ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

18 / 75
ヘスティアが出ていった後ダンジョンに向かうことにした二人。
豊穣の女主人によることになった。


怪物際
再び豊穣の女主人


時間は正午前。あれからベル達はダンジョンに行くため僕は装備し、メインストリートを歩いていた。

 

「しかし、ベルはあのような雑種がタイプなのか…」

 

「雑種?」

 

「決まっておろう、あの金髪の雑種だ」

 

「ぶっ!?雑種って…それよりなんで分かるんですか!?」

 

「昨日ダンジョンで言っておったではないか」

 

僕達は話ながら歩いていたが、王様が思い出したように唐突に言ってきた。

 

……そうえばダンジョンで王様に『あの人にふさわしい人になりたい!』なんて言ってしまった。

 

(……と言うか王様、雑種はひどいですよ…)

 

僕は吹き出し、顔が熱くなるのを感じ内心でそう言った。王様はそんな僕の様子を見てニヤニヤしていた。

 

「まぁ、ベルの好みにけちをつけるような不粋な真似はせん。安心するがよい」

 

「はぁ、……あっ王様ダンジョンに行く前に寄りたい所があるのですが、ちょっと待ってて下さい」

 

そうか、王様がそう言ったのを確定にし僕は小走りで進行方向上にある『豊穣の女主人』に駆けていった。

 

(……ちょっと気まずいなぁ)

 

内心でそう呟き、『Closed』と札がかかっているドアをくぐった。

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めてお越しになっていただけないでしょうか?」

 

「まだミャー達のお店はやってニャいのニャ!」

 

店内でテーブルにクロスをかけていたエルフの店員とキャットピープルの店員が、僕にすぐ気づいて対応しにきた。

 

どちらもすごく可愛い。最近エイナさんと会ってるせいかエルフ好きであると自覚した僕は、耳の長い彼女の声に理由もなく緊張してしまう。

 

「すいません、僕はお客じゃなくて…その、シルさん…シル・フローヴァさんはいらっしゃいますか?あと女将さんも…」

 

僕の言葉に少し目を丸くしたふたりは、なにかに気付いたようにこちらを見る視線を改めた。

 

「ああぁ!あの時の食い逃げニャ!シルに貢がせるだけ貢がせといて役に立たニャくニャったらポイしていった、あの時のクソ白髪野郎ニャ!!」

 

「貴方は黙っていてください。それに食い逃げではありません」

 

「ぶニャ!?」

 

「失礼しました。すぐにシルとミア母さんを連れてきます」

 

「は、はい…」

 

キャットピープルの店員さんへ見舞った一撃が見えなかった…と言うか食い逃げじゃないってどうゆうことだろ?あ、もしかして王様が払ってくれたのかな?…後で王様にも謝らなきゃ…

 

獣人の少女の襟をつかみ、ずるずると引きずっていくエルフの店員を汗と一緒に見送り内心でそう考えていた。

 

「ベルさん!?」

 

階段を急ぎ足で下りる音がして、すぐに店の奥からシルさんが現れた。

 

「一昨日はすいませんでした。お金も払わずに急に飛び出して…」

 

「……いえお金の方はお連れの方が…。良かったです、こうして戻ってきて貰えて私は嬉しいです。」

 

腰を折って謝罪の言葉を告げると、シルさんは微笑んでくれた。

 

(やっぱり王様払ってくれたんだ…王様にもお礼言わなきゃ)

 

事情を尋ねようともせず温かく包み込んでくれるこの人に、急に飛び出した僕の代わりにお金を払いその事を何も言わない王様に不覚にも涙が出そうになった。

 

僕は目元を拭った後、用意していたお金を渡すことにした。……どちらにしろ店を急に飛び出したのだこれぐらいはしよう。

 

「これ本当は払えなかった分で持ってきてたのですが、昨日の詫び分ってことで受け取って下さい」

 

「私の口からはそんなこと言えません。そのお気持ちだけで十分です…私のほうこそ、ごめんなさい」

 

シルさんはそうポツリと呟いて、僕は慌ててシルさんが罪悪感を抱く必要なんてないと答えた。ばっばっ、と身ぶり手振りを大げさにやって説明し、押し付けるようにお金を渡した。

 

シルさんはきょとんとした後、クスクスと、肩を揺らして笑みをこぼした。それから何かに気付いたように、ぱんっと両手を打って鳴らした。「少し待っていてください」とキッチンの方へ消える。

 

戻ってきたシルさんは、大きなバスケットを抱えていた。

 

「ダンジョンへ行かれるんですよね?よろしかったらもらっていただけませんか?」

 

「えっ?」

 

「今日は私達のシェフが作った賄い料理なので、味は折り紙つきです。その、私が手をつけたものも少々あるんですけど…」

 

「いえ、でも、何で…」

 

「差し上げたくなったから、では駄目でしょうか?」

 

少し首を横に傾けたシルさんは、照れ臭そうに苦笑する。

 

