霞んだ英雄譚   作:やさま

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もう一人出す予定だったオリキャラがこの話より登場します。
少なくとも今この作品を読んでる方々は大丈夫だと思ってますが、念のため事前連絡。
なお、これ以上新たにオリキャラを増やす予定はありません。
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第十一話 居るべき場所、居たい場所

ミノタウロスに襲われたベルを見舞ったその日、結局俺はダンジョンに潜らず青の薬舗に戻った。

今まで毎日のように潜ってきたのだ。

たまには休息も必要であるという俺の判断を、ミアハ様は笑って尊重してくださった。

―――――つくづく思う。本当に、俺にとっては勿体ないくらいの神様だと。

 

 

そして、その翌日。

昨日稼げなかった分も稼ぐため、俺はダンジョン探索に没頭した。

モンスターを狩っては換金に戻り、そしてまた狩りに行き―――そのような事を何週も繰り返し、変わり映えしないダンジョンに見飽きてきた頃。

 

「……?」

 

背後に僅かに感じる気配。

何かが、じっとこちらを見つめている。

しかし何気なく後ろを顧みても、そこには誰も居らず。

己の通ってきた静かなまでのダンジョンが広がっているだけで、俺は首を傾げた。

 

(……まぁいいか)

 

神の恩恵は、聴覚や視覚など人間の五感を強化する。

その結果、俺は今までよりも更に気配に敏感になり、そのせいでありもしない敵に剣を振り下ろす事も何度かあった。

今回もその類いだろうと、俺は気にせず下へ伸びる階段を降りていった。

 

 

―――――

 

 

 

深い霧に包まれたダンジョン12階層。

いわゆる「上層」と呼ばれる区域の最深部となり、13階層以降は「中層」となる。

また、10階層以降は大型モンスターも出現し、人の背丈をゆうに超える巨大なモンスターを前に恐怖する冒険者も少なくない。

そのうえ10Mはあるだろう高い天井と広々としたルームを彼らモンスターが十二分に活用すれば、その脅威は計り知れないものになる。

 

そして―――――今まさに、テクトは12階層にてその大型モンスターの内の一体、オークと対峙していた。

 

「―――ふッ!!」

 

先手必勝。

大地を蹴り、黒い両刃剣(アスタロン)を右手に握り締めモンスターの懐へ駆ける。

左へすれ違い様に腹部へと突き立てたアスタロンは、血肉骨格もろとも体の半分を大きく切断。

オークの体の上半分が大きく横へと傾倒し、腹からはおびただしい量の血液が噴きだした。

 

『グォォォ!!』

 

悶絶、咆哮。

体半分が切り開かれ、倒れ行くオーク。

だが、それでも絶命には至らなかったオークの持つ棍棒は未だ高く振り上げられていて。

オークより迫る死にもの狂いの一撃に、テクトは舌打ちした。

 

「っ……この、死にぞこないがッ!!」

 

腰に携えていたもう一本の銀の両刃剣(ブロードソード)を左手に握り締める。

急速接近により生じた力を殺すように左へ半回転し、大円を描くように切り払った。

神の恩恵により強化された腕力によって、オークの振り下ろした棍棒は甲高い音と共にブロードソードによって弾かれる。

そして間を置かずして黒い両刃剣が隙だらけのオークを猛襲、両断。

オークの体は、ついに灰と化し掻き消えた。

 

「……駄目だ」

 

懐へ潜り込んで、オークを斬りつけたまではよかった。

だがそれだけは致命傷にはならず、オークの攻撃を許すこととなった。

今回は一対一だったからよかったものの、対複数を考えるとこれはいただけない。

 

これより深く潜るなら、この程度は一撃で倒せなければならない。

たった一度の攻撃でも、敵の数が増えればそれだけ敵の攻撃の手は多くなり、戦闘が長引けば長引くほど危険度は増していく。

ゆえに無駄なく、そして正確に……攻撃の機会を与えることなく、一撃必殺でモンスターを撃破することが重要で。

群れとの戦闘では、手負いの獣を増やすような真似は出来るだけ避けたい。

 

