迷宮区二階をあらかた歩き終え、三階へと続く階段を見つけた。
どうやら、今回は階段前の微妙に狭い空間で集団戦闘する必要もなさそうだ。
一階のあれはただの製作者側の悪意....もとい気まぐれだったのだろう。そういうコトにしとこう。
「さて、三階いきますかねー」ハァ......
「急にゲッソリしたわね......どうしたの?」
「オッサンたちの遊び心に玩ばれるってのも、やるせないよなぁって思ってな」
「............?」
コテン、と首をかしげるアスナ。
こんなどうでもいい思考を解説するのも面倒なので、オレはそれ以上答えず、階段を登り始める。
「......あ、実は俺、これからアルゴに会う用があってさ......」
数段上ったところで、後ろからキリトが言いづらそうに申しでた。
振り向くと、キリトは苦笑いの愛想笑い。
ふむ......
「逃げる気か?」
「逃げる気だね?」
「ちがうよ!本当だって!」
まったく信じられていないコトに慌てるキリト。
そこに、優しいお嬢様(?)のアスナがフォローに入った。
「あら。ちょうどいいわ、私もアルゴさんに聞きたいことがあったのよ」
「げっ.....」
違った。ただの『私を案内しなさい。ご褒美に罰ゲームは私が考えてあげる』宣言だった。
それ、メリットが一つも無いじゃん。とんだサディスティックお嬢様だった。
「じゃあキリトの罰ゲームはアスナが決めるってことで」
「了解したわ」
「ハァ......」
肩を落としたキリトはアスナを連れて、道を戻っていった。
なまじアスナの姿勢が良すぎるせいもあって、その姿はさながら、従者と主人のようだ。もしくは、尻に敷かれた夫と手綱を完璧に握った妻。仲がよろしいようで。
「さて、......ディアベル。今日はこれから前衛やれ。これ罰ゲームな」
「おっと? これは、いつものようにイジメじみた罰にならなかったコトを喜べばいいのか、単に死ぬ可能性が上がったコトに焦ればいいのか.....反応に困るな」
「ちなみに、ボス部屋が見つかるまで宿には帰らないから。それまでずっと前衛だからな?」
「うん。前言撤回だ。いつにもましてキミらしい罰ゲームだよ、ホント」
「萎えてないで、とっとと行くぞー」
「それにしても......自分から集団戦でアイデア提案したり、積極的に上に進もうとしたり.....ユウにしては今回の攻略は意欲的だね?キリトさん達に待ち伏せされてた時だってユウならそれを言い訳にして逃げるだろうって思ったんだけど......」
前を歩いていたディアベルがそう聞いてきた。
うむ。実にもっともな疑問だ。
「オレもそう思う。らしからぬ労働精神に自分でも驚いてるよ。......でもまぁ、今回は仕方ない。不測の事態ってヤツだ」
「それは昨日言ってた《強化詐欺の発案者》探しのことだろ?攻略を早めることと関係があるのかい?」
「さぁな。そもそも、オレたちに迷宮区キャンプしてこいって命じたのはあの鼠女だし」
「えっ、じゃあ、キミは主旨も聞かずにアルゴさんに従ったのか?」
思わず、といった感じにディアベルは足を停め振り返って聞いてきた。
それに対して、オレは簡潔に返す。
「問題ない。いつものこと」
「いつものこと!?」
「アイツが意味のないことをオレにやらせるはずがないからな。それに、ある程度なら予想できてる」
「............信頼してるんだな」
............普段はあんなにいがみ合ってるのに。
なんて言いたそうな顔をするディアベル。
確かに、端から見るとオレがアルゴに無条件で従ってるのは奇妙にみえるのかもな。
でも、......
「信頼してるさ。それはもう絶対的に、な」
「......どうして?」
「知らん。自分で考えろ」
「そこで、はぐらかすのか......」
「知ってるか?人類最大の幸福ってヤツは知的活動によって得られるんだぜ?」
「ハハッ.....キミには口論でさえ勝てる気がしないなぁ」
「むしろ、口論が一番勝率低いだろうな。......それはそうと、いい加減、前に進めよ」
「............じゃあ、最後に、アルゴさんの意図だけでも教えてくれないか?予想はできてるんだろ?」
コイツ......『言わなきゃ、ここから動かないよ?』ってことかよ.....。
仕方ない......
「..........『放火魔はヤジウマに混じって自分の作品を鑑賞する』。こう言えばわかるか?」