「……すいません。じゃあ、いただきます」

 

そう言って僕はシルさんからバスケットを受け取った。見つめあうシルさんもまた頬を少しだけ染め、穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

「坊主が来てるって?」

 

カウンターの奥から昨日であったドワーフの女将さんーーーミアさんが出てきた。

 

「私に話があるんだって?シルは用件がすんだらすっぽかした仕事に戻りな」

 

「……はい、昨日のことでお詫びに…昨日はすいませんでした」

 

シルさんはミアさんの指示にまた店の奥に戻っていった。

 

「連れが払っていったから大丈夫だよ、何さお前さんずいぶん殊勝だね」

 

ミアさんは豪快に笑いながらそう言った。ちょうどそのタイミングで僕が入ってきた店の入口から王様が入ってきた。

 

「ベルよ、いつまで王たる我を待たす」

 

「あっ、すいません王様」

 

「……あんた王様って言うのかい」

 

「そうだが、なんだ昨日の女将か、して用件は終わったかベルよ?」

 

案の定ミアさんも僕が王様って言ったら引きつった笑みにかわった。王様はそんな様子に怪訝に見ていたが、不意に僕のてに持っているバスケットに目をつけた。

 

「むっ?ベルよその手に持っているのはどうした」

 

「あっ、これはシルさんに貰いました」

 

「シルがかい?まったくあの子は昨日も今日も…まぁいい坊主も昨日のことはもういいよ。あんたも冒険者なんだからこれからダンジョンに行くんだろう?さっさと行きな」

 

は、はいと僕はミアさんの言葉にそう返し店を後にしようとしたが、王様が先程エルフとキャットピープルの少女達が準備していたテーブルに腰掛けた。僕はお、王様といって呼びかけたが、聞いちゃいない…。

 

「……あんたも早くあの坊主と一緒に行きな、こっちは店の準備で忙がしいんだ」

 

「なに、せっかく王たる我が足を運んだのだ、茶の一杯でも出すのが常であろう」

 

王様のその一言に僕は袖を引っ張ったが、睨まれてしまって、その手を離した。ミアさんは王様の物言いに怒ると思ったが、「一杯だけだよ」と、そう言いカウンターの中で珈琲の準備をし始めた。

 

「お、王様もう少し遠慮ってものを…」

 

「ふん、王たる我が遠慮など笑わすなベルよ!…まぁよいそう言うわけだ先に外で待っておれ」

 

王様にそう言われ、僕は素直に外で待つことにした。

 

……大丈夫かなぁ…

 

ーーーーーー

 

「はいよ、それ飲んだら出ていきなよ?」

 

「ふん。不遜な態度だがまぁ許そう、我は寛容な王だからな」

 

「はいはい、まぁあんたには昨日たんまりいただいたからね、これぐらい構わないよ」

 

そう言って女将から珈琲を受け取り一口飲んだ。

 

……ほぉ、なかなかやるではないか

 

『シル、あれを渡しては貴方の分の昼食がなくなってしまいますが…』

 

『あ、うん。お昼くらいは我慢できるよ?』

 

『ニャんで我慢してまであいつに渡すニャ?冒険者ニャら昼飯くらい買える筈ニャ』

 

『いや、それは…』

 

『おーおー、不躾なこと聞くもんじゃニャいぜ、お二人ニャン。つまりあの少年はシルにとっての…これニャ?』

 

『違いますっ!!』

 

珈琲を飲んでいると、厨房の方からそのような会話が聞こえてきた。女将もその会話にまったく、と苦笑していた。

 

……ベルのやつめ、先のバスケットはそう言うことか…まったく雑種に目をつけているというのに、他の女にも手を出すとはなかなかやるではないか

 

「まったくシルは…自分の昼飯を坊主にやっちゃうなんてね」

 

「フッ、なかなかの娘だな」

 

珈琲を飲み干して我は上着の中に手を入れ、昨日のように、また小袋を取り出した。

 

「女将よ、少ないがとっておけ王の貴賤である」

 

「……いや、少ないってこれ昨日と同じものだろ、さすがに一人の店主として受け取れないね、今日はこっちのサービスなんだ、これで受け取ったらうちの名が廃るってもんさ」

 

「フハハ、そうかそれは仕方あるまい、それではこれは先のバスケットの礼としておこう!」

 

「あんた…フッ、そう言うことならこれはあの子に渡しておくよ、でもこれは多すぎるからこれくらいで」

 

「たわけ、王が貴賤したものを返すではない。ふん、裏で騒いでる雑種共にくれてやるがよい」

 

いいよ、とミアは数枚のヴァリスをとり他は返そうとしたが、ギルはそうつぱっねた。

 

「アハハ!あんた本当は優しいんだね!流石王様だ。今度来たときはしっかりサービスしてやるよ!」

 

「当然だ!我は王の中の王なのだからな!」

 

ギルはそう言って店を後にした。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。