緑、青の二色の腰布で分けられたフィールドボス討伐メンバーは戦闘開始から二十五分経って、ようやく《ブルバス・バウ》の巨体をポリゴンに変えた。
見た感じ、緑がキバオウ率いるパーティで、青は隣にいる騎士サマの古巣メンバーっぽい。
その隣の騎士サマ、ディアベルは青パーティのリーダーが自分と同色の髪と鎧を着込んでいる姿を最初に見たときに顔をしかめ、彼らの戦闘をみてさらに顔を歪めていた。
おおかた、βテスターであるのを偽って作ったパーティが自分が抜けた後も慕ってるってのが辛いのだろう。
さらに、本来ならディアベルが一人で青、緑の両パーティと補欠の3人を指揮して行っていただろう討伐戦が自分がいないことでまともな連繋もとれずに戦っているってのも中々にキツいものがあるのかもな。
..................仕方ないな。
「『もし俺があの時、失敗していなければ......』ってか?」
「うっ...........」
「まぁ、身から出た錆ってヤツだからな。せいぜい過去の自分を悔やめよ」
「わかってるさ....」
悔恨と焦燥の表情でディアベルは言う。
「それでも、だ」
「?」
「たらればを思うのは反省している証拠。でも、その反省を活かせないと何も意味がない。自分の無力を呪うくらいなら布団に潜って惰眠でも貪ってたほうが遥かにマシだ」
「......ハハハ。そこで惰眠と比べるのはキミくらいだよ。普通、そこは『次は失敗しない方法でも考える』って言うとこだろ?」
「残念ながら、これがオレの普通なんだよ。ほら、笑える気力があるんならとっとと行くぞー」
「了解だ。リーダー」
「誰がリーダーだよ」
討伐戦のメンバーがアイテムの補充やらのためにマロメの村に戻っていくのを見送ってオレは彼らとは逆方向にそびえる迷宮区へと足を動かす。
すっかり立ち直ったらしいディアベルは笑みを浮かべながら横に並んだ。......殴りたい。
この時は、もちろん、あの(オレにとって)鬼門の二人に注意を払うのは忘れていなかった。
だが、オレはあの黒ビーターが廃ゲーマーだってことをすっかり失念していた。当然、彼はステータスも廃ゲーマーらしい数値を所有している。
つまり、《索敵》スキルの熟練度なるものがオレの予想より遥かに高かったのだ。
小一時間かけてたどり着いた迷宮区タワーの入口前には二つの影が立ちはだかっているのが見える。
二人とも此方をはっきりと目視してしまっている。
「ディアベル。その辺にモンスターはいない?」
「いないね。ここは素直に諦めたほうが身のためだと思うよ?」
「いや、無理だから。諦めたらそこで試合じゃなくてオレの命が終了するから。ほら見ろよ。アイツらすっげぇニコニコしてんじゃん。こえーよ」
「まぁまぁ、これも『身から出た錆』ってことだろ?それにこういったものは早いうちに終わらせておいたほうがいいって」
「..................」
「.........ど、どうしたんだい?」
「...........ディアベルに言い負かされた。......屈辱」
「ずっと思ってたけど、キミたちって俺を下に見すぎだよね?」
「よーし。さっさとあの関門を突破するかー」
「無視かぁ......これも慣れてきたなぁ......」
苦笑を浮かべるディアベルを無視して、オレはまっすぐ速く歩く。
まっすぐ。速く。
まっすぐ。速く。
まっすぐ。速く。
......フッ、我ながら完璧な『私、急いでます』アピールだ。
「よう。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。じゃあ、またな」
そしてオレは、近くなった二人に、ことさら陽気に挨拶をし、そのまま二人の間を通り抜けようとした。......が
ヒュンッ......スッ
「待て」「待ちなさい」
当然、止められました。はい。
いや、止められるのはわかってたけどさ、二人して首筋に剣を当てるんじゃねぇよ。息ピッタリだなおい。 そして、そのニコニコ笑顔をやめろ。
固まったオレに二人がそれはもう明るく陽気に挨拶を返してきた。
「こんにちは。ユウ。君とアルゴが俺を嵌めたおかげでいいスキルを取れたよ。ありがとな」
「人を威圧しながら感謝を伝えてくんじゃねぇよ。キリト」
「こんにちは。ユウくん。ところで約束を途中で投げ出す人ってどう思う?私、そんな人はまた逃げ出さないように両足を切り落としたほうが良いと思うの」
「怖い恐いコワい。ちょっ、マジでそのセリフで可愛らしく小首を傾げても怖さ倍増だからやめてください。アスナさん」
問題。
果たして、オレは今日を生き抜くことはできるだろうか?