そうして思考に耽っていたからだろう。

俺は、背後から近づく気配に気付かなかった。

 

「あの……凄いですね、お兄さん」

「!?」

 

間近から聞こえてきた、女性特有の柔らかなソプラノ声。

思わずアスタロンを抜き、振り向きざまに背後の気配へ剣を向けた。

 

「す、すみません驚かせてしまって!そういうつもりじゃなかったのですが……」

 

剣を向けられたにも関わらず、目の前の小柄な少女は微動だにせず俺を見ている。

空色の髪を覆い隠すような大きい群青の魔導帽子(ウィザードハット)、手には背丈以上はある歪んだ木の杖。

羽織っている青いローブの内側では、150C程度の小柄な細い体躯が見え隠れしている。

そして―――――俺は少女の細く鋭い耳に釘づけとなった。

 

「……エルフ?」

「あ、すみません。ハーフエルフです」

 

そして見せた彼女の笑顔は、おもわず紅潮してしまう程に可愛らしくて。

イタズラが成功したかのように、クスクスと笑っていた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……パーティを組みたかった?」

 

モンスターの襲撃に備え、入念に周囲を警戒しながら俺は少女の話を聞く事にした。

どうやらお喋り好きのようで、要件以外の世間話も多かったが……まとめると、彼女はパーティを組みたかったらしい。

それも、ソロで探索をおこなっている人と。

 

「なんでまたソロなんだ?というか、同じファミリアの仲間を頼ればいいだろう」

「えーっと、ソロの人を探していたのは、パーティよりソロの方のほうが仲良くなりやすいと思ったからです。パーティを組んでいると既にその方達の間で“輪”みたいなのが出来上がっていますし、そういう所に入り込むのはちょっと苦手で……」

「それなら、ファミリアの仲間は?」

 

その質問に、少女の気配が一瞬張りつめる。

 

「ちょっと怖くて……頼りたく、なくて」

 

途端、彼女の顔には影が差し、俯いた。

それに声はどこか震えていて、向けられた剣を前に悠然としていた少女とは到底思えない程に弱々しく。

一体どこのファミリアかと、彼女の来ている服にエンブレムを探し―――――気付いた。

 

「ソーマ、か」

 

肯定するように、彼女の肩がビクリと跳ねる。

確かに、ソーマ・ファミリアには良い噂を聞かないが……

 

「ならばなぜ、お前はそのようなファミリアに入っている?」

「母が所属していたんです。父は別ファミリアに所属していたんですが、母の妊娠中に亡くなっていて……」

「……なるほどな」

 

ようするに、二つのファミリア間で彼女は生まれた。

だが生まれるよりも先に父が亡くなってしまったことで、父方のファミリアとの縁が切れてしまい。

結果、物心ついた頃には既に母方の所属するファミリアに所属していたらしい。

 

「無責任な親だな」

 

パーティでさえ、二つのファミリア間であまり組む事は推奨されていないのだ。

それが子供を作るだなど、冗談ではない。

子を前に、苛立ちを隠す事もなく吐き捨てた。

……親の悪口を言われたというのに、何故か少女は安心したように笑っていたが。

 

「仲間を仲間と思えないファミリアなど居るだけ無駄だ。今すぐそんな所、抜けてしまえ」

「母がファミリアに借金をしていて、無理なんです。それに、あの子を見捨てる事は……」

「あの子?」

「幼馴染の小人(パルゥム)の少女で、その子とだけは仲が良いんです。ただ、その子には危険なダンジョンに潜ってる事隠してて……」

「……だから、俺を頼ったというわけか」

 

オラリオは繁栄している都市だが、それ以上に抱えている闇も深いらしい。

それに、先日庇ったあの……

 

「……小人(パルゥム)の少女?」

 

―――――まさか。

いや、しかしこのオラリオに小人(パルゥム)が一体どれだけいると言うんだ。

この少女の幼馴染を偶然俺があの時庇っていたなど、いくらなんでも出来すぎである。

……でも。

 

「その小人(パルゥム)の特徴は?」

「え?え、っと……赤毛でふわふわとした髪、でしょうか。とても柔らかくて、触り心地がいいんですよ」

「……!!」

 

