仮想世界の先駆者   作:kotono

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第四十六話

「嫌っ......ダメっ...来ないで......! 近づかないでっ......!」

 ついさきほどまで、冷酷な声と表情でオレを責めていた少女が目に少しだけ涙を溜めながら叫んでいる。

 

 かなりの深刻さを感じさせる懇願の声ではあるが、ここにいるオレを含む3人の男たちの誰も救助行動を行うつもりはない。

 キリトは『なにをそんなに怖がってるんだろう?』って顔してるし、ディアベルは叫んでいる理由はわかっているようだが『これは俺の役目じゃないな』って感じにキリトのほうに暖かい目線をやってる。だがキリトは気づいてない。

 これがイケメンコミュ症とイケメンリア充の違いなんだな。同じ結果なのに対人経験の差が如実にでてる。............オレ?オレはあれだよ。『人の不幸は蜜の味』。

 

 まぁオレでなくとも、あのツンデレのツン部分だけでできたようなツンツンフェンサー少女のアスナが悲鳴をあげてるというのは............こう、なに?一種のギャップ萌え?みたいなのがあると思うんだ。

 

「これ、動画にして売りさばければ良い商売になりそうだよな......特にここのプレイヤーって娯楽に餓えたヤツばっかだろうし...........そこんとこ、キリトはどう思うよ?」

「そりゃあ、あのアスナのこんな姿が商品化されたら買うだろうけど......」

「おーい。アスナー!キリトが今のアスナを動画にして売り出したいだってー!早く倒さないとホントにどっかの露店に動画が並ぶことになるぞー」

「ちょっ!?ユウ!?嘘を伝えるなよ!」

「でも、動画になったら買いたいって言ってたじゃん」

「いや、それは言ったけど!それは......ひぃっ!?」

 

 必死にオレに訂正させようとしたキリトの背後に、ちょっと前まで悲鳴の原因だった半裸の牛男《レッサー・トーラス・ストライカー》をいつの間にか倒していたアスナが近づいていた。

 いや、マジかよ......牛男ってまだ8割くらいHP残ってなかったか? それ瞬殺とか......ソードスキルでも3回はクリティカルヒットじゃないと無理だろ。

 

 

「もし、私の許可なく私を撮ったら............わかるわよね?キリトくん?」

 またもニッコリ笑顔でそんなことを言うアスナ。

 なんで笑顔がこんなに怖いんだろうね?

 見てるこっちも背筋が寒くなるよ。

 

「い、いやいや!もっ、ももちろんだよ!そもそも、カメラがこの世界にないじゃないか!な?」

 

「それもそうね......」

 一応の納得をしたアスナは殺気スマイルを引っ込めた。

 

「そうなのか?ディアベル?」

 この場にいるもう一人の知識保有者に確認するオレ。

 いやね、無いんなら無いでそこまで困らないんだがね。とりあえず、だよ。とりあえず。うん。

「少なくともβテストの時はそういうアイテムは無かったよ。...........なんでそんなに残念そうなんだい?」

「なんでって.....そりゃあ............な?」

「オーケー。把握した」

「「なにを.....?」」

 ディアベルの反応が理解できない少年少女はハモりながら頭にハテナを浮かべる。仲がよろしいようで。

 

 

「そんなことより、いつまでも立ち止まってないで、そろそろ先に進まない?」

「そうね。止まるのは危険よね。行きましょう」

 アスナの同意の声に他の二人もうなずいたので、オレたち即席四人パーティは進軍を再開した。

 

 

 歩きだしてすぐに隣のキリトが何かに気づいたようだ。

 

「......ん?よくよく考えると立ち止まってたのってユウが原因だよな?」

「せっかく流してやったのに掘り返すなよ。そんなに刺されたいの?ドMなの?」

「あくまでも、俺のせいにする気か......」

「だいたい、こっちは罰とは言え、子供二人に未熟者一人のパーティの前衛させられてるんだぞ。ちょっとくらい人で遊んだって文句言うんじゃねぇよ」

「間違えまくってる理屈をさも当然のように言うんだな......なんとなくユウがどんなヤツなのかわかった気がする」

 ため息混じりに呟くキリト。どうやら、ほとほと呆れ果ててる様子。

 理解が早くて助かるよ。

 

 

 

 そんなこんなで、オレたちは迷宮区タワー第二階へと続く階段まで辿り着いた。

 やっぱり、キリトの索敵スキルは高いようで、ここまで戦闘らしい戦闘なんて数回ほどしかやってないし、なぜかオレは前衛なのにその数少ない戦闘に参加したのは最初の1度きりだった。

 三人曰く、オレが戦ったらボス戦用の練習にならないらしい。

 そりゃ、スイッチもせずに敵の攻撃を完封するオレのやり方じゃダメだわな。楽だからいいけどね。

 

 だが、どうやら今回ばかりはオレも楽できないようだ。

 壁に隠れて見てみると階段の近くには半裸の牛男どもが五体。中央にアックス、他四体が片手棍をもって待機している。

 つまり......

「中ボス?」

「みたいだな。見た感じそこまで強くはなさそうだけど、数が多いな」

「なんで一階にいるのよ?」

「大方、フィールドボス戦から直接乗り込んで来た手負いどもでも狩るのが目的なんだろうよ。勝てても無傷で抜けられなくして、アイテム消費を促す。アイテムが少ないとボス戦でピンチになるかもしれないからな。茅場ってホントに性格悪いなぁ.....」

「その意図が把握できるユウも同じ穴のムジナってやつだと思うんだが?」

「うるせぇぞ、エセ騎士。あの中に放り込んでやろうか?」

「アタリが強いなぁ」

「バカ言ってないで、アレどうするのか考えなさい。進めないじゃない」

「ユウが全部倒すに1票」

「あ、じゃあ俺もそれに1票」

「おい、バカども。オマエらオレに恨みでもあんのか」

「もうっ!そう言うの、いいから!さっさとやる!キバオウさんたち来ちゃうじゃない!」

 

「んー.....単純に一体ずつ倒すしかないんじゃないか?誰かが二体のタゲとってさ」

「あの狭いとこで分担しても上手く動けないんじゃないかい?」

「それに、ユウくんが言ってるのが本当ならここでダメージを負うのはできるだけ避けたいわ......」

 無難な案を出すキリトに二人が難色を示す。

 実際には、すでにmobトーラスどもの行動パターンは見切ってるので、オレ一人ならノーダメージでいけそうなんだが......万が一があるので却下だ。

 だが、ここで変に負傷するのは避けたいところなのは変わらない。

 では、どうするか............けっきょく結論がでずに突撃されては困るので、ここはオレが知恵をだすとしよう。

 

 

「じゃあ、こう言うのはどうだ?」

 

 


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