仮想世界の先駆者   作:kotono

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第七話

 アルゴに案内してもらった酒場に全員んが腰掛けたところで、オレは話を切り出した。

 ちなみに、アルゴはここに着くまで終始オレを睨んでいた。

「さて、予想外に時間を浪費してしまったし、さっさと続きを始めよう」

「いったい誰のせいだヨ」

「アルゴがいじりがいがあんのが悪い」

 挙げ足とってきたアルゴには即効でカウンターを返すのを忘れない。

 

「えーっと、3、4年がゲームの限界なんだったか?」

「そういえば、『システムの寿命』とか言ってたな。いったいどういうことだ?」

 クラインが話しを戻し、シルバが聞いてきた。みんな、気になっていたのだろう。全員がすぐにこっちを見てきた。

 

 それを確認してオレは口を開いた。

 

「んじゃ、そっからだな。まず、このゲームにはアルゴのいった通り『システムの寿命』ともいえるものが存在していると考えられる。これはそのまんまオレたちプレイヤーのタイムリミットだ。それを超えたら現実に戻る可能性は極めて低くなる。もしかしたら、超えた瞬間に脳を焼かれたりするかもな」

 

「はっ!?そりゃ本当か!!?ヤベェじゃねぇか!」

 

「落ち着けクライン。まだ先のコトだ。焦っても仕方ないだろ。 

 そもそも、どうしてそんなコトが起こるのかって訳だが、オレたちがどうやってここに居るのかを考えてみればいい。 

 オレたちは今、技術的利用されたばかりのフルダイブ技術によって成された世界初のVRMMORPG によって閉じ込められている。VRMMOと言っても根本は他のゲームと同じようにプログラムによって動いているネットゲームに過ぎない。そして、どのネトゲにも必ず発生するものがある。そう『バグ』だ」

 

「それが寿命か?でもそんなもんってだいたいシステムがイカれる前に運営が......」

 疑問に思って口にだしてから気づいたのだろう。クラインは途中で声を止めた。

 

「もう気づいただろう?今、このゲームをいじれるのはあの自称茅場しかいない。でも、その自称茅場はおそらく指名手配中だ。それに一万人ちかくがログインした状態でシステムメンテナンスが出来るとは思えないしな」

 

ここまで言ってシルバが口を挟んだ。

「いや、それなら問題なくねぇか?確かSAOってなんちゃらシステムによって自動制御されててシステムの不具合もそれで修正されるって発売前に茅場が解説してたぞ」

 

 そう、このゲームは他のゲームとは違いあの天才茅場晶彦が作った『カーディナルシステム』という自動運営システムによって支えられている。

 だからこそ、GMアカウントを持ってさえいれば自称茅場1人だけでもこのゲームを支配することができるのだ。

 しかし、だ......

 

「なんちゃらじゃなくてカーディナルな。 それにその考えは違う。オレが言った3、4年ってのはそのカーディナルシステムの限界のことだ。そもそも、カーディナルシステムがなければこのゲームは1週間ほどでバグの蓄積によって不具合が起こるだろうよ。それだけVRMMORPGってものは複雑で負荷がでかいはずだ。オレの予想だけど、おそらく2年も過ぎれば所々不具合がでてくるだろうし3、4年もすればゲーム攻略なんざできなくなるだろう。もしかしたら、何らかの異常で脳レンジが作動すっかもしれん」

 

「だから俺たちはそれまでにこのゲームを終わらせないといけない。と言うことか......」

 

「そういうコト。そして、これがこれからの行動の大前提だ。 っつーか、これが無かったらオレはここに閉じ籠って悠々自適のヒキニートライフを満喫するしな。開放されるまで寝れるとか最高だし」

 

「............」

 

「おいシルバ。その、こいつならやりそうだなぁ。とか思ってそうな顔をするんじゃない。他のヤツらもなんで若干ひいてんだよ」

「この状況でそんな能天気な考え持てんのはオマエくらいだヨ.....」

アルゴに突っ込まれた。何か屈辱......

 

「まぁそんなのは置いといて、だ。この大前提によってオレたちは遅くとも4年内にはゲームクリアしないといけない訳だが、そのために絶対に必要なのがその攻略を行うヤツら、要するに最前線プレイヤーだ。」

 

「じゃあ、オマエさんの頼みってのはその最前線プレイヤーになれってことか?」

 

「いいや、違う。そっちの役目はこの街を飛び出していったヤツらがやってくれる。オレたちニュービーがわざわざ死地に向かう意味も実力もない。 オレが頼むのはそいつらの補助と『最も忌避すべき問題』の発生を止めることだ。」

 

「最も忌避すべき問題?」

 

「あぁ、それは『攻略が止まるコト』だ。タイムリミットがある以上それだけはやってはいけない。」

「そして、それが起こる条件は2つ。『実力的に敵わない』か『最前線プレイヤーの減少』だ。」

 

「......でもよ。それはどうしようもないコトじゃねぇか?最前線のヤツらができないコトを俺らが解決できるとは思えねぇんだが......俺らに出来ることってあんのか? 」

 クラインの疑問は最もだが、この問題は何も直接的に解決する必要はない。婉曲でも発生を止めれればいいんだ。

 

「出来ることはある。 1つ、支援系スキルを上げてくれる人の募集。2つ、情報の伝達。3つ、精神的に異常なヤツらを助ける。 この3つだな」

 

「なるほど、情報やスキルの支援で実力の底上げか。だから情報屋が必要だったのか............ でも3つ目はどういうコトだ?」

 

「3つ目の目的は気づかせないコト」

 

「気づかせないコト?」

 

「ここではヒットポイントが命の代わりだ、ヒットポイントが0になると現実の体も脳を焼かれて死ぬ。ここまではいいな?」

 

「お、おう」

 急な現状確認に戸惑っているシルバ。まぁ、こんな異常なことをすんなり受け入れている方がどうかしているしな。

 

「そこでこの状況のせいで精神的にやばくなっているヤツはきっとこう考える『茅場晶彦のせいで』と。実際に茅場のせいなのは明らかだが、この考えが続くと気づくやつがでてくる。『この世界で起こったことは全て茅場晶彦の責任で自分のせいにはならない』ということに、そしてさらに気づく『ここではヒットポイントが無くなると本当に死ぬのか確かめることができない』ということに。」

 

「なっ!!?」

 

「そう、これはPKがでてくる原因になるんだよ。そしてPKは『プレイヤーの減少』に直結する。だから他はともかくこれだけは早急に改善しなきゃならない。もしそれに気づいたヤツが他のプレイヤーも巻き込んでPK集団なんて作られたら確実に攻略のペースが鈍る。それだけは避けなければならない。」

 

「...........」

 この深刻さに全員が沈黙した。

 

「よし、じゃあそれらの問題が起きないためにこれから言うのがオレの頼みたいことだ。」

 全員が沈黙したままこちらを真剣な眼差しで見てきた。


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