日が暮れる直前にディアベルが戻ってきた。
結論を言えば、ディアベルは武器を盗られてはいなかった。解せぬ。
しかし、まぁ。コイツは一層の司令塔を担った奴だし、目立つ青髪も相まってかなりの有名人だから、流石にリスクが高いとでも思ったのかもしれないな。
逆に言えば、ボス部屋にて色々やらかしたはずのオレの知名度はそこまで上がっていないのか、あるいはマイナス面でだけ有名で『コイツなら武器盗ってもいいだろ』って感じに思われているということだろうか。...........解せぬ。
「それで、武器を普通に強化成功させてきた運のいい我らが青騎士サマは当然ながら有意義な休日は送れたのだろうな?」
「クッククッッ......ww 何か、所々イヤみが混じりまくってる聞き方ダナ?気にしてんのカ?」
「横槍入れてくんじゃねぇよ......」
「ニャハハハハッ.....www図星カ、ユウ?」
「それはもう宣戦布告ととっていいんだよな?なぁ?」
「あぁ、いいトモ。今度こそオマエを膝まずかせてやるヨ」
「...........上から75、52、77。」
「.......................ナゼ知ってル?」
「さぁ?どうしてだろうな?」
「いいダロウ。戦争ダ!!この卑劣・非常識・日陰者の3H男ガ!!!」
「望むところだ!鬼畜女ぁ!!鼠系女子なんざ流行んねぇんだよ!!!」
「ちょっ、、帰ってきて早々喧嘩しないでくれよ!?」
とりあえず一悶着起こさないと前に進めない2人。
「(ずっと考え事をしてたせいかストレスでも溜まってたのだろう。)」
「(ストレス解消の手段が荒々し過ぎだとも思うが、普段の、年齢に釣り合わないほどの思慮深さと比べて此方のほうがまだ年相応だな......)」
落ち着かせるために二人の間に割り込んだ苦労人ディアベルは持ち前のイケメンスマイルを冷や汗かきながら浮かべて、そんなことを思った。
とは言え..................できることなら、すぐに止まってくれ!見た目10代なのに大人が泣き出しそうなボキャブラリィで罵倒しあわないでくれ!間に入って『まぁまぁ』とか『落ち着いて!』とか『喧嘩はよくない』とかしか言えない
こうして、戦闘担当の二人の稀な休日は終わったのであった。
ちなみに、ディアベルは一層《はじまりの街》にて、3人ほど仲間になってくれそうな人を見つけたらしい。
どうやら、三人とも攻略に参加する意欲はあるが知識面での不安が大きく中々、層を上がる踏ん切りがつかなかったそうだ。
実力的には最前線組とそこまで差は開いていないらしく、できれば、あと2人ほど探して、もう少しレベリングと知識向上を行って、7層くらいにはボス戦に参加できればとディアベルは言っていた。随分じっくりとした計画だ。
そして、数日後。
今日はフィールドボス攻略戦がある。
フィールドボスとはフィールドにいる1度しか倒せない特殊mobのこと。
フィールドボスには、今回のように迷宮区前に陣取りプレイヤーを阻むモノや、フロアボス攻略に重要な情報が得られるクエストの討伐対象になっていたり、と様々な状況で出てくるが、一貫して、層を上るのに重要な役割を持っているらしい。
また、フロアボス同様に膨大な経験値と熟練度上昇ボーナスや、LAもあるので最前線にしがみついていたいプレイヤーにとっては是が非でも攻略戦には参加したいものだそうだ。
さらにフィールドなので、人数制限がないのも魅力なのかもしれない。
..................まぁ、オレには『関係ない』のだけれど。
現在、ユウ、ディアベルはアルゴの命令によりこのフィールドボス攻略戦には『参加せず』に、背後にそびえる迷宮区に一番乗りすることになったので、近くの岩影にて身を隠している。
なんか着々と攻略に関係させられていってる気がして嫌だったが、隣のあほイケメンがヤル気に満ち溢れているせいでサボれなかった。
さて、隠れている岩場からボスである巨大牛《ブルバス・バウ》のほうを見てみると、近くに緑、青の二色で分類された6人パーティーが2つに補欠と思われる3人がいる。
そして、そこから少し離れたところに、先日オレが地獄クエストに案内した黒コートのビーター少年キリトと、これまた先日オレが逃げ出したフーデットケープの少女アスナが仲良く同じ岩に隠れている。
「キリトさんたちに声かけないのか?どうやら目的は同じみたいだけど......」
「却下だ。とりあえず、あの二人に見つかるのだけはヤバい。主にオレの命または財布が」
「............アスナさんにまで何かやらかしたのか」
「違う。あれは不可抗力だ。どうしようもなかったんだ。オレは悪くない」
「いっそ見事な言い訳だね。でも、どうせ迷宮区内で鉢合わせると思うんだけど?」
「そんときはモンスタートレインして逃げる」
「なんでキミはそういうコトだけは知ってるんだよ......」
「そういうコトばっか考えているからだな!」
「威張るとこじゃないよ......」