ビンゴ。

あの時、月明かりの下で垣間見た彼女の特徴と一致している。

幼馴染の話を楽しげに語る少女の話が、声が、驚愕から耳に届かなくなる。

 

この少女の友人は、幼馴染は―――――盗人。

 

「……今すぐ俺の前から去れ」

「え?」

「しらばっくれるな。奴に、俺へ接近するよう頼まれたんだろう?しかし、恩を仇で返されるとはな……」

「え……え!?あの、お話を……!!」

「今回は見逃してやる。だが、アイツに伝えておけ。次会った時には容赦しないとな」

 

部外者の俺が、危険を冒してまで介入するべきではなかった。

あの時、一瞬でも英雄を憧れるなど……やはり間違っていた。

 

踵を返して、俺は先へと歩みを進めた。

 

「あの、ごめんなさい!本当に怪しいものじゃないんです!本当なんです、信じて下さい!!」

「黙れ!腹に一物抱えている者は皆そうやって……!」

 

威嚇の意味で、もう一度俺は剣を抜いて振り返る。

だが少女は、自身が潔白である事を証明したい一心で叫び続けていた。

向けられた敵意にも気にせず、杖を落とし俺へ駆け寄った。

 

「お願いします!貴方しか頼れないんです!!見ず知らずの貴方しか……ッ!!」

 

向けられた剣の刃を、縋るように両手で握り締めて。

 

「信じて……しんじてください!!」

 

丸く透き通った瞳に、涙を湛え。

 

「心細いのはもう、いやなんですッ!だから……ッ!!」

 

震える声で、泣き叫んだ。

 

「なんでも……貴方の為なら、なんだってしますから……ッ!!」

 

何がここまで彼女を駆り立てるのか。

なぜ今日あったばかりの俺に、そこまでの事を言えるのか。

未だ縋り、両の手から血を流し続ける彼女の顔は既に蒼白。

震える小柄な体は、一突きでもすれば容易く崩れ落ちるだろう。

 

(これは、罠なのか?だが、それにしては……)

 

ひっ迫する彼女の表情に、嘘をつける余裕があるなど到底思えなくて。

けどそれでも、俺の中の疑念には嘘をつけなくて。

これまでの状況と話を冷静に分析し、思案する。

 

―――――だから、気付けなかった。

 

『グォォォォ!!』

「ッ!?」

 

少女の背後にまで接近していたオーク。

小柄な少女の体躯を押し潰さんと、丸太のように太い腕は高く振り上げられていた。

 

「くそッ!!」

 

いつの間にか薄れていた警戒。

結果、奴に容易く接近を許した。

己の失態に舌打ちし、無我夢中で少女を抱き寄せ後方へと跳躍。

振り下ろされた緑の丸太は空振りし、少女が居た地面を深く抉り取った。

 

「ぇ……?」

 

そんな一連の行動に、少女は腕の中で唖然と俺を見上げ。

親に縋る子のように、血塗れの手で俺の服を掴んでいた。

もう二度とその手を離さないように。

全身を震わせ―――――笑いながら、泣いていた。

 

(なん、なんだよ……)

 

これでは、まるっきり俺が悪役じゃないか。

そんな顔をされたら、疑えないじゃないか。

これでは、お前を―――――

 

「―――守るしかないだろうがッ!!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

背中に感じる、人肌の温もり。

一歩進むたびに揺れる、腰の両側から伸びる細い足。

耳元に囁かれた、心からの感謝の言葉。

 

「言っておくが、信用したわけじゃない。目を離すより、手元に置いておいた方が安全だと……」

「それでも、いいです。絶対に、貴方を裏切りませんから」

「……」

 

オークを撃退した後、俺は彼女を背負い12階を後にした。

そんな俺の首を緩く抱きしめる少女の両手には、白い包帯が巻かれている。

少女の小さい体がずり落ちそうになるたびに体を揺らして支え直し、ひたすらに歩き続けた。

 

「一つだけ、いいか」

「……なんでしょうか」

「お前は一人で12階まで潜っていたのか」

「……一人で12階まで潜れた事はありませんでした」

 

