倒せば良いですか?」

 

「……ふむそうだな。この前取り逃がした牛の形をした雑種を倒せば考えてやらんでもないぞ」

 

「ミノタウロスッ!?いやいや無理ですよ王様ぁ!もう少し情を…」

 

「たわけ、あの程度で我の報奨をもらえるのだぞ。」

 

そんなぁ~っとベルは悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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