「オイラのことが知りたいのなら100コル払いナ」
ローブをきたプレイヤーはそう言ってきた。
序盤も序盤であるこの状況で100コルというのは決して安い額ではない。
しかし、これから生き残るためには情報は何よりも重要なものである。目の前のこの情報屋と関わりを持つためにもコルを払っておくのは良策といえるだろう。それにこっちは1人じゃないしな。
シルバもそこまで考えたのだろう、取引に応じようとシステムウィンドウを開こうとしていた。
それをオレは腕で遮って止める。
「アンタの情報はいらない」
「へぇ、なんでダ?いい条件だと思うけどナ?」
「そもそも、ここでオレらの前にでてきたんだ。アンタがどんな立場のプレイヤーかわかっている。『ベータ上がりの情報屋』だろ?」
「............フンッ、喰えないヤツだナ。なんでもお見通しってわけカ」
「えっと、つまりどういうことなんだ?」
会話についていけてないクラインが困惑した顔で疑問をもらした。他のヤツらも似たような顔している。
「自称茅場が消えたあと、数人のプレイヤーがフィールドに出ていった。おそらく次の村に向かったんだろう。そして、そいつらはほぼ全員がベータテスターだ。これはわかるな?」
「まぁそりゃそうだな。次の村への行き方を知ってんだしな」
「じゃあ、これをニュービー視点で考えてみる。突然始まったデスゲームでどうすればいいのかわからない中、唯一の経験者であるベータテスターが我先にと街を出ていく姿は、『オレたちニュービーを見捨てていく』ように見えてもおかしくない。」
オレがそう言うとシルバたちはハッとおどろいた顔をした。ただ、クラインだけが何か不安気な顔色だったが....まぁ今は置いておこう。
「ただでさえ理不尽な目にあっているんだ、明確に敵意を向けれる相手がでてきたんならおもいっきり叩きだすだろうな。 多分、あと数日もすればニュービーの中でベータテスターに対する反感が広まる。」
「そして、この反感で最も被害を受ける可能性が高いのがこいつのような『ベータ上がりの情報屋』だ」
「まァ、いくら情報を持ってても売れなきゃ意味ないからナ。それに、攻略に参加する気がないからバトルはそこまで上手くなイ。恨みなんかで闇討ちなんかかけられたらオシマイなんだヨ」
自分の事情を言われるのが癪だったのか、情報屋がやや不機嫌になりながら話しだした。
「それで、どうしようか考えていたらここで何やら真剣に話しあいをしているオマエらを見つけてナ。これは一枚噛んでおこうと思って声をかけたんだガ........まさかそれが狙いだったとはナ」
これを聞いてシルバたちは何やら再び驚きの顔をだしていたが、
「オレの考えを実行すんのに情報屋は絶対必要だからな。それにこれはオマエにも利益があるしな。むしろ、自分を売り込んで話に混じるためにアンタは自分から自己紹介するべきだと思うけどね?」
挑発気味に自己紹介を促す。
今、オレすっげぇいい笑顔してると思う。情報屋の頬ひきつっているし。
「......オイラはアルゴ。ベータ時代は《鼠》のアルゴって言われていたヨ。............オイラがただで自己紹介したんダ、これで上手い話しじゃなかったらタダじゃおかないからナ」
「安心しな。アンタには旨みしかない話だ」
「......フンッ、さっさと話しナ」
「あぁ、わかった。だけどその前に......」
そういってオレはシステムウィンドウを開いてアルゴにトレード申請をおくる。
そして、ひどく爽やかな、笑顔でこう続けた。
「立ち話も疲れたから手ごろな酒場の情報をくれ」
トレードの内容は『コルの譲渡』。金額は100コル。
前述の通り『この序盤では決して安いとは言えない額』で、アルゴが『自分の情報の対価として要求して拒否された金額』である。
『この時のアルゴの表情は、今でも鮮明に覚えている』と後のユウは満足気に語り、シルバはひきつった苦笑いを浮かべるのだった。