曰く、彼女は魔法はそこそこ使えるものの、接近戦はさっぱりなのだという。

だから彼女は、自分の魔法でも一撃で倒せる小型のモンスターしか出ない階層までが精一杯だったらしい。

 

「12階層まで潜れたのは、貴方を追いかけていたからです。貴方が、進路上のモンスターを全て倒して進んでくれたから……」

「……可愛い顔して案外無茶をするんだな、お前」

「はは……昔はパーティを組んで潜ってた事もあったので、地形自体は知っていたんですけどね。あ、あと……」

 

何かを言いかけるも、少女はその先を言い淀む。

言っていいのか悩んでいる空気を、背中から感じた。

 

「……あと、なんだ?」

「えー、っと……」

「今さら隠し事をするつもりか?ここへお前を置いて行ってもいいんだぞ」

 

含みのあるその様子に、苛立ちながらその先を催促する。

それからややあって、ようやく少女は観念したように話し出した。

 

「一応、なんですけど……僕、男です」

「……」

 

―――――男?

 

「あの、よく間違えられるので……念のため。すみません、それだけです」

「……」

 

女だと思っていたコイツは……男?

俺は……男の笑顔に、紅潮したのか?

 

「えっと……どうしました?ッうわ!?」

 

突然地面へ落とされ、少女―――いや、少年が悲鳴を上げる。

だがそんな事はお構いなしに、少年の被る帽子を剥ぎ、無理やりにローブを剥いた。

 

男の笑顔に紅潮したなどという、自身の黒歴史を否定するかのように。

 

「あ、あの……何をッ!?」

「……」

 

露わになった体躯は女のように細い。

胸部は確かに平らだが、それが男だという証拠にはならないだろう。

丸く大きな目は、柔らかそうな頬は、何度見ても少女のようにしか見えない。

これが、男だというのか?

本当に、これが―――――

 

「気を悪くしたならごめんなさい!あ、謝りますからあまり痛い事は……!!」

「……」

 

これは男か?

男とはなんだ?

男とは女か?

女とはなんだ?

 

ウロボロスの如く終わりのない哲学のような何かが、袋小路に入った俺の頭を駆け巡り。

混乱に混乱を重ねた俺は自失するも、少年の声によって我に返った。

そして少年の両足の付け根へ手が伸びかけていた事に気付き、慌てて引き戻す。

 

――――― 一線は越えなかった。今は、その現実にただ感謝しよう。

 

「……あ、あれ?」

「はぁ……」

 

ハーフエルフとは、かくも恐ろしい種族だったのか。

何も理解していない少年の純粋無垢な瞳に、俺は罪悪感から頭を抱えた。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

再び俺は、少年と共に出口へと向かって歩き出した。

ただし、今は少年を背負う事なく隣で歩かせているが。

何故かは分からないが、なんとなく少年を背負いたくなかったのだ。

 

―――――少年の体に触れれば触れるほど、禁忌に近づいているような気がして。

 

「……そういえば、お互い自己紹介してなかったな」

「そういえばそうですね。僕、すっかりした気でいました」

 

12階層から6階層に上がるまで、お互いの名を知らない事に俺も少年も気付いていなかったらしい。

クスクスと笑う少年に、しかし俺は眼を合わせず前を向いたまま歩き続ける。

あの少年の笑顔は、今の俺にとっては必殺の凶器そのものなのだから。

 

「僕、シオン・クレマって言います」

「……チッ」

「え、なんで今僕舌打ちされたんですか!?」

 

何故よりによってそんな中性的な名前なんだ。

いっそヴァンだとかレオだとかだったらまだ何とかなっただろうに。

勿論、それが理不尽な言いがかりである事は自覚しているが。

 

「俺はテクト・クラネルだ」

「テクトさん、ですね。これからよろしくお願いします」

「……これから、か」

 

これから苦労しそうだ、色々と―――――

 

「……ん?」

「テクトさん、どうしました?」

 

先までずっと続く、長い洞窟。

その一点に、人影のようなものが見えて俺は足を止めた。

 

「誰か、倒れている……」

「え……?」

 

