仮想世界の先駆者   作:kotono

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第五十一話

 ある宿の一室にプレイヤーが四人。

 二つあるロングソファの1つにラフな格好で座ってるオレ。

 その隣に、ボロそうなビジュアルのフード付きマントで顔まで隠した鼠女。

 

 そして、対面のソファには光沢の目映い金属製の服.....というか装備をまとい、背中に剣を背負った二人の男。

 頭髪の自己主張の激しさから、『オレンジサボテン』、『青ワカメ』と(オレの脳内で)呼ばれている二人である。

 ちなみに、青ワカメのほうの名前はわからない。

 もう1つちなみに言えば、ここオレの部屋だったりする。

............。

 

「なんで?」

「何が『なんで?』か知らないガ。オマエの部屋が使われてる理由なら、オイラが決めたからダゾ?勝手に」

「わざとらしい倒置法で確信犯アピールしなくていいから。わかってるから。ドヤ顔うぜぇよ......アトデオボエテロヨ」

「にゃはっ。カタコトで威圧したってオイラには効かないんダヨー」

「このゲームって死体がでないから楽でいいよなぁ。...... あ、ヒモなしバンジーか触手ムチかは選ばせてやるよ?どっちがいい?」

「フム。外壁から突き落とすか身体縛ってmobの前に転がすんだナ。 どっちも自分の手が汚れない方法ってトコとmobに植物型を選ぶトコにオマエのクズっぷりが伝わってくるヨ。このクズ」

 

「内輪揉めしとらんで、いい加減本題に入らんかい。 コッチは理由も言われず呼び出されてんねん。 それともアレか?ジブンらは漫才見せるためにワイらを呼んだんか?」

 オレが言い返すより先に、オレンジサボテンが割って入ってきた。頭と同様にトゲだらけの口調だ。

 

「それに、俺たち『は』攻略で疲れてるんだ。これ以上時間を無駄にするようなら帰らせてもらうぞ」

 サボテンにつづき、トゲのある言葉に加え、布装備のオレを見下す視線も放ってくる青ワカメ。

 

 

 一層の時に散々貶しまくったサボテンはともかく、青ワカメに関してはほぼ初対面といえる間柄なのにすでに相当数のヘイトを稼いでいるオレ。

 真横から人の不幸を楽しんでそうな視線も感じる。

 

 現状、針のむしろ状態のオレだが、よくよくこれまでの流れを考えてみると、この状況は理不尽過ぎると思う............隣の鼠が挑発してきたのが悪い。うん。

 

 

 

 言いたいことも、やりたいコトも、殺りたい人も存在するが、とりあえず目の前の二人にはこう言い返すとしよう。

 

「NPCよりも無駄なポリゴンの分際でずいぶん偉そうに意見してくるんだな。髪型の奇抜さと同レベルで目障りなんだけど?」

 

「「なっ......!?」」

 

 二人はほぼ同時に絶句し、そのまま顔を徐々に赤くさせていく。

 煽り耐性の低いヤツらだ。

 

 

「うわぁ......やっぱ、男の赤面とかキモさの塊でしかねぇな。程度で言うなら生きてて恥ずかしくないのか疑ってまうくらいのキモさだぞソレ。......生きてて恥ずかしくないの?」

 

 ここぞとばかりに畳み掛ける。

 今のオレ、たぶんすげぇ笑顔。隣の鼠も笑顔。

 愉しいコトは善きコトなり。

 

 

「このっ......言わせておけば、いい気になりやがって! たかだか一回俺たちを言いくるめただけで調子に乗るんじゃねぇよ!!」

「帰る!!ワイは忙しいんや!!キサマの戯れ言になんざ付きおうてられん!!」

 

「え?『忙しい』?忙しいの? オマエらっていつも無駄なコトしかやんないのに?忙しい?......ハハッ、そんなわけないじゃん」

「いい加減にせぇよキサマァ!! ワイらはキサマが部屋に籠ってぐうたらやってる今日も迷宮区で戦ってたんやで!」

「俺のパーティはもう八階層まで攻略を進めてる!一層じゃ、オマエの方が早かっただろうが、今回は俺たちの方が《優秀》なんだよ!!所詮、鼠の手駒のオマエがいつまでも得意気になってんじゃねぇ!!!」

 

 鼠の手駒って......オレって外からはそう認識されてんのかよ。

 アルゴの下で甘い汁吸ってるとでも思われてんのか?

 コイツからは苦汁しか吸ってないのに......

 

 不服な評価に対する不満な感情はおくびにも見せず、三日月の笑みをさらに深め、言葉を発す。

「えー?なにいってんの? オマエらやっぱ今日も迷宮区で《攻略ごっこ》してたんじゃねぇかー」

「「は?」」

「でも、良かったなぁ。三日で八階層って一層の時とずいぶん成長したじゃん。 いやぁ、何て言うか......自分が若い頃に解きまくった知恵の輪を我が子に持たせたらこんな感じになれそうだよな。......未婚だけど」

 

「..........さっきからジブン、いったい何が言いたいんや」

 何かに気づいたような、それでいて、それが到底信じれないような顔でキバオウは問いかける。

 

 

「オイオイ、ここまで言ってようやく気づいたのかよ...........なんだオマエら、まさか『今回は自分たちが先行してる』とでも思ってたのか?」

 

「まさか......嘘だろ!?」

「ありえへん!まだ迷宮区到達して三日やぞ!でまかせや!」

 

「嘘だの、でまかせだの......まだ何も言ってないのに随分

と否定してくるんだな? じゃあ、答えあわせをしようか?」

 嘲るように笑いながら、自身が集めたマップデータを可視化させる。

 浮かび上がった地図に、一層のボス部屋の時と寸分違わない反応をする二人。

 開いた口が塞がらない、っていうのはこういうコトを言うのだろう。

 

 

 フリーズしている二人にゆっくりと、それはもう、ことさらゆっくりとわざとらしく芝居がかった調子で語りかける。

「さてさて、オレ基準でも、オマエら基準でも、オレが《優秀》であることをようやく理解できたようだし? そろそろ、本題に入ろうじゃないか?」

 

「っっ!!?」

「っ本題やと...!?」

「そーそー。ここからがよーやく『本題』だよ。いやー、アンタらが噛みついてこなければもっと早くにここまでこれたんだけどなー」

「「くっ......」」

 

「ハイハイ。悔しがってないで、真面目に聞けー。 実は、『忙しい』らしいオマエらをわざわざ呼んだのは、『このボス部屋までのマップデータを《条件を飲めるなら》無償で渡そう』と思ったからなんだよ」

 

「......その条件というのは?」

「1つは、指揮官は一人に限定すること。フィールドボスのときみたいにギクシャクしたダブルリーダーってのはナシだ。 それと、もう1つは、元βテスターのボス戦参加を歓迎すること。この2つだ」

 

「............1つ目はわかるで。せやけど2つ目は受け入れられん。ワイのトコもリンドはんのトコも反ベータを掲げてるんや」

「そうか。じゃあ、この話はナシだ。今度のボス戦はオレが指揮する。当然、オマエらんトコは参加不可だな」

「「なっ!?」」

「オイオイ、今日何度目の絶句だよ? 何も不思議なコトは言ってないんだが?」

「......そんなんで人数が揃うわけない」

「............せや。ワイらのギルドに何人いると思っとるんや」

 ギルドとか......現状は理解できてないのに、気だけは早いヤツらだな。

 

 

「揃うさ。なんせ、オレは隣にいるアルゴと協力関係を結んでる。コイツの一声にいったい何人のプレイヤーがなびくと思ってんだ?」

「............」

 また、黙りこくる二人。いい加減に飽きてきたな。

 

「さらに、今、オレの下にはディアベルがいる。もしかしたら、オマエら出来損ないのリーダーをみかぎってコッチにつくやつだってでてくるかもなぁ?」

「ありえへん!それはありえへん!」

「本当に? 今まで失敗つづきなくせに?」

「............」

 

「さぁ、サボテンがリーダーになるか?青ワカメがリーダーになるか?それとも、ここで最前線から仲間共々転げ墜ちるか?............今すぐ選べ」

 

 

 悪魔の笑みを浮かべ選択を迫るユウの隣でこれまで黙していたアルゴは思う。

(まさかコイツ、自分が優位に立つためだけに回り道して煽りまくってたのカ......?)

 

 改めて、ユウというプレイヤーの異常さを見せつけられて、ひそかに戦慄した。

 

 

 

 


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