アインクラッド第二層迷宮区一階登り階段前にて、プレイヤーの接近を待ち続ける牛男どもが五体。
コイツらは恐らくステータス的にも上位になっているであろう片手斧の牛男を中心にX字の隊列で突っ立っている。はっきりいって、不気味だ。
ふとした疑問だが、その中央の牛男はトーラス族特有のソードスキル《ナミング・インパクト》は使えるのだろうか?
地面に武器を打ち付けるあの技を斧でやったら、刃が欠けてしまうと思うんだが..................まぁ、いいか。どーせあの斧が役目を果たすことなどないだろうし。
そんな、どうでもいい考えを停め、これからやる戦闘に集中することにする。
振り向いてキリトたちと目を合わせる、と三人は真剣な顔で頷いた。
「じゃあ、いくぞ。 カウント3..2..1..ゴー!」
オレの掛け声と共に、キリト、ディアベルが飛び出し突っ込んだ。
それと同時にオレが《投剣》スキルでスローイングダガーを2本投げる。狙ったのは後ろにいる二体の牛男。
完全に不意を突いたので後ろ二体の牛男の動きが止まった。
そこに.....
「ハァッ!!」「フッ...!」
突っ込んでいった二人が、キリトは《レイジスパイク》、ディアベルは盾を使った突進で前二体の牛男をぶっ飛ばした。
そのまま二人は中央の牛男の後ろに着地。
前二体の牛男は、後ろの牛男どもを巻き込みながら壁にぶつかる。............これで、中央のが孤立した。
そこに、わずかな硬直から解放されたオレが腰の鞘から短剣を引っこ抜きながら突撃する。
されど、真っ正面からの攻撃のため、オレの攻撃は当然、対処される。
牛男は斧を盾がわりにオレの斬撃を受けとめ、ホンの僅かな鍔迫り合いが発生した。
どうにか力負けしないように押し込みながら、オレはニヤリと笑みを浮かべ、叫ぶ。
「いまっ!」
声のあとすぐに斧の牛男は背後を襲われた。
スキル使用による硬直が無かったディアベルががら空きの背中に水平単発技《ホリゾンタル》をぶつけたのだ。もちろんクリティカルヒットである。
牛男がのけぞったため、一気に斧から力が抜け、オレは一層でキリトの部屋でアスナに襲われたときのように牛男の後ろへと飛ばされる。
そのまま、オレは着地しキリトがぶっ飛ばしたほうの牛男へ。
キリトは遅れてスキル使用後硬直が発生したディアベルのフォローにいってる。
では、斧の牛男はどうするのか?
なんてこと考えるまでもなく、絶賛スタン中の半裸の男は最後に飛び出してきた我らがお姫さまが即殺した。
そして、アスナはオレと合流、ディアベルとキリトはそのままで壁に向き直る。
心なしか、震えてるようにみえる牛男。
さぁ、これで4対4。......いや、2対2が二つか。
さらに言えば、牛男どものほうは手負い、かつ、壁に追い詰められている状況。
一方的な蹂躙によりオレたちは、ほぼノーダメージのまま迷宮区二階まで到達した。
ちなみに、『ほぼ』というのは、キリト&ディアベルのコンビが(主にキリトが)調子にのって攻めすぎてカウンター攻撃をかすらせてたからだ。
「オマエら、後で罰ゲームな。とくにキリト」
「そうね。ダメージを負うのは最小限に、ってわかってるってのに......不注意過ぎよ」
「うっ....」
「い、いや、あれは....」
「ほう?あくのびぃーたぁーサマが言い訳か?元テスター二人がかりなのにダメージ喰らったってのに?」
「私たちニュービーはノーダメージなのにねー」
「............ごめんなさい」
「ふふん♪わかればいいのよ」
「さぁて、罰ゲームはなんにしようか?」
「......ディアベル。ユウがいきいきしてるんだけど......?俺たち大丈夫なのか?」プルプル.....
「は、ははは。無事に明日が迎えられたら幸運、くらいには思ってたほうがいいよ」ガタガタガタ.....
「...........」
「でも......『筋力中心の二人で、集団を切り崩して、一体だけを集中攻撃で倒し、なおかつ残りを倒しやすい状況にする』って、まとめればこれだけだけど.....よく思いついたわね」
アスナが感心している。
「しかも、俺にあのまま戦わせるんじゃなくて、立ち直りの早いディアベルが攻撃したほうに向かわせる。なんてな!」
「さらに、武器持ってても着地できるように短剣を使うなんて無茶は普通考えつかないよな!」
急に便乗して賞賛してきたキリトにディアベル。コイツら......
「...........男二人はオレを誉めちぎって罰を軽くしようって魂胆が滲みでてるんだよ」