そして、それを追いかけるギル。
ダンジョンの中で再会し、ギルはベルの決意を聞く。
「おお、戻ったかアイズ!急に飛び出して驚いたぞ…いったいどうした?」
「ごめんリヴェリア…あの人に聞きたいことがあったから…」
「そうか…それで聞きたいこととやらは聞けたのか?」
「…ううん、見失っちゃった」
アイズはあれから皆のところに戻り、心配していたリヴェリアにそう答えた。…外であったことは話さずに。
「皆、凄い飲んでるね」
「あぁ、先程の青年がずいぶんな大金を置いてくれたおかげでね」
「…そっか」
「おおー!?アイズ戻ったんか、お前も食え食え、今日はタダになったぞ!」
うん、アイズはそう言って目の前の食事に戻った。が、頭のなかでは先程の青年のことでいっぱいだった。
ーーーーーー
「…先程の雑種は何だったのだ?」
ギルはホームに戻る道すがらそんなことを呟いた。
酒場での道化がずいぶんと笑わしてくれたが、酒場を出てから出会った雑種のせいで幾分か不機嫌になっていた。
ギルは青年がベルをとぼしめていたとは思っていなかった。ギルは青年の見る目のなさと、先の雑種にフラれていたことに笑っていた。
ベルはまだ弱い、それはギルとて同じ考えだが、ベルの奥底に眠る力は先の道化とは比べるまでもない。
そして、ベルが太成したときにあの道化がどうでるのか、それを想像し笑ったのだ。
「…まぁ、雑種のことなどどうでもいい…我も帰って寝るとしよう」
ギルはそう言って、あくびをしながらホームに戻っていった。
ーーーーーー
「今戻ったぞ!ベルよ、王をおいて帰るとは何事か」
「あれ、王様君だけかい?おかえりベル君は?」
「なにぃ!どうゆうことだヘスティア、ベルは帰ってきてないのか!?」
うん、ヘスティアはそう答えギルの方を見ていた。
(……どうゆうこどだ?道中ベルには会わなかったぞ?もしや、あやつ…)
そう心の中で考えていたギルだが酒場の出来事を思いだし、ベルがこの時間からダンジョンに行ったのかと思った。
「まさか、あやつ強くなりたいがためにこの時間からダンジョンに行ったのか…」
「ど、どう言うことだい王様君!?」
ギルは慌てだしたヘスティアに酒場での出来事を話した。そして、ベルがその話の流れで酒場を飛び出し、ホームに戻ってきてないことを考えれば…
「ま、不味いよ?不味すぎるよ王様君!?直ぐギルドにでも救援を…」
「慌てるなたわけ」
「この状況で、何を冷静にしているんだい君は!?ベル君が」
「慌てるなと言っておろうがたわけ!!」
心配じゃないのか、そう言おうとしたヘスティアだがギルの一喝に言葉を切られてしまった。
「そうお前が急くでない、貴様はこのままホームで待っていろ、もしかしたら単に寄り道してるだけやも知れん」
「で、でも…」
「我は今からダンジョンに行きベルを探してくる」
そう言ってギルは踵を返しホームを出ようとする。が、ヘスティアはそれに待ったをかける。
「お、王様君一人でかい!?き、危険すぎるよ!」
「たわけ、我の心配など百年早いわ」
ギルはヘスティアの心配をそう言い捨て、ダンジョンに向かっていった。
ーーーーーー
「はぁっ、はっ、は…つ!」
ベルは荒い呼吸そのままに数多のモンスターと戦っていた。
ベルが今いるのは6階層、前回ミノタウロスに殺されかけた5階層よりも下の階層に来ていた。ベル自身夜のダンジョンに入るのも、6階層に来るのも始めてたが、先の酒場での出来事で自身の不甲斐なさを痛感し、強くなりたいその一心でこの時間に、この階層までやって来ていた。
防具もろくに着けず、ましてやベルは冒険者になってまだ半月、自殺とさして変わらない行為だが、ベルはこの階層に来るまで多くのモンスターを倒し、そして、目の前にいたーーーこの6階層で出てきたウォーシャドウを倒していた。
「はぁっ、はっ、…くっ!」
が、ベルも度重なる戦いで疲れはて、ついに腰をついた。
そして、自身の後方から聞きなれた声がかけられた。
「…ベルか?」
「王様…」
振り返ると、自身が王様と慕い、憧れたギルがいた。
「まったく…このような時間からダンジョンに行くとは…まぁよい帰るぞベルよ、ヘスティアも心配している」
「…心配かけてすみません王様…でもまだ戻れません」
「…なに?」
ギルはそう不可解そうに返し、ベルは自身の背後に気配を感じまた表れたウォーシャドウに向かって戦闘を開始した。
「僕はっ、まだ、…くっ、弱いです、でも…!」
ベルはウォーシャドウと戦いながら、そして泣きながら言葉をつむいだ。
「僕は、強くなりたいんです!王様のように…そして、あの人にふさわしくなれるように!」
そう言ってベルはウォーシャドウに短刀を突き刺し、ウォーシャドウは倒れた。
ベルはウォーシャドウを倒したのを確認した後、ギルに向き直り、うつむきがちに聞いた。
「僕は強くなりたいんです、…強く、…強くてかっこいい王様の」
「なれるともさ、ベルよ。貴様はこの偉大なる英雄王が見いだした逸材だ…あぁなれるともさ!」
ように…。そう言おうとしたが、ギルは言葉を遮り、ニヤリと笑いベルにそう告げ、ベルもそれに目に涙を浮かべたままだが笑顔で答えた。
そして、ベルはまた振り向き次のモンスターを見つけるために走り出した。
「フハハ、ベルよやはり貴様は最高だ!」
ギルはその背中を眺め笑いながらそう呟いた。
ーーーーーー
「あ、王様君!?やっと帰ってきた!遅いよベル君は!?」
「そう騒ぎ立てな、ベルが起きるであろう」
そう言って自身の背中に背負って寝ているベルをヘスティアに見せた。ヘスティアはそれを確認し、良かった、と目に涙を浮かべそう言った。
「ふふ、ヘスティアよ…」
「なんだい王様君?」
「ベルは強くなるぞ、我も貴様でさえも想像がつかなくなるほどな」
「…ふふ、それはそうともさ、何たってベル君は僕達の家族なんだからね!」
ギルは笑いながらヘスティアに言い、ヘスティアもそれに笑みを浮かべそう返した。