空中に浮かんでいる自称茅場晶彦のデスゲーム宣告により、《はじまりの街》中央広場はパニックにおちいっていた。
そのなかでも、特にユウの精神状態は全プレイヤー中最悪といえるだろう。『ゲームクリアするまで解放されない』というコトを茅場の宣言の途中で予測できていたはずなのに、だ。
顔は青ざめ、身体中が震え、ついには腰が抜けてしまって地面に座り込んでしまっている。
こうなった理由はもちろん、転移直前に決行していた擬似
もし、あと少し強制転移が遅かったら......と思うと寒気が止まらないのだ。
1万人もいるSAOプレイヤーといえど、デスゲーム開始前に死にかけたヤツなどユウくらいであろう。
かるいスカイダイビングのつもりが、臨死体験するはめになったのだ、
「は、ははは......はははははは............」
このように、虚な表情で壊れたように笑いだしても誰も責められないだろう。もう、いろいろ限界なんです....SAN値的に......
いや、マジであそこで強制転移されてよかった。あれ?でもこの状況を作ったのもオレを強制転移で救ったのもあの目の前の自称茅場だよな?なにこれ素直に喜べない.....
体が震えていて使い物にならないため、地面に座ったままでいるコトにした。正直、もう一歩も動きたくない。
ちなみに、今回ばかりは隣にいる
そのせい.. いや、そのおかげで、オレは自称茅場の次に言うことに反応するのが遅れてしまった。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
そう言われストレージを操作したプレイヤーの前に《手鏡》がオブジェクト化され、鏡に写ったプレイヤーたちは青い光に包まれた。すると、今まで、広場に集まっていたある意味無個性ともいえる美男美女集団が老若男女美醜いり混じるカオス空間へと変貌した。
「はっ?!俺!?なんで俺!!? え?ちょっ!?は?!え?」
当然、これは隣にいたシルバにも起こった変化であるようだ。
先程までのホモ臭漂うイケメン紳士風オジサマは消えてしまい、今では筋骨の逞しい渋いオッサンになっていた。どっかのヤ●ザですと言われても納得の風格である。オジキと呼びたい。
「落ち着けよ。ちゃんと日本語喋ろうぜ」
「いやいや、これが落ち着いていられるわけね、え!?なんでオマエさんはなんも変わってねぇんだ!!?」
そう。どういう仕組みかわからないが周りのプレイヤーがおそらく現実と同じ姿になったなか、オレだけはゲーム開始時と一切の変化をしていなかった。
切れながの目に不揃いにカットされた黒髪、細身でありながらひ弱さを感じさせない体つき。
苦労したかいのある望みどおりに黙っていても相手を畏怖させる容貌である。.....どことなく犯罪者っぽくみえるのは仕様です!(嘘)
もし2時間もかけて作ったこのアバターが消されていたら今度こそ身投げしたかもしれない。
「鏡見なかったんだよ、座り込んでいたからか他のヤツの鏡にも写んなかったし。それにしても、アンタけっこう厳つい顔してんな、本当に一般人?」
逆にこのアバターが守れたことにより、オレは軽口を叩ける程には精神的余裕を取り戻していた。とりあえず、死にかけた恐怖感は棚上げして考えないようにしよう。恐いし。
「それは言わないでくれ......この顔で俺が何度警察に声をかけられたか......」
どうやら心の傷を抉ってしまったようであるが、精神的余裕を取り戻したオレにはそんなことはもう興味はない。ただ言ってみただけだ。
............よし、だいぶ冷静になってきた。
今、すべきはこの状況とこれから起こりうる問題の分析である。
とりあえず、目の前の赤ローブ、自称茅場の言ったことを真実だと仮定する。確かめようがないし。ついでにアレが本当に茅場晶彦なのかも確かめようがない。
おそらく、現実世界のほうではオレらは病院への搬送準備中、茅場晶彦は指名手配され警察に追われているといった状況だろう。その際に発生しうる問題はこっちじゃ対処不能なので切り捨てる。
それ以外の現実世界の事が影響されてくるのは当分先になるだろうから今はいい。
では、この仮想世界で発生しうる問題とは?
このデスゲームから解放されるためには100層までいかなければいけない。
ここで発生する問題は100層まで誰が攻略するのか?ということ。
一番可能性があるのは当然ながらベータテスターだろう。彼らの持つ情報と技術を生かさない理由はない。
ではそれ以外のプレイヤーは?
この混沌とした状況で他人のコトにまで意識が回るヤツは隣にいる
はたしてそれを他のプレイヤーが善しとするだろうか............
...........いや、最も忌避すべき問題はそこじゃない。
どんなにベータテスターを嫌うプレイヤーが多くても『ゲーム攻略を続ける限り』少なからずの前進があるだろう。それにおそらく、ゲーム攻略にでるプレイヤーは割りと多くいるだろう。
問題にすべきは、それ以外のプレイヤーだ。いや、あるいは攻略にでるプレイヤーも可能性があるだろうが............
そこまで考えたところで、自称茅場は最後の台詞を喋りだした。
『これにて《ソードアート・オンライン》正式開始チュートリアルを終了する。』
そう言って赤ローブは赤い天井に吸い込まれ。景色に本来の色がもどった。
周囲がいっそう騒がしくなる。
「くそっ!いったい何なんだよこれ!?クリアするまで家にも帰れないってのかよ!」
シルバもついに耐えられなくなって叫びだした。目には涙が溜まっている。
しかし、シルバが泣き叫び怒りを吐き出す時はこなかった。
「おい、シルバ!!!」
それはいつの間にか立ち上がっていたユウが周囲にかき消されない大声でシルバを呼んだからであった。
「なんだよ?」
「手伝ってくれ」
「はっ!?」
「これからやることはオレ1人じゃ出来ない。2人でも出来ない。だからアンタとアンタの仲間の手が借りたい。頼む」
そういってユウは頭を下げた。
シルバは知らない、これはユウが家族以外でする始めての『お願い』であることを。
この状況でそれでもその真剣な態度に自分の感情を抑えて応えようとしてくれるシルバはやっぱりお人好しであるといえるだろう。
「............わかった。手伝ってやるよ。任せな!」
「サンキュ............じゃあ、シルバは仲間を探してきてくれ、探し終わったらメッセ飛ばして落ち合おう。そんじゃ頼んだ」
そういってユウは何処かに走り去った。