神の恩恵により強化された視力を酷使し、その人影を確認しようと目を凝らす。

少しずつ朧げな人影は鮮明になっていき、やがてそれは子供のような人の形を成した。

ダンジョン内だというのにそれは防具一つ付けておらず、体中傷だらけで。

見覚えのある白い髪と服装に、俺は我が目を疑い―――――叫んだ。

 

 

「―――――ベルッ!?」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

あの男の言葉は、何も間違っちゃいない。

だからこそ、その言葉は胸へと深く深く突き刺さり、僕の体をダンジョンへと駆り立てた。

立ち止まっていては駄目なのだ。

進み続けなければ駄目なのだ。

誰よりも早く、誰よりも懸命に。

そうでもしなければ、あの人に追いつく事なんて出来るはずがない。

 

防具の有無なんて気にしていられない。

この体と短刀があれば十分だ。

押し寄せる数多のモンスターも気にせず、僕は潜り続けた。

斬って、斬って、斬って、斬って。

血と汗が舞う中、僕はただただ進み続ける。

すべては、夢にまで見たあの人の隣に立つため―――――

 

 

 

「……?」

 

ゆっくりと、上下に揺れる体。

まるで揺りかごの中にいるようなそれに、意識がゆっくりと浮上する。

 

(……意識を失っていたのか)

 

無我夢中で6階層まで降りた僕を待っていたのは、黒い影の敵……ウォーシャドウ。

本来なら到底敵うはずもないその敵を幾度も打ち破り灰塵と散らせた後、僕は度重なる疲労で意識を失っていた。

 

「……起きたか、ベル」

「兄、さん……?」

 

耳に響く優しげな声。

何故ここに、と言いかけてやめた。

僕も兄さんも冒険者だ、ダンジョンに居るのは何も不思議な事じゃない。

 

「あれほど無理はするなと言っただろう」

「ごめん、なさい」

 

久方ぶりに感じた兄の背中の温もり。

瞳を閉じて、大きな兄の背に疲れ切った体を委ねた。

 

「地上まではおぶってやる」

「うん」

「そこからは自力で歩け。強くなるんだろう、お前は」

「……うん」

 

そう。

兄に頼りっきりでは駄目なのだ。

それでは強くなれないし、夢も叶わない。

己の足で立ち、歩き続けなければならない。

痛みに震え、縮こまっている暇など僕には無い。

けど―――――

 

「これで、最後だから。だから……」

「……分かってる」

 

兄に頼るのは、これで終わり。

けど、今まで己を守ってくれていたこの温もりは忘れたくない。

どこまでも大きな暖かさをかみしめながら、僕の意識は薄れていった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……また、寝てしまいましたね」

「疲れてるんだろ」

 

さっきまで自身が居た場所には、静かに寝入る白髪の少年。

そしてそれを背負うテクトを、シオンは笑いながら見守っていた。

 

「なんだ?」

「いえ。よかったな、って」

 

ダンジョン内で無防備に意識を失っていた彼。

偶然にも早く発見出来た事で、最悪の事態を免れた事に。

彼を背負う兄の隣で、自分が歩けている事に。

そして、なにより―――――

 

「テクトさんで良かった」

「……わけが分からん」

「ふふ」

 

どこまでもついていこう。

振り落とされても、命がけでしがみついていこう。

 

やっと見つけた、僕の居場所。

 

「そうだ、テクトさん。貴方のファミリアってどこですか?」

「エンブレムを見て分からないのか?ミアハ・ファミリアだ」

「ごめんなさい、見たことが無かったから」

「弱小で悪かったな」

 

今までは、地上より地下の方が居心地良かった。

どんなに孤独でも、そこなら嫌な人達を見る事もあまりなかったから。

だから、目の前の幅広で大きな螺旋階段を地下から見る時は、いつも憂鬱だった。

僕を地上へと……薄汚れたあの場所へと誘うこの階段を呪った事もあった。

 

「テクトさん」

「……今度はなんだ」

「たった今気付いたんですが、この階段―――――」

 

―――――こんなに、綺麗だったんですね!

 

 

 

 


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