一晩経ち、さらに太陽が天頂まで到達しそうになった頃にようやくユウとディアベルは現在の拠点であるタラン村に戻ってきた。
「............」
「............」
安全圏に入れた安心感によってか、二人して口を開かず、頭を降ろし、足を引きずるように歩いていく。
そのまま数分ほど歩いて、ゾンビ化まっしぐらの二人は自身の借り部屋がある宿に到着。
最後の力を振り絞って重たく感じる扉を開けた。
「オ?戻ってきたカ。お疲れサン。無事で何よりだヨ」
宿に入ってすぐのスペースにある椅子に腰を降ろして、何やら作業をしていたアルゴが二人の帰還を出迎えた。
「........................」
「........................」
何故か固まる二人。
「??......どうしたんダ?」
「..................」
「..................」
「なんで黙ル?」
「......そ、」
「そ?」
「そんな馬鹿な....!!!」
「あのアルゴがオレたちを労っただとっ...... !?!?」
「............なんでオマエラ無事だったんダヨ!もぉ!! そのまま迷宮区でくたばってこいヨ!!! っていうか、ヘトヘトになって戻ってきたから心配してやったのに、実は元気じゃはないカ!!!」
「おい、聞いたかディアベル。心配したらしいぞ? アルゴが」
「不味いね。明日は世界の終わりかもしれない.....」
「オイラは、オマエらの中ではいったいどんな認識になってるんダヨ!?」
「死体にムチ打つ鬼畜鼠?」
「人ですら無機物扱いのサド少女じゃないかな?」
「オイオイ......今のオレたちってポリゴンの塊なんだから無機物みたいなもんだろ?」
「あっ、それもそうだね」
「「HAHAHAHAHAHAHA......」」
たいして面白くもないのに大笑いする二人。
その目は焦点のハッキリしていない。さらに身体もふらふら揺れている。
「駄目だコイツラ......徹夜明けで変なテンションになってやがル......つーか、ディアベルはこの一晩で随分ユウに毒されたナ......」
「毒されたとか言うな。キモいだろーが」
「オイコラ。なんでそこですぐに正気に戻れるんだヨ、ユウ。オマエはやっぱり素でいじってやがったナ」
「HAHAHAHAHAHAHA......」
再び虚ろな目をして笑うユウ。
これが演技であるなら何とも無駄に巧妙すぎる技量だろうか......
「............そういえば、アーちゃんにユウを素材集めに連行するから戻ってきたら連絡してって言われたんだっタ」
「ごめんなさい。最初から素でした。つい出来心で、いじれる時にいじっとこうと思ったんです。だから、アスナに通報だけは止めてください。 っていうか、チクりやがったなあのツンツンお嬢!」
音速で平身低頭しまくし立てるユウ。
どうやら彼は、『無駄に』巧妙すぎる技量の持ち主のようだ。
「素直に謝ったと思ったら、今度はオンナノコに全力で責任転嫁とカ......清々しいクズっぷりだナ。もうシネよ」
「おっとぉ?本格的に無機物を見る目で見られてるぞ?」
なおもフザケた抑揚で喋ってうやむやにしようとするユウに、隣から声がかかる。
「当然の結果だね!ハハッ......グホッ!」
頭のイカれた青い騎士のうるさい口は回し蹴りで封じられた。
「うるせぇぞ。寝不足ナイトは黙って床で寝てろ」
「............」チーン
「スゲー掌返しだナ......さっきまで一緒になってオイラをいじってたクセに....」
「はい、そこな鼠さんはこれ以上温度を下げた目線を向けてくるんじゃありませんよー。キリトあたりだとキョドって喋れなくなりそうだな、それ」
「オマエには欠片も効いてなさそうだけどナ.........ハァ...もういいから、さっさと獲ってきた情報とマップデータを寄越しナ」
「チンピラのカツアゲみたいだな」
「あ"あ”ァ?」
そろそろ、止めておかないと本格的に殺られそうだと感じたのか、ユウは素直に集めたデータを送って、自分の部屋に向かう。......顔を上げて毅然と階段を昇っていくユウだが、その足取りはふらふらと覚束いていなかった。
「まったク。寝不足なのはアイツも一緒じゃないカ......こーいう時にもオイラからのヘイト稼いできやがッテ......」
どうやら、非道外道ゲス野郎にもプライドはあるらしい。
なんてコトを思いながら、アルゴはメッセージを書いて飛ばすのだった。
宛先はアーちゃんこと、アスナ。
『類友』とはまさにこのコトである。