ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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『ロキ・ファミリア』が入店してビクビクするベル。
その理由を知りニヤニヤするギル。


店内での一幕

「今日は宴や!飲めぇ!」

 

「「「乾杯ー!!!」」」

 

そう言って入ってきたもの達はその手に持った飲み物片手に騒ぎ始めた。

 

……ベルの奴雑種の女を見ていたが、視線に気づいた雑種がこっちを見た瞬間カウンターに隠れおったは、さてはあの時いた雑種の女に惚れたな、ベルの奴めあの雑種に 目も合わせられぬとは…

 

初奴め、我はそんなことを思いながら、ベルの奇行に笑みを浮かべ飲み物をあおった。

 

やはり安酒だがベルに揉め事は厳禁と言われ、仕方なく飲んでいた。

 

……まったく王たる我にこんなもの飲ませおって…

 

そんなことを考えながら飲んでいたが、唐突に雑種の集団の一人の雑種が大きな声で騒ぎだした。

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話…?」

 

ベルの奴はアイズという名前が出るたびに硬直していたが、我としてはあのような雑種に興味がない。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろう!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出したやつ?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

なんだあやつら、あの程度の相手を取り逃がすとは本当に雑種だな…

 

我はそんなことを思いながら更に飲み物をあおった。ベルの奴は、動きを止め話に聞き入っているが…

 

……雑種の話に聞き入るとは、まったく…

 

「ベルよ、あの程度のざっ「そんでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

我の発言より大きな声で話していたため、我の言葉はベルには届かなかった。

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際に追い込まれちまってよぉ!しかも、アイズがミノを細切れにしたからそいつ全身にくっせー牛の血浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

そう言って、その青年は腹をおさえ爆笑していた。他のメンバーは失笑し、別のテーブルで話を聞いていた部外者は釣られて出る笑みを必死に噛み殺す。

 

……なるほどやはりあの時のトマトはベルか…ギルドに戻って再会したときには、おおかたシャワーでも、浴びていたのか。

 

我はそんな検討違いなことを思った。

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっかいっちまってっ…ぶくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「……くっ」

 

「アハハハハハッ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

「ふ、ふふっ…ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない…!」

 

「…別にもう一人は礼言ってくれたし…」

 

プイッと話の中心のアイズは、半目でそう言った。

 

「あぁん、ほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

どっと笑い声に包まれる『ロキ・ファミリア』のもの達。

 

……我は別に助けられた覚えも、礼を言った覚えもないのだが?

 

我の隣ではシルがベルのことを心配そうに声をかけていたが、集団の話は進んでいく。

 

「そんなやついたかぁ?まぁ、良いや。本当に情けねぇ奴だったよ、勘弁してほしいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護してなんになるってだ?それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ?」

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。」

 

「……あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

「なんだよ、いい子ちゃんぶっちまって。…じゃあ質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ。…じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「……っ」

 

「そんなはずねえよなぁ。自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、他ならいお前がそれを認めねえ」

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

青年の最後の言葉にベルはいたたまれなくなったのか、椅子を飛ばして、外へ飛び出していった。シルという小娘もたまらず追いかけていった。

 

ーーー我はその青年の道化ぶりに笑いを堪えるのにテーブルに突っ伏していたが、限界だった。

 

「ヒハハハハハッ、ハハハハハハ!」

 

我の笑い声に店内にいるすべての者が我を見た。カウンターの中にいた女将がア、アンタと声をかけてきたが、我は座っていた椅子から立ち上がり、雑種の集団の方に歩んでいった。……雑種の集団も我が近づいてくるのを、訝しげに見ていたがそんなことは関係ない。

 

「道化よ、先の道化ぶりなかなかのものであった!賛辞をおくろう!」

 

「……あぁ?」

 

我は道化の青年の前にたちそう言いはなった。道化は我の物言いに怒りを含んだ声色でそう返したが、…道化の所業にいちいち反応しては王の名折れ…ベルも出ていったため用件は手短にすまそう。

 

そう思い、我はカウンターの中にいた女将に向けなおった。

 

「女将よ!この道化ぶりに免じて、今宵の客の金は我が払おう!受けとるがよい!」

 

そう言い、我は上着の中に手を入れ、前回と同じように小袋を女将に放った。

 

女将は我が放った小袋を受け取り中身を確認し、驚愕していた。我は受け取ったのを見た後、道化の方に向き直った。

 

「そう言うことだ道化よ、今宵は心行くまで楽しむがよい!…我は連れが出ていったのでこれで去るが、貴様の道化っぷりで皆を楽しませるがよい!」

 

道化も、道化のつれたちも、店内にいた雑種も我の物言いに圧倒されていたが、我はベルを追うため店を後にした。

 

ーーーーーー

 

「……なんだったの?今の人?」

 

「……俺に聞くな、わかるかーつの…」

 

『ロキ・ファミリア』の面々は先の青年の登場で、困惑していた。……一人アイズだけは彼を追うため出ていってしまったが…

 

「ところでミア母ちゃん、その小袋いったいいくら入ってるん?」

 

「……100万ヴァリスくらいか?それぐらいは入ってるなこれ」

 

「「「はぁ!!?」」」

 

店内にいた全員が絶叫した。

 

ーーーーーー

 

「……あ、あの」

 

「ん?なんださっきの雑種か…なにようだ?」

 

アイズはあのあと、店を出て先程の青年を追いかけ声をかけた。

 

「……さっきの、子の連れ、ですよね?」

 

「そうだが?まさかそのような些事で我をひき止めたのか?」

 

「……そうじゃない、仲間の人のこと、笑って、ベートにお金まで渡して、なにがしたいの?」

 

「はっ、さては理解できてないのか雑種?我はベルを笑ったのではない」

 

鼻で笑いながらそう言われ、話は終わりだとばかりに去ろうとした。

 

……意味が、わからない…

 

私はそう思い、その青年の進行方向上に立ち塞がった。

 

「……ちゃんと話して…」

 

「煩わしい雑種だ、疾く失せよ!」

 

私がちゃんと話してもらおうと思い、そう言ったが青年はそう言い取り合おうともしない。

 

……実力行使は嫌だけど、この人に話してもらうには、仕方ない。

 

私はそう思い、腰にかけてある剣に手をかけた。

 

「……私は『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン…話してくれないなら、痛い目を、見るよ」

 

青年は私の発言にフッと笑い右手を上げた。

 

ーーー瞬間青年の背後の空間が歪み一本の槍が表れた。

 

私はその光景に目を見開いた。が次の瞬間、その槍はすさまじい速度で私の横を過ぎ去り、遥か遠くで突き刺さった。

 

……私は何も反応出来なかった…

 

「今の一撃は、ベルを救ったせめてもの慈悲だ、次はない」

 

そう言い捨て、彼は私の横を通っていた。私は今の一撃を見て地面に座り込んでいた。が、意を決して彼にまた声をかけた。

 

「……ま、待ってください!あなたの、名前は?お、教えてください!」

 

「ふん。我は王の中の王、貴様に名乗る程、安い名等ないわ!雑種はさっさと去るがよい!」

 

彼は私の方を見向きもせず、そう言い捨て去っていった。

 

私は彼の後ろ姿を眺め、自身の胸が熱